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フーガの様々な様式

一覧表

「フーガの技法」に含まれる曲にみられるフーガの様式を、
次の表にまとめました。いくつかの様式を兼ね備えた曲もありますので、
同じ曲が重複して分類されている場合があります。
詳細については以下の各項に述べます。
各曲のタイトル
単純
反行
縮小
拡大
2主題
3主題
鏡像
カノン
(○)
(○)
(○)
単純 反行 縮小 拡大 2主題 3主題 鏡像 カノン
※「反行」に分類される曲は、主題の正置形・反行形の双方が示されるものです。

概観

「フーガの技法」に含まれる多くの曲は、タイトルが示すとおり
フーガ様式で作られています。すなわち曲は1つの声部に始まり、
それに続き一定の規則に従って第2、第3の声部が導入されます。
その各声部は「主題」と呼ばれる特定のメロディーに始まり、
自由な旋律を交えながら幾度となく「主題」の呈示を繰り返します。

一定の規則とは、第1の声部と第2の声部との間に見られる音程関係です。
第1の声部に示された「主題」が、第2の声部では属調に転調して
示されるのです。第3の声部と第4の声部の間にも同様の関係が持たれます。
フーガ様式について、詳しくは「フーガ概論」にて説明しています。

曲集にはフーガのほかに4曲のカノンが含まれています。
カノンは厳密にはフーガと区別されます。すなわちフーガと同様に
1つの声部にはじまりますが、それに続く第2の声部は
第1の声部の旋律を一音たがわず模倣し続けます。

しかし「フーガの技法」に含まれるカノンは、
いずれもカノンでありながら特定の「主題」に始まっています。
また12度のカノンと反行・拡大カノンの2曲は、
先行声部と後続声部の音程関係がフーガの規則に従っており、
カノンとフーガの合いの子となってるのです。
※残る2つのカノンについても、フーガとしての規則には従っていないものの、
曲の前半において属調での主題呈示が見られます。
あるいはフーガの様式に近づけようとしたのかも知れません。

フーガの種類

対位法的技術にも記したように、主題は曲の中で反行形にされたり、
拡大形・縮小形にされたりと、対位法的に様々な扱いを受け、
フーガの様式は複雑化していきます。一般にフーガは、
こうした主題の呈示様式によって、いくつかの種類に分けられています。
「フーガの技法」は、こうした様々な種類のフーガを網羅することが
一つの目的になっているのです。

しかし「フーガの技法」に含まれるフーガの種類は
全ての曲で異なるわけではなく、いくつかの曲が同じ種類に属しています。
こうしたフーガの種類には今日、以下に示すような名称がついていますが、
これらは後の研究者がフーガを様式ごとに分類するために付けた名称で、
バッハ本人がそのような言葉を用いていたかどうか定かではありません。
以下、「フーガの技法」に含まれるフーガの種類を説明します。
どの曲がどの様式に該当するか、詳細は上の表を参照してください。

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@単純フーガ

他の種類のフーガとの分類上、単純フーガと呼ばれますが、その定義は
「単一主題で、主題の反行形や拡大形・縮小形などがないフーガ」となります。
いわゆる「小フーガ」(BWV578)に代表されるオーソドックスなフーガです。
ただし、「フーガの技法」に含まれる単純フーガは、「小フーガ」のように
主題の音程進行が厳格に維持されることはなく、
曲の調性進行に合わせて変更されています。

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A反行フーガ

主題とその反行形(上下転回された形)が示されるフーガを
反行フーガといいます。そのどちらの主題もわけ隔てなく用いられ、
一方の主題がもう一方の主題の変形という捉え方はされていません。
そのことは特にContrapunctus5の結末を見れば明らかになります。
正置形の主題と反行形の主題が同時に示されているのです。

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B縮小フーガ・拡大フーガ

主題を構成する全ての音の長さを一定の比率で短くしたものを
縮小形の主題といい、もとの長さの主題と縮小形の主題が両方示される
フーガを縮小フーガと呼びます。Contrapunctus6がこれに当りますが、
同時に反行フーガでもあるため、合計4種類の主題が示されます。
また主題を構成する全ての音の長さを一定の比率で長くしたものを
拡大形の主題といい、もとの長さの主題と拡大形の主題が両方示される
フーガを拡大フーガと呼びます。Contrapunctus7には縮小形の主題と
拡大形の主題の双方が示されます。また反行フーガでもあるため、
Contrapunctus7には合計6種類の主題が示されることになります。

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C多重フーガ

Contrapunctus9Contrapunctus10には、曲の始めに
基本主題以外の主題が示されます。2つの主題を持つこれらの曲は
今日2重フーガと呼ばれます。Contrapunctus8Contrapunctus11には
基本主題以外に2つの主題が示されます。あわせて3つの主題をもつ
これらの曲は今日3重フーガと呼ばれます。またContrapunctus11では、
3つの主題それぞれの反行形も示されるため、
合計6種類もの主題が登場することになります。

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D「鏡像」フーガ

Contrapunctus12Contrapunctus a3の2曲は、曲全体が
上下転回できるように作られています。「フーガの技法」には
この2曲が転回された楽譜も含まれており、もとの曲と転回された曲が
まるで鏡に映したようであることから、これらの曲は鏡像フーガと呼ばれます。
これは主題呈示の様式ではなく対位法的技術の一つ「転回対位法」です。
フーガの種類としてはContrapunctus12は単純フーガ、
Contrapunctus a3は反行フーガとなっています。

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Eカノン

 「フーガの技法」に含まれる4曲のカノンは、いずれも装飾・変形された
基本主題に始まり、曲の中で何回か主題の呈示をします。
一般にカノンは特定の主題を反復使用することは無く、
自由な旋律のみで構成されていますが、「フーガの技法」のカノンは
主題を用いることにより、フーガ的な要素も付加されているのです。

Canon alla Ottavaは、「フーガの技法」に含まれるカノンの中では
最も単純な様式のカノンです。第1の声部に示された旋律を、
第2の声部が1オクターブ下で追いかけ続けます。

Canon alla DecimaCanon alla Duodecimaでは、第2の声部が
転調されています。Canon alla Duodecimaは第2の声部が5度(12度)上に
転調されており、実質この曲はフーガ様式にもなっています。

Canon per Augmentationemは、「フーガの技法」の中で唯一の
拡大カノンです。すなわち第2の声部は第1の声部の全ての音の長さを
2倍に伸ばしたものとなっています。同時に反行カノンでもあり、
第2の声部は第1の声部を上下転回した形で模倣します。
この模倣の仕方から、実質この曲は反行フーガの様式にもなっています。


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