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以前の「ひとこと」 : 2003年6月後半



6月16日(月) 帯で編む多面体:花形十二面体

 帯で編む多面体シリーズですが、今日は対角線の長さの比が黄金比の菱形を使った多面体をご紹介します。

 この、帯で編む多面体は、そもそもは昨年の4月13日のひとことで、菱形三十面体を編んでみたものをご紹介したところから始まっています。この菱形三十面体の面のかたちが、対角線比が黄金比の菱形です。ちなみに、上記の数日後の4月17日のひとことで、立方体、菱形十二面体、菱形三十面体についてちょっと書いてあります。

 今日ご紹介するのは、この菱形三十面体を編んだパーツそのものをちょうど2倍の12本使って、これまた昨年の9月7日のひとことでご紹介した、花形十二面体を編んだ模型です。参考までにそのときの写真を再掲しておきます。

参考図

 このときは、紙で作ったジオシェイプスのようなパーツを使って模型を組みました。このかたちの対称性などについては、昨年の9月7日のひとことをご覧いただけたらと思います。

 今回の帯で編んだ模型についても、一般的な視点からの写真と、2回、3回、5回回転対称方向から見た写真を載せておきます。

図 1 図 2
図 3 図 4

 この模型は、実は、10日ほど前からご紹介をはじめた立方体や菱形十二面体を組み合わせた形の模型よりも前に作ってあったものです。 型紙は、前回の菱形三十面体を作ったときの型紙(図5)を2枚印刷して作りました。菱形三十面体のときにはパーツは全て山折りでしたが、今回の花形十二面体の場合は、山折と谷折が交互になります。図4で見下ろしている、ちょっとふとっちょの五角星の周りを巻くように1つのパーツが使われます。この五角星が12個あるため、パーツは12本必要です。

図 5

 帯で編む多面体の中でも、特に気に入っている模型です。このかたちを作る方法としては、比較的手軽な方法ではないかと思います。 どなたでも簡単に作れるというわけにはいかないかもしれませんけれども、お勧めです。

 <おまけのひとこと>
 昨日、カドケシという消しゴムについて書いておいたら、色物文具専門サイト【イロブン】というサイトのこちらに、私の昨日の疑問に対する答を全て含んで余りある、詳細な使用レポートが掲載されているということを教えていただきました。ありがとうございました。
 この「イロブン」のサイト、とてもおもしろいですね。私も昔からちょっと変わった文房具がとても好きで、デザインが気に入ったものは、使うあてがなくてもつい買ってしまったりしていました。



6月17日(火) 帯で編む多面体:花形切隅八面体(?)

 昨日、「花形十二面体」という模型を帯で編んだものをご紹介しました。これを作った後で、確か類似のかたちをどこかで見たことがあったなあと思って、作ってみたのが今日ご紹介する模型です。

図 1 図 2
図 3 図 4

 すみません、今日はちょっと忙しくて写真だけです。本日のタイトルと写真をご覧いただいて、これがどんなかたちなのか考えてみてください。これもとても気に入っている模型です。

 <おまけのひとこと>
 今朝は雨です。 昨日、会社で、「珍しく疲れてますね」と指摘されてしまいました。周りの人からは「いつも楽しそうでいいね」と言われているのに、不覚でした。



6月18日(水) 帯で編む多面体:花形切隅八面体(その2)

 昨日、花形切隅八面体と勝手に名づけた星型多面体を写真だけご紹介しました。なぜこのような名前で呼びたくなったかという説明と、これをどのような帯から編んだのかについて、簡単に書いておきます。

花形十二面体 花形切隅八面体

 まず、図の左側の花形十二面体は、菱形三十面体の星型です。これは、5つの黄金比の菱形を組み合わせた桔梗の花のような形が12個、ちょうど正十二面体の面の位置にあるというたいへん美しい構造でした。これに対して、昨日ご紹介した右側のものは、これを構成する面の形はそこまで整っているわけではありません。この形は、実は菱形十二面体から導かれる星型の1つです。

 昨日ご紹介したこの多面体は、菱形の鋭角が4つ集まってできる「花弁が4枚の花形」が6つと、一見菱形が6つ集まったようにも見える「花弁が6枚の花形(のようなもの)」が8つで構成されています。花弁4枚のほうは正真正銘、菱形十二面体を構成する、対角線比が1:√2の菱形なのですが、花弁6枚のほうは、実は平行四辺形2つによる矢羽根型が3枚集まってできています。帯で編むために、この矢羽根を2つの平行四辺形に分割して編んでいます。

 この花弁4枚の花形と花弁6枚の花形の数や位置関係が、ちょうど切隅八面体の正方形と六角形と同じになっているのです。上の左の図の立体を花形十二面体と呼ぶのであれば、この星型多面体を花形切隅八面体と呼びたくなります。 花弁6枚のほうが、菱形6枚ではなくて、平行四辺形2つによる矢羽根型3枚だというところが苦しいですが。

図 1

 図1は、この模型の面を構成している菱形と平行四辺形を、青と赤で示したものです。一番外側の長方形は、辺の長さの比が1:√2(シルバー比)の、いわゆる「シルバー長方形」です。このように、シルバー比の菱形と、その菱形を短い対角線で2等分してもともとの菱形の辺で繋ぎなおした形の平行四辺形がユニットになります。というわけで2種類のユニットの面積は同じです。

