[Home]-[以前のひとこと]-[2002年8月後半]

以前の「ひとこと」 : 2002年8月後半




8月16日(金) 合成抵抗:菱形十二面体(その1)

 昨日のひとことの続きです。同じ抵抗値の抵抗器を菱形十二面体の骨格に組んで、合成抵抗を求めてみました。

菱形十二面体骨格を回路図に
菱形十二面体の24本の稜を電気回路の抵抗器で構成したものを平面の回路図にしたもの

 今日は菱形十二面体の体対角線間の抵抗値を求めてみました。菱形十二面体の対角線には2種類あって、次数4の頂点を結ぶものと、次数3の頂点を結ぶものがあります。それぞれについて電位を求めてみると、下の図のようになりました。とてもきれいな対称性が見られます。

2点間の電位
(1).次数4の頂点間の対角線、(2).次数3の頂点間の対角線、 に電圧をかけた場合の電位の分布

 例によって各頂点の電位が整数になるように電源電圧を調整しました。左の次数4の頂点間の合成抵抗は(3/4)r、右の次数3の頂点間の合成抵抗は(11/12)rです。

 <おまけのひとこと>
 あそびをせんとや・分室に画像を1つ載せました。





8月17日(土) 合成抵抗:菱形十二面体(その2)

 同じ抵抗値の抵抗器を菱形十二面体の骨格に組んで、合成抵抗を求める話の2回目です。昨日は菱形十二面体の2種類の体対角線の抵抗を考えましたが、今日は2種類の面対角線と1つの稜について考えます。

菱形十二面体の面対角位置の抵抗(その1) 菱形十二面体の面対角位置の抵抗(その2)
図1:菱形の長い対角線の両端 図2:菱形の短い対角線の両端

 図1は、菱形十二面体の面を構成する菱形の、長い対角線の両端に相当する2頂点の間に電圧をかけた場合の各頂点の電位を示したものです。抵抗の単位を例えば1Ωとすると、0Vの頂点は5V,5V,3V,3Vの4頂点からそれぞれ5A,5A,3A,3Aの電流が流れ込みますから、回路全体では 10Vの電圧に対して16Aの電流が流れることになります。ということは回路の合成抵抗は(10/16) = (5/8)ということになります。

 同様に図2は面の菱形の短い対角線の両端に電圧をかけてみた場合です。同じように考えて、合成抵抗は(18/24) = (3/4)です。

菱形十二面体の隣接頂点間の抵抗
図3:隣接頂点間

 図3は、隣接する頂点の間の抵抗を調べました。この回路は26Vの電圧をかけると26+8+8+6=48Aの電流が流れることになるので、合成抵抗は(26/48)=(13/24)になります。 各頂点において、電流がどのように流れ込んで流れ出しているかは、隣接する頂点との電位差からわかります。電流の流れる方向と流量(あんまり電流では使わない言い方ですけれども)を図に描き込んだりして流れをイメージしてみるととても楽しいです。

 <おまけのひとこと>
 お盆休み、どこにも出掛けていないわけでもないんですけれども、結局毎日更新しています。





8月18日(日) 合成抵抗:立方八面体

 8月15日のひとことから始めた、多面体の骨格を抵抗器で組んで2つの頂点の間の抵抗値を求めるシリーズですが、今日・明日ともう2例ほどご紹介したいと思います。 今日は立方八面体です。 立方八面体は、下の図のように立方体や正八面体の稜の中点を結んで頂点を切り落としてできる立体で、この2つの立体のある種の平均のような立体です。

立方体 正八面体
立方八面体+立方体 立方八面体 立方八面体+正八面体

 この立方八面体を回路図にしてみると、例えば下の図のようになります。

立方八面体を回路図に
立方八面体の稜を抵抗器にした場合の回路図

 これを例によって、体対角線間、面対角線間、そして隣接頂点間の抵抗を測定してみました。

立方八面体の体対角線間の抵抗 立方八面体の隣接頂点間の抵抗
図1:体対角線間 図2:隣接頂点間

 単に図の描き方だけの問題ですが、この2つは図の上での対称性が似ています。図1と図2では、立体の上半分のところの電位差の構造が全く同じになっているところにご注目下さい。(図1の電位の数値に7を足すと図2になる) 図2の、10,11,12V の頂点が2つずつありますが、これらは電源電圧の頂点から見て異なった位置関係にあるのに、図1同様の構造が出現しています。面白いですね。

立方八面体の面対角線間の抵抗
図3:面対角線間

 図3は面を構成する対角線の間に電圧をかけました。立方八面体の面は正方形と正三角形ですが、三角形は対角線がないので正方形だけです。図では14Vと0Vにしていますが、例えばこれを +7V と -7V にすれば、図中の7と書かれた4つの頂点の電位が0になって、その4点を通る面(立方八面体を2等分する面の1つ)に対して奇対称の鏡像対称になります。

 …イメージしにくい方にとっては何が面白いんだかさっぱりわからないかもしれないし、わかっている方には当たり前過ぎてつまらないかも、と思いつつ書いています。(まあ自分が面白いからいいんですけれども。)このシリーズは明日でおしまいにしようと思います。

