以前の「ひとこと」 : 2019年12月前半
12月1日(日) Trade Trek
月初めですが日曜日なので軽い話題です。
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先日、「三体」というSFを読んで、久しぶりにSFが読みたくなりました。ブックオフに行ったときに100円コーナーのSFを眺めて、「彷徨える(さまよえる)艦隊」というシリーズものの第1巻と第2巻があったので買ってみました。いわゆる「スペースオペラ」と呼ばれるジャンルの作品だと思います。なかなか面白くて、昨日2冊とも読んでしまったのですが(おかげでやらなければいけないことを今日に先送りしてしまいました)、大昔のパソコンの黎明期に遊んだ“トレードトレック”(Trade Trek)というゲームを思い出しました。
トレードトレックは、宇宙を交易しながら地球を目指すというストーリーのゲームで、いくつもの星系を旅しながら、それぞれの星系で資源(鉱物)を採取したり、製品を製造したり、資源や製品やエネルギー(燃料)を売買したりするゲームです。乗組員に賃金を払ったり、時には海賊に襲われたり乗組員がストライキを起こしたり、なんらかの理由で故障した乗船(宇宙船)を修理したり、といったことを繰り返してお金を貯めてゆきます。
基本は「安く仕入れて高く売る」のですが、それぞれの場所でものの値段が違います。自分が指定できる場合と、言い値で取引する場合があります。このバランスが絶妙で、相場感がわかってくるとだいぶ先まで進めるようになります。
資金がなくならないよう、エネルギーが枯渇しないように工夫しながら進みます。過積載になると燃費が悪くなったり、パトロール(警察)に検査を受けて罰金を取られたりもします。資源などが豊富そうな星系を目指してルートを検討したり、ようやくたどり着いた星系で期待した成果が得られなかったりして、よくバランスが考えられていました。今のゲームからは考えられないほどシンプルなユーザインタフェースですが、「ボードゲームの面倒な判定などをコンピュータに任せた」といった感じで、一人でもこんなに面白く遊べるんだな、と感激したものです。
このゲーム、もしくは似たようなゲームが遊べるところはないかな、と思って検索してみたら、【懐かしい】トレードトレック【Windowsで動く】という7年前のblog(2012年11月20日)がありました。さらに、JavaScriptで動くTrade Trekというページを公開して下さっている方がいらして、感激しました。
図 1 [せつめいをみる]のボタンを押すと、ルールが解説されています。当時のこのゲームが動いていたハードウエアの雰囲気の再現のためでしょう、漢字を使わずに解説が書かれているのでちょっと読みにくいかもしれませんが、「ああそうだったなあ」と懐かしく読ませていただきました。
[ゲームをはじめる]を選ぶと、こんな画面が表示されます。昔の画面に比べるとずいぶん親切になっているなあ(ありがたいなあ)と思いましたが、それでも今のゲームと比べると恐ろしく「そっけない」と感じられるのでしょうか。
図 2 製作者の方(Toshi Nagata氏)のblog JavaScript に再挑戦中(2018年6月3日)によると、今もときどきアクセスがあるそうです。また、JavaScriptも進化していて、なんと横スクロールシューティングゲームの古典のグラディウスをJavaScriptで実装してしまった方もいらっしゃるそうです(こちら)。
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11月中旬に、通勤に使っているタイヤを冬タイヤに交換したのです。そのときにタイヤの溝を見たら、もう限界でした(図3、図4)。
図 3 図 4 それでもまあいったん交換してみたのですが、そうしたらロードノイズがものすごいのです。日本の各地にメロディーラインとかメロディーロードと呼ばれる、車で走行すると音楽が聴こえる道がありますが、あんな感じの音が、それも減速するときだけにひどく大きく聞こえるのです。試しにギアを抜いて慣性でスローダウンさせてみても、音は変わりません。駆動系や制動系ではなく、あくまでもタイヤと路面に起因する音のようです。
耐えられなくて、結局冬タイヤを新調しました。まあもうこのタイヤも4年乗って、しかも昨シーズンは通勤で毎日100km以上高速で走っていたので(その前の3年間は単身赴任だったので走行距離は少なかったのです)、そりゃあタイヤも減るよなあと思います。