図 2

 そこで、実際の帯としては、図2のようなものが必要になります。上の短い帯が花弁4枚の花の回りを巻く帯、下の長い帯が花弁6枚の花の回りを巻く帯です。それぞれ6本と8本必要です。

 <おまけのひとこと>
 昨日、仕事中にちょっとした調べものをしようと思って検索エンジンのgoogleに行ったら、タイトル画像がM.C.エッシャーの「描く手」をもじった画像になっていました。なぜだろうと思ってちょっと調べてみたら、昨日がエッシャーの誕生日だったのですね。 おかげで、何を調べたくて google にアクセスしたのか忘れてしまいました(笑)。 職場でも「Googleのタイトル画像が変わっている」と話題になったのですが、意外とエッシャーって知らない人もいるんだということがわかりました。
 帰宅したら、メールでもGoogleのタイトル画像について情報をいただいていました。ありがとうございました。
 「描く手(Drawing Hands)」については、リンク集にも入れさせていただいている3D EscherのサイトのStudio Report ─次の作品の製作状況 他─に、製作途中のCGのものが掲載されています。



6月19日(木) ブライテンベルグの“ビークル”(その1)

 先日、2日ほど「顔の認識」という話題を書いたところ、珍しく複数の方からメールでコメントをいただきました。そういう話に興味を持ってくださるかたもいらっしゃるのだなと思って、今日はその、いただいた感想から連想した話をご紹介しようと思います。



 先日の顔の認識の話の中で、「私たちの身の回りには、顔に見えるものがいろいろあります」ということを書いたら、こんな写真集を教えていただきました。パズル雑誌の「ニコリ」の何号だったかに紹介されていたものだそうです。(ニコリはかなり以前からずっと買っているので、調べればわかるはずなのですが、すみません、調べていません。)この本について、いただいたメールにはこんな感想書かれていました。このページへの掲載をお願いしたところ、「匿名で」ということでご承諾いただけたので、ご紹介させていただきます。

 なんといっても驚かされるのは、この本に出てくる「顔」たちの、あきれるほどの表情の豊かさです。すべてが複雑な感情や個性を発しており、今にも親し気に話し掛けてきそうです。どれもユーモアたっぷりで、本当に心が慰められます。

 そして、当然のことですが、そこから表情や感情を「見出している」のは撮影者及び写真を見ている我々の側でしかなく、写されているモノ自体にそんなものは存在しないのです。しかし、にもかかわらず、この写真集にあるのは、そうした事実を超えた「生命」そのものだという気がしてくるから不思議です。

 もともと人間の知覚‥‥ひいては、幸福であるか否かというような認識にいたるまで、すべては錯覚(というか、脳がそのように感じている状態)でしかないのかも知れません。しかし、その錯覚の豊かさこそが、「文化」と言うべきものの本質/総体に違いない、というようなことが、この写真集を眺めている と実感されます。

 これを読んで、思い出したのが、ブライテンベルグ(Braitenberg)という人が1984年に書いた、“Vehicles”という本です。(Braitenberg, V. (1984) "Vehicles : Experiments in Synthetic Psychology" Boston, MA: MIT Press.) これは、別冊サイエンスの「コンピュータレクリエーションIII」にも紹介記事があったので、ご存知の方も多いかもしれません。 と思って検索をかけてみたところ、英語のページは山ほど出てくるのですが、日本語のページはほとんどみつかりません。ならばちょっと書いておいてもいいかな、ということで、このブライテンベルグのビークルの話を書こうと思います。



 ブライテンベルグの“ビークル”というのは、頭の中だけで考えられた、とてもシンプルな仮想的な生き物、というかロボットのようなものです(図1)。これには、に相当する2つの光の受容体(光センサー)と、に相当する2つの動輪があります。

図 1

 光センサーは、入ってきた光の強さに応じてパルスを出力します。神経細胞のイメージです。強い光を浴びるとパルスをたくさん発生させます。光が弱ければパルスは少なく、光が入ってこなければパルスは出しません。

 動輪のほうは、受け取ったパルスの数に応じて回転します。たくさんのパルスを受け取ると回転量も多くなります。短時間にたくさんのパルスを受け取ると、速く回転することになります。パルスが少なければ動きもわずかになります。

図 2

 図2は、光センサーと動輪を結ぶ、最も単純な2種類の「神経回路」です。Aはセンサーと動輪がクロスして結ばれ、Bは同じ側のセンサーと動輪が結ばれています。それぞれの動きを想像してみましょう。

図 3

 図3は、Aのクロス型回路のビークルの斜め前に光源がある場合です。光センサーは若干外向きに取り付けられているので、真正面以外のところから光が来るときには、光源に近いほうのセンサーが余計に光を受け取れるようになっています。そこでこのビークルの場合は、図のように左側のセンサーがたくさんの光を受け取るため、右側の動輪のほうが余計に回転することになります。その結果どうなるかというと、このビークルは光源の方角を向くことになります。向きを変えすぎると、逆に右側のセンサーが余計に光を受け取りますから、結局は光源のほうを向きます。

図 4

 ところが、Bのストレート型回路のビークルの場合、これとは全く逆の動作になります。つまり光源に近い側の動輪が余計に回転しますから、暗いほうへ、暗いほうへと動いていくことになります。

 「それがどうした」というレベルの話までしかできませんでしたが、続きはまた明日。

 <おまけのひとこと>
 このブライテンベルグの本は、しばらく前に流行った「人工生命」とかのはしりとなった研究だと思うのですが、最近の評価はどうなのでしょうか? 海外のホームページをいくつかのぞいてみたところ、それなりに後継の研究をされたり、教育的に使われたりしているようですが。



