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Contrapunctus 10 a 4 alla Decima
2主題によるフーガ、4声部、4/4拍子、120小節


alla Decimaすなわち「10度による」と題されています。
10度の二重対位法を用いた曲です。詳しくは後ほど説明します。

なお、「フーガの技法」出版譜の14曲目にあるContrap. a 4は、
このContrapunctus10の自筆譜バージョンで、
Contrapunctus10の最初の22小節を欠いた形になっています。

(主題)

この曲はいわゆる2重フーガで、曲の冒頭に第1主題として、
基本主題とは違う新しい主題が示されます。
導音から始まる珍しい主題です。



また23小節以降、第2主題として反行形の基本主題が示されます。
装飾変形されており、Contrapunctus567の主題と同じ形です。



44小節以降、第1主題と第2主題=基本主題は常に同時に示されます。



この2つの主題は、このあと様々な声部配置で呈示されますが、
下記の曲の詳細において説明しているように、
10度の2重対位法によって入れ替えないし重複されるのです。

(曲の構造)

曲は間奏をはさみながら主題呈示を繰り返します。主題の呈示により、
曲を以下の4つないし5つの部分に分けることができます。

 内  容
小節
小節数
備  考
第1部分
第1主題の呈示
1-22
22
第1主題の呈示
第2部分
第2主題の呈示
23-43
21
第1主題の呈示
第3部分
第1主題と第2主題を
結合して呈示
44-74
31
主題はどちらも単独
第4部分
第1主題と第2主題を
結合して呈示
75-102
28
主題は一方が重複
103-120
18
第1主題のみ重複

間奏はしばしばモチーフの模倣やゼクエンツとなっています。

(曲の詳細)

曲の冒頭に、第1主題が呈示されます。



アルトに示された主題に対して、テノールの応答は下属調です。
下属調の応答はバッハのフーガに間々見られますが、
「フーガの技法」の中ではほかに例がありません。

7小節〜のバスの主題と8小節〜のソプラノの応答は、反行形になります。



バスの反行主題は、曲冒頭に示されたアルトの主題と見比べてみると、
1小節目と2小節目が入れ替わった形になっていることがわかります。
これはこの主題の興味深い特徴といえましょう。

14小節〜には、主題の原形と反行形のストレットが見られます。
ここではアルトの主題の2小節目とテノールの反行主題の冒頭が、
オクターブ違いで同じ音(シ♭-ラ-レ)になっています。



この曲の最初の22小節は、曲集の出版に当たって作り足された部分で、
これ自体1つの反行フーガとも言える充実した内容となっています。
Contrapunctus4未完フーガと同時期に作られたと考えられるもので、
バッハ最晩年の鍵盤独奏用フーガの1つです。

23小節からは第2主題として、変形された基本主題が登場します。
先に述べたContrap. a 4あるいは自筆譜のVIはここから始まっています。


基本主題を青い音符で示しました。

24小節〜のアルトの基本主題は26小節で中断されています。
28〜29小節のソプラノのスラーをつけたモチーフは、このあと曲の中で
しばしば用いられ、56小節〜、107小節〜では模倣展開されています。


模倣されるモチーフを青い音符で示しました。

44小節以降、第1主題と基本主題が結合して示されます。
44-47小節では第1主題が f#、基本主題が a' で始まっています。



また66-69小節にも主題の結合が見られますが、こちらは第1主題が a'、
基本主題が a で始まっています。つまり、66小節〜の第1主題は、
44小節〜の第1主題に対して10度上の位置に示されているのです。
一方、基本主題は1オクターブ下げられただけです。



この10度ずらしても結合可能な両主題には二重対位法が用いられており、
タイトルのalla Decimaは10度の二重対位法によることを示しています。
Canon alla Decimaも、タイトルの"Contrapunto alla Terza"が示すとおり、
10度の二重対位法を用いて作られています。

Contrapunctus9とは違い、10度の二重対位法では、
ずらした主題を重複させることが可能です。
俗に言う「ハモり」になるわけです。
(12度でこれをやると並行5度の連発になってしまいます。)
75小節以降、第1主題、基本主題のいずれかが重複しています。



なお、7-17小節においては第1主題の反行形が示されていましたが、
主題の結合において第1主題が反行形になることはありません。

先に述べた28〜29小節のソプラノのモチーフ以外にも、
様々なモチーフによる模倣やゼクエンツが見られます。
下の楽譜には模倣の例を2種類示しました。



こうした複数のモチーフによる模倣を連ねる様式は、
古風なリチェルカーレにしばしば見られます。
「音楽の捧げもの」の6声のリチェルカーレがこれに類似しています。

103-106小節と115-118小節に、それぞれ基本主題と
重複した第1主題との結合が見られますが、両者を比較すると、
103-106小節は基本主題が f"、第1主題が f とその3度下の d で開始し、
115-118小節は基本主題が a、第1主題が a とその3度上の c#で開始します。



基本主題を固定して考えると、重複した1対の第1主題が、
さらに二重対位法によって10度上に移されているのです。
つまりこれをまとめると、以下の楽譜のようになります。


注)上段と下段は同時演奏できません。

 楽譜上段の上声(c"#で開始)と、楽譜下段の下声(fで開始)が
12度離れていることに注意してください。
バッハが意識していたかどうかはわかりませんが、
ここには12度の二重対位法までもが見出されるのです。


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