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Contrapunctus 3
単一主題によるフーガ、4声部、2/2拍子、72小節


(主題)

Contrapunctus1に示された基本主題が反行形で用いられます。
主音(d)を軸とした反行形で、しかも調性的に変形されています。
すなわち、最初の主音から属音への進行が、
基本主題のように5度ではなく、4度(下降)となっているのです。



Contrapunctus3とContrapunctus4の曲頭を比較すると、
Contrapunctus3の主題(1-4小節)は、Contrapunctus4
応答(5-8小節)と同じ形になっていることがわかります。
(逆にContrapunctus3の応答はContrapunctus4の主題と同じ形)
下の楽譜はその両曲の冒頭で、主題を青い音符で示してあります。



このContrapunctus3のような調性的応答型の主題を、
仮に「変格主題」と呼称したいと思います。
すなわち変格旋法(主音がa、属音がd)風の主題ということです。
「フーガの技法」の中で、変格主題を用いた曲はContrapunctus3だけです。

(曲の構造)

曲中には2種類の変形主題が登場します。
1つは23-38小節に示される以下の変形主題です。
便宜上これを変形主題1と呼ぶことにします。



もう1つは55-61小節に示される以下の主題です。
便宜上これを変形主題2と呼ぶことにします。



また、19-22小節と39-42小節には下の楽譜ような
3声部によるゼクエンツが示されます。



これらの要素によって、曲は以下の3つの部分に分けることが出来ます。

 内  容
小節
小節数
第1部分 主題呈示、ゼクエンツ
1-22
22
第2部分 変形主題1呈示、ゼクエンツ
23-42
20
第3部分 主題・変形主題2呈示、コーダ
43-72
30

最後のコーダは、出版譜の方が自筆譜より2小節分長くなっており、
あとから延長されたものと思われます(詳しくは自筆譜のIIをご覧ください)。

(曲の詳細)

テノールの主題に続いてアルトに応答が示されますが、
応答に対主題が付きます。この対主題は曲を通じて見られ、
Contrapunctus12に比べると厳格に形が維持されます。
下の楽譜には、対主題を青い音符で示しました。



19-22小節には、先ほども示した3声部によるゼクエンツが見られます。
ソプラノとアルトのモチーフは1小節ごとに入れ替わっています。
このゼクエンツはやや変形されて39-42小節にも現れます。



つづく23小節からは、変形主題1が示されます。
これには、やや変形された対主題が伴っています。


対主題を青い音符で示しました。

同様の変形主題が29小節〜と35小節〜のテノールにも見られます。
そのあと43小節からソプラノに主題が呈示されますが、
これは曲の冒頭に示された主題とほぼ同じ形になっています。


対主題を青い音符で示しました。

47小節からは面白いゼクエンツが見られます。
楽譜に示したようにフレーズは点線の部分で区切れるのですが、
これが3拍ごとに区切れているのです。



舞曲などでしばしば見られるヘミオラに似ています。
こうした奇数拍のゼクエンツはContrapunctus 56にも見られます。

55小節からは、変形主題2が示されます。
この変形主題はContrapunctus 567の主題に似ています。
対主題もやはり、やや変形されています。


対主題を青い音符で示しました。

これにつづいて58小節〜のソプラノにも同じ変形主題が見られます。

63小節〜のテノールには曲中最後の主題呈示がありますが、
これは原型で、曲冒頭の応答とほぼ同じ形です。



つまり、Contrapunctus4の主題とほぼ同じ形です。

(その他)

Contrapunctus3で用いられているモチーフのいくつかは、
のちに曲集中のほかの曲にも用いられています。

19-22小節や39-42小節のバスのモチーフは、
Contrapunctus11にも現れ、より自由に模倣・反復されます。


また、33-34小節のアルトに見られるモチーフは、
Contrapunctus7においてゼクエンツとして用いられます。


26-28小節のバスのモチーフにいたっては、
Contrapunctus71012などいくつもの曲で用いられています。


ただ、これらが複数の曲の中で用いられていることに、
なんらかの意図が有ったのかどうかは定かではありません。

なお、Contrapunctus3に示された2つの変形主題は実質同じもので、
その一部に4分音符1つ分のズレがあるだけに過ぎません。

対応する音符を青い線で結びました。

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