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V−14 油汚染その後

 海域でのタンカーなどからの石油流失による環境破壊の話である。古くは、水島コンビナートの石油タンクからの流失による瀬戸内海の汚染、外国では、湾岸戦争によるアラビア湾の汚染、ごく最近ではロシアタンカーの沈没による日本海沿岸の汚染など枚挙にいとまがない。これら汚染によりまず水鳥が被害を受け、油まみれで飛べなくなっているのは悲惨そのものであった。その他海の生物に「回復不可能」なダメージを与えるであろうと言われた。

 私の言いたいのは、油汚染の直後ではなく、時間を経過したその後の状況はどうなったのであろうか、果たして「回復不可能」であったのか、という素朴な質問である。汚染直後ではエキサイトして見えなかったものが、今となって結果を見れば分かるのではないか。ちなみに、被害を受けた瀬戸内海東部が、油汚染の後遺症を未だ受けているというニュースはない。魚が捕れないことがあれば、それは赤潮など、現在も流し続けている生活排水による汚染のためであろう。

 昔の詩人は「国破れて山河あり」と表現した。国が破れて、人間社会が荒廃しても、土着の自然の草木はたくましく生き、変わらないという、主(ぬし)たるその土地の永続性を詠っていると、ここで私は解釈する。客である人間がその土地の上でどんなことをしようと、客が居なくなれば元の平安を取り戻すことが出来る。

 この喩えで続けると、客が現在生活排水を流していることが困るのであって、過去に一回だけ油を流したことは困るけれど、その後そのようなことがなければ、宿主としてはまたきれいにして客を迎えることは出来る。

 科学的に説明もできる。石油はもともと生物由来(地球のもともとの組成だという鉱物起源の少数説もあるが)のものだから、一見ドロドロとして難分解に見えても、有機物である限りは必ずそれを分解する微生物がいるはずであり、短期的には化学的などの処理が困難で、厄介者であることは間違いないが、何年か経つと生物的な浄化メカニズムが徐々に働き、きれいになっているのは事実である。

 以上は石油汚染の自然浄化力のすばらしさについて縷々述べたのであって(V−11で述べた陸の自然回復力に似ている)、石油汚染の、短期的には確かにある、害を免ずる意図ではないので、念のため。

 この項は石油中の有機物成分について考察したものだが、一方で石油中に含まれる微量の重金属等の有害物質が、生物体内で濃縮する恐れがあるが、これが問題となって、大型魚が食用にならなくなった、という話は筆者は聞いていない。海水に含まれる自然濃度と大差ないのか、生物濃縮が起こるほどの規模でなかったのか、あるいはこれも自然の浄化メカニズムがあるのかわからない。

 

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