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対位法的技術

「フーガの技法」においては、各曲に付けられたContrapunctusという
タイトルが示すように、様々な対位法技術が用いられています。
「フーガの技法」に用いられている主な対位法技術を以下にまとめました。


1)2重対位法

2重対位法は旋律の上下関係ないし音程間隔を入れ替える技術で、
模倣楽曲においては不可欠といっても良いものです。

1-1)8度の2重対位法

フーガにおいては当然のように行われることであるため、
バッハは8度の2重対位法を用いてもそれを明示はしていません。
例えば主題と対主題は以下の例のように上下位置が入れ替わります。


Contrapunctus3の5小節〜と15小節〜における
主題と対旋律を左右に並べてあります。
主題の形はどちらも同じですが、対主題は若干装飾されています。

8度の2重対位法が明らかに意識して用いられている例としては、
Canon per Augmentationemがあります。
曲の前半と後半で上下の旋律をそっくり入れ替えているのです。


Canon per Augmentationenの5-6小節と57-58小節を左右に並べてあります。

ちなみにこのCanon per Augmentationemについては
出版譜印刷に用いられた版下原稿が残されているのですが、
そこにはこの曲がもともと「8度の2重対位法による拡大カノン」
というタイトルであったことが記されています。

Contrapunctus a 3(3声の「鏡像」フーガ)においても8度の2重対位法による
声部の入れ替えが行われていますが、後述のように曲全体の上下転回も
行われているため、声部の入れ替えがわかりにくくなっています。

1-2)10度の2重対位法

8度の2重対位法が特に明示されていなかったのに対して、
10度の2重対位法は曲のタイトルに示されています。
Contrapunctus10にはalla Decima(10度の)という副題がついています。
下の例では上声が8度下に、下声が10度上に移されています。


Contrapunctus10の44-45小節と66-67小節における
主題と対旋律を左右に並べてあります。

Canon alla Decima(10度のカノン)においては、曲の前半と後半で、
10度の2重対位法を用いて上下の旋律をそっくり入れ替えています。
下の例では上声が10度下に、下声が8度上に移されています。


Canon alla Decimaの9-10小節と48-49小節を左右に並べてあります。
これらに続く旋律もすべて上下入れ替えられています。

1-3)12度の2重対位法

12度の2重対位法も10度の2重対位法同様曲のタイトルに示されています。
Contrapunctus9にはalla Duodecima(12度の)という副題がついています。
下の例では、上声が8度(15度)下に、下声が12度上に移されています。


Contrapunctus9の35-36小節と89-90小節における
主題と対旋律を左右に並べてあります。

Canon alla Duodecima(12度のカノン)においては、曲の前半と後半で、
12度の2重対位法を用いて上下の旋律をそっくり入れ替えています。
下の例では上声が12度下に、下声が8度(15度)上に移されています。


Canon alla Decimaの9-10小節と42-43小節を左右に並べてあります。
これらに続く旋律もすべて上下入れ替えられています。

2)3重対位法

Contrapunctus8には3つの主題が示されますが、
この3つは曲の中で様々な声部の配置で示されています。


Contrapunctus8の148、153、159小節です。3つの主題が順次入れ替えられています。
比較しやすいようにそれぞれ音部記号を変えてあります。

すなわち、この3つの主題は3重対位法によって入れ替えられているのです。
Contrapunctus8と同じ主題を用いたContrapunctus11においても、
3つの主題が様々な配置で組み合わせられています。


Contrapunctus11の146、175、180小節における主題です。
比較しやすいようにそれぞれ音部記号を変えてあります。

3)転回対位法

すなわち曲全体を上下転回できるように作る技術です。
転回対位法はContrapunctus12Contrapunctus a 3に見られます。
Contrapunctus12では単純に曲全体を上下転回しています。


Contrapunctus12の原形と転回形の同じ小節を左右に並べてあります。

これに対してContrapunctus a 3では、旋律をすべて上下転回した上、
8度の2重対位法によって声部の入れ替えを行っています。
すなわち、単純に曲を上下転回するだけなら、
3つの声部のうち上声と下声を入れ替えれば良いのですが、
下の例に示すように下声は中声に、中声は上声に移しています。


Contrapunctus a 3の原形と転回形の同じ小節を左右に並べてあります。
3重対位法といえなくもないのですが、上下転回をされていなければ
声部の上下関係が入れ替えられているのは2声部のみです。

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