6月20日(金) ブライテンベルグの“ビークル”(その2)

 昨日に続いて、ブライテンベルグの“ビークル”の思考実験のご紹介を続けます。昨日は突然この話を始めてしまったのですが、いったい何のためにこの話の紹介をはじめたかを書いておかないと、わけがわからないですね。

 1984年の本におけるブライテンベルグの主張は、「生き物の様々な行動というのは、その原理を分析して説明するよりも、簡単なルールから合成して作り出してみせるほうが簡単だ」ということだと思います。一見複雑そうな行動や、恐怖だとか攻撃的だとか情緒的だと思われる行動も、実はそれを見ている人間の側が解釈しているに過ぎず、その実体は単純な原理で実現できてしまうということを、ブライテンベルグは思考実験というかたちで具体的に示しているのです。 これが、昨日ご紹介した感想メールに書かれていた「顔でも何でもないものから、人間の側で表情のある顔を読み取ってしまう」という点において似ているな、と思ったわけです。

 昨日は、光センサーと動輪が1対1につながっているだけ、という最もシンプルなモデルから、光が強ければ強いほど光に向かってゆくビークルAと、強ければ強いほど光を避けるビークルBについて説明しました。これだけでもある種の昆虫などの行動を説明していると言えないこともないですが、今日はもう少し面白い行動を示す“ビークル”についてご紹介します。いずれもブライテンベルグの示しているものです。

図 1

 図1は、昨日のAとBとほとんど同じですが、結合が「抑制的」であるとします。実際の神経細胞にも、自分の発生する信号(パルス)によって、伝達先の活動を抑制するように働くものがあります。実際、興奮性と抑制性の信号は制御のためにペアで使われることがままあります。

 これが抑制的であるとどうなるかというと、光が強ければ強いほど動輪の動きは小さくなります。昨日のAとBは、光に向かってますます速く突き進むか、暗闇で停止するかというものでしたが、今日のCDは、光を避けて暗くなるほど活発に動くもの(C)と、明かりに向かって停止するもの(D)になります。

図 2

 もう一段、センサーの信号から動輪への伝達に工夫を加えたのが、図3に示したEFのビークルです。これも基本的にはクロスの結合と縦の結合である点は同じなのですが、途中に4つの神経細胞のような素子(ブライテンベルグはニューロンならぬニューロードと呼んでいたと思います)を使った、極めて簡単な回路があります。

図 3

 この回路は、図4のように働きます。光センサーからのパルスが1つ1つ独立して届いているときには、図4の上の図のように、そのパルスはそのまま動輪に伝えられます。

図 4

 ところがこの回路には、2と書かれた抑制性の素子が結合されています。この数字の2の意味は、パルスが同時に2つ(以上)届いたら初めて自分もパルスを1つ出力する、という、「動作の閾(しきい)値」を表しています。光センサーからのパルスが多くなってくると、1つめの素子と2つ目の素子から同時にパルスを受け取ることになるため、この2の素子は抑制性の信号を出力します。そうなると、光センサーから動輪へのパルスは届かないということになります。 つまりこの4つの素子の回路は、パルス密度が低い、つまり光が弱いときには光の強さに応じた信号を伝えますが、あるレベル以上の光は遮断するという動作をします。

 ということで、ビークルEFは、光が弱いところではビークルABと同じ動作をしますが、光が強いところでは動輪を動かさないという動作になります。Eならば、明るすぎも暗すぎもしないところを好むような動作になりそうです。 Fならば、薄暗がりの中ならば少しでも暗いほうへとゆっくり動くでしょうし、急に明るくなったりしたら今度はビークルDと同じような動作になるでしょうか。

 とりあえず、こういった6種類のビークルをたくさん、広い平面に置いてみましょう。いろいろな明るさの光源が点々と置かれていると想像してみましょう。それは、何らかの仕組みで明るさが変わったり、ついたり消えたりしてもよいかもしれませんし、ビークルAのような「攻撃的な」ビークルによって、ぶつかって壊されてしまうかもしれません。 他のビークルが視界をさえぎって暗くしてしまうこともあるかもしれません。 この平面世界で、たくさんのビークルたちはどんなふうに振舞うと考えられるでしょうか?

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 うーむ、かなり大量に書いているのに、終わらない。もっと手短に終わらせるつもりだったのに。

 昨日・今日のブライテンベルグの話のきっかけになった、「顔の認識」の話に関係して、絵本をご紹介いただきました。ありがとうございました。今日は時間がなくなってしまったので、この週末にご紹介させていただきたいと思っています。



6月21日(土) ブライテンベルグの“ビークル”(その3)

 当初の予定よりだいぶ長くなってしまった今回の Braitenberg の本のご紹介、今日が3回目です。

 昨日までにブライテンベルグの“ビークル”を6種類ご紹介しました(図1)。ABは明るいほど動きが活発なもの、CDは暗いほど動きが活発なもの、EFは明るいところと暗いところで性質が変わるものでした。それぞれのペアには、光を好むものと嫌うものがありました。(詳細は昨日、一昨日の「ひとこと」をご覧下さい。)

図 1

 これらの“ビークル”を、広くて暗い平面に置いてみましょう。明かりもいくつか灯してみましょう。それぞれのビークルの光センサーにはどんな光が入ってきて、その結果どのように動くでしょう? あえて擬人的な表現を使って想像してみましょう。

