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以前の「ひとこと」 : 2022年2月前半


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2月1日(火) 正多角柱の上下の頂点をずらして結ぶ(その2)、他

 2月になりました。多面体の話です。



 1月28日にご紹介を始めた、正多角柱の上下の頂点をずらして結ぶ話の続きです。こんな風に(図1)、正多角柱の対応する上下の点を、2つ隣、3つ隣を結んでみたのでした。面を張ると煩雑になるので、稜の色はグレーで統一します(図2)。

 
図 1 図 2

 もともとの多角柱の側面の長方形と、2つ隣・3つ隣の稜でできる三角形の面を全て張ってみました。

 
図 3

 真横から(図4)、また真上から(図5)見てみました。真横から見ると、青・赤・緑がきれいにまじりあった色配置になります。真上から見ると、多角柱の側面(青色)がみえなくなって、赤と緑がまじりあって黄緑色に見えています。

 
図 4 図 5

 一般的な視点からも見てみました(図6,図7)。図7では面の色も同じにしています。

 
図 6 図 7

 視点を徐々に上げたアニメーションを作ってみました。

 
図 8

 とてもおもしろいかたちだと思います。

(つづく)



 一昨日、100...01 という両側が1でそれ以外の桁がすべてゼロの数字について、11と101は素数ですが、1001は素数ではありません、という話を書きました。そうしたらいつも情報を下さるMさんから、「訳あって、1000..01の形の数を素因数分解したことがあります。一阿僧祇一まで(1と1の間に0が55個並ぶ)確認しましたが素数だったのは11、101だけでした。」というメールをいただきました。ありがとうございます。

 このパターンの素因数分解、以前に確かちょっと書いたことがあったような気がして自分のサイトを検索してみたら、2019年9月にこんな表を載せていました(忘れていました)。

 

 この表は26桁までしか載っていませんが…。この表の引用元の論文も改めて見直してみないと、と思いました。


<おまけのひとこと>
 正多角柱の頂点を結んでできる凸でない多面体の話、つづきのトピックを書こうと思って図を作り直していたら遅くなってしまいました。実際に記事を書き始めると、「やっぱりこんな図が欲しいな」と思うことが多々あります。そんなとき、簡単に描けるのがCGのいいところですが、逆にきりがなくなりがちです。






2月2日(水) 正多角柱の上下の頂点をずらして結ぶ(その3)、他

 昨日の多面体の話のつづきです。



 昨日、正八角柱を例に、上下の正八角形の頂点をずらして結んでできる三角形の面を張った多面体をご紹介しました。これまではっきり書いてきませんでしたが、この多面体はトーラス(ドーナツ型)と同相な多面体です。ただ、通常のトーラスは局所的な断面は円で凸なかたちですが、このトーラス多面体は、トーラスであれば2つの円になるような切断面で切断すると、断面の多角形はほとんどの場合凸ではありません。(この立体を切り口が連結でない複数の多角形になるように1つの平面で切断したとき、少なくとも1つの断面の多角形が凸になるように切るとすると、たとえばどんな切り方があるでしょうか?)

 
図 1:N=8

 ベースとなる正多角柱のNの数を変えられるようなプログラムにしたので、いろいろなNで描画してみました。上下の面の正多角形の外接円の半径は同じ、多角柱の高さも同じです。昨日の図とは色遣いが違います。すみません。今日の図の中では色遣いは全て同じです。

 
図 2:N=9 図 3:N=10

 
図 4:N=11 図 5:N=12

 このように、Nの数を増やすとどんどん「薄く」なってゆきます。トーラス多面体として体積を感じられて、中央の穴が小さいほうが好ましい気がしますので、N=10くらいまでが良いところかなあと思います。



 逆に、Nの数を減らしてみます。N=7、これも多面体として魅力的だと思います。

 
図 6:N=7

 N=6 にすると、中央の穴がふさがってしまいます。また、7角形以上の時と違って上下の三角形が同じ面上に重なります。

 
図 7:N=6

 さらに、N=5 を無理やり描画してみました。三角形の面は二等辺三角形になり、面が交差しています。

 
図 8:N=5

 これはこれで面白いと思いますが、実物を作っても内側が見えないので面白くなさそうです。透明な素材で作るといいかもしれませんが、今度はかたちを認識して理解するのが難しくなる気がします。



 先週ご紹介したおりがみのはこどうぶつ(木村良寿)から、「はこぺんぎん ひな」です。

 くちばし、両翼、尾が、もともとの折り紙の4つの直角の頂点がそのまま使われています。背中側が広く開いているので、個別包装のキャンディを載せてみました。

 もともと重心が前寄りなので、前に倒れがちです。背中の箱に何か入れると安定します。

 これも折り紙らしいデフォルメされたデザインで、折り紙ならではの魅力を持つ作品だと思います。


<おまけのひとこと>
 今日は画像ばかりの更新です。はこぺんぎんの折り紙の写真のほうはクリックすると拡大しますが、ピントが後ろに抜けている失敗写真です。縮小すると写真のミスが目立たなくなっています。






2月3日(木) 正多角柱の上下の頂点をずらして結ぶ(その4)、他

 昨日の多面体の話のつづきです。



 正多角柱の上下の正多角形の面の頂点をずらして結んでできる三角形の面を張った多面体の話の4回目です。正八角柱を例に、いろいろ考えています。

 今日は、このトーラス状の多面体を凸多面体に分解してみることを考えます。この正八角柱の骨格を基本に考えます。

図 1

 最初に、底面の正八角形の1つの辺(稜)と、上面の正八角形の1つ隣の辺(稜)によって定まる四面体を考えます(図2、図3)。全部で8つありますが、図4のように全部を同時に描画するとよくわからなくなってしまうので、図2、図3のように1つおきに描画してみました。

 
図 2 図 3 図 4

 この8つの四面体はすべて合同です。8つはすべて向きが違うため、見え方が全く異なるのが面白いです。3次元空間の中の四面体は、同一平面上に無い4点を頂点として、その全ての3点の組み合わせで定まる4つの三角形に囲まれています。こういうのを単体(simplex)といいます。二次元の単体は三角形、三次元の単体は四面体、四次元の単体は五胞体、です。

 図4の8つの四面体ですが、1つの四面体に注目すると、左右の四面体とは1本の稜だけを共有しています。なので図4は通常の意味での多面体ではありません。通常の意味での多面体の場合は1つの稜には必ず2つだけの面が隣接しています。図4のように四面体が1本の稜を共有している場合、その稜に隣接する面が4つあることになります。(この例ではそのうち2つは同じ正八角柱の側面に乗っています。)



