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Contrapunctus inversus 12 a 4(転回形)

/Contrapunctus inversus a 4(原形)

転回対位法による単一主題のフーガ、4声部、3/2拍子、各56小節


転回対位法によって曲全体を上下転回することが可能な曲です。
譜面が鏡写しのように見えることから、一般に鏡像フーガと呼ばれます。
バロック時代に、この技法は2重対位法の一種と見なされており、
バッハは「転回対位」"Contrapunctus inversus"という名称を用いました。

上下ひっくり返すだけなら他の曲でもできますが、
実際にひっくり返して曲として成り立つように作るには、
様々な制限が付きまとってきます。主な制限としては、
遠隔調への転調不可、最上声の主音多用不可、
シンコペーションの多用不可、上下音域の制限、などがあります。

原形も転回形も実質同じ曲ですので、
以下特に必要がない限り、説明は原形のみとします。

(主題)

冒頭に示されるのは、基本主題のリズムを変形したものです。
下の楽譜には原形の冒頭に示された主題を示しました。



サラバンド風のリズムは、バッハがしばしば舞曲において
転回対位風の様式を用いたことに関連があるのかもしれません。
以下に示すように、曲の後半で主題が変形されるのも、
舞曲におけるドゥーブルを思わせるものがあります。

(曲の構造)

21小節以降、装飾変形した主題が用いられます。


上の楽譜の上段が曲冒頭の主題、下段が変形された主題です。

それぞれの主題が規則正しく配列されていることから、
曲を以下に示すような部分に分けることができます。

小節
内容
主題の声部順序
小節数
第1部分
1-20
主題呈示
バス→テノール→アルト→ソプラノ
(ソプラノ→アルト→テノール→バス)
20
第2部分
21-49
変形主題呈示
ソプラノ→アルト→テノール→バス
(バス→テノール→アルト→ソプラノ)
29
第3部分
50-56
コーダ
アルト
(テノール)
7
カッコ内は転回形です。

(曲の詳細)

転回形は原形をh-c' を中心として上下転回されており、
例えば原形の d は転回形の a' に、原形の a は転回形の d' に反映されます。
声部について言えば、ソプラノ→バス、アルト→テノール、
テノール→アルト、バス→ソプラノのように入れ替えられています。


上の楽譜の上段が原形、下段が転回形です。
便宜上並べて示しましたが、同時演奏はできません。

応答には対主題が付きます。上の楽譜には対主題を青い音符で示しました。
さらにこれにつづく主題、応答にも同じ対主題が付随します。

17-19小節にゼクエンツが見られます。
上の2声部は主題の末尾を反復しています。



上の楽譜のうち、バスに青い音符で示したモチーフは、
後に登場する変形主題の伏線になっています。



上の楽譜のソプラノが変形主題です。同じ変形主題が26小節〜のアルト、
32小節〜のテノール、42小節〜のバスにも見られます。
主題冒頭のモチーフが、21小節のテノールや、22小節のアルト、
同じく22小節のバスへとコダマのように繰り返されています。
このモチーフはこの後もしばしば主題に付随して示されます。

50小節〜のアルトの主題は、他の変形主題と若干異なっています。
ここでも先のモチーフが繰り返し使われており、
ストレットのような効果を生んでいます。



(その他)

「フーガの技法」出版譜では、この曲の転回形が先に、原形が後に
掲載されていますが、何らかの意図があったのか、
それとも単なる間違いなのか、定かではありません。
なお、原形と転回形のどちらが先に作られたかについて、
研究室の転回対位法によるフーガの原形で述べています。

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