図 2

 それぞれの明かりの回りには、ビークルD、明かりの方を向きたがって、しかも明るいほど動きが遅くなるビークルDが、あたかも祭壇をあがめるように、しずかに明かりを見守って止まっているでしょう。逆に、ビークルB、これは明かりから遠ざかろうとするビークルで、光が少なければ動きませんから、これは手近な一番暗いところに逃げ込んでじっとしているでしょう。たまに2つの明かりの間を通り抜けなければならなくなると、おそらく脱兎のごとく全速力で明かりの間を駆け抜けて、暗がりに逃げ込んで「やれやれ」と隠れているでしょう。

 ビークルE、これは暗いところでは明かりに向かって動こうとし、明るいところでは光を避けようとしますから、自分にとって最も心地よい明るさの場所を求めて、明かりに「つかずはなれず」ふらふらとしているでしょうか。

 ビークルCは、明かりを避けて、暗ければ暗いほど活発に動くビークルです。これは暗いところで動き回った結果、たまたま明かりの方に頭を向けてしまうと、少し動きが鈍くなりつつも向きを変えて、より暗いほうへ動こうとします。首尾よく暗いほうへ移動すると、動きはまた元気になります。

 このなかで最も破壊的なビークルA、これは自分の視界の中で一番明るいほうへゆっくりと向きを変えます。そして、どんどんスピードを上げながら明かりに向かって突進します。もしも明かりのそばをかすめて通り過ぎてしまえば、いずれはまた暗闇に駆け込んでしまいますからスピードは徐々に落ちて、またゆっくり明かりのほうへ回頭することになります。 仮に真正面から明かりにぶつかってしまって壊してしまったとしましょう。すると急に暗くなりますから、このビークルAの動きは突然鈍くなります。ところがその壊してしまった明かりの回りに、「崇拝者」ビークルDが集っていたとすると、彼らは暗いほうが動きが活発ですから、自分たちを繋ぎとめていた明かりを失った彼らは、次の崇拝対象となるべき手近な明かりをそれぞれ求めて散ってゆきます。破壊者であったビークルAは、吾に返ってすばやく散ってゆく崇拝者たちよりもゆっくりと、次のターゲットを探して走り去ります。 また、こうして作られた新たな暗がりには、ビークルBやビークルFが逃げ込んでくるかもしれません。

 さて、こういったビークルたちの動きを見て、これがいったいどういう原理で動いているのか知らない人が見たら、昆虫か何かの生き物のようだと思ってしまわないでしょうか? 逆にいうと、ここまでシンプルな構造でも、これだけ面白そうな動きをさせることができるのです。

 今回は、センサーとして最も単純な光センサーだけを考えましたが、音だとか色だとかにおいのセンサーであっても同じような議論ができます。また、ビークルの動きは、今は光だけに影響されていましたが、例えばそれぞれのビークルにランプをしょわせたり、色や音のセンサーを持たせたりしたら、ビークル同士に追いかけっこをさせることもできそうです。そうすればビークルの間に「天敵と獲物」とか「配偶者を探す」とかいった行動をさせることもできるはずです。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 あと1回だけこの話を書きます。

 昨日もちょっとだけ書きましたが、顔に関係する絵本を教えていただきました。いずれも福音館書店の本で、『まるまる』『ふゆのめがっしょうだん』、それから『どんな きぶん?』の3冊です。最初の『まるまる』は図書館で見たことがありますが、あとの2冊は知りませんでした。ありがとうございます。私も福音館は好きな本がたくさんあります。

 私が「顔に関係する絵本」というと思い出すのは、安野光雅の「にこにこかぼちゃ」(童話屋)です。文字の無い、単に野菜や果物の絵が描かれているだけの絵本なのですが、透明なシートに黒で顔のパーツが描かれているものが付属していて、それを野菜や果物に重ねると顔が見えるというものです。素朴に楽しめる絵本だと思います。

 あ、それから一番新しい「かがくのとも」が、顔に関するものでした。でも正直言ってこの絵はそんなに好きではないかな・・・



6月22日(日) ブライテンベルグの“ビークル”(その4)

 思いがけず長くなってしまったブライテンベルグのビークルの話の最終回です。

 昨日、高々10個にも満たない数の「ニューロード」(電気信号のパルスを伝達する、仮想的な神経素子)を持った“ビークル”を平面上において、それらがどのような動作をするか考えてみました。ブライテンベルグは本の中で、すでにご紹介した6種類を含む14種類のビークルを示し、これらの極めて単純な回路によって、「愛」「攻撃」「恐怖」「洞察」などと(ブライテンベルグが)呼ぶ行動が現れることを説明しています。

 たとえば、センサーをちょっと変えてやるだけで、「そこに何時間も停止していたビークルの目の前を、緑色の、ある高さでぶんぶんうなっていて、毎秒5cmよりも遅い車が走ってきたら、突然動き出す ─ そんなビークルを作ることもできる」のです。

 こんな単純な回路しか持たないビークルであっても、その仕組みを知らない人が見たら、彼らが何らかの感情や知能のようなものを持っているように見えるのではないでしょうか。 現実世界の大部分の生物は、これよりもずっと複雑な神経回路を持っています。その複雑さの極みが私たち人間の脳であると言うこともできるでしょう。 ビークルの単純極まりない回路のレベルから、人間の脳に至る複雑さの増大のプロセスの、いったいどの段階で「感情」というのは生まれるのでしょうか? それはやはり最初から「ある」のでしょうか。 だとすれば、私たち人間の感情や『心』というのも、結局はこのビークルの回路と同じように実現されている、つまり複雑そうに見えても、結局は入力である刺激とそれに対するフィードバック回路の反響パターンにすぎない、のでしょうか。

 ならば、そのパターンをどうにかして読み取ることができたとしたら、そしてそれを現在のような仕組みのコンピュータの回路やメモリパターンやソフトウェアとして実現できるならば、私たちの『心』をコンピュータに移すことはできるのでしょうか? 今現在そんなことはできないのは明らかですが、では、いつかはそんなことが実現できる日が来るのでしょうか?

