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Contrapunctus 6 a 4 in Stylo Francese
縮小形を伴う反行フーガ、4声部、4/4拍子、79小節


曲のタイトル in Stylo Francese(フランス様式による)については、一般に
フランス風序曲のような付点リズムによるもの、と解釈されていますが、
フランス風の演奏スタイルと捉えて演奏する奏者もいます。

(主題)

Contrapunctus1に示された基本主題が付点音符で装飾されて用いられます。
同じように装飾された主題がContrapunctus5710にも用いられています。
ただし、この曲の主題だけは、末尾の8分音符に付点が付いています。



曲冒頭の主題への応答は反行形で、
しかも音符の長さが半分になっています。



この主題の末尾の16部音符に注意してください。
音符を正確に半分の長さにしたのであれば、
この16部音符が付点音符になるはずです。
これについては、実験4の中で検証しています。

以後、音符の長さが半分の主題を「縮小形」と呼びます。
また、元の長さ(基本主題と同じ)の主題を「原形」と呼びます。
この原形と縮小形の主題が、それぞれ正置形と反行形で示されるため、
Contrapunctus6には、合計4種類の主題が存在することになります。

(曲の構造)

曲は大きく前半と後半に分かれています。
主題のほとんどがストレットとなっていますが、
前半に示されたストレットのうち4組が、後半に同じ順序で再び示されます。
ただし、後半のストレットは前半の反行形になっています。

例として、曲の冒頭に示された3つの主題のストレットと、
35小節〜に示された反行形のストレットを、以下に示します。



まるでContrapunctus12a 3に見られる転回対位法のようですが、
バッハがそれを意識して作曲したかどうかは定かではありません。

前半と後半とで対応するストレットを以下の表にまとめます。

前半(1-34小節)
後半(35-79小節)
小節
主題が示される声部
小節
主題が示される声部
1-5
バス、ソプラノ、アルト
35-39
ソプラノ、バス、テノール
15-19
バス、テノール、ソプラノ
57-61
ソプラノ、アルト、テノール
25-28
アルト、テノール
64-68
ソプラノ、アルト
31-34
テノール、アルト
75-79
ソプラノ、アルト

曲中には、上の表に示したもの以外にもストレットが存在します。
原形の主題のみについて見ると、ストレットに関わる主題は、
前半では全て正置形、後半では全て反行形となっており、
双方の主題を対応させる意図があったことはほぼ明らかです。

なお後半の64-68小節や75-79小節のストレットには、
それぞれ主題がひとつずつ付け加えられています。
以下の楽譜は、25-28小節と64-68小節のストレットの比較です。
後半のストレットには、63小節〜のテノールの主題が加わっています。



(曲の詳細)

曲の冒頭から、主題が重なり合って示されます。
上記のとおり、1小節〜のバスに示された主題に対する
ソプラノの応答(2小節〜)は、反行形かつ縮小形になっています。

続くアルトの縮小形の主題(3小節〜)に対する応答は、
少し間をおいてテノール(7小節〜)に示されるのですが、
どちらも主音から始まっており、一般的なフーガの規則から外れています。
Contrapunctus5の7-13小節の主題と応答に似ています)
しかも、テノールの応答には8小節〜のアルトの主題が重なり、
まるで3小節〜のアルトの主題とは関係ないかのように扱われています。
下の楽譜にはこれらの主題を青い音符で示しました。



こうした主題の扱い方は、バッハがフーガ様式を熟知しながらも、
それに束縛されてはいなかったことを示しているのかもしれません。

曲中には様々な組み合わせのストレットが示されますが、
Contrapunctus5とは違い、主題が単独で示されることもあります。

以下の例は、15小節〜に示されているストレットです。
バスとソプラノの縮小形の主題は、上の楽譜に見られる
2-5小節のソプラノとアルトの主題と同じタイミングで
組み合わせられていますが、主題の向きが異なっています。


いわば、2-5小節は反行カノン、15-18小節は単純なカノンのようです。

また、主題の断片がストレットに加えられることもあります。
下の楽譜はその例で、47小節のアルトに主題の断片が見られます。



曲中には様々なゼクエンツも示されています。
29小節〜のゼクエンツに見られるソプラノとアルトのモチーフは、
主題の冒頭に類似しており、同じモチーフを用いたゼクエンツが
54小節〜や69小節〜にも見られます。



50小節〜には、奇数拍のゼクエンツが見られます。
下の楽譜は、繰り返しがわかりやすいように2段に分けました。
奇数拍のゼクエンツはContrapunctus35にも見られます。



上記のほか、13小節〜、43小節〜などにもゼクエンツが見られ、
それぞれ固有のモチーフが用いられています。

曲の末尾には声部数の増加が見られます。
76-79小節のソプラノには1声部追加され、
また79小節のテノールには2声部追加されています。
下の楽譜には、追加された声部を青い音符で示しました。



こうした曲の末尾における声部数の増加は、
Contrapunctus5711の各曲にも見られます。

(その他)

Contrapunctus6の演奏の仕方について、こちらをご参照ください。


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