 <おまけのひとこと>
 昨年の12月29日のひとことで「一切れのパン」という話のことを書いておいたら、ここに掲載されていますよ、というメールをいただきました。情報をご提供下さってありがとうございました。 初めてお読みになる方、長らく読んでいない方、お勧めですのでぜひお読みください。それほど長くはありません。

 当時(昨年の12月)も一応検索をかけてみたつもりだったのですが、私のキーワードが間違っていたのか、このページは当時なかったのか、みつけることができませんでした。今 google で「一切れのパン」で検索してみると、真っ先にこのページが出てきます。知りませんでした。





8月19日(月) 合成抵抗:正十二面体

 多面体の骨格を抵抗器で組んで2つの頂点の間の抵抗値を求めるお話の最終回として、今日は正十二面体を取り上げます。これは正5角形12枚から成る立体で、頂点の数は20個、稜の数は30本になります。全ての頂点の次数は3です。(どの頂点にも稜が3本ずつ集まっている。) この立体の稜が同じ抵抗値の抵抗で構成されているとして、体対角線、面対角線、そして1本の稜の両端の合成抵抗を求めてみます。

正十二面体の体対角線間の抵抗
図1:体対角線間

 最初に正十二面体の体対角線です。この条件ですと極めて対称性が高いので、手計算で求めてもそれほど大変ではありません。

正十二面体の面対角線間の抵抗 正十二面体の隣接頂点間の抵抗
図2:面対角線間 図3:隣接頂点間

 続いて、面対角線間に電圧をかけてみたもの(図2)と、隣接する頂点の間に電圧をかけてみたもの(図3)です。図2では27Vの頂点、図3では19Vの頂点が4つありますが、この4頂点を含む平面は、この正十二面体をすぱっと左右に真っ二つに切断します。図2、図3いずれもこの面を中心に電位が対称的になっています。 図3の方には、17,18,19,20,21Vという連続する電位を持つ5角形が出てきておもしろいです。

 図2や図3のように、面対角線間の合成抵抗や1つの稜の両端の合成抵抗を求めようとすると、対称性によって減らせる変数の数が少ないため、手計算で求めようとするとかなり大変です。 この数値はシミュレーションで求めたものを検算して確認しています。

 <おまけのひとこと>
 曜日の関係で比較的長かった今年のお盆休みも終わりました。 このお休みで、また模型だとかCGだとかが少し増えました。(明日からは何の話をしようか迷っています。)
 休み明けは計算機等の起動作業などがあるのではやく仕事にいかないといけません。というわけで今日はフライング更新です。





8月20日(火) 音と2次元イメージ:音量と左右のバランス

 10日ほど前に何回か、MML(Music Macro Language)を使っていろいろなMIDIによる音を作ってみました。そのときに、2次元平面の上の軌跡を2つの楽器の音階の高さであると解釈して、ヒルベルト曲線を2声のコラールにして演奏してみたりしました。

 通常、楽譜に音符として書かれる情報のうち主要なものは音の高さと継続時間ですが、音の空間的なイメージにとってより重要なのが音の聞こえてくる方向と、音の大きさです。このうち大きさのほうはある程度楽譜にも記述されることはありますが、音源の位置に関しては、少なくとも古典的な西洋音楽においては明示的に記載されることはありません。 まあ、「徐々に左から右へ移動しながら演奏せよ」などと指定されても大きな楽器とかは困りますけれども。

 この点、MIDIのような電子制御の楽器や音源を使う場合は、音源の位置(左右のバランス)や音量は自在にコントロールできます。たとえば和音や重音が鳴らせる鍵盤楽器や弦楽器(ギターとかバイオリンの仲間など)とかで、1つの音はクレッシェンドしながら別の音はデクレッシェンドしろ、などと言われても通常の楽器では普通は不可能です。でも、MIDIで制御する音源ならば、音を発した後で音量や左右のバランスなどを自在に動かすことができます。

 本来、2次元の軌跡は音の空間的な性質である方向(左右のバランス)と距離(音量)で表現したほうが自然かもしれません。ただし人間の場合、左右のバランスや音量に関してはそれほど聴覚の分解能が高くありません。そこで、音量とバランスを使ってごく簡単な幾何学的なイメージを描いてみて、その印象を試してみました。

音量と左右バランスを使って三角形を描く

 最初に、上の図のように、 (1).音量がだんだん大きくなりながら音源が左へ動き、(2).音量は変わらずに音源が左から右へ動き、(3).音量がだんだん小さくなりながら音源が右から中央に戻る というMIDIデータを作ってみました。(pos1.mid:1kbyte,10秒) これはヘッドフォン等で聴かないとよくわからないかと思います。

 次に、同じ動きを3つの音が次々に追いかけてめぐるようなデータを作ってみました。(pos1a.mid:2kbyte,17秒)ド・ミ・ソが順番に3角形をめぐっていきます。

 これで、たとえばアルファベットのような単純な文字を描いてみる、というのを考えてみたのですがあまりうまくいきませんでした。でも、たとえば△と▽と◇と□くらいだったら区別はできます。

 MMLでは、上記の例のように1つの音を鳴らしている最中に音量などを簡単に変えることができます。ちょっとだけ説明します。(興味のない方は飛ばしてください)