 昨日ちょっとご紹介した、福音館の「まるまる」という絵本をご紹介いただいたメールに、「子供たちは、丸い磁石を2つ貼り付けて見せただけで、それを(顔)だと思ってくれる」というコメントを書いていただいてありました。 顔でもなんでもないものが顔のように見える、という話から、ビークルの単純極まりない回路が作り出す行動パターンのうちに感情を読み取る、という連想をお伝えしたくて、ここ4日ほどブライテンベルグの話を説明しようとしてきました。 ただ、このブライテンベルグの話そのものはとても面白い話なので、興味を持ってくださる方がいらしたらとても嬉しく思います。

 最後に、実際にWebで検索してみると、英語のページが山ほど出てきます。例えば、LEGO Mindstorm のようなものを使って実物のビークルを作ってみてしまった話とか、シミュレータプログラムを作って、実際にコンピュータの中でビークルたちを行動させてみて観察した話とか、たくさん出てきます。

 例えば、こちらのBraitenberg Vehiclesというところなどは、探索のスタートとして悪くないページだと思います。ここから辿れるBraitenberg Vehikel in Javaというページのトップにアクセスすると、毎回ランダムに位置の変わる光源とビークルが表示されます。ただ、これがうまく動かないようなので、こんなページからアクセスする例が示されていました。このソースを見て、私も以下のファイルを作って、APPLET のパラメータ(PARAM)をいじってみました。とりあえず vehicles でビークルの数、lights で光源の数を変えられます。

<html>
<head> </head>
<body>

<table align=center width="100%">
<tr><td align=center valign=center>

<APPLET CODEBASE="http://www.geocities.com/Colosseum/3141/"
        CODE=Brait.class
        WIDTH=400 HEIGHT=300>
<PARAM name=vehicles value=1>
<PARAM name=lights value=3>
<PARAM name=vlength value=8>
<PARAM name=vwidth value=5>
<PARAM name=vspeed value=1>
<PARAM name=vturn value=0.2>
<PARAM name=vtrace value=1>
<PARAM name=bounds value=1>
<PARAM name=fshift value=0.6>
<PARAM name=fstretch value=2>
<PARAM name=fzero value=999>
<PARAM name=debug value=0>
<PARAM name=mouselight value=10.0>
</APPLET>

</td></tr></table>

</body>
</html>

 上の囲みの中のテキストを、拡張子を .html として保存して、PARAM の値を変えながら Web ブラウザで表示してみると、いろいろな実験ができます。これは生き物の行動のシミュレーションというよりは、力学系のシミュレーションとしての楽しみ方になります。

 このシミュレーションは、光源からの距離の二乗に逆比例する光を受け取って動作しますから、重力場のシミュレーションと似たような動作が見られるのは自然だと思います。

図 1 図 2

 図1は、たまたま明るい光を中心に3つの光がほぼ等間隔に直線上に並んでいる場合でした。ビークルはご覧のようにきれいな軌道を描きました。ところが3つの光源の位置がばらばらになってしまうと、いきなり予測不可能な軌道になってしまいます(図2、図3、図4)。

図 3

図 4

 他にもシミュレータはいろいろみつかります。興味があったらぜひいじってみることをお勧めします。

 <おまけのひとこと>
 このところ疲労がたまっていたらしく、昨日の朝から今朝までの間に、トータルで16時間くらい眠りました。おかげでだいぶ楽になりましたが、この週末にやろうと思っていたことができませんでした。ここ数週間の週末のうち、昨日だけが唯一予定の無い休日だったのですけれども・・・



6月23日(月) 菱形十二面体の星型を編む話

 先日、6月12日のひとことで、多面体を編む手法で作った「無限に開く立方体」を教えていただいたことをご紹介しました。 実はその数日後、この考案者の方から、吉本キューブも同様にして編めたということを教えていただいていました。そのときに送っていただいた写真などを簡単にまとめてみました。 というわけであそびのコラムの3ヶ月ぶりの新作、「吉本キューブを編む」です。

 コラムの中でも触れさせていただきましたが、いつもご紹介している兵庫教育大の濱中さんのH.Hamanaka very private pageでも、菱形十二面体の星型を編む話が系統的に考察されています。こちらもこの続きがとても楽しみです。

 <おまけのひとこと>
 昨日のブライテンベルグのビークルのJavaアプレットですが、勝手にクラスファイルを利用させていただいてもよいのか、よくわかりません。問合せ先もよくわからないし。
 さあて今週もがんばらないと。



6月24日(火) 和と積が等しい数の組の話(その1)

 昨年の12月3日のひとことで、「セブン・イレブン問題」という数字のパズルをご紹介しました。これは、4つの小数点以下第2位までの数字で、和も積も 7.11 となるものをみつけてくださいというものでした。

 この、足しても掛けても同じ数になる数字の組について、まずは整数の範囲でちょっと考えてみました。まず思いつくものとしては次のようなものがあります。

2×2=2+2=4
1×2×3=1+2+3=6

 ちょっと考えてみると、1はいくつ掛けても値は変わりませんし、1を足すと数は1つずつ大きくなりますから(当たり前ですね)、1をたくさん使えば、任意の要素数の「掛けても足しても同じ数になる数字の組」を作ることができます。例えば単純な例として、任意の数Nと、数字の2と、あとは必要なだけの1を使って和と積を同じにすることができます。 このように考えると、上の2つのパターンは同じ系列のものとして一般化できるのです。ご存知でしたでしょうか?


