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Contrapunctus a 3(転回形)

/Contrapunctus inversus a 3(原形)

転回対位法による単一主題の反行フーガ、3声部、
転回形4/4拍子/原形2/2拍子、各71小節


一般にその曲順からContrapunctus13と呼ばれている曲ですが、
上記のタイトルのとおり、もともと13という番号はつけられていません。

転回対位法によって曲全体を上下転回することが可能な曲です。
譜面が鏡写しのように見えることから、一般に鏡像フーガと呼ばれます。
バロック時代に、この技法は2重対位法の一種と見なされており、
バッハは「転回対位」"Contrapunctus inversus"という名称を用いました。

ただし、この曲の転回形は、ソプラノ→バス、アルト→ソプラノ、
バス→アルトのように反映されており、曲全体を転回というより、
各声部が上下転回されており、かつ8度の二重対位法で
声部が入れ替えられた曲、というのが正確な説明になります。
(なぜこうなったかは実験1へ

原形も転回形も実質同じ曲ですので、
以下特に必要がない限り、説明は原形のみとします。

(主題)

原形の冒頭に示される主題は、基本主題の反行形を装飾変形したものです。


もとの形がわからないほど変形されているため、主題の骨格を青い音符で示しました。

応答はその反行形(基本主題と同じ向き)となっています。



ジーグ風のリズムは、バッハがしばしば舞曲において、
転回対位風の様式を用いたことに関連があるのかもしれません。
以下に示すように、この曲はA-A'とも取れる構造となっており、
これも舞曲の前半・後半を思わせるものがあります。

(曲の構造)

曲中には主題の末尾を用いたゼクエンツがしばしば示されます。



また曲の節目ごとに、主調の主題がアルトに示されます。


主題を青い音符で示しました。21小節と49小節のソプラノは、
当初ほぼ同じ音形(ただし8度違い)でしたが、自筆譜の段階で修正されました。

曲は主題呈示+アルトの主題+ゼクエンツの組み合わせを反復しており、
これによって曲を以下に示す部分に分けることができます。

小節
内容
主題数
小節数
第1部分
1-26
主題呈示+アルトの主題+ゼクエンツ
4
26
第2部分
27-59
主題呈示+アルトの主題+ゼクエンツ
 4
33
第3部分
60-71
主題呈示、コーダ
2
12
※第2部分は主題の断片を1つ含みます。

なお、曲中の主題は常に正置形と反行形が交互に示されます。
(第2部分に含まれる主題断片を省きます)

(曲の詳細)

この曲は転回対位法によるフーガであるのと同時に、
Contrapunctus5などと同じ反行フーガでもあります。
従って、曲冒頭の主題の反行形が応答となっています。
原形のアルトに示された主題と、転回形のアルトに示された応答が、
同じ形(偶然ながら音の高さも同じ)になっており、
原形と転回形とで主題と応答が入れ替わっているかのように見えます。


上の楽譜の上2段が原形、下2段が転回形です。
印刷譜の原形と転回形は拍子記号が異なっています。

通常のフーガであれば、応答に続いて再び主調の主題を示すところですが、
バッハはこのあと属調(転回形では下属調)の主題を持ち出します。



Contrapunctus567についても呈示部の主題・応答は原則から外れており、
反行フーガにおいてバッハは呈示部に自由を認めているようです。

曲中では、主題の末尾のモチーフがゼクエンツに使われます。
上記の曲の構造において示した14小節〜のバスのほか、
23小節〜、41小節〜および51小節〜にも見られ、
いずれも主題呈示に続いて示されています。


23小節のアルトは主題の末尾そのものです。

正置形と反行形を交互に繰り返しているのが特徴です。
この曲のゼクエンツの多くは、反復ごとに1音下がっていますが、
51小節〜のゼクエンツだけは反復ごとに1音上がっています。


51小節のアルトは主題の末尾そのものです。

なお51小節のバスや52小節のアルトなどに見られる分散和音の音形は、
23小節〜のゼクエンツにも見られるように、曲中でしばしば用いられています。

27〜28小節のソプラノには主題の断片が示され、
28小節〜のバスの主題を導きます。



これ以降示される主題は、多くが持続音を伴っています。
下の楽譜には主題に伴う持続音を青い音符で示しました。


余談ですが、31小節は30小節の転回対位法的な転回形になっています。
この曲の主題に同じモチーフの正置形と反行形が含まれていたことに気付かされます。

ただし曲の節目を示す47小節〜アルトの主題だけは持続音が伴いません。

51小節〜のゼクエンツは56小節からやや形を変え、
58小節では主題の末尾のモチーフがバスへと引き継がれ、
59小節のカデンツへと続く流れに結びついています。



同様に41小節〜のゼクエンツも46小節〜のエピソードへとつながっており、
また先に示した23小節〜や51小節〜のゼクエンツは
直前に示された主題の末尾をそのまま用いています。
このようにゼクエンツは、Contrapunctus7でも述べましたが、
しばしば前後の展開と密接に関連しているのです。

(その他)

「フーガの技法」出版譜では、この曲の転回形が先に、原形が後に
掲載されていますが、何らかの意図があったのか、
それとも単なる間違いなのか、定かではありません。
なお、原形と転回形のどちらが先に作られたかについて、
研究室の転回対位法によるフーガの原形で述べています。

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