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XV
拡大形による反行カノン、2声部、4/4拍子、55小節


2つの鏡像フーガに続く、自筆譜に書き込まれた最後の1曲です。
未完フーガの自筆譜は単独の原稿となっています)
フーガの技法出版譜のCanon per Augmentationemにあたる曲で、
若干の相違はありますが、曲の骨格はほとんど変わりありません。

XIIを大幅に改作したもので、一見すると同じ主題を用いた
別の作品と思えるほどの変貌を遂げています。
自筆譜に残る修正の跡を調べると、この曲はXII
Canon per Augmentationemの中間段階であるものと思われます。
例えば下の楽譜の青い音符で示した部分を比較してみると、
XVの修正前はXIIと、修正後は出版譜と同じ音になっているのです。


3-4小節(出版譜では5-8小節)の上声を比較しています。

また次の部分では、修正後と出版譜との間にも違いが見られ、
旋律の発展課程を見て取ることが出来ます。


11小節(出版譜では21-22小節)の上声を比較しています。

以上のようにXVはCanon per Augmentationemの初期稿であり、
XIIからCanon per Augmentationemへの改作の中間段階を示しています。

この自筆譜の最後に書き込まれたXVの存在から考えて、
 I IIIIIVIなど、自筆譜と出版譜との相違が比較的多い曲にも
中間段階を示す原稿が有ったのではないかと推測されるのですが、
そうした原稿は残されていないため、それらは紛失したか、
あるいは予備原稿なしに出版譜が作られた可能性も否定はできません。

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