 2×2      =2+2      = 4 
 3×2×1    =3+2+1    = 6 
 4×2×1×1  =4+2+1+1  = 8 
 5×2×1×1×1=5+2+1+1+1=10 
    ・          ・
    ・          ・
    ・          ・

 以下同様です。これをむりやり一般的に書くと、こんな感じでしょうか。

 もちろんこれはもっと一般的にいえる話で、任意の自然数の組があったとして、その積から和を引いた数だけの1を使えば、和と積が同じになる数の組はいくらでも作れます。 別な言い方をすると、素数ではない適当な数を、1を含まない2つ以上の数の積に分解して、その因数と、必要なだけの1を使って、和と積が同じになるようにできます。例えば


15=5×3
  =5+3+1+1+1+1+1+1+1
  =5×3×1×1×1×1×1×1×1

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 2x2=2+2 と 1x2x3=1+2+3 が同じ系列として一般化できるということに気が付いたときには「面白い!」と思いました。でも結論だけきいたらどうでしょうか? ちょっと心配です。



6月25日(水) 和と積が等しい数の組の話(その2)

 昨日は、同じ数字の重複を許せば、任意の個数の数の組で和と積を同じにするものを作れるという簡単な話をご紹介しました。 もともとこの話題の元になっていたのは、「セブン・イレブン問題」、つまり何ドル何セントという小数点以下第2位までの数字の組で、和と積が同じになるものを求めるというパズルでした。セブン・イレブン問題では、4つ組で和と積が7.11になるものを探す問題でしたが、数字の数を減らして3つにして、何か面白い数字の組はないかなと思って、とりあえず計算機に探索してもらいました。そうしたら、例えば次のようなものがでてきました。(他にもたくさん解があります。)


  [5.25]    1.50   1.75   2.00  
  [5.40]    1.50   1.50   2.40  
  [6.00]    1.00   2.00   3.00  
  [7.50]    1.00   1.50   5.00  

 左端の列のカギカッコ[]の中の数値が和および積で、その右側の同じ行の数字が足したり掛けたりする3つの数です。 ふうん、なるほどと思って計算機が見つけてくれた数字の3つ組のリストを眺めていたら、こんな数字が目にとまりました。


  [12.21]   1.10   1.11   10.00  

 このように、使われているのがゼロと1だけの数字を見ると、二進数を連想します。 たまたまここでは十進数として考えていましたけれども、ゼロと1しか使っていないということは、これは2以上の任意のN進数として読むことができるはずです。この、「足しても掛けても同じになる」という性質は、これを十進数として読んだ場合のみに成り立つ性質でしょうか、それとも一般のN進数として解釈しても成立するでしょうか? とりあえずこの例について考えてみることにしました。





 これをN進数だとして解釈してみましょう。3つの数字は、Nを用いてそれぞれ以下のように表せます。(N=10の場合が普通の十進法です。)

 では、このNで表された3つの数を、それぞれ掛け算したり足し算したりしてみましょう。結果は以下のとおりです。

 ご覧のようにこの式はNがゼロでなければ任意のNに関して成立します。(整数である必要もありません。) Nに適当な数字を入れて、3つの数字の全てが小数点以下第2位までで正確に表現できれば、この式から問題の解が得られることになります。Nに1や2、あるいは0.5などを入れてみてください。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 ISFA:国際あやとり協会の日本語ページの管理者の方から、私の昨年の2月4日のひとことについて、メールをいただきました。「箱まくら」からの変化で、最後が「天秤棒」という名称はいままでのデータベースには無いそうで、ISFAのデータとして記録したいので、伝承者(私の祖母)の生年と出身地をご連絡いただけたら、という内容でした。とても嬉しくなっています。ありがとうございました。このメールをはじめ、いくつかお返事を書きたいメールをいただいているのですが、昨夜は帰りが遅く、今朝も時間がありません。(今日のひとことの更新は、すでに用意済みのストックをそのままコピーしたもので、ここの「おまけのひとこと」だけを新しく書いています。)今夜にはお返事を差し上げたいと思いますのでよろしくお願いします。



6月26日(木) 和と積が等しい数の組の話(その3)

 小数点以下第2位までの数字3つの組で、和と積が同じになるものを求めるという話の続きです。昨日、

1.10, 1.11, 10.00

 という例をご紹介して、これを一般のN進法だと考えられますという話をしました。実はこの数字を二進法だと解釈して、それを普通の十進法に直すと、昨日最初にご紹介した

[5.25] 1.50, 1.75, 2.00

 になるのでした。






 さて、同様にして計算機がみつけてくれた3つ組の数字のなかからいくつか、N進法だと解釈しても和と積が等しくなる組を選び出して、それをNの式で表してみました。

 ご覧のように、これらの間にはNを逆数にしたり二乗したりする変換によって、同じ形の式になるものがありました。また、それぞれのNにいろいろな数値を入れてみることによって、小数点以下第二位までという制限の中でも、さまざまな3つ組が得られました。

 興味深いことに、上記のいずれも N=1 とすると、3つ組は {1,2,3} になるのですね。こんな例もありました。

 これもやっぱり N=1 で {1,2,3} になりますね。






 さて、この方法を他の一般の和と積が等しい3つ組に適用できるのでしょうか? 昨日の疑問、

 「足しても掛けても同じになる」という性質は、これを十進数として読んだ場合のみに成り立つ性質でしょうか、それとも一般のN進数として解釈しても成立するでしょうか?