 MMLでは音の継続時間を数字で表します。ドの4分音符なら c4, 8分音符なら c8などと書きます。ところが長さとして c0のようにゼロを使うと、次に明示的に休符を入れるまで、その音を延ばしつづけます。 では次の休符までの長さをどうやって指定するかというと、\コマンドを使います。

c4^4^4^8 r8

と書くと4分音符を3つと8分音符をタイでつなげて、最後の半拍が休符という意味ですが、これは、

c0 \4 \4 \4 \8 r8

などと書いても同じです。

 この後者の書き方のどこが便利かというと、それぞれの\4のタイミングで、音量やバランスなどを変更することができるのです。たとえば

E60 c0 \4 E70 \4 E80 \4 E90 \8 r8

 とかくと、最初は60で始めて、音をつなげたまま1拍ごとに70,80,90と音量を大きくしてゆくという意味になります。で、これだとあんまりにも階段のようにがたがたと音量が変わってしまうので、もっと小刻みに音量を変えたいのですが、そうするとたくさんの Eコマンド、\コマンドを列挙しなければならなくてとても大変です。そんなときには繰り返し機能を使います。

E60 c0 [\16E+2]15 r16

 この例は、16分音符の刻み幅で15回、音量Eを2ずつ増やします。この機能を使って、こんなサンプルを作ってみました。(vol_tests.mid 3kbyte 32秒) 下の図はこのデータの音量変化のグラフとMMLのソースリストです。

音量と左右バランスを使って三角形を描く

A C1 @19 o4 l8 t192
B C2 @19 o4 l8
A E100 c0 [E-1\16]100 [E+1\16]100 [E-1\16]100 [E+1\16]100
B E0 e0 [E+1\16]100 [E-1\16]100 [E+1\16]100 [E-1\16]100

 <おまけのひとこと>
 しばらくはストックがあるので更新が楽です。





8月21日(水) 無限音階

 MML(Music Macro Language)で遊んでみるシリーズの最後として、無限音階をご紹介しようと思います。 最初にこのMIDIデータ(inf1b.mid:5kbyte)をお聴きください。 今日の音源は、モノラルの再生装置でも大丈夫です。 一応意図としては、無限に上昇しつづける半音階が聴こえるようにデータを作ってあります。

 これがどういう原理で実現されているかについてはいろいろなところで解説されているのでここでは省略しますが、こういうのを「シェパード音階」と言います。下の図はアニメーションgifで模式的にシェパード音階の原理を示したものです。アニメーションをご覧になれる環境で見ていただければわかるのですが、黒い四角が順に右に動いていくように見えます。このシェパード音階もこれと同じ原理で、一番高い音が消えて行くと同時に次々と低い音が加わってくるため、無限に上昇しつづけるように感じるのです。

四角が右に流れるアニメーション

 視覚の場合はもともと「動き」に対して敏感ですから、仮現運動と言って本来動きがないところにもむりやり対応関係をつけてでも動きがあるように感じることがあります。たとえばネオンサインや工事現場の警告灯などで、ランプが1つおきに交互に点滅するような例があります。これは見ている側の意識によって、右に流れているように見えたり、左に流れているように見えたり、小刻みに左右に振動しているように見えたりします。しかし聴覚の場合はそういった空間的・時間的連続性を感じさせるのは、視覚と比べて難しいです。

 この無限音階は、8つのオクターブの位置で、半音階の12音階を繰り返し鳴らしているだけです。下の図はその様子を示したものです。赤・青・黄色の四角形はマス目の左端から右端まで動いているわけではなく、実際には赤が左側、青が中央、黄色が右側でそれぞれループしているだけです。 無限音階の場合、このように「仕掛け」がわかってしまわないように、音の高い方と低い方では音量を小さくする事によって、無限に低い音から無限に高い音までずっと連なっているような印象を与えています。

3色の四角が右に流れるアニメーション

 このアニメーションはどんな風に見えますか? 赤・青・黄色の3つのマスが1組になっていて、1マスずつ順に右に移動した後、ピョンと左にジャンプするように見えるでしょうか。 それとも全体を3等分する点で、赤が青に、青が黄色に色が変わりながら同じ四角形が左から右に流れていくように見えるでしょうか。 あるいはまた別な風に見える方もいらっしゃるでしょうか。 (これはもちろん別にどれが正解というものではありません。)

 ついでに逆方向の無限下降音階のサンプル(inf2b.mid 5kbyte)も置いておきますので聴いてみてください。 MIDIデータなので、解析できる方が見れば何をやっているか一目瞭然だと思いますが、何をやっているのかがわかるように MML のソースも載せておきます。(上昇バージョン)

A C1 @19 o1 l8 t60
B C2 @19 o2 l8
C C3 @19 o3 l8
D C4 @19 o4 l8
E C5 @19 o5 l8
F C6 @19 o6 l8
G C7 @19 o7 l8
H C8 @19 o8 l8