新しいタイヤはかなり静かでした。良かったです。
<おまけのひとこと>
最近、会社で上司からきつく当たられていて周囲から心配してもらっています。困ったものです。
12月2日(火) ロビンソンの強制非周期タイル(その1)
先月の後半に、正方形のタイルを辺の色を合わせて貼る話をご紹介しましたが、これは、「ロビンソンの強制非周期タイル」、平面を無限に埋め尽くそうとすると、周期的には貼れないという6枚のタイルセットについて調べてみたのがきっかけでした。
ロビンソンの強制非周期タイルについては、5年ほど前にPHPサイエンス・ワールド新書の「エッシャーとペンローズ・タイル」(谷岡一郎)で読んだときに興味を持ちました。自分でも図を作ってみました。
図 1 これは、回転や反転は許されています。どの辺どうしが接してよいかを、色ではなく凹凸でデザインされています。こんな風に設計しました。
図 2 左の2つは斜めの鏡像対称軸を持っています。右の2つは縦の鏡像対称軸を持っています。真ん中の2つには鏡像対称性はありません(裏返すと別なかたちになる)。
まずは何も考えず、適当に並べてみました。
図 3 こんなアプローチだと、すぐに破綻してしまいます。
(つづく) ○
昨日ご紹介したトレードトレック、2〜3回やってみました。こんな結果になったり、
図 4 こんな風に成績が悪くて叱られたりしました。
図 5 ゲーム開始時の所持金が10,000なので、それよりも残金が少ないと赤字ということになります。それでもゴールまでたどり着いたのですからまだましです。
このゲームは資源が3種類に製品がたった1種類しかありませんが、それでもいろいろな要素が盛り込まれていてバランスの良いゲームデザインだと感心します。
<おまけのひとこと>
今年もあと1ヶ月です。
12月3日(火) ロビンソンの強制非周期タイル(その2)
ロビンソンの強制非周期タイルのご紹介をしています。ありがたいことに元論文が公開されていて読むことができます。“Undecidability and Nonperiodicity for Tilings of the Plane” R.M.Robinson(1971)です。 本日は、この論文の前半部分の図の簡単な説明をしたいと思います。
6種類のタイルは、1つだけコーナーが凸のもの(左上の白いタイル)があり、後はすべてコーナーが切り落とされています。
論文のFig.2で、切り落とされたほうの5つのタイルがどのように設計されているかが示されています(図1)。
図 1 矢印の頭が飛び出している辺、根元が凹んでいる辺を表します。1本線は左右対称な正三角形、2本線は非対称な直角二等辺三角形の凹凸を示します(図2)。
図 2 もう1つ、論文のFig.3にはさらにシンプルな表記として「クロス」と「アーム」という表示法が説明されています(図3)。
図 3 これは、必要に応じて矢印が1本になったり2本になったりしても良いのだけれども、おおまかな「向き」について議論する際にわかりやすい表記です。
ちょっと飛びますが、論文のFig.10に、3×3のタイル配置の例があります。これは、四隅を緑のタイルで指示通りに置くと、後のタイルは強制的に一意に決まります(図4)。
図 4 ここまでで図を作るのが時間切れになってしまいました。
(つづく) <おまけのひとこと>
こんな図を描いていると、楽しくて時間を忘れます。
12月4日(水) ロビンソンの強制非周期タイル(その3)
ロビンソンの強制非周期タイルのご紹介の続きです。元論文“Undecidability and Nonperiodicity for Tilings of the Plane” R.M.Robinson(1971) の図11の7×7の正方形配置をタイル図にしてみます。
論文の図11です。
図 1 中心以外のクロスパーツを指定通りの向きに置きます(図2)。
図 2 昨日同様、四方の3×3の領域は一意に決まります。4つの3×3が4回回転対称のかたちになっていることにご注目下さい(図3)。
図 3 中央のパーツの向きを決めると、残った十文字型の隙間はすべて一意に決まります(図4)。
図 4 次のステップは、7×7を4セット、4回回転対称に並べて中央に十文字型の隙間を作った15×15になります。その次は31×31です。以上を繰り返してゆくことで、周期性のないタイリングが実現できます。