 次に、底面の正八角形の1つの辺(稜)と、上面の正八角形の2つ隣の辺(稜)によって定まる四面体を考えます(図5、図6)。これも同じく全部で8つあります。全部描画したのが図7です。

 
図 5 図 6 図 7

 図7の合同な8つの四面体ですが、これも先ほどと同様に、1つの四面体に注目すると左右の四面体とは1本の稜だけを共有しています。



 この2種類8つずつの四面体をぜんぶ合わせたのが、このところご紹介しているトーラスと同相な多面体なのでした。

 

 こんな風に凸多面体である四面体に分解して考えてみると、この多面体の理解が少し進んだ気がしました。これ、模型を作ってみたら楽しそうです。



 デイリーポータルZ食べられる素材で霜柱を作って食べたい という記事が素晴らしかったのです。お勧めです。


<おまけのひとこと>
 今日はいくつか大変な会議や報告があります。なので早く行く予定です。






2月4日(金) 蛇と梯子(その1)、他

 古典的なボードゲーム(すごろく系)の話です。



 「蛇と梯子」(へびとはしご:Snakes and Ladders)というすごろくゲームをご存じでしょうか。親子でボードゲームというblogの蛇と梯子の記事が詳しかったのでご紹介します。写真もお借りします。

 写真をご覧いただくと、「あ、知ってる」と思われる方も多いかと思います。1〜100までのマスをさいころの目の数だけ進んでいって、最初に100のマスに到達したら勝ち、という「すごろく」系のゲームです。蛇と梯子のイラストがいくつも描かれています。梯子の根元のマスに到達すると、梯子を上って梯子の上のマスに移動できます。蛇の頭のマスに止まってしまったら、蛇の尾の先のマスに戻されてしまいます。

 ボードの写真を見ると、蛇と梯子の両端のマスにはイラストが描かれています。これは勧善懲悪のメッセージになっているそうで、良いことをすると報われて梯子を上れる、悪いことをすると蛇に飲み込まれて(?)後戻りさせられる、ということが表現されているのだそうです。

 この「蛇と梯子」を二人でプレイすることを考えてみましょう。今、Aさんはマスaに、Bさんはマスbにいるとしましょう。 a のほうが b より大きい数字だとします(a>b)。どちらが有利でしょう? aのほうがゴール(100)までのマスの数が少ないので、有利だと言っていいでしょうか。

 大前提として、ゴールするまでにさいころを振る回数が同じなら「引き分け」ということにします。(先手のほうが有利、という条件にならないようにします。)また、ゴール直前で必要な歩数より大きな目が出てしまったときどうするのか、をあらかじめ決めておく必要があります。よくあるのは

というルールのいずれか、かなあと思います。(「ふりだしに戻る」という過酷なルールも考えられなくはないですが、なかなか終わらない退屈なゲームになるでしょう。)

 蛇も梯子も1つも存在しなければ、a>b ならば a のほうが有利だ、と言ってよいと思います。(ただしaもbもさいころ1回で運が良ければゴールできる位置にいたとすると、余りが出たときの挙動の決め方次第では a>b だからといって必ずしもaのほうが有利とならない場合もあります。)でも、蛇や梯子があるおかげで、マスの数字としては先行していても、必ずしも有利とはいえない場合もありそうです。



 実はこの「蛇と梯子」、上の写真のデザインのものはかなり普及しているようで、この盤面を解析した論文などもあるようです。明日以降ご紹介しますが、そんな論文の冒頭にこんな図がありました。赤矢印が梯子、青矢印が蛇を表しています。

 たとえばAさんは最初に6を出しました(a=6)。Bさんの目は3でした(b=3)。a=6のほうが有利かというと、一概には言えません。Aさんが幸運が続いて次の目も6だったとしてもa=12ですが、Bさんの次の目が1なら梯子を上って b=14 になるかもしれません。でも、Aさんの2回目の目が3なら、Aさんは梯子を上って一挙にa=31 まで行ってしまいます。やっぱり先行しているAさんの方が有利なのでしょうか。

 今現在存在するマスの位置が a と b だったとき、どちらが有利かはどうすればわかるでしょうか? また、この「有利さ」は推移的でしょうか? 推移的というのは、AがBより有利で、BがCより有利なら、Aが一番有利でCが一番不利だ、という順序が保たれていることです。「非推移的」というのは、じゃんけんのように三つ巴の関係になっていて、AはBより有利で(A>B) BがCより有利だが(B>C)、CはAより有利だ(C>A) という状態になっていることです。今はたまたま3つの状態で「非推移的」の例を説明しましたが、このゲームで非推移的な関係になっているマスの組み合わせがもしあるとしたら、それは4つ以上かもしれません。

(つづく)



 有利・不利の関係が非推移的と言えば、エフロンのさいころを思い出します。これは4つのさいころの強弱(2つのさいころを振ったとき、目の数が大きいほうが勝ち)が推移的でなく、循環している面白い例でした。


<おまけのひとこと>
 昨日はいくつも会議や報告があって気が重かったのですが結果的には楽しかったので良かったです。






2月5日(土) 蛇と梯子(その2)

 古典的なボードゲーム(すごろく系)の話です。



 昨日ご紹介を始めた「蛇と梯子」というゲームですが、先月arXivに公開されていたSNAKES AND LADDERS AND INTRANSITIVITY, OR WHAT MATHEMATICIANS DO IN THEIR TIME OFF(GREGORY B. SORKIN:2022) という論文を読んで興味を惹かれたのがきっかけです。タイトル(蛇と梯子の非推移性、あるいは休暇中の数学者の行い)にもあるように、このゲームの「非推移性」(じゃんけんのグー・チョキ・パーのようにお互いの有利・不利が循環している状態)に注目して書かれた論文です。

 最初に、このゲーム盤をもう一度載せておきます。赤矢印が梯子で、大きく進めるマスを、青矢印が蛇で大きく戻されてしまうマスを示しています。

 このゲームは「すごろく」ですから、今いるマスからさいころの出目に応じて6つの行き先が一意に決まります。例えば今、ゴール間近の92のマスにいたとしましょう。青マルの数字は、さいころの出目が1,2,3,…,6 の時の行き先を示しています。出た目が2か4か5なら順当に進めますが、それ以外だと大きく戻されてしまう、なかなか厳しいマスです。

図 1

 仮に、蛇も梯子も無い、単調なすごろくを考えてみましょう。さいころを1回振ったとき、2回振ったとき、… N回振ったときにあるマスに到達している確率をプロットしてみました。