A v26c v28c+ v30d v32d+ v34e v36f v38f+ v40g v42g+ v44a v46a+ v48b
B v50c v52c+ v54d v56d+ v58e v60f v62f+ v64g v66g+ v67a v68a+ v69b
C v70c v72c+ v74d v76d+ v78e v80f v81f+ v82g v83g+ v84a v85a+ v86b
D v87c v88c+ v89d v90d+ v91e v92f v93f+ v94g v95g+ v96a v97a+ v98b
E v98c v97c+ v96d v95d+ v94e v93f v92f+ v91g v90g+ v89a v88a+ v87b
F v86c v85c+ v84d v83d+ v82e v81f v80f+ v78g v76g+ v74a v72a+ v70b
G v69c v68c+ v67d v66d+ v64e v62f v60f+ v58g v56g+ v54a v52a+ v50b
H v50c v45c+ v40d v36d+ v32e v28f v25f+ v22g v19g+ v16a v13a+ v10b

 このように8オクターブに渡って同じ高さの音を鳴らしています。高いほうと低いほうの音量を小さくしています。実際の楽器でやるには、たとえばピアノならば2人4手で8オクターブの音が同時に鳴らせますから(普通のピアノは88鍵ですから7オクターブ+αです)、二人で演奏すればこの無限音階を楽しむことができます。この場合、実際には1オクターブ演奏したら元の高さに折り返すことになるので、折り返しが聴こえないようにするには意外と大変です。何かの余興用に訓練してみたいと思っているのですが、なにせ一人ではできないので、実際には練習していません。

 別の方法として、たとえば長縄跳び方式で、ちょうど1オクターブずつずれて一人一人がピアノの一番下の鍵盤から一番上の鍵盤まで順に叩いていく、というやりかたも可能です。この場合、一人が1本指で鍵盤を叩いていけばいいので、最初は小さく始めて、だんだん音を大きくしていって、中央を過ぎたらだんだん小さくしていって、最後の鍵盤を叩いたらピアノを離れて列の最後に戻る、ということを繰り返します。これですと折り返しが聴こえにくいと思います。大人8人がピアノに群がるのは大変かもしれませんけれども、子供だったら面白いんじゃないかと思っているのですが、いまだに実現する機会がありません。学校の音楽の先生とか、やってみていただけませんか?

 <おまけのひとこと>
 この無限音階ですが、エッシャーの無限階段のような不可能図形と対比させて語られる例をいくつか見たことがあります。でもそれよりも床屋の看板と言った方が比喩として正確だと思います。 以前、この無限音階の原理について全く別個に2人の人と話をしたことがあります。おひとりは直接、もうお一方はメールでお話したのですが、この音階の実現方法について話をしたところ、お二方とも即座に「それは床屋の看板の原理ですね」とコメントされました。ちなみにお二人とも数学専攻の方でした。さすが、と感心しました。




8月22日(木) 仮現運動

 昨日、無限音階の説明のところでちょっとだけ仮現運動についてお話しました。今日はgifアニメーションを使って仮現運動の例をいくつか見ていただこうかと思います。 今日ご覧いただくのは4つの例ですが、いずれも2枚の絵を交互に表示しています。図1は黒い点が3つ、左上と右下に交互に現れる例です。

仮現運動:動く3点
図1:仮現運動 動く3点

 単に3点の描かれた絵が2枚交互に表示されているという風に見えるでしょうか、それとも3つの点がぴょこぴょこと動いているように見えるでしょうか。 動いているように見える場合、上の3点と下の3点は、それぞれどれとどれが対応しているように見えるでしょうか。

 多くの方には、3つの点はその並び順を変えず、並行に行ったり来たりしているように見えるのではないかと思います。 では、ちょっとパターンを変えてみて、右下に行ったときに一番右側の点が隠れるように、白い板で覆ってみましょう。どうでしょう、3つの点は図1と同じように並行に移動しているように見えるでしょうか。

仮現運動:1点を隠す
図2:仮現運動 1点を隠す

 多くの方にとっては、右下の1点を隠してしまうと上の3点と下の2点の対応関係が図1とは変わってしまうと思います。「図1と同じ動きなんだ、右端の点は白い四角の下に潜り込んでいるんだ」と意識して思おうとしても、中央と右端の点が上下に垂直に動いているように見えると思います。私には、残った左端の点は、真中の点とくっついて下のパターンの左端の点に動くように見えます。

 では再び白い四角を取り外して、上も下も3点に戻しましょう。ただし視覚の対応関係を誘導するため、色をつけてみましょう。上の左端と、下の右端の点の色を赤にしてみます。今度はどのように見えるでしょう?

