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Canon alla Decima Contrapunto alla Terza
10度のカノン、2声部、4/4-12/8拍子、82小節


(主題)

カノン様式の曲ですが、曲の冒頭には変形された基本主題が示されます。
基本主題の反行形をシンコペーションによって変形しています。



後述のとおり、この変形主題は曲の後半にも示されます。
また曲の最後には音価を1/2にした主題も示されます。



なおシンコペーションによる変形主題は
Contrapunctus234 などにも見られますが、
Contrapunctus4の変形主題がこの曲の主題に似ています。

(曲の構造)

2声部の曲で、大きく前半・後半に分かれており、
後半は前半の繰り返しですが、10度の2重対位法によって
上下の声部が入れ替えられています。



10度の2重対位法はContrapunctus10でも駆使されていますが、
この曲では主題だけでなく曲全体に適用されているのです。

曲の構造を以下の表に示します。

小節
内容
小節数
前半
1-39
下声部が先行するカノン
39
後半
40-78
上声部が先行するカノン
(前半の上下声部を入れ替え)
39
コーダ
79-82
下声部に主題呈示後、カデンツァの指示
4

印刷譜において明確にカデンツァの指示があるのは、この曲だけです。

(曲の詳細)

先述のとおり、冒頭に変形された反行形の基本主題が示されます。
主題はまず下声部に示され、5小節から上声部に模倣されます。



9小節から再び下声部に主題が示されます。5小節では
上声の主題が c''、下声の対旋律が a で始まっているのに対し、
9小節では下声の主題が c'、上声の対旋律は c'' で始まります。
両者が10度の2重対位法で入れ替え可能であることが、
曲の冒頭ですでに明らかにされているのです。

下の楽譜は後半の最初の部分で、上下声部が入れ替えられ、
実質、上声部が先行する8度のカノンになっています。
上の楽譜の1〜8小節と比較してみてください。
なお40-43小節の下声部には、曲の前半には無かった
自由な対旋律が示されています。



曲の前半と後半とで対応する箇所を比べてみると、
一部の音が場の調性に応じて半音上げ下げされています。
下の楽譜に示した箇所は、その顕著な例です。


半音上げ下げされている対応箇所を青い音符で示しました。

上段の38小節は下属調のドミナント→下属調ですが、
下段の77小節は主調のドミナント→主調になっています。
ほかにも随所に半音上げ下げによる調性の操作が見られます。

79小節からコーダになりますが、拍子が明確に4/4となり、
また下声部に変形主題の縮小形が示されます。



81小節には、曲集中唯一であるカデンツァの指示があります。
この場合、即興演奏が要求されているのです。
もちろん即興演奏なので、正しい答えはありませんが、
当時の演奏の様子を知る資料としては、J.J.クヴァンツの
「フルート奏法試論」におけるカデンツァの項、
あるいはC.P.E.バッハの「正しい鍵盤奏法試論」における
フェルマータの装飾の項などがあげられます。

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