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実験4

Contrapunctus6の付点音符の演奏

Contrapunctus6には、in Stylo Francese(フランス様式による)という
副題が付いています。これは単に付点リズムだというだけでなく、
演奏の仕方にも関わるものとして、時に取り沙汰されています。

楽譜を見るまでもなくわかることなのですが、この曲には
付点リズムで変形された主題と、その音の長さを1/2に縮小した主題が
混在しているのです。つまり、4分音符の付点リズムと
8分音符の付点リズムが、1つの曲の中にひしめき合っています。


Contrapunctus6より冒頭部分。

要するに、弾きにくいのです。

ところが良くしたもので、バロック時代の演奏習慣として、
同様に音価の違う付点リズムが混合している場合、
短いほうのリズムに合わせて演奏されたというのです。つまりこうなります。


バスの主題の付点リズムに注目してください。

確かに「フランス風序曲」と題された作品の中には音価の違う付点リズムが
混在したものが多く、リズムを揃えた方が圧倒的に演奏しやすいです。
こちらのBGMは、これを踏まえてリズムを揃えた演奏をしています。

比較のために、以下は楽譜どおりの演奏です。


しかし、もう一度この曲の趣旨に立ち返って見ましょう。
この曲は主題とその1/2縮小形の絡み合いが目的になっています。
その原形の主題を変形してしまったら、何が縮小形なのか
わからなくなってしまうのではないでしょうか?
(ここで言う「原形」とは音の長さが元のままであることを示します)


ところが、
この曲に示された主題とその縮小形をよく見てみましょう。
縮小形は正確な縮小形になっているでしょうか?


一番上の楽譜と比較してみてください。

そう、なっていないのです。正確に縮小形にしたならば、
上の楽譜に青い音符で示したように、16分音符が付点リズムに
なるはずなのです。しかしそうなると、一曲の中に3種類の音価の
付点リズムが入り乱れ、演奏上大変な混乱をきたすこと間違いなし。
そして聞き手の方も聞くのに労力を要することでしょう。
この縮小された主題の処理を見る限り、バッハは対位法的遊戯よりも
作品の音楽性を重視していたものと思われます。

そこで、先ほどの付点4分音符と付点8分音符の演奏の問題について、
音楽性の面から検討してみましょう。楽譜のまま演奏するのと、
付点8分音符のリズムに合わせるのと、どちらが美しいでしょうか?
これについては、3小節目にいい例があります。



上の楽譜の左はそのまま、右はリズムをそろえたものです。
左では青で示したソプラノのfとバスのeが2度でぶつかり合っています。
これが右の楽譜ではソプラノのgとバスのeが和する事になり、
きれいに解決されています。同様の例が曲中あちこちで見られ、
また逆にリズムを合わせる事で不和が生じる事はありません。

もう1つ、弾きにくい顕著な例として65小節を見てみましょう。



上の楽譜は65小節のソプラノとアルトですが、楽譜どおりだと
各声部に青く示した同じ音を2回続けて叩く事になります。
これはリズムをそろえると同じ音を1回弾くだけで済むようになります。

こうした例から考えると、どうやらContrapunctus6
付点8分音符のリズムにそろえて演奏した方が、
音楽的に美しく、また弾きやすいものになりそうです。

同様の問題がContrapunctus7にも生じていますが、
Contrapunctus6の場合とは若干事情が違っています。

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