仮現運動:1点に着色(1)
図3:仮現運動 1点に色をつける(その1)

 今度は、黒い2点が上下に運動し、それを飛び越すように赤い点が左右に動いているように見えるのではないかと思います。この図をよーく見ておいて、図1、図2をもう一度眺めてみると、今度は色がついていないのにこの図3のような動きを(そのように見ようと意識すれば)感じることができるようになっているのではないかと思います。

仮現運動:1点に着色(2)
図4:仮現運動 1点に色をつける(その2)

 最後にこの例はどうでしょう? 図3を見た後ですから、図3と同じ動きが見えるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。 ついでに、図4の赤い点はまっすぐ垂直に上下に動いているように見えるでしょうか、それとも多少左右にも動いているように見えるでしょうか。 実際には正確に上下に動いていますが、下の段に来た時には若干左に寄って見えるかと思います。これも錯視の例です。

 <おまけのひとこと>
 ちなみに、仮現運動は「かげんうんどう」と読みます。Webで検索してみるといろいろ情報がありますが、たとえばこちらのページなど、サンプルが多くて面白いです。




8月23日(金) 角柱・反角柱

 円柱とか三角柱とか四角柱といった立体があります。忘れてしまいましたがこれは小学校くらいで習うんでしょうか。この柱(はしらではなくてちゅうです)という立体は、平面上にある円とか三角形とか四角形の底面を、平面から離れる3次元の方向に積み重ねてできる立体です。これとちょっと似ている立体の構成方法に、反角柱というものがあります。

三角柱と三角反柱

 上の図は、平面上の三角形から、三角柱と三角反柱を作るやり方を説明した図です。上の例は三角形を持ち上げてゆくことによって三角柱ができる絵です。下の例は最初に三角形を2枚、お互いに頂点と辺の位置関係が反対になるように置いておいて、図のようにそれぞれの三角形の頂点と、相対する三角形の辺とを結ぶ三角形を作ります。そうすると出来上がる反柱の側面は、上向きの三角形と下向きの三角形が交互に並ぶ形になります。(ちなみに、この図にもあるように正三角形の三角反柱は正八面体そのものです。)

 さて、こういった拡張を3次元の多面体にも施してみます。一番単純な例として正四面体を考えます。最初に、正四面体の各面を徐々に離していって、間にちょうど正方形が入るようにします。

正四面体の角柱的拡張

 もともとの正四面体の6本の稜のところが、6枚の正方形の面になります。そして4つの頂点のところが新たに4枚の正三角形の面になります。この立体は立方八面体そのものです。この立体の正方形の4辺は全て三角形と接しており、また三角形の3辺は全て正方形と接していますから、この立体は三角形を1色、正方形を別の1色の2色で塗り分けることができます。

 では今度は、反角柱を作ったときと同様に、対応する2辺の間を、上向きと下向きの正三角形で補間することを考えます。(下図)

正四面体の反角柱的拡張

 このような拡張を施した立体をねじれ多面体(snub polyhedron)などと呼びます。この場合は正四面体に対してねじる操作を加えているので、「ねじれ四面体」です。 実はねじれ四面体は、正二十面体そのものです。 この正二十面体を構成する20枚の三角形のうち、もともとの正四面体の面に由来する4面と、もともとの正四面体の頂点に由来する4面は、お互いに頂点を共有するだけで辺で接していません。そこでこの合計8枚の三角形を1色で塗り、反角柱の2つ三角形の「上向き」「下向き」をそれぞれ別の色で塗ってやれば、正二十面体は3色で塗り分けることができます。

 いろいろな多面体に、この「角柱的拡張」と「反角柱的拡張」を施すと、面白い立体が得られます。

 <おまけのひとこと>
 これらの絵は、Microsoft office の中の Power Point というスライド作成ソフトを使って描いています。こういう図を描くのは面白いです。今日の「ひとこと」は、これらの図をご覧頂きたいというのが動機です。
 このページを公開した1年半前の状態のまま手付かずだったこのページおよび作者についてを、久々に加筆修正しました。




8月24日(土) 多面体面モデルブロックを紙で作る(その1)

 昨日、多面体の稜の部分に正方形を挿入したり、正三角形2枚を挿入したりする話をご紹介しました。こういったことを実現するのには、3Dジオシェイプスというブロックはとても便利です。

 ところがこのジオシェイプスも万能ではなく、使ってみるといくつか気になる点があります。1つは、2枚のパーツを本を閉じるように折りたたもうとしても、ある角度以下にはならないという点です。 もう1つは形の制約で、特に残念なのが菱形のパーツがないのです。 菱形十二面体を作れる対角線比が1:√2の菱形や、いろいろな菱形多面体が楽しめる対角線比が黄金比の菱形などがあれば、面白い立体がたくさん組めるのに、とても残念です。

 では、なかったら紙で作ってみようということで、このお盆休みを利用していくつか設計・試作してみました。紙で作れば材料費は(多分)安いし、自分で要るだけ作れるし、菱形でも8角形でも10角形でも好きな形を作れます。必要なら色だってつけられます。

面パーツ設計(その1)
多面体を組む紙のパーツの試作(その1)

 最初に設計してみたのが、図のようなクランク型のジョイントを持つパーツです。お互いの辺がしっかりかみ合って丈夫になるのではないかと期待しました。はめるのは少々厄介ですが、下の図のようにはめ込む側をぐっと湾曲させて差し込むようにします。

パーツの組み方)
パーツのはめ方

 とりあえず三角形のパーツを4枚印刷して切り出して、正四面体を作ってみました。ジョイントのクランクの位置を等間隔にしたので、頂点の部分が若干開き気味になってしまっています。また、ジョイントによって稜が点線のように見えてしまっていて、これもちょっと気になります。

