主題一覧 概要一覧 分析室1 分析室2 トップページ

Contrapunctus 1
単一主題によるフーガ、4声部、2/2拍子、78小節


(主題)

このContrapunctus1の冒頭に示された主題は、
「フーガの技法」出版譜に含まれるほとんどすべての曲において用いられ、
それぞれの曲において、様々な形に装飾・変形されることになります。



この曲の主題と、曲集中の他の曲の主題とを比較する必要性から、
この曲の主題を「フーガの技法」における「基本主題」と呼ぶことにします。

(曲の構造)

主題のほかに、曲を形作る2つの要素があります。
1つは17小節〜や36小節〜、67小節〜に見られる、
2つの声部によるゼクエンツ(反復進行)です。



もう1つは、26小節〜、43小節〜および65小節〜に見られる、
下属調から主調への変格終止形です。
曲の展開が一段落する付近に、この終止形が現れます。
下の楽譜には共通する音ないし旋律を青い音符で示しました。


実際の出版譜は各声部1段ずつ、4段の楽譜で書かれています。

これらの要素によって、曲は以下の3部分に分けることが出来ます。

 内  容
小節
小節数
第1部分 主題呈示(主調と調性的応答のみ)、
ゼクエンツ、段落の終止形
1-28
28
第2部分 主題呈示(属調・下属調に転調)、
ゼクエンツ、段落の終止形
29-47
19
第3部分 主題呈示(主調・下属調)、
段落の終止形、ゼクエンツ、コーダ
48-78
31

なお最後のコーダについては、自筆譜の段階では存在せず、
あとから付け加えられた部分であると考えられます。
(詳しい説明は自筆譜のI をご覧ください)

(曲の詳細)

このContrapunctus1は、一般に単純フーガと呼ばれるだけあって、
1つの主題に基づいたシンプルな構成になっています。
しかし主題の扱いにおいては、様々な手法が見られます。
以下、その主題の扱いを中心に曲の詳細を述べていきます。

曲の冒頭でアルトに示された主題に続いて、
5小節〜のソプラノに調性的応答が示されます。



上の楽譜の6-8小節に青い音符で示したアルトの旋律は対主題です。
この対主題は、第1部分においてのみ明確な形で見られ、
このあと14小節のバスや25小節のテノールにも示されます。

第1部分に示された主題は、すべて主調とその調性的応答だったのですが、
29小節のソプラノに示された主題は、初めて属調に転調しています。
この主題には、バスに示された主題冒頭の断片が伴います。


29-30小節に青い音符で示したのが主題冒頭の断片です。

ここに現れた主題の断片は、ストレットの効果をねらったものと思われます。
主題冒頭の断片は48小節のアルト、55小節のソプラノにも見られますが、
48小節のアルトは49小節〜のソプラノの主題と、55小節のソプラノは
56小節〜のバスの主題と、それぞれストレット風に示されています。


48小節と55-56小節に、主題の断片を青い音符で示しました。

第2・第3部分では、主題は様々な変形を受けて呈示されます。
例えば、32小節からバスに示される主題は、
主調の調性的応答風に始まり、属和音を経て、
下属調へと目まぐるしく変化します。



また曲の最後でテノールに示される主題は、
主調の調性的応答と下属調の間を行き来します。



上記のほかにも多少の主題変形が見られ、曲の冒頭で示された
主題の基本形とまったく同じ形で示されるのは56小節〜のバスだけです。
この主題の扱いの自由さと、その主題に伴う自在な対旋律は、
晩年にバッハがたどり着いたフーガの境地といえるでしょう。

第3部分においてはホモフォニックな音使いがあちこちに見られます。
特に70-72小節において顕著で、曲が和音で断裂します。



これを即興的挿入句が要求されているものと解釈する演奏者もいます。

(その他)

余談ですが、この曲に呈示された主題の数は、
完全なものが11、冒頭の断片が3で、合計14となります。

主題一覧 概要一覧 分析室1 分析室2 トップページ