について、もう少し考えてみる必要があります。 とりあえずちょっと試してみましょう。なんでもいいんですけれども、例えば (0.50, 4.00, 4.50) で考えてみましょう。これは足しても掛けても 9 になります。これをやっぱりNで表記してみましょう。

 あれ? 今度は任意のNでは和と積が同じになりません。N=10のときに限って(10/N)の項がキャンセルされて、等号が成立します。 つまり、この例では使われている数字は5が一番大きいですから、6進法以上であれば成立する・・・というようなわけにはいかず、普通は任意のN進法として解釈できないのです。これはなぜでしょう?

 ヒント:N進法だとして実際に手で筆算してみるとすぐにわかると思います。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 今回の一連の話、原稿を用意していたときには「おもしろい」と思っていたのですけれども、今読み返すとそうでもないかな・・・。



6月27日(金) 和と積が等しい数の組の話(その4)

 昨日まで、小数点以下第二位までの3つ組の数字で和と積が等しいものについていくつか考えてきました。一応数字のパズルという観点で、今日は、3つ組の数字の和と積が等しいもののうち、一番大きなものと一番小さなものについて考えてみたいと思います。

 まず、参考までに和と積が等しい2つの数字の組について考えてみます。数字を xy と置くと、和と積が等しいということで、 x+y=xy です。 もちろん x=y=0 という自明な解があるのですが、これはおもしろくないので除外することにして、xy もゼロでない正n整数という条件でこの式を満たす最小の(x,y)の組を考えてみましょう。

図 1

 図1は、x+y=xy を yについて解いた、y=x/(x-1) のグラフです。xとyは正ということで、x+y の最小値を求めると、最小値は x=y=2 のときに、2+2=2x2=4 になることがわかります。

 同様に3個の場合を考えてみると(図2はx+y+z=xyzのグラフの一部です)、x=y=z=√3 のときに、最小値x+y+z=xyz=3√3=5.196152... になることがわかります。ということで、「小数点以下第二位」という限定をつければ、最小値の候補は 5.20 ということになります。

図 2

 逆に、最大値のほうはいくらでも大きくできますが、やはり「小数点以下第二位」という限定をつけることによって上限が定まります。

 最小値のほうは、何度もご紹介している これ(↓)です。

[5.25] 1.50, 1.75, 2.00

 では、「小数点以下第二位までの3つ組の数字で和と積が等しいもの」の、和(=積)の最大値はどのくらいでしょうか? これが○ドル○○セントだとすると、どの程度の金額になるのでしょうか? 簡単に支払えそうな額でしょうか?

 <おまけのひとこと>
 この話は今日で最後のつもりです。明日は、今日の最後の話題の解説をちょっと書いて、余力があったら他の話題も書くつもりです。
 昨日、今回の一連の話について、Nの多項式についての大変おもしろい話を教えていただきました。ありがとうございました。今朝は残念ながらまとめている時間がありません。



6月28日(土) 『一瞬絶句』

 先日、図書館で「エブリシング」(安野光雅 青土社)という本を借りてきました。いろいろな話題の話を集めた「よろずや」といった意味でつけられたタイトルだそうです。その中に、「一瞬絶句」という章がありました。「一瞬絶句」というのは、例えば次のようなものだそうです。

わが輩は 月に吠える 猫である

誰がために 鐘はなるなり 法隆寺

菜の花や 月は東に 日はまたのぼる

 ご覧の通りこの「一瞬絶句」というのは、俳句形式のパロディです。これれは、中原佑介という方が考案されたものだそうで、空曾也という俳号で創作されているそうです。(これは、「くうそうなり」とか「くうそなり」とか読むのではなく、「そらそーや」なのだそうです。)





 「皇帝の新しい心」(The Emperor's New Mind)という本を読んでみたいな、と思っています。たとえばこちらとかこちらなどに解説が載っています。 この本の内容についてはまだ読んでいないので何も言えないのですが、タイトルがちょっと気になりました。これは、有名な“The Emperor's New Cloth”(皇帝の新しい着物)をもじったタイトルなのですが、日本語のタイトルだけからはすぐにこの連想は働くでしょうか? 「皇帝の新しい着物」ではなく、「裸の王様」と言えば誰でもすぐに「ああ、あの話ね」と思われると思うのですが。

 「皇帝の新しい着物」を「裸の王様」と翻訳したのはどなたなのか知らないのですが、これは端的に物語の核心、というかこの寓話の本質を表現していると思います。 ある意味「タイトルが種明かししてしまっている」状態と言ってもいいでしょう。 おかげでこの言葉は印象深く、広く知られることになったと思います。 例えば「オレは『裸の王様』にはなりたくないんだ。」というせりふは、同程度の語数で言い換えることが難しい、知識の共有を前提とした表現だと思うのです。 これが、「オレは『皇帝の新しい着物』の皇帝にはなりたくないんだ」というと、ちょっと迫力に欠けるというか、まわりくどいというか、すっきりしない感じがします。 「裸の王様」というのは極めて「上手い」訳だと思うのです。

 ところがこの翻訳がうまかったために、今回の「皇帝の新しい心」という本のタイトルが「裸の王様」のパロディであるということがわかりにくくなっているのですね。

 さっきのせりふの例の中の「裸の王様」を、別な言葉に置き換えられないかとちょっと考えているのですが、よい言い換えが思いつきません。「つんぼ桟敷(さじき)」は違うし、「傀儡(かいらい)」も全然違うし・・・うーむ語彙の乏しい私。

 <おまけのひとこと>
 最近忙しくて、昨日も職場に15時間ほど居ました。今日はとても遅い更新になってしまいました。



6月29日(日) ベン図

 今は学校の数学(算数)で「集合」というのはいつ習うのでしょうか。集合というと、ベン図という視覚的なイメージが鮮明な道具があって、とても面白いと思ったものでした。 ベン図というとまず、2つの集合の関係を表すマルが2つ組み合わさったものが思い浮かぶのではないかと思います。下の図のように、集合3つであってもこれはうまく機能します。

 ところが、集合の数が4つになったらどうでしょう? それぞれの集合に属するか、属さないかということで、組み合わせの可能性としては、2の4乗で16通りあります。4つのマルで、平面を16の領域に分けることはできるでしょうか? あるいは、マル以外で、うまく4つの集合の関係を図示できるような方法はあるでしょうか? さらに、集合の数がN個になったらどうでしょうか?





 一昨日、「小数点以下第二位までの3つの数字の組で、和と積が同じになるもののうち、その値が最大になるのは何でしょう?」という話を書いておきましたが、簡単に答を書きます。

 まず、3つの数をa,b,cとして、3つの数は全部ゼロより大きいので、a+b+c=a×b×c の値は、かならず 3つの数 a,b,c のどれよりも大きいです。ということは、たとえば a×b×c > c ですから、a×b は1よりも大きくなければいけません。 a×b を c に掛けた増加分が、a+b に等しいと言ってもよいわけです。ということは、この数を大きくするためには、a+b は1より大きいという条件で、できるだけ小さい、つまり1に近いことが望まれます。この条件を満たすには、小数点以下第二位という条件から、 a=0.01、b=100.01 とすると、a×b = 1.0001 となります。とすると、c×0.0001 = a+b = 100.02となって、c=1000200ならば条件を満たすことがわかります。ということで、和(=積)は 1,000,300.02 となって、これをドルだとして読むと100万ドル、日本円にして1億円を越えます。

 もちろん、これは「小数点以下第二位まで」という限定をつけたので最大値が存在したのですが、この限定をはずせば、いくらでも大きな数にすることができます。

 <おまけのひとこと>
 今日は久々に、朝起きてから何を書くか考えました。今日はこれから地区の行事です。
 Today's Information!というページからリンクしていただいていることがわかりました。ありがとうございました。こちらのページの一番下のあたりに日記が書かれているのですが、共感できるものがありました。



6月30日(月) ベン図(その2)

 昨日、「4つのマルで4つの集合のベン図を描けるでしょうか?」 という問題と、一般に集合がN個になったときにきれいに2のN乗の領域に分けるにはどうしたらいいでしょうか、という話を書きました。

 いつもいろいろ教えていただく兵庫教育大学の濱中さんから、円が4つでは平面を16の領域に分けることはできないと教えていただきました。これは、2つの円周の交点は高々2点以下であるということから導けるのだそうです。

 昨日、マルという極めてあいまいな表現をしておいたのは、これが円ではダメなのですけれども楕円だと可能になるのです。一応私は自力で「楕円4つ」の解はみつけて、「円4つではダメそうだ」というところまでは考えていました。楕円4つのベン図というのはパズルとしてなかなか面白いので、やってみることをお勧めします。この場合、4つの合同な楕円の解があります。





 さて、もう1つの問題の方、一般にN個の集合のベン図で、きれいな描き方はあるでしょうかという話ですが、これは以下のようなものがあるのだそうです。図は、上から順に集合が5個、6個、7個の例です。

 この、一見フラクタル的な美しい図形がどのように描かれているかということに関しては、こちらのSurvey of Venn Diagramsというページをご覧下さい。英語ですけれども、アニメーションを見るだけでも楽しいです。同じサイトのこちらのページもすばらしいです。(これは、楕円4個のベン図を自力で考えたい方は見ないほうがいいでしょう。)

 <おまけのひとこと>
 いつも見せていただいている茉莉花の部屋に、「開き続ける立方体」のビーズバージョンが載っていて驚きました。すごい。

 歌人の枡野浩一の「ハッピーロンリーウォーリーソング」(角川文庫)を図書館でぺらぺらとめくっていたら、

そしてまたマリンスノーは竜宮の太郎を眠らせ太郎の屋根に

という歌が載っていました。ものすごく鮮烈なイメージが思い浮かびました。先日の「一瞬絶句」を一瞬連想したのですが、本歌取りというのは由緒あるテクニックでしたね。 でも、この歌集から、よりによってこの歌を選んでご紹介するというのも変かもしれません。



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