試作パーツによる正四面体
正四面体

 実際に作ってみると、設計の時には気が付かなかった欠点がいろいろ出てきました。まず、組みにくいです。飛び出しているつめの部分が折れ曲がりやすいし、パーツをはめるときにかなり湾曲させる必要があって、紙の目の向きによっては折れ曲がってしまったり、曲がったくせがついて平らにもどらなかったりします。

 また正確に切り出さないと、はめた相手の方が狭いと反ったままになってしまいますし、相手が広すぎるとぐらぐらします。 さらに、一番の欠点は切り出しに非常に手間がかかるという点です。ジョイントのクランクの部分が精度を要求するため、気を遣う細かい作業がたくさんあります。実は最初の試作品は正二十面体を作ろうかと無謀にも考えていたのですが、4枚切り出した段階で挫折しました。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 Ikuro's Home Pageというサイトがあります。この中の■今月のコラム(閑話休題)というページに、過去数年に渡って主に数学に関する話題が素人向けに解説されており、非常にありがたく面白く読ませてもらっています。 文体が統一されていないとか数学の記号の表記がいささか見づらいものがあるなど若干読みにくい点もありますが、それを上回る内容の面白さがあります。 多面体に関しても何度も取り上げられていて、参考になります。 最近ですとサンゴ礁と豊饒の海というコラムがとても面白かったです。




8月25日(日) 多面体面モデルブロックを紙で作る(その2)

 紙で多面体モデルを作るためのユニットを設計・試作するシリーズ2回目です。昨日のクランク型ジョイントでは切り出しと組み立てが厄介すぎるという反省に基づいて、思い切ってパーツをシンプルにしてみました。

面パーツ設計(その2)
多面体を組む紙のパーツの試作(その2)

 ジョイントはクランク型を改めて台形型(Z字型)とし、細かくカッターを入れる手間を3分の1に減らします。また、試験的に面の中央の穴をあけるのをやめて、単なる面モデルにしてみました。これだけでも切り出しの手間がひと手間違います。 ただし、飛び出している凸の台形の根元の細い方と、凹んでいる台形の広い方が同じ長さになっていますから、この2枚を重ねずに平面上で組み合わせることはできません。

 このパーツはとりあえず8枚切り出して、正八面体を作ってみました。小さいですが以下の写真です。今度は切り出し作業はだいぶ楽になりました。出来上がった立体だけを見ると、とりあえず昨日のクランク型ジョイントと比べれば結合部分が目立ちにくくてすっきりしていると思っています。

試作パーツによる正八面体(その1) 試作パーツによる正八面体(その2)
正八面体(1) 正八面体(2)

 ただ実際に作ってみると、面の中央に穴がないと、特に最後に立体を閉じようとするときにパーツを組むのがとても厄介でした。このパーツも基本的には幅の広い飛び出した部分(台形の部分)を湾曲させてはめ込むのですが、パーツの裏面に手が入らないとこの作業がとてもやりにくいのです。

 さらに、このZ字型ジョイントは、昨日のクランク型ジョイントよりも高い精度でパーツを切り出す必要があります。お互いが台形のちょっとした出っ張りで相手を押さえ合っているため、少しでもゆるいと簡単に外れてしまって立体を組むのがとても大変です。またちょっとでもきついと面がポコンと弓なりに膨らんでしまって格好悪いです。

 パーツの設計を決めたら、大量に作っておいて文字通りブロックのようにいろいろな模型を作って楽しもうと思っているのですが、パーツの切り出し作業は手間がかかって面倒で、しかもその作業自体には面白みの少ない仕事です。確実に使えることがわからないと、苦労して作っても無駄になるのではないかと心配です。そこでもう少し改良してみることにしました。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 たとえばぬいぐるみとかお手玉とか、最後に内部に手が入らない状態できれいに閉じる必要のある作業があります。私は昔からああいうのがとても苦手で、小学校の冬休みの家庭科のお手玉を作る宿題とか、最後がうまく閉じられなくて中のあずきがこぼれてしまって、母に全部閉じてもらった記憶があります。
 私の頃は小学校までは男女で同じ家庭科でしたが、中学校では男子は技術科、女子は家庭科でした。中学に進んで家庭科が無くなってやれやれと思いました。中学の技術科で一番好きだったのは製図で、斜投影法とか等角投影法とかがとても楽しかったものです。今、パソコンでこういう図面を作ったりするのがとても楽しいのも、その延長線上にある気がします。




8月26日(月) 多面体面モデルブロックを紙で作る(その3)

 紙で多面体モデルを作るためのユニットを設計・試作するシリーズ3回目です。昨日のZ字型(台形型)ジョイントは、(1).はめにくいという欠点と、だいぶ楽になったとはいえ(2).パーツ切り出しがまだ大変という欠点がありました。 これをもう少しなんとかしてみたいと思いました。

 一昨日・昨日の試作1・試作2では、外れにくくするためにジョイント部分は紙を湾曲させなければはめ込むことができない構造でした。そのため図面作成時に2つのパーツの境界線を共有させることができませんでした。

 仮に、2つのパーツの境界線を完全に一致させたとしたら、パーツの切り出しも楽になるだろうし、はめるのも楽になるはずです。ただその場合は、当然ある方向にはスッと外れてしまうでしょう。というわけで多面体を安定に組めるかどうか、まず実験的に下の図のように噛み合わせ部分を大きく取った三角形の部品を設計してみました。