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ちなみに、これをもっとわかりやすく示してくれるものがありました。数学関係のトピックがものすごく充実しているWolframのサイトです。https://demonstrations.wolfram.com/RobinsonTiling/に行くと、たとえばこんな図を見ることができます。
図 5 これは、3×3、7×7、15×15がどのように生成されるのかを1枚の図でわかりやすく示してくれているものです。
こういったことを何も知らずにロビンソンの6種類のタイルを適当に並べていると、すぐに破綻します。実際にタイルを並べてみて(といってもコンピュータの画面の中でですが)、論文の図を基に、タイルを並べてみて、初めて「なるほど」と思いました。
わずか6種類で強制非周期タイリングができるセットだということは理解できましたが、これをどうやって発想したのだろう?というところまではまだ理解できていません。実は論文も、図の付近の説明を拾い読みしているだけで、ちゃんと通読していないのです。
<おまけのひとこと>
私より少し年上の、会社でお世話になっていた方が転職されることになったと伺ったので、昨日の午前中に休憩コーナーでお茶を飲みながら10分ほど話をしました。技術的な情報交換や議論をしていただける数少ない方のお一人だったので、とても残念に思っていますが、ご本人のためには良い判断だなあと思いました。
12月5日(木) 図形問題(出題編)
Netでこんな問題を見かけました。
図 1 正方形の中に、右辺と底辺を結ぶ斜め45度の線を引き、その途中の点から垂線を立てて左辺まで引きます。そうしたらその寸法が図のように3と5になりました。正方形の面積を求めなさい、という問題です。
(つづく) <おまけのひとこと>
今日は本当に時間も準備もなくて「更新どうしよう」と思ったのですが、先日見かけた問題を思い出して、15分くらいで上の図を用意して掲載しました。週末にちゃんとストックしておかないとさすがに厳しいです。
12月6日(金) 図形問題(解説編)
昨日、こんな幾何の問題をご紹介しました。
この正方形の面積は? これは小学生の知識でも解けて、答は整数値になるのですが、私が最初に思い付いたのがこんな方法でした。
図 1 求める正方形の辺の長さは、対角線の長さが5の直角二等辺三角形の斜辺と、対角線の長さが3の直角二等辺三角形の斜辺の長さの和になります。計算すればすぐに求まります。ただし、√2が出てきます。「小学生の知識で」というところを逸脱します。
次に思ったのが、「あれ、この正方形の位置は一意に定まらないな」ということで、だとすると都合の良い位置に動かして計算してしまえ!と思いました(図2)。
図 2 長さ3の線分と長さ5の線分は固定したまま、正方形を下にずらしていきます。長さ5の線分が正方形の対角線とちょうど重なった状態になると、この正方形の対角線の長さが5+3=8であることがわかります。あとは簡単です。
おそらくこの「正方形をずらす」という解法はテストの答としては想定されていないのではないかなあ、となんとなく感じました。
<おまけのひとこと>
今回の正方形の問題、お二人からメールで解答を送っていただきました。ありがとうございます。とても嬉しいです。
12月7日(土) Angel Puzzle:Wolfram Demonstrations Projetより
先日のロビンソンの強制非周期タイルのご紹介をしたときに、Wolfram Demonstrations Projectのサイトのデモンストレーションから画像を拝借しました。このWolframのサイトは膨大な情報があってとても見切れないのですが、面白いものがたくさんあります。このサイトのデモンストレーションを動かすためには、Wolfram CDF Playerというソフトウェアをまずダウンロードしてインストールする必要があります。(このプレーヤー、最初に起動するときにはけっこう重たいのでちょっとびっくりします。)
この環境はインタラクティブに操作できるので、その機能を使ってパズルやゲームのようなものを公開して下さっている方もいます。こちらのAngel Puzzle(Karl Scherer)というのが面白かったです(まだ私は解けていませんが)。
このタイトルを見て、昔ご紹介したコンウェイの「天使と悪魔のゲーム」を思い出しましたが、それとは違います。盤面はこんな感じです(図1)。
