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XIV
転回対位法による単一主題の反行フーガ、3声部、4/4拍子、各71小節
原 形
転回形

フーガの技法出版譜のContrapunctus a 3にあたる曲です。
自筆譜では2/4拍子で書かれており、出版譜はそれを
4/4拍子に改めると同時に、曲全体の音価を2倍にしています。


上が自筆譜、下が出版譜です。

出版譜にはこの曲を2台の鍵盤楽器用に編曲したFuga a 2 Clav.
含まれていますが、この編曲版の自筆譜が一連の自筆譜とは別に
単独で残されており、こちらも2/4拍子で書かれています。

XIVとContrapunctus a 3とで曲に大きな相違はありませんが、
自筆譜そのものには多くの修正が見られます。
というのも当初、付点16分音符+32分音符で記されるべき
旋律の多くが、16分音符のみで記譜されていたのです。
そこへあとから付点と旗を加え、曲全体の記譜を統一しました。


上の楽譜は正像のアルトで、上が修正前、下が修正後です。
なお演奏どおりに記譜するなら16分音符+32分音符の3連符ですが、
当時は習慣的に付点16分音符+32分音符で記されていました。

この付点の書き加え方はIIIと同様であることから、
あとから付点が加えられたことは間違いありません。
ただしIIIのようにリズムそのものが変更されたわけではありません。
もともと付点リズムで記譜されていた箇所があるからです。
つまり省略していたものを補完するために修正したのです。
IIIについてはXIVのように補完のための修正であったことを示す箇所はありません。

上記のほかに、幾つか音形の変更も見られます。
変更は決まって次のような箇所における音符の追加です。


上の楽譜は正像のソプラノです。

同様の音符追加が30、31、49小節にも見られます。

ところで、この曲の編曲版においては、自筆譜・出版譜とも
上記の付点や音符追加がされる前の状態となっています。
先ほど楽譜に示した10小節のソプラノで各曲を比較してみます。



なぜこれらの曲がこのような状態になったのか、
私はその製作過程を以下のように推測しました。

@XIV(修正前)を作曲し、I 〜XIIIに続けて楽譜に書き込んだ
A書き込まれたXIVに基づいて編曲版を作り、別に譜面を作成した
BXIVの修正を行い、それをXIVの楽譜に書き加えた
CXIV(修正後)に基づいてContrapunctus a 3の版下を作成した
D自筆譜編曲版に基づいてFuga a 2 Clav.の版下を作成した

実際Fuga a 2 Clav.は2/4拍子で書かれており、4/4拍子で書かれた
Contrapunctus a 3に基づく編曲でない事は一目瞭然です。

そして以上のことから、バッハはXIVの2台の鍵盤用編曲を
フーガの技法出版譜に含めるつもりはなかったと考えられます。
そのつもりがあるなら、編曲版を4/4拍子に改めたでしょうし、
また上記のような変更箇所を修正しないまま放置しなかったでしょう。
おそらく編曲版はXIVの作曲からあまり離れていない時期に作られた、
私的な演奏に用いるための便宜上のものであったと思われます。

なおXIIIと同じく、XIVとContrapunctus a 3とでは配置が異なります。
自筆譜ではこの曲の原形と転回形が上下に並べて記載されています。
下の楽譜の上3段が原形、下3段が転回形です。


自筆譜のイメージです。実際には中声部がハ音記号で記されています。
転回形では声部の入れ替えが行われており、
声部の順序は上下鏡写しにはなっていません。

これに対して出版譜では、原形と転回形が各2ページずつに印刷されており、
これまたXIIIと同じく転回形が先に置かれています。
この曲の原形と転回形のどちらが先に作られたかについては、
転回対位法によるフーガの原形において調査結果を報告しています。

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