面パーツ設計(その3)
多面体を組む紙のパーツの試作(その3)

 図はパーツ6枚分です。噛み合わせのツメに相当する部分は、正三角形2枚分の菱形にしました。もしも組めなかったら、この部分を折り曲げて使おうという目論見もありました。

 このパーツは切り出しが比較的楽なので、20枚分の型紙を作って、まず8枚切り出して正八面体を作ってみました。なんだかとげとげしていて変なかたちです。

試作パーツによる正八面体(その1) 試作パーツによる正八面体(その2)
正八面体(1) 正八面体(2)

 作ってみると、確かにパーツをはめるのは簡単なのですが、そのかわり組んでいる途中で、あるパーツから手が離れてそれがある角度になるとわりと簡単に外れてしまいます。また出来上がった形も残念ながら美しい多面体という印象とはかけ離れた姿のように思います。

 ただ、このジョイントでも組み上がってしまえば一応安定するということが確認できたので、こんなにツメを大きくしなければきれいな模型ができるんじゃないかと考えました。そう思って設計したのが試作3'です。

面パーツ設計(その3')
多面体を組む紙のパーツの試作(その3')

 ジョイントのツメの部分は底角が60度の平行四辺形で、2つのパーツは平面上でぴったり噛み合います。このパーツを20枚用意して、正二十面体を作ろうと試みました。 が、結果は惨憺たるもので、私の能力では粘着テープか何かの助けがないと組めないということがわかりました。(12〜3枚くらいまでは行けるんですけれども、その先が…) ツメの長さがある程度ないと、安定しないようです。

(つづく)



 …という原稿を今日の「ひとこと」用に用意してあったのですが、土曜日に、今回のシリーズ「紙で多面体の面モデル用のブロックを作る」の第1回を公開して数時間後に、このページを見てこんなデザインで試作してみました、というメールをいただきました。

 いただいたメールにはパターンが2つ載っていて、1つ目は昨日ご紹介した試作2と同じアイディアだったのですが、「それでは組みにくいので」ということでメールに書かれていた2つ目のジョイントのアイディアには脱帽しました。以下、いただいたメールを元に私が描いてみた図を載せます。

Hamanaka Joint
メールで教わったジョイント(Hamanaka Joint)

 このジョイント(勝手に考案者の名前でHamanaka Jointと呼ばせていただきます)は、紙の厚さを無視すれば、紙を湾曲させたりせずに自然に組むことが出来るのです。(事実上無視できます。) しかも図の右のように2枚が水平面に載っているときはもちろん、普通に多面体の二面角をなすときには外れません。 最初、メールを読んで「なぜこれが紙を湾曲させずに組めるんだろう?」と疑問に思いました。(頭が悪い私。)いろいろ考えているうちに、「あ、これはひょっとして」と思って、手元の紙で試作してみて感動しました。 何が不思議なのか、何がすごいのかピンと来ない方、寸法がわかるようにマス目入りの図にしておきましたので、ぜひ手近の紙で上の2枚を作ってみて、組んでみてください。

 <おまけのひとこと>
 数日前から上の子が将棋をやってみたいといって覚え始めました。まだやっと駒の動きと名前がわかったくらいです。どの駒がどの駒を守っているかということがまだ全然意識できないようですが、とりあえず興味は継続しているようです。私とやるときには8枚落ち(飛車角と香・桂・銀を落とす。残りは王様と金だけ)でやって、勝たせてやろうと思っているのですが、それでもかなり教えながらでないと勝てません。
 私自身、将棋は駒の動かし方を知っている程度なんですが…(だから教えるのも下手なのかも。) 一応図書館に行って、子供向け・大人向けの将棋入門書を何冊か借りてきて、それを元に教えています。私は自分の父親より将棋はずっと弱いので、もし自分の子供が自分より強くなれなかったら、世代が進むに連れて弱くなってしまいます。これはちょっとまずいな。




8月27日(火) 多面体面モデルブロックを紙で作る(その3つづき)

 昨日は、平行四辺形のツメが各辺から2枚ずつ出ているパーツ(試作3)を設計して組んでみました。このパーツは20枚作ってしまったので、とりあえず正二十面体も組んでみました。

試作3による正二十面体
正二十面体(試作3)

 出来上がった形はかろうじて面白くないこともないのですが、でも何がなんだかよくわかりません。 せっかく20枚も切り出したのだから、「ダメだったらツメを折り曲げてみよう」という方針に従って、それぞれのパーツの6つのツメに軽く折り目を入れて、ツメが全部多面体の内部に隠れるように裏返しに組んでみました。 (最初は折り目を入れないでやってみたのですがうまく組めませんでした。)  最後のパーツをはめるのがちょっとだけ大変でしたが、組むのはやさしいです。最後におにぎりを握るように全体を包み込むようにジョイントをしっかりはめ込みます。