図 1 14×14マスのボードで、画面上には障害物である壁(濃い色で塗りつぶされたマス)、自分のコマである白マル(これが「天使」です)、自分を追いかけてくる怖い黒マル「ダークフォース」、自分が拾い集めなければいけない陰陽トークン(図2)があります。
図 2 自分のコマも相手のコマ(黒マル)も、将棋の飛車と同じく、タテヨコに好きなだけ進めます。壁やトークンを飛び越すことはできません。黒マルの動作のアルゴリズムは決定論的で、ランダムな要素はない、と書かれています。まず、水平方向にできるだけ白マルに近づくように動きます。それができない場合、垂直方向にできるだけ近づくように動きます。どちらもできない場合、黒マルは「パス」します。
黒マルに捕まらずに全部のトークンを集めれば成功!です。 最初、勘違いしやすいのが「縦方向の距離が大きくて、横方向の距離が小さいときに、距離を縮めるために縦に近づいてくるのではないか?」と思ってしまうのですが、黒マルは愚直に決められたアルゴリズム通りに動作します。
10面分の問題と、ランダムに生成される面があります。今、5〜6回やってみたのですが、「あと1個」までは行ったのですがまだ最初の[fixed setup 1]すら解けていません。なかなか面白いです。このパズルというかゲームを公開して下さっている Karl Scherer氏は、他にもたくさんのデモンストレーションを公開されていて、その中には類似のパズルのようなものもいくつもあるようです。
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他にも、これも以前もご紹介した7本の円柱が互いにすべて接し合っている状態を見ることができるデモンストレーション(Seven Touching Cylinders Puzzle(Karl Scherer)もありました。
図 3 面白そうなものをダウンロードしていじってみていると、あっという間に時間が経ってしまいます。
<おまけのひとこと>
今日のお昼までにやらないといけないことがあって、それとは別に月曜日までにしなければいけないことがあって、いずれも手つかずです。今日の更新が終わったら始める計画なのですが、おかげで更新(のための探索)に時間をかけてしまいました。自分の首を絞める得意技です…
12月8日(日) Water Colors Puzzle:Wolfram Demonstrations Projetより
昨日に続いて、Wolfram Demonstrations Projectからのご紹介です。昨日と同じ作者の方の、Water Colors Puzzle(Karl Scherer)というパズルです。全部で10面あります。
図1が問題1の初期状態です。5×5=25の部屋があって、ドアで仕切られています。中央の横並びの3部屋に、赤・黄・青の色がついています。それ以外の部屋は白で、部屋の中央に、色のついた小さなマルがあります。全ての部屋を、このマルの色にすることがこのパズルの目的です。
図 1 図 2 部屋の間のドアを開けると、繋がった部屋はすべて同じ色になります(図2)。このように相手が白の部屋の場合は良いのですが、色のついた部屋どうしをつなぐと、例えば、赤と黄色の間のドアを開けるとオレンジに(図3)、黄色と青の間のドアを開けると緑に(図4)、それぞれ変化します。
図 3 図 4 さらに、3つの部屋を繋ぐと、その順序に関わらず真っ黒になってしまいます(図5)。
図 5 こうして色を混ぜてしまうと「覆水盆に返らず」、もはや元の色を得る手段はありません。リセットして最初からやり直しです。色の混色は、混ぜる色の部屋数に関わらず単純なルールで決まっています。
ろくに説明を読まずにこのパズルを始めてみて、図1→図2のように遠い部屋から単純に色を入れていけばいいのだな、と思ったのです。図2で左上の隅の部屋は無事黄色にできたので、あとはこの部屋のドアを閉めて、次はその右隣りの部屋を青くしようと思って青の部屋とつないでみたら、緑色になってしまって「え?」と思いました。「どうやったら色を消せるんだ?」
実は、盤面の左右の中央の部屋にだけ、この建物の外に出られるドアがあります。このドアを開けると、外に繋がっている部屋はすべて無色(白)に戻すことができます。そこで、図6のように左上隅の部屋と中央の黄色の部屋はちゃんと閉め切っておいて、その他の黄色い4部屋をつないだ状態にします。ここで外周に通ずるドアを開くと、図7のように、左上隅だけを黄色にできました。