図 2

 さいころを1回振ったときに進めるマスの数の期待値は3.5ですから、10回振ると、存在確率はマス35を中心に分布しています。20回振ると70を中心とした分布になります。分布はどんどん広がってゆきます。蛇と梯子があると、こんなきれいな分布にはならなくて、予測困難な分布になるでしょう。



 上記の論文では、それぞれのマスにいるときに「あと何回さいころを振ればゴールできるか」の期待値を計算機実験で求めることから始めています。このゲームには蛇による「後戻り」のマスがあるため、理論上永遠にゴールできない確率はゼロではありません。極端な話、たとえばマス53にいるときにさいころの出目が3だったら、進んだ先の56は蛇の頭なのでマス53に戻されます。出目が3が無限に続く確率はゼロではないので、無限にゴールできない確率もゼロではないのです。(もちろん現実問題としてその確率は無視できます。)

 下の図は上の論文のFigure 3 を引用しています。計算機実験(シミュレーション)による試行はさいころ1,000回までで止めているそうです。(これを超える手数が必要になる確率は10-14以下だそうです。)

図 3: Figure 3 of "G.B.SORKIN(2022)"

 横軸は1から100のマスを表し、縦軸はそのマスにいるコマが「あと何回さいころを振ればゴールできるか」の期待値がプロットされています。ところどころ値の無いマスがありますが、これは梯子の根元や蛇の頭(盤面の矢印の根元のマス)にはコマは留まることがないので、そこは値がないためです。

 これをみると、大きな傾向としてはゴール(100)に近いほうが残りのさいころを振る数の期待値が小さい、つまり勝ちやすい(有利だ)ということが読み取れます。でもとこどころで大小が逆転していて、決して単調ではありません。これは梯子や蛇の効果です。

 このグラフのそれぞれのマスの期待値のプロットを見ると、非推移性はないのだろうなと思ったのです。期待値は実数なので、マスAの期待値pAがマスBの期待値pBより大きく(pA > pB)、かつマスBの期待値pBがマスBの期待値pCより大きいならば(pB > pC) 、数の推移性により pA > pC なのは明らかです。じゃんけんのように有利不利が循環することはないと思われます。

 ところが・・・



 驚くべきことに、じゃんけんのように有利・不利が循環している3つのマスの組み合わせが見つかったのだそうです。その3つとは、69, 73, 79 です。

図 4

 論文では、マスA がマスB よりもどれだけ有利なのかを XA,Bと表しています。それによると、

X69,79 ≒ 0.0077
X79,73 ≒ 0.0112
X73,69 ≒ 0.0171

 なのだそうです。なんと三つ巴になっています。「えっ何で?」と思いませんか。感覚的に説明すると、69(赤マス)が79(緑マス)より有利なのは、71→91の梯子を利用できる可能性があるからでしょう。でも不思議なのは、その79よりもわずかに不利な73(青マス)、この73も71→91の梯子を利用できないのに、こちらはなぜ69より有利なのでしょう?

 下のグラフは論文のFigure 4を引用させていただきました。横軸がさいころを振る回数、縦軸がそのときゴールできる確率を表しています。赤が69、青が73、緑が79のマスから始めていることを示しています。

図 5: Figure 4 of "G.B.SORKIN(2022)"

 例えば緑(79)のマスにいるとき、さいころの出目が1だったら、幸運な80→100のゴールへの梯子に乗れるので、さいころ1回でゴールできます。その確率は1/6なので、0.1666…です。緑のグラフからは、さいころをちょうど2回もしくはちょうど3回で100に到達することは無い、ということも読み取れます。

 論文では、シミュレーションの手法とその妥当性について議論されており、私は今そのロジックを追いかけてみているのですが、確かに非推移性が見つかったと言ってよさそうな気がします。(著者は断言しています。)にわかには信じがたい非常に面白い結論です。

 ただ、昨日も言及したエフロンのさいころの非推移性は明快だったのですが、この「蛇と梯子」の非推移性は、ちょっと心細さを感じます。昔、四色問題の証明が計算機でなされたときに論争があったそうですが、それに近い居心地の悪さを感じました。

 疑問を感じられた方、元論文に当たっていただけたらと思います。


<おまけのひとこと>
 今日の内容、2回に分けて書こうかなと思ったのですが、この驚きを書いておきたくて話の結論まで書きました。そのかわり今日は他の話題はなしにします。






2月6日(日) 木製立体パズル:ダイヤモンドスターII

 購入した木製パズルの話です。



 本屋さんに行ったとき、こんなパズルを見かけて買ってきました。KUMUZ 木製立体パズル:ダイヤモンドスターII(日販セグモ)という製品です。税込880円でした。

 上の画像は一般的な視点から見ていますが、対称性が高い視点からも見てみました。

 パーツはこんな感じです。パーツはこんな感じです。

 なるほどこのパターンでしたか、と思いました。

 このシリーズ、若干精度や品質が粗い気がしますが、この値段でこのパズルを入手できるのはありがたいです。



 こんな図を見かけて面白いなと思ったのです。

 この図形、何を表しているでしょう?

(つづく)


<おまけのひとこと>
 今日は軽い話題です。






2月7日(月) Spot It!:同じものを見つけるゲーム(その1)

 「さがしもの」系のカードゲームの話です。



 Spot It! というカードゲームがあります。8つの絵が描かれている丸いカードがたくさんあって、そのうちの任意の2枚を選ぶと、たった1つだけ、同じ絵があるのです。カードを1枚表向きにして、残りは裏向きに積んでおきます。積まれた山の一番上のカードをめくって表向きのカードを2枚並べます。2枚のうち、おなじものを最初に見つけてその名前を言った人が1枚目のカードをもらえます。以下1枚ずつ山のカードを開いていって、いちばんたくさんカードを取った人が勝ち、というゲームです。

図 1 : Spot It!

 上のサンプルでは、カード2枚の一部は隠れていますが、テントウムシが同じ絵です。

 さてこの Spot It! ですが、カードのデザインはいったいどうやって決めたのでしょうか。どのカードにもちょうど8つの絵(以下シンボルと呼ぶことにします)が描かれています。1枚のカードの8つのシンボルは全部違います。カード2枚を選ぶと、たった1つだけ同じシンボルがあるはずなので、2枚のカードには全部で15種類のシンボルがあることになります。

 では、1つの Spot It! のカードのセットには、全部で何種類のシンボルが使われていて、カードの枚数は何枚なのでしょうか。

 たとえば、1枚のカードにはちょうど2つのシンボルが描かれている「超簡単Spot It!」を想像してみましょう。どの2枚を選んでもたった1つのシンボルが同じになり、かつどのシンボルも2枚以上のカードに現れるものとして最小のものは以下の図2のものです。

図 2

 同様に、1つのカードにちょうど3つのシンボルが描かれているとしましょう。シンボルは全部で何種類で、カードは全部で何枚でしょうか?

 ちなみに製品版のSpot It! は1枚のカードに8シンボルですが、“Spot It! ジュニア” というセットは1枚のカードに6シンボルなのだそうです。

(つづく)



 ちなみに、同様な遊び方で「2枚のカードに複数の絵が描かれていて、その中から同じものを探す」ゲームというと、Kunterbuntというカードゲームを思い出します。

図 3 : Kunterbunt

 こちらはカードに描かれている絵は15種類で、絵柄は全て同じです。違っているのはそれぞれのシンボルの位置と向き、そして色が違います。どのシンボルも輪郭線の黒と、それ以外に赤・青・黄・緑のうちの2色を使って色分けされています。このゲームでは、任意の2枚のカードのうち、色遣いが全く同じシンボルを見つけなさい、というのが目的です。

 3枚のカードの写真を撮ってみました。どの2枚の組み合わせの中にも、たった1組だけ、色遣いが同じシンボルがあります。わかりますか? 画像をクリックすると拡大しますが、ちょっと手ブレしてしまっていて質の悪い写真です。すみません。Spot It! に比べてこちらのほうがじっくり確かめる必要があると思います。(こちらのblog に、このゲームについてもう少しカードの例が紹介されていました。 )

 このカードセットはどうやってデザインしたらいいんだろう? と思いました。



 昨日ご紹介したこのデザイン、

 これはチェスのキング(K)1個、クイーン(Q)1個、ビショップ(B)2個、ナイト(Kt)2個、ルーク(R)2個、ポーン(P)8個を6×4マスの中にぴったりおさまるようにデザインしたチェスセットを表しているのでした。(妻に「答書いてあるじゃない」と言われましたが、それをどう解釈するのか、を尋ねたつもりでした。)

 小さな図ですが、こんな感じになります。デザイン性が高い素敵なチェスセットだと思います。でもプレイしにくそうですが。

 余談ですが、この図、自分で描き始めたのですが、使っているPCが昨年 Windows 11 にアップデートされた後(自分の確固たる判断でアップデートを決めたというより、成り行きで気が付いたらWin11になっていた感じです)、Bluetoothマウスの動作が不安定なため、断念しました。マウスボタンを押し下げたままドラグすると、途中で勝手にマウスボタンがリリースされ、再度押し下げられたと認識されてしまうのです。有線でないマウスの動作が不安定なときはまず電池を疑うのですが、電池を新品に変えてみても挙動は同じでした。図形のアンカーポイントをマウスでつかんで動かすような操作が意図通りできなくてイライラします。ペアリングし直すと改善することがあるらしいので、もう一度やってみるか…



 食品スーパーの入り口のワゴンにバーゲンブックセールのコーナーが設けられていて、のぞいてみたのです。そうしたら古いニコリが2冊あったので、喜んで買ってきました。

 表紙はそれなりに年季が入った風合いになっていました。ペンシルパズル本は同じものが2冊あってもまったくかまわないのですが、調べてみたらたまたま持っていない号でした。幸運でした。


<おまけのひとこと>
 細かいトピックをたくさん書いてしまいました。






2月8日(火) Spot It!:同じものを見つけるゲーム(その2)

 「さがしもの」系のカードゲームの話のつづきです。



 昨日、Spot It! という、2枚のカードの中から同じシンボルを探すゲームをご紹介しました。このパターンのカードゲームのデッキをデザインしようとしたとき、ごく簡単な例として、[A,B]、[B,C]、[C,A] という3枚セットをご紹介しました。次に各カードに3つのシンボルがある例を考えてみました。

 たとえば [A,B,1]、[B,C,2]、[C,A,3] のように、上記の3枚組セットに全て異なるシンボルを1つずつ加えてもできるのですが、これでは面白くありません。どのシンボルも少なくとも2枚以上のカードに描かれていることを条件にします。

 先に種明かししてしまうと、こんなセットができました。

図 1

 シンボルは全部で7種類、カードの枚数は7枚です。この7枚のうち、全ての2枚の組み合わせににおいて必ず1つだけ、同じシンボルが含まれています。確かめてみて下さい。

図 2

 どのカードにどのシンボルを置けば条件を満たすのか、どうやって決めたらいいでしょうか。試行錯誤で作るのは大変です。1枚のカードのシンボルの数が4だったらどうでしょう?

(つづく)



 軽希土類元素 (Ce, Pr) を内包する籠状ホウ化物の超高圧合成と価数揺動というプレスリリースがNIMS(物質・材料研究機構)に出ていました。(「いったい何のことを言っているのかさっぱりわからない」というのが普通だと思います。)

 この論文の代表図(アクセス権がないのでこれしか見られない)が多面体として美しいので気になったのです。

図 3

 左側が切隅立方体(立方体の頂点を切り落としたかたち:面6+8=14、稜36、頂点24)で、右側が切隅八面体(正八面体の頂点を切り落としたかたち:面8+6=14、稜36、頂点24)です。頂点(分子を構成する原子に相当)の数が同じで、稜(共有結合の数)の数も同じです。

 このような中空のボールのような分子(かご状分子といいます)はバックミンスターフラーレンが有名ですが、中に別の元素を取り込んだりすると、物性が変化して新しい材料が見つかったりします。また、原子番号が大きい「重たい」元素は、身の回りには少なくてまだまだ性質がわかっていないことも多いのです。(原子番号は元素の中の原子核に含まれる陽子の数で、番号が大きいほど原子量が大きくなります。) そういう重たい元素の性質を調べるときに、このようなかご状分子に取り込ませて挙動を観察すると、今までわかっていなかったことがわかったりするのです。

 今回は25〜50万気圧(50気圧ではなくて50万気圧)というとんでもない環境を作って合成されていて、新材料の合成というよりは物性研究の話ですが、アルキメデスの多面体が出てくるのがいいなあと思ったのでした。


<おまけのひとこと>
 今「羽生」という文字を新聞などで見ると、フィギュアスケートの羽生結弦選手を連想される方が圧倒的かと思いますが、将棋の羽生九段がついに将棋のA級リーグから陥落してしまいました。歴代の永世名人も50歳を過ぎるとA級から陥落しているのだそうです。残念… (さらに余談ですが、羽生九段の奥様はフィギュアの羽生結弦選手のファンだ、というのを羽生九段がコメントされているのをどこかで見た記憶があります。)