試作3パーツによる正二十面体 試作3パーツによる正二十面体:アップ
同じパーツを
裏返しに組んだ
正二十面体
ジョイント付近

 これだとジョイント部分はほとんど見えなくなるので、とてもすっきりします。ただし紙の摩擦で形を保っていますので、強度は低いです。多分床の上をころころっと転がすだけで、自ら崩壊してしまいそうな危うさ、はかなさを感じます。

 こういう組み方をすると、このユニットからもきれいな多面体が作れそうです。でもパーツの切り出しが易しくなった分、折り目を入れるという別の作業が発生してしまっていますし、結合強度が弱いというのは致命的です。さらに、正三角形以外の面ユニットとの結合を考えた場合、ツメの大きさや角度をどうしようか、という問題もあります。実はこの設計で切頂二十面体、いわゆるサッカーボールも作ってみたのですが(ツメは内側です)、ちょっと結合力が弱いです。たくさん作ろうという気がしません。というわけでこの設計も採用を見送りました。

(つづく)


 「こんな面倒なユニットを切り抜いて組み立てるくらいなら、展開図を描いて、出来る限り面がつながった状態の部品からのりしろを使って作ったほうが丈夫できれいな模型ができるんじゃないか」という意見はあると思います。 わざわざこういったユニットを使っている理由は3つあります。 1.展開図から作ると、その立体以外のものが作れないのがいや、ということ。 2.展開図から作ると、もともとの素材として接続している稜と、のりしろ等でつないだ稜という区別ができてしまって、物理的な実体としての対称性が破れてしまうのがいや、ということ。 (幾何学的に等価である全ての面・全ての稜・全ての頂点は、模型の構造の上でも等価であってほしいのです。) そして、3.接着剤などで固めてしまった模型は分解したり組み替えたりできないのがいや、ということの3つです。

 <おまけのひとこと>
 先週末、知り合いからこんなパズルを出題されました。「今、ちょうど1時間で燃え尽きる蚊取り線香が3本と、マッチが1箱あります。これだけの道具を使ってちょうど1時間45分を計って下さい」というものです。ニュースステーションで紹介されていたので知っている人も多いのでは、と言われたのですが私は初耳でした。「Aさんは『1分で解けるよ』と豪語して、本当にすぐに解答をメールで送ってきた」とか、「Bさんは5分で解けた」とか、「Cさんは寝る前に問題を聞いて、考えながら寝てしまったのだけれど、朝起きたら解けていた」とか言われて、パズル好きを自認する私としてはひそかにプレッシャーを感じていたのですが、幸いその場で答えることができました。時間は見ていませんでしたが、5分以内だったと思います。 (…答を知りたい方がいらしたら、メールを下さい。)

 ちなみに出題してくれたご本人に、おみやげに5月21日のひとことでご紹介した、2本のスリット入りの帯を組んだものを持っていったら、ひざの上で子供をあやしながら、「いや、しらないけどこれってひょっとしてくりんてひねったりするんじゃない?」とか言いながら、あっというまに分解してまた元に戻して見せてくれました。 昨日のHamanaka Jointといい、形や空間を把握する能力の高い人っていうのはすごいな、と感心しました。




8月28日(水) 多面体面モデルブロックを紙で作る(その4)

 紙で多面体モデルを作るためのユニットを設計・試作するシリーズの続きです。昨日の反省を生かして、出来上がりの丈夫さと美しさを重視することにしました。そのためにはある程度手間がかかるのは仕方がないと考えることにしました。

 結局ジョイントはZ字型(台形型)ジョイントを採用することにしました。そして、やはり面の中央には穴をあけることにしました。また、組み立てのしやすさと出来上がりの美しさを考えて、面の中央の切り抜きはできるだけ大きく、辺に相当する帯はかなり細くなるようにしてみました。図は、対角線の長さの比が1:√2の菱形のパーツを作ってみたものです。

面パーツ設計(その4)
多面体を組む紙のパーツの試作(その4)

 このパーツを使って、待望の(?)菱形十二面体に挑戦です。パーツを切り抜く作業はかなり手間がかかりますが、帯を細くすると湾曲させるのが簡単になるので、組むのがやさしくなります。また、組み上がりも面モデルというよりは稜モデルのようになってきます。ご覧のように無事、菱形十二面体を作ることができました。華奢に見えるかもしれませんが、意外と丈夫です。うれしくて正5角形のパーツも設計して、正十二面体も作ってみました。

試作パーツによる菱形十二面体 試作パーツによる正十二面体
菱形十二面体 正十二面体

 菱形十二面体のほうはこの設計での第1作ということで加工精度が悪く、若干ゆるいジョイントがあって分解しやすい取り扱い注意の模型になってしまいましたが、第2作の正十二面体のほうはわりと丈夫にしっかりと作ることができました。 のりや接着剤、粘着テープなど一切使わずに組むことができるので、組み立てはやり直しがききますしとても楽しいです。

 パーツはこの構造で行こうと決めて、寸法の合った正三角形、正方形、シルバー菱形(対角線比1:√2)、黄金菱形(対角線比が黄金比)などの印刷データを作って、いろいろな立体を作ってみました。パーツを切り出すのにかかる時間は、パーツの辺の数に比例します。(3角形なら3辺、菱形なら4辺、5角形なら5辺です。) 計算してