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(Fuga a 3 Soggetti)
3主題によるフーガ、4声部、4/4拍子、239小節で中断


出版譜のFuga a 3 Soggettiとほぼ同一の曲です。
自筆譜にはタイトルが付けられておらず、"Fuga a 3 Soggetti"は
出版譜のみに見られるタイトルです。

この自筆譜は、他の曲とは別に単独の楽譜で残されています。
また、他の曲はすべて縦長の用紙に総譜の形で書かれていますが、
この曲だけは横長の用紙に鍵盤用の2段譜で書かれています。

自筆譜と出版譜を比較すると、出版譜は総譜で印刷されています。
また、なぜか自筆譜の最後の7小節が、出版譜では削除されています。
すなわち3つの主題が初めて結合される部分が、出版譜には無いのです。
(詳しくは出版譜のFuga a 3 Soggettiをご覧ください)
なぜこの部分が出版譜に入れられなかったのか、定かではありません。

自筆譜自体には少なからず修正の跡が見られますが、
中でも大きな修正は111-112小節、すなわち
第2主題が初めて呈示される部分の直前にあります。
この部分は当初書いてあった部分に複数の×印が付けられ、
楽譜の欄外に修正後の楽譜が書かれているのです。
修正前と修正後を比較すると、多くの音符が変更されているほか、
110小節と111小節の間に1小節追加されています。
またそれに続く113小節にも、新たな音符の追加が認められます。


上段が修正前、下段が修正後です。
修正後は青い音符で示した小節が新たに追加され、
続く3つの小節には多くの修正が加えられています。

参考までに、修正前の曲を紹介します(一部推測あり)。


なお、この自筆譜は合計5枚の紙に書かれていますが、
そのうち4枚目(176-227小節)の裏面には、
出版譜の正誤表が書き込まれています。
詳細は割愛しますが、内容としては出版譜の21-35ページにおける
誤植に関わるもので、バッハ本人が書いたものではありません。
なぜこの楽譜の裏に正誤表が書き込まれたのかはわかりませんが、
この正誤表は出版譜の全ページに渡るものではないため、
他にも正誤表が書き込まれた紙ないし楽譜があったと思われます。
(2010年現在、まだ発見されていません。)

また自筆譜の5枚目(227-239小節)は、他の4枚に比べて
ひと回り小さい紙が用いられ、また書体が乱雑になっています。
おそらく走り書きのようなものと思われますが、定かではありません。
曲が中断された239小節のあとには、エマニュエルバッハの手による
有名な一文が書き込まれています。

"NB. uber dieser Fuge, wo der Nahme
B A C H im Contrasubject
angebracht worden, ist
der Verfasser gestorben."

「注意.このフーガにおいて、対主題として B A C H の名前が
持ち込まれたところで、作者は亡くなりました。」

この書き込み以下、5線7段が空白のまま残されているのですが、
その一番下の段には以下のような音符が書き込まれています。


譜面が不鮮明のため、臨時記号や符尾は
正確に読み取る事ができません。

この音符は、同じ譜面に書かれた他の音符よりも符頭が小さく、
未完成のフーガとは別の機会に書き込まれたものと思われますが、
これが曲に関係あるものなのかどうかは不明です。

更にこの5枚目の裏面には、以下の一文が書き込まれています。

"und einen andern Grund Plan"

「そしてもう1つの基本計画」

この一文も、未完成のフーガに関わるものなのか、
それとも何か別のメモなのか、まったく不明です。
バッハの手による書き込みではありませんが、
誰が書いたものであるかは明らかではありません。

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