2月9日(水) ファノ平面

 有限幾何学のご紹介です。



 突然ですが話題を変えます。平面上にある円や直線、多角形などを研究するユークリッド幾何学は皆さんお馴染みだと思います。ユークリッド幾何学では2点を結ぶ直線の上には(実数と同じ濃度の)無限の点があることになっています。平面上には無限の点があり、無限の直線があります。

 これに対して、「有限幾何学」という考え方があります。点が有限個しか存在しないと仮定する幾何学です。(最初はピンとこないと思います。)

 たとえば「足し算」「掛け算」といった演算は、普通は無限に続く整数や有理数、実数で定義できますが、有限個の数に対して定義することもできます。例えばたった2個の数字である {0,1} に対して、例えば掛け算はこんな風に定義できます。

図 1

 コンピュータの二進法を勉強すると最初のほうに出てくる論理演算の「論理積」です。掛け算を有限な(この例ではたった2つの)数字だけの世界で定義できたように、幾何学も有限な点だけの世界で定義することができるのです。

 有名なのが有限射影平面というものです。具体的な例から先に説明します。7つの点と7つの直線から成るファノ平面(Fano plane)というのが面白くてわかりやすいです。

Fano plane

 ファノ平面は、上の図のような 1,2,3,…,7 の7つの点と(点を大きな白マルで表しています)、a,b,c,…,g の7つの「直線」から成る射影平面です。

line a,b,c

line d,e,f

line g

 最後の直線 g、直線じゃなくて円じゃないか、と思われるかと思いますが、この世界ではこれも直線だと考えてください。

 このファノ平面の点と直線の間にはこんな関係があります。

  • 全ての直線は3つの点を通る
  • どの2点を選んでも、その2点を通る直線が1本だけ存在する
  • どの2つの直線を選んでも、その2直線はただ1つの点を共有する(1点で交わる)
  •  この「ファノ平面」は位数2の射影平面と呼ばれます。位数qの射影平面は、「全ての直線は q+1 の点を通る」ことが条件です。2点を結ぶ直線が1本しかないこと、2つの直線は1点のみで交わることは同じです。(射影平面には「平行な直線」という概念はありません。)

     ファノ平面には点が7つあります。7つの点のうち2つを選ぶ選び方は21通りです。すべての2点のペアについて、必ず1本の直線が対応していることを調べてみて下さい。また、ファノ平面には直線が7本あります。全ての2本の直線のペアについて、交点が1つに定まることを調べてみて下さい。「なるほどよくできているなあ」と感心します。

    (つづく)



     こんな簡単な覆面算を見かけました。

     A,B,Cには 0〜9 のいずれかの数字が入ります。(AとBは3桁の数字の最上位に現れるのでゼロではありません。)どう計算するのが簡単でしょう? 和がBBBではなくCCCだったらどうでしょう? 和がAAAになることはあるでしょうか?


    <おまけのひとこと>
     ファノ平面をご存じの方には退屈な更新になってしまいました。すみません。毎日見て下さる方がもしいらっしゃるとしたら気付いて下さるかもしれませんが、昨日の「Spot It! 同じものを見つけるゲーム」に続いてファノ平面の話を書いたのは、もちろん理由があります。






    2月10日(木) Spot It! と射影平面、他

     ファノ平面とSpot It! の関係の話です。



     昨日、有限幾何学のファノ平面というのをご紹介しました。

    Fano plane

     ファノ平面は、上の図のような 1,2,3,…,7 の7つの点と(点を大きな白マルで表しています)、a,b,c,…,g の7つの「直線」から成る射影平面でした。これは、こんな性質を持っていました。

  • 全ての直線は3つの点を通る
  • どの2点を選んでも、その2点を通る直線が1本だけ存在する
  • どの2つの直線を選んでも、その2直線はただ1つの点を共有する(1点で交わる)
  •  「任意の2点を通る直線がただ1つ定まる」というのと、「2つの直線は1点で交わる」というのは、通常のユークリッド幾何学の概念と共通です。(ユークリッド幾何学には「平行」の概念がありますが、射影平面には「平行」は存在しません。)

     一昨日、Spot It! の簡略版として、こんな7枚のカードのセットをご紹介しました。

     このカードのセットには、以下の特徴がありました。(正確に言うと、2つ目の条件は特にコメントしていませんでした。)

  • 全てのカードには3つの異なるシンボルが描かれている
  • 任意の2つのシンボルを選ぶと、その2つを含むカードが1枚だけ存在している
  • どの2枚のカードを選んでも、その2枚の両方に含まれるシンボルがただ1つだけ存在している
  •  これが、ファノ平面の公理と同じロジックになっていることにお気づきでしたでしょうか。ファノ平面の7つの点が7種類のシンボルを、7本の直線がそれぞれのカードを表しています。2本の直線がただ1つの共有点(交点)を持つ、というのが、Spot It! の2枚のカードにはただ1つの共通シンボルがある、ということと同値なのです。

     とても面白いと思うのですが、いかがでしょうか。



     材料工学で出てくる、ポアソン比という概念があります。これは何かというと、例えば下の例のようにある物体を左右に引っ張ったとします。この図ではかなり大げさに描いていますが、引っ張られたら通常は中央付近は少し細くなります。この、細くなる度合いをポアソン比と呼ぶのです。

     引っ張られる物体の質量は、引っ張る前と後で変化しないはずです。引っ張られることで長さが長くなるのだとしたら、その分だけ細くならないと体積が増えてしまいます。ちぎれたり隙間が空いたりしないのであれば、細くなるのはごく自然なことに思えます。

     ところが、あろうことか引っ張ると太くなる構造が提案されているというのです。ポアソン比が負になる構造だそうです。自然界にはほとんど見られない、機能性材料の開発の中で提案された構造なのだそうです。どんな構造なのか想像できますか?



     昨日のこの覆面算ですが、ABC×3=BBB となっているところに注目します。

     つまり、BBB÷3=ABC です。Bは、1,2,3,…,9 のいずれかということになります。まず、Bは3,6,9 ではありません。333÷3=111, 666÷3=222, 999÷3=333 ですから、ABC(3桁全て異なる数)になりません。また、Bが1や2だと、3で割ると2桁になってしまうので、これもダメです。残ったBの候補は 4,5,7,8 です。後は、444÷3、555÷3、777÷3、888÷3 を計算してしまうのが楽なのではないかと思います。


    <おまけのひとこと>
     覆面算の解説、ここまで書かなくても良かったかもしれません。
     今日は社外の会議が3つ、社内の会議と重たい報告が3つあって、体力的にやや不安です。あと、帰りが遅くなりそうです。雪が心配です。






    2月11日(金) Fano330-R-Morris

     アブストラクトゲームの話です。



     一昨日、「ファノ平面」という有限幾何学の射影平面のご紹介をしました。このファノ平面をゲーム盤にした、おもしろいアブストラクトゲームがあるのです。(アブストラクトゲームというのは、囲碁や将棋のように全ての情報が全プレーヤーに公開されており、運の要素が全く無いゲームのことです。)せっかくファノ平面のご紹介をしたので、今日はそのゲーム、Fano330-R-Morris のご紹介をします。


    【名称】Fano330-R-Morris

    【考案者】中島雅弘 (2015)

    【人数】2人

    【ボード・コマ】
     ファノ平面の盤面
     各自、自分の色の○2個、△2個

    【遊び方】
    1.各自が自分の色のコマを1つずつ、交互に盤面に置いてゆく。コマを置き終わっても勝敗が決まっていなければ、交互に自分の色のコマを動かす。
    2.コマは空マスもしくはコマが1つだけ置かれているマスに重ねて置くことができる。色もかたちも同じコマは重ねることができない。(色もしくはかたちが違っていれば重ねることができる。)コマは最大でも2段までしか重ねられない。
    3. コマを動かすときは、ファノ平面の線で結ばれた隣のマスに移動する。移動するときのルールはコマを置くときと同じ。(最大2段までしか重ねられず、全く同じコマも重ねられない。)二段になった下のコマは動かせない。

    【勝敗】
    自分の手番の開始時に、動かせるコマがなければ負け。
    自分の手番の終了時に、ファノ平面の7本の直線(円も含む)に、色もしくはかたちが同じコマが3つ並んでしまったら負け。このとき2段重ねのマスの下のコマは無視される。


     たとえば、こんなプレイになります。gifアニメーションにしてみました。ちょっとゆっくりすぎたかもしれません。

     後手(青)は、先手(赤)の上にコマを載せてゆくことで赤が動かせるコマを減らす作戦を取りました。赤はそれを嫌って、3つ目のコマを右下にプレイしました(途中図1)。

    途中図 1

     青がこの上にコマを重ねたら、青が直線上に3つ並ぶので負けです。



     途中図2です。アニメーションの最後のフレームです。実は次の1手で青は勝てます。わかりますか?

    途中図 2

     でも、気を付けないと、例えば中心の青△を右下に動かすと、ボードの正三角形の底辺に△が3つ並んでしまって負けですし、中心の青△を上に動かすと、ボードの正三角形の左辺に青が3つ並んでしまって負けです。

     考案者の方は、このゲームを100円玉、50円玉、10円玉、5円玉それぞれ2枚ずつを使ってプレイすることを提案されています。○と△に相当するのが貨幣の「穴あり」「穴無し」で、色に相当するのが「銀色(100円、50円)」かそうでないか(10円、5円)、です。(100円と50円の素材は白銅、10円は青銅、5円は黄銅だそうです。)合計金額が330円なので Fano330 なのだそうです。Morris は、アブストラクトゲームに興味がある方なら多分ご存じの “9 men's morris” から取られている名称だと思います。

     適当な紙に手描きで盤面を描いて、330円を用意して(もしくは適当なコマを自作して)遊んでみると面白いと思います。こんなシンプルな盤面ですが、1手1手かなり考えます。先読みが難しいです。

    (つづく)


    <おまけのひとこと>
     今朝は4時半から6時過ぎまで家の前の雪かきをしました。今日は天気が良くなるということで、ある程度はとけてくれるだろうとは思ったのですが、一通りやっておかないと、中途半端にとけたものが凍って固まったりすると手に負えなくなるので、がんばってやりました。そのため今日は更新の時刻が遅くなってしまいました。またトピックも1つだけです。






    2月12日(土) 外接円マップの振る舞い、Fano330-R-Morris(その2)

     ダイナミカルシステム(動的システム)の論文のご紹介と、昨日のFano330というゲームの話です。昨日のFano330の「青の次の1手」の答の図を載せますので、見たくない方は(いないと思いますが)ご注意ください。



     Exploring the Dynamics of the Circumcenter Map(外接円マップのダイナミクスの探索)Ronaldo Garcia, Nicholas McDonald, Dan Reznik(2022)、という動的システムの論文が面白かったのでさわりだけご紹介します。

     三角形ABC(下図の赤い三角形)と、1点Mからスタートします。与えられたMと、三角形のそれぞれの辺とを組み合わせると△MAB、△MBC、△MCA、の3つの三角形が得られます。得られた3つの三角形の外接円の中心(外心)をA’、B’、C’ (図の緑の三角形)とします。Mは固定しておいて、新たに得られたA’、B’、C’に対して、同様の操作を繰り返してゆくことができます。

    Figure 1. of the above paper

     三角形でなくても、任意のn角形で同じことができます。n角形なので、与えられた固定点Mとそれぞれの辺の両端の頂点の三角形はn個ありますから、n個の三角形の外心もn個あります。この操作をずっと繰り返してゆくと、n角形がどんどん大きくなる(発散する)場合と、どんどん小さくなる(収束する)場合があるそうです。

     与えられたn角形に対して、固定点Mの位置をどこにするかによって、発散したり収束したりします。その様子を平面上にプロットしたものを、この論文では「外接円マップ」(circumcenter map)と呼んでいます。下の図は、赤い正方形から変換を始めたとき、収束に至る状況を描いたものです。

    Figure 3. of the above paper

     固定点Mが薄緑色の領域にあるときは収束し(正方形がどんどん小さくなる)、ピンク色の領域にあるときには発散するのだそうです。正方形の場合、4回計算するごとにかたちが正方形に戻るので、4回ごとに得られた正方形を赤線でプロットし、その途中のかたちは薄いグレーで表示されています。Mが最初の正方形の対称軸の上にある場合はまっすぐに収束していますが、対称軸からずれていると少し回転しながら収束してゆく様子が面白いです。

     下の図は、正三角形から始めた例です。正三角形の場合、3回ごとに合同なかたちに戻るようです。この場合は途中の三角形が色違いの点線で描画されています。(赤→緑→青の順番だと思います。)

    Figure 4. of the above paper

     上の図の左が収束する例、右が発散する例になっています。ここでは引用しませんが、論文にはこの領域の境界が6次の多項式で表されることが示されています。

     ここまでの操作がわかると、論文のこの後の図を眺めて楽しめると思います。論文の後半のほうに、正五角形や正六角形の外接円マップも紹介されていて、なるほど確かにそうなりそうだ、美しいなあと思いました。それにしてもちょっと前までだったらこんな研究結果は書籍か雑誌に取り上げられない限り知ることはできなかったのですが、今や自宅に居ながらにしてこういうものを読むことができます。本当にありがたいことです。



     昨日ご紹介したアブストラクトゲーム “Fano330-R-Morris” の続きです。昨日の途中図2で、青が勝つ手は? と問いかけました。答は以下の図になります。

    途中図 2 Blue Win!

     次の赤の手番で、許されるどの動きをしても負けてしまうのがわかるでしょうか。

     2段重ねの下のコマは動かせませんから、赤は下中央の△か左辺中央の△を動かさなければなりません。許される動作は上の図の4つの緑の矢印のどれかしかありません。コマは3つ以上は重ねられません。また、色もかたちも同じコマは2段重ねは許されないので、下中央の赤△を左辺中央に重ねることはできません。

     緑の矢印のいずれの動きでも、△が3つ揃ってしまいます。赤の負けです。「詰んで」いる状態というものの例としてご紹介しました。



     最新の論文が自宅で読める、ということから連想した昔話を書いておきます。(ひょっとすると以前にも書いている気がします。同じ昔話を何度もするのは年寄りの特徴だなあと我ながら思います。)読み飛ばしていただいて結構です。

     本日ご紹介したような学術論文(arXivはよく査読前の論文が投稿されていたりしますが)にアクセスできる人、できない人の格差、こういう情報を活用できる人、できない人の格差はどんどん広がるのだろうなと思います。

     昔はCurrent Contents(カレントコンテンツ)という紙の雑誌があって、世界中の学術論文誌の「目次」が閲覧できました。(もちろん今は電子化されていますが、そちらは私は直接利用したことはありません。)昔所属していた大学の研究室では、この「カレントコンテンツ」が回覧され、読むべき論文があると書誌情報をメモして隣の図書館棟に雑誌を借りに行き、さらにその論文から参照されているリファレンス文献のうち、読むべきものを図書館に探しに行ってそれも目を通す、ということをやっていました。もちろん最初はさっぱりわかりませんから、指導教官の先生に「これ読んでみたら?」と勧めていただいたりしました。

     毎週土曜日の午前中に、当番制で「読んだ論文」に関する発表を行います。当時はコピー機はありましたがパソコンはまだテキストが打てるくらいがせいぜいでした。紹介する論文の図は、紙にコピーしたものを文字通りはさみで切って糊で貼って「切り貼り」して手書きで注釈を書き加え、配布資料を作りました。研究室に配属されたばかりの学部4年生も対等に論文紹介の義務と議論への参加が求められ、厳しいプレッシャーの中で自分の理解の浅さと読み込みの足りなさを思い知らされる日々でした。

     今振り返ってみても、あの「論文紹介」の発表の場ほど厳しく恐ろしい発表の場はなかったと思います。でも、とても鍛えられたと今にして感謝しています。あのころの訓練は今の自分にとって不可欠で、ああいう経験ができるから大学に行く価値があったのだなと思います。


    <おまけのひとこと>
     最近は本業のほうで業界団体の仕事が増えて、技術的な議論を社外の優秀な方とさせていただく機会が増えて楽しいのですが、でも週末のお休みは格別です。まだまる2日もお休みがある!と思うと嬉しくてたまりません。






    2月13日(日) 英語の単語ゲーム Wordle、他

     英語の単語のゲームの話です。



     Wordle (ワードル) という英語の単語のゲームが流行しているのだそうです。5文字の英単語を当てるゲームで、候補の単語を入力するごとに、それぞれの文字が合っているか間違っているかのヒントを教えてくれるというシステムです。

    Wordleの遊び方

     5文字の単語の入力を確定すると、5つの文字はそれぞれ緑()、黄色()、グレー()に色付けされます。緑は場所も文字も正しいもの、黄色は正解の単語に使われている文字で場所が違っているもの、グレーは正解の単語には含まれない文字であること、を示します。

     以前もご紹介したマスターマインド(ヒット&ブローと呼ばれることもあります)と同じ考え方ですが、どの文字が正解文字で、どの文字が場所だけ間違っているのかを明かしているのが違いです。Wordleのほうが情報量が多くて易しいです。

     もう1つのWordleの特徴は、(Wordleの)辞書に登録されている単語しか入力できないことです。この手のシンボル列を当てるゲームで、例えば “AAAAA” みたいな文字列を入れるとAがいくつ使われているのかがわかりますが、こういう非単語は入力を許してもらえません。最大で6回までのチャレンジまでしか許されていません。単語を6回入力して正解できなかったら「失敗」でその問題は終了です。

     また、1日に1問しか解かせてもらえないようです。世界中の人全員が同じ問題になっているのでしょうか。なので今日の問題の答は書かないことにします。

     ちなみに私が今日初めてやってみたところ、こんな感じになりました。たまたま知っている単語だったので運が良かったです。

     同じ文字を複数個含む単語を入力した場合、例えば QUEEN と入力して、正解の単語には E が1つだけ入っているような場合は、入力した QUEEN の 2つのEのうち1つだけに色が着きます。おそらく英語圏の人ならかなり簡単なパズルなのではないかと思います。

     ちなみにGigazineに、英単語当てゲーム「Wordle」は平均何回の試行で答えにたどり着けるのか?という記事がありました。

     実は私は Gigazine は最近は定期的には見ていなくて、見落としていました。このゲームを知ったのは、Winning Wordle Wisely(Martin B. Short:2022) (Wordle に賢く勝つ)という論文からでした。ちなみにこの論文には“How to ruin a fun little Internet game with math” (あるいは、数学で楽しいちょっとしたネットゲームを台無しにする方法)というサブタイトルがついています。Wordleを楽しみたい人は7ページ以降は読むな、と注釈が書かれています。

     詳しくは説明しません。単語セットがわかっていれば、解析するのは比較的易しいと思います。この Wordle、ニューヨークタイムズが買い取ったという記事がありました。こういう軽いゲームが流行るのですね。

     検索してみると、日本語版も作られているようです。いくつかやってみましたが、日本語は使用する文字数が多いので「解き味」は違いました。



     生物学者の福岡伸一氏が ドリトル先生 ガラパゴスを救う という新聞連載小説を書いています。そろそろ大団円を迎えそうな雰囲気です。福岡氏はドリトル先生の本が子どものころから大好きだったそうで、新潮社から新訳も出版されています。この新訳の本も先日図書館から借りてきて読みました。最後に12ページくらい、福岡氏の「あとがき」が書かれていて、読み甲斐がありました。研究者としてさぞかしお忙しいだろうに、翻訳をしたり連載小説を書いたりされていて、尊敬します。