図 6 図 7 「わかった、これであとは順に色を決めていけばいいんだな、楽勝!」と思ってやってみたのですが、実はそんなに単純な話ではありませんでした。このパズルのゴールは、隣り合う部屋が同じ色になっているところは1箇所しかありません。ちゃんと先を読んで手順を決めないと、同じ作業の繰り返しになってしまいます。初めてやった時には、試行錯誤を繰り返して200手以上かけてやっと解けました(図8)。
図 8 つぎの2問目はスタートで与えられる色は赤・黄・青で同じですが、目標の色は赤・橙・黄の3色です。青は不要ということです。さらに先の問題になると色数も増え、ドアのない壁も増えてゆきます。私は2問目まで解いて、いったん満足しました。
なかなか楽しいパズルでした。お勧めです。
<おまけのひとこと>
昨日は8時間ほど仕事をしていました。大きく2つ、やることがあるのですが、あわよくば昨日中に2つとも済ませたかったのですが、1つを終わらせるだけで精一杯でした。昨夜は私としてはだいぶ遅い、夜10時過ぎに寝たのですが、2時間後に目が覚めて眠れなくなったので、起きてきて、仕事をするのではなくこのパズルやほかのWolframのデモンストレーションを試したりして、眠くなるのを待っていたらいつの間にか朝になってしまいました。この更新をアップロードしたら、2つ目の作業に取り掛からないといけません。
12月9日(月) 算数カレンダー・数学カレンダー
今年の4月27日のひとことで、2019年度版の数学検定カレンダーというのをご紹介しました。作成者の日本数学協会の渡邊さんから先週メールをいただいて、「2020年版が出版されたので、よろしければお送りします」とご連絡下さったのです。たいへんありがたくいただくことにしました。
写真が良くありませんが、左が算数検定カレンダー、右が数学検定カレンダーです(図1)。
図 1 開いてみるとこんな感じです(図2)。
図 2 前回ご紹介いただいたのは、4月始まりの翌年3月までの「年度」カレンダーのpdfファイルでしたが、今回のものは、1月始まりで12月までのカレンダーです。それぞれ1,000円(+税)で全国の主な書店で販売中だそうです。取り扱い書店リストをこちら(算数カレンダー・数学カレンダー2020の取り扱い書店一覧)に置きました。ご興味がある方はぜひ。お勧めです。
これは絶対家の中に掛けようと思いました。妻がピアノ教室の部屋がいいか、リビングで自分が普段座っているところから見やすいところがいいか、どうしようかな…
<おまけのひとこと>
先週末は持ち帰りの仕事をずっとやっていて、2日間一歩も家を出ませんでした。今日(12/9)の午後が報告の山場です。憂鬱…
12月10日(火) Water Colors Puzzle:Wolfram Demonstrations Projetより
先週末にいくつかご紹介した、Wolfram Demonstrations Projectの、Karl Scherer氏の作品より、Tensegrityが面白かったのでご紹介します。本日の図は、すべてこのデモンストレーションからのキャプチャです。
テンセグリティは、棒(圧縮材)の両端に糸(張力材)を何本かつないで、その糸どうしの張力で棒の姿勢をを空中に安定させた構造で、バックミンスター・フラーが普及させた概念です。Wikipediaによると(テンセグリティ)、ケネス・スネルソンという彫刻家がこの手法で抽象的なオブジェを作っていたそうです。英語版のTensegrityのほうが、原理や図などが充実しています。
テンセグリティと言えば、一番有名な構造はこれだと思います(図1)。
図 1 3次元のx,y,z軸方向に2本ずつの棒が配置され、その頂点を結ぶ糸が正二十面体を構成する美しいかたちです。張力材としてゴムのような伸縮する素材でつくると、この構造を無理やり押しつぶすことができますが、手を放して外力をなくすと自然にこのかたちに復元します。
圧縮材が2本で、しかも曲がっているものがありました。これは初めて見た気がします(図2)。
図 2 2本の曲がった棒の両端を4つの頂点とする(正)四面体の構造です。2本の棒の中心どうしを結ぶ短い糸がありますが、これが無いとどうなってしまうでしょうか? また、1本の棒の両端を結ぶ糸がありますが、これは四面体構造を強調するために張られていますが、棒の剛性が高くて変形しないのであれば、この糸は不要です。
また、たった1本の棒を4本の糸で空中に垂直に浮かべた構造が紹介されています(図3、図4)。これ、本当に安定しているのでしょうか?
図 3 図 4 先ほどのWikipediaには、「3次元構造の場合、圧縮材の両端には3本以上の張力材が少なくとも接続されていなければならない。」と書かれていますが、棒が1本なので、これは1次元構造と解釈すればいいのかな?と思いました。
あらかじめ用意されている座標系を表示する機能で、x,y,z軸を重ねてみました(図5)。
図 5 それぞれの座標軸方向に微小に平行移動したとき、およびそれぞれの軸の周りに微小に回転させたときに、4本の糸の長さがどう変わるかを考えると、この系の安定性を調べることができます。平行移動に関してはy軸方向が一番復元力が小さそうです。回転に関しては、x軸回りの回転に対しては復元力が小さいのではないかと思います。微小変動に対する復元力を計算してみるのは、物理の問題として面白いかなあと思いました。
「ぶんぶんごま」というおもちゃがありますが、それを連想しました。
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プログラマー川柳というweb4コママンガがありました。上手い。
<おまけのひとこと>
まとまった時間が取れないと、簡単な更新になってしまいます。
12月11日(水) Paradoxical Triangular Braid:Wolfram Demonstrations Projetより
あいかわらずWolfram Demonstrations Projectのいろいろなデモンストレーションで楽しんでいます。Bridgesで常連の Tom Verhoeff 氏の作品で、Paradoxical Triangular Braid というのがありました。亡くなられた Koos Verhoeff 氏がデザインされ、木工で実物も作製された形状だそうです。
ペンローズの三角形を彷彿させる構造ですが、これは実際に実現できるかたちです(図1、図2)。
図 1 図 2 赤・黄・青の3つの「輪っか」が三つ編みのように絡み合っています。
3次元空間における「輪っか」の絡まり方を研究するのが結び目理論ですが、1つの輪っかを「結び目(knot)」、複数の「輪っか」が絡み合っているのを「絡み目(link)」と呼びます。3つ以上の輪による絡み目のうち、そのままでは分離できないけれども任意の1つの輪を取り除くと全体が完全にばらばらにできるものをBrunnian link(ブルニアの絡み目)と呼びます。もっとも簡単なBrunnian linkの例がボロメアンリング(ボロメオの輪)と呼ばれる構造です。
実はこの「パラドックスのような三角ブレード」と命名された絡み目も、任意の1つを取り除くとばらばらになるのです。
図3、赤を取り除いてみると、青は完全に黄色の上に乗っていることがわかります。 図4、黄色を取り除いてみると、赤は完全に青の上に乗っていることがわかります。ということは、赤が一番上、次が青、一番下が黄色、なのかなあと思えます。
図 3 図 4 図 5 ところが図5、青を取り除いてみると、一番上にあったはずの赤は、完全に黄色の下になっているのです。「パラドキシカル」(逆説的)と呼ばれるゆえんです。 大変面白いと思います。 こちらのYouTubeの動画https://www.youtube.com/watch?v=3b_P9TPnxGAでご覧いただくのが手っ取り早いかもしれません。
自分でも作ってみたいなあと思いましたが、面白さがわかるように作るのはけっこう大変そうです。
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秘境駅の旅行記を書かれているシリーズの最新版が、こちら(弛まずに正々堂々と秘境駅に行ってきてきたから写真うpする)に掲載されていました。このシリーズの密かなファンなので、嬉しいです。
<おまけのひとこと>
この「パラドキシカルな三角ブレード」を実際に作るとすれば、手持ちのもので使えそうなブロックを2種類ほど思い付いたのですが、パーツの数が足りなさそうです。
12月12日(木) Three Families of Mitered Borromean Ring Sculptures
昨日、CGでご紹介した「パラドキシカルな三角ブレード」ですが、Three Families of Mitered Borromean Ring Sculptures(Tom Verhoeff, Koos Verhoeff:Bridges 2015) に、木製の作品の写真が載っています。
図 1 図 2 美しいですね。
論文の冒頭には、ボロメアンリング(ボロメオの輪)を説明する図が載っています。
図 3 3つが絡み合っていてばらばらにはできないけれど(上図左)、1つを取り除くと他の2つはつながっていない(上図右)ことを示しています。
論文では、この「ボロメオの輪」の構造を3種類のアプローチで彫刻作品として造形する方法について述べられているのですが、本日の図1、図2のものはその3つ目のアプローチのものです。
このアプローチで最もシンプルな構造はこれだ、と示されています(図4)。
図 4 確かに、3つの輪の上下関係を見ると、三つ巴になっているのがわかります。この構造なら比較的簡単に作れそうですね。これはこれでシンプルで美しい構造だと思いますが、どうでしょう、作ってみなくてもいいかな、作ってみてもいいかな…
<おまけのひとこと>
会社で、このところ頻繁に協力して仕事をしている別事業所の同僚がいます。彼は私より一回りくらい若いのですが(といっても私もそろそろ勤続30年が近いので、彼も大ベテランです)、今週の木・金が泊りで出張、土日はいったん帰って来て、来週は月曜から土曜まで5泊6日の出張、22日の日曜日は帰宅してお休み、23日の月曜日はまた出張、24日火曜日に1日だけ出社して、25日(水)からお休みを取って、年明けの1月8日まで15連休だそうです。「どこかに行くんですか?」と尋ねたら、一人で15日間、ヨーロッパ旅行だそうです。25日のお昼の便で飛んで、帰国は8日だそうです。翌日の9日から出社するとのことで、体力的にも経済的にも、また家庭の事情としても、とても真似できないなあと思いました。(インドア派の私は、15日間の連休はうらやましいですが、15日間の海外旅行はうらやましいとは思わないのですが。)
12月13日(金) ボロメオの輪の構造
「パラドキシカルな三角ブレード」の続きです。この構造の基本となるシンプルな「三つ巴」のかたち(再掲図)、これなら手持ちのブロックで作れそうだなと思って、今朝3時半くらいに目が覚めたときにブロックのストックを探して、作ってみました。
再掲図 アーテックブロックを使っています(図1)。
図 1 黄色のパーツを外してみました(図2)。赤と青は絡んでいません。図1⇔図2の変形には、ブロックの特性を活用して1つの輪を分解して組み直す必要があります。
図 2 黄色パーツを向きを揃えて載せてみました(図3)。かちっとはまって気持ちがいいです。
図 3 縦に積んでみました(図4、図5)。Naef社の積木にこんなかたちがあったような気がします。
図 4 図 5 なんだか思いのほか面白かったです。やっぱり実物を作ってみるというのは違います。いまは図3の状態にして飾ってあります。作ってみて良かったです。
今回は、部品として用いたアーテックブロック4個分を単位として作ったので1色あたり18個必要でしたが、3個分を単位とすればブロック12個で作ることもできます。でも、その基本単位で作ったとしても、昨日の「パラドキシカルな三角ブレード」を作るには手持ちのパーツが足りません。うーむ。
<おまけのひとこと>
昨日は会議が延びて20時くらいに事業所を出ました。「別に特に遅くないよね?」と思われる方も多いかと思いますが、超早寝早起きの私としてはちょっと辛いです。
