宮澤賢治記念館から南西の方角へ足を運ぶと北上川が流れている。
朝日橋から花巻大橋へ向かうあたりの岸辺を、賢治は「イギリス海岸」と名付けた。
そこに立ってみると、なるほどと思う。ゆらゆらと不思議なカーブを描いた岸辺に、さざ波のように川の水が寄せてくるのだ。
イギリスに行ったことなどなくても、世界地図のあのイギリスの海岸線を思い浮かべてみると、自分がそこにいるような気持ちになってくる。
「イギリス海岸」---なんて素敵な響きを持つ言葉だろう。
真似してみるのもいいな、と思う。旅先で出会った風景、印象に残った場所に、自分だけの名前を付けてみるのだ。
「風を待つバス停」「ひまわり道路」「ひなたぼっこの河原」
カバンの中の賢治の文庫本が、以前よりずっと親しいものに感じられた。
水底に 貝の化石がつぶやいて
イギリス海岸しずかに光る
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