     私も「ドリトル先生」のシリーズは大好きでした。私も福岡氏と同様、特に全12巻のうちの第2巻「ドリトル先生航海記」を最初に読みました。小学校2年生のときに学校の図書館で借りた本でした。図書館にはシリーズのうちこの本しかなく、そもそもこれがシリーズのうちの1冊だということを知りませんでした。その本は補修されていて、表紙は濃紺色で文字は書かれておらず、レンガ色の背表紙も手書きでした。気に入って何度も借りて読み返しました。

     その後、あまりに気に入って1か月に1冊ずつ、買ってもらって読みました。(実は家には姉が買ってもらった3巻「郵便局」と12巻「たのしい家」の2冊はあったのですが、それは後で読みました。)結局「航海記」が一番好きでしたが、今思い返してもすばらしいお話、エピソードがたくさんありました

     スタビンズ少年が一人前だと認められるエピソードが好きでした。「航海記」の冒頭もそうですが、9巻「月から帰る」の最後のほう、動物の治療の腕を徐々に上げてゆくスタビンズ君にあこがれました。

     福岡氏の語る「ドリトル先生の公平性」、とても共感しました。連載小説やそれに寄せた著者のコラムなど、オンラインで読めますので読んでみて下さい。


    <おまけのひとこと>
     三連休も最終日です。






    2月14日(月) 「ビジュアル リーマン予想入門」、他

     本のご紹介です。



     ビジュアル リーマン予想入門 〜グラフで解き明かす素数とゼータ関数の関係〜(木内敬,日本技術評論社:2020) という本を本屋さんの店頭で見かけて買いました。実にわかりやすい本です。

     本当によくわかっている人が、理解の筋道を上手にすくい取って平易に解説をしてくれています。いろいろなところで証明は省きつつ、誤解しやすいところ、疑問に思うところはちゃんと押さえた説明になっています。自分が大学初年度の教養の解析学でイメージがつかめずに苦労したガンマ関数の話など、こんなにすっきり説明されている本は初めて見た気がしました。

     随所に書かれているコラムがまた面白くわかりやすいのです。abc予想をこんなにわかりやすくすっきり説明している文章も初めて読んだ気がします。(マスコミの記事などを見ても、書いている人が理解できていないのが丸わかりの解説などをよく見かけました。そういう私も五十歩百歩ですが。)

     大判の本で、カラー印刷で美しいのに、値段も驚くほど抑えられています。(数学の本としては 2280円+税、はすごく安いです。)上記の技術評論社のページには内容見本として数ページが公開されているので見てみて下さい。これはお勧めです。



     昨日ご紹介した Wordle という英単語を当てるゲーム、すでに流行のピークは過ぎているのかもしれません。「ヒット&ブロー」系のゲームは実装が簡単なので、スマートフォンのアプリとかwebサイトで遊べるアプリとかがたくさん公開されていると思います。アプリではありませんが、Crack the Code という、3桁の数字を当てなさい、という問題がいくつも公開されているサイトがありました。紙と鉛筆のようなものを使わずに頭の中で考えて解けるレベルの問題だと思います。HIT (場所も含めて数字が合っている)、BLOW(数字は合っているが場所が違う)の数が言葉で(英文で)説明されています。


    <おまけのひとこと>
     今日はこれから雪かきです。4時〜5時半が雪かき、5時半〜6時にシャワーを浴びて出かけます。






    2月15日(火) オーゼティック構造、他

     「引っ張ると膨らむ」構造の話の続きです。



     先週、ポアソン比(ある素材を左右に引っ張ったとき、どれだけ細くなるかを示す指標)がマイナスの構造がある、という話を簡単にご紹介しました。

     代表的な構造として、こんな周期構造があるのだそうです。

     なんとなく「ミウラ折り」を連想します。このような、負のポアソン比の性質を持つ構造をオーゼティック(auxetic)構造と呼ぶのだそうです。

     オーゼティック構造で検索してみると、このような性質を持つ構造がいろいろ研究されているようなのです。例えば、A systematic approach to identify cellular auxetic materials(C. Koerner, Yvonne Liebold‐Ribeiro:2015) という論文にはこんな図が掲載されていました。

    Figure 4. of the above paper

     こちらで上記論文のpdfファイルa_systematic_approach_to_identify_cellular_auxetic-1.pdfが閲覧できます。私はもともとタイリングやパターンの周期構造に興味があるのですが、オーゼティック構造という概念はつい先日まで知らなかったのです。とても面白いと思います。



     東京大学のニュースリリースに、誕生:ダイアモンドの双子の弟 新しいキラル炭素ネットワークの最小かご単位(磯部 寛之、池本 晃喜:2022)という記事がありました。図を引用させていただきます。(A minimal cage of a diamond twin with chirality(Toshiya M. Fukunaga, Takahide Kato, Koki Ikemoto,and Hiroyuki Isobe:2022))

    ポルクセン(最小かご単位)

    ポルクセン側面図 ポルクセン上面図

     ダイヤモンドは炭素原子による純物質ですが、炭素の純物質にはグラファイトもあれば、バックミンスターフラーレン、カーボンナノチューブなど、近年様々な新材料が研究されています。このポルクセンという構造は、2008年に理論的にその存在が提唱されたのだそうですが、それが実際に化学合成できた、というのです。

     かたち、構造、機能というのは関係が深くて、かたちに興味があると、いろいろな分野に面白いことがたくさんあることを知ることができて楽しいです。


    <おまけのひとこと>
     昨日は結局出社前に2時間雪かきをして疲れました。ちょうど勤務先の最寄りのインターチェンジ(IC)のすぐ先で事故があって通行止めになっていて、全ての車がそのICで高速を降りて、その多くが迂回路の一般道の国道に向かっていました。いつもなら高速を降りて会社の駐車場に車を入れるのに3分くらいしかかからないのですが、昨日は渋滞のため10分以上かかりました。
     駐車場に雪が積もっていたので、いつも止めている奥のほうの区画ではなく、入り口に近いところに車を止めたのです。思えばこれが間違いでした。ようやく車を止めて「やれやれ」と思って車を降り、いつも通り助手席側に回って荷物を出そうとしたのですが、足元のアスファルト舗装の上に薄くピカピカの氷が張っていて、見事に転んでしまいました。絶妙なタイミングで送り足払いを掛けられた感じです。とっさに左の肘から掌で柔道の受け身を取りました。おかげでけがをせずに済んだのですが、素手でアスファルト舗装を力いっぱい叩くことになってしまったので、掌に小さな傷がいくつか出来ました。
     最悪、頭を打ったりしたら大変なことになってしまいますし、骨折でもした日にはとても生活が不便になってしまいます。この程度で済んで良かったのですが、油断しました。反省。






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