12月14日(土) パラドキシカルな三角ブレード
今週、「パラドキシカルな三角ブレード」をご紹介したら、以前(2017年4月30日のひとこと)にもメールを下さったMさんから、こんな写真を送っていただきました。
図 1 これはすばらしいです。大変美しい。ありがとうございます。 いいなあ、うらやましい…
使われているのは Snaak ブロックキット と言う製品だそうです。検索してみるとこんなもののようです。
図 2 一番手前は“S-n-a-a-k”という文字列になっているのですね。
こちらのblogでこのブロックについて紹介されていました。残念ながらこのblogからリンクされている開発元のサイト http://snaak.com/ は今は存在しないようです。このブログの方は蛋白質科学がご専門のようです。蛋白質というのはアミノ酸が鎖のようにひとつながりに繋がっているものなのですが、この鎖はアミノ酸に付いているいろいろな「官能基」の相互作用で、同じ環境(温度とかpHとか)であれば、勝手に(自動的に)同じ立体構造になるのです。そのかたちがその蛋白質固有の機能を実現してくれます。蛋白質を構成しているアミノ酸は20種類あって、その並びが決まると蛋白質が決まります。
大学3年前期の専門の講義で、「20種類の(蛋白質構成)アミノ酸の名前、略称(3文字と1文字の表記があります)、構造式を書け、という試験を来週のこの時間にやるからね」と予告された小テストがあって、がんばって覚えたのが懐かしいです。もうすっかり忘れましたが。
遺伝子の構成要素である核酸塩基は4種類あって、その3つずつの並びが1つのアミノ酸を決めています。遺伝子(DNAとかRNA)は、そこに並んでいる核酸塩基の順番が重要で、二重らせんの構造は「コピーする」という機能として重要ですが、空間的なかたちは絡まらずにコピーさえできればおそらく「どうでもいい」のです。でも、蛋白質のほうは「かたち」がとても重要です。 なので、蛋白質科学をやっている方はこういうSnaakのようなブロックが面白いのだろうな、と想像しました。
ちょっと検索してみると、アミノ酸と蛋白質については、日本分光株式会社のアミノ酸とは?というページがとてもわかりやすかったです。
上記のブログをみると、このSnaakというのは64個の単位立方体がつながったもののようで、その数を増やしたり減らしたりはできないみたいです。写真を下さったMさんも、余長の部分の処理を工夫されているそうです。
私も何かで「パラドキシカルな三角ブレード」を作ってみたくなりました。
<おまけのひとこと>
この週末は少しゆっくりしたいな、と思っています。
12月15日(日) 3 man chess
こんな画像を見かけて、「おやっ?」と思いました。
調べてみると、3 MAN CHESS in the round という3人でプレイする変形チェスのようです。六角形の盤で遊ぶ3人用のチェスはみたことがあったような気がするのですが、円環状の盤面のものは初めて見ました。ルールが面白かったので、久々に「遊びのコラム40」円環状ボードで遊ぶ3人用チェスというページにまとめてみました。
こんな記事(2011年のGIZMODOの記事:日本語です)やこんなレビュー(こちらは英語です)がありました。
もしも実際にプレイする機会があったとしたら、コマの利きを見逃しまくるような気がします。公式サイトを見ると、iOSで動作するアプリがあるようです。私はiOSで動くデバイスを何1つ持っていないので試すことはできませんが、コンピュータ同士の戦いを観戦するのは面白いかもしれないな、と思いました。
<おまけのひとこと>
子供の頃にこのゲームを知ったら、きっと自分で円環状ボードをコンパスと定木で自作し、適当なものをコマにしてひとりで遊んでみただろうな、と思います。今はそこまでやる気力がないなあと思いました。