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XII
拡大形による反行カノン、2声部、4/4拍子、44小節


フーガの技法出版譜のCanon per Augmentationemの原曲です。
大幅に変更されており、同じ変形主題を用いている以外は
ほとんど別の曲といってよいほどです。その主題も、
このXIIでは1/2の縮小形、出版譜では原形と同じ長さになっています。
曲の冒頭に示される変形主題を以下に示します。


拍子も4/4と2/2で異なっています。

以後の展開は自筆譜と出版譜では別のものになっています。
2つを比較すると、下声部には同じ旋律が用いられているにも
かかわらず、和声の骨格すら異なっていることがわかります。



カノンである以上、後続声部は先行声部を忠実に模倣するため、
当然このあとの展開はまったく別のものになっていきます。
ただし、曲が大きく前半・後半に分かれていて、
後半は下声部が先行するという構成は同じです。

後半が終了した後、出版譜では主題が再度呈示されたのに対して、
自筆譜では気の利いたエピローグが付けられています。
上声部が先行する反行カノンになっているのです。
下の楽譜に、後続声部を青い音符で示しました。



拡大・反行カノンの後続声部は第3音(f)を軸に転回していたのに対し、
このエピローグの後続声部は主音(d)を軸に転回しています。

自筆譜ではこの曲のあとに、同じ曲の先行声部のみが
単旋律で書き込まれています。これは何らかの意図があって、
曲をいわゆる謎カノンの形で示そうとしたものだと思われます。
なお、この単旋律の譜面には以下のようなタイトルが付けられています。
Canon in Hypodiatesseron al roversco et per augmentationem, perpetuus.
(反行と拡大による8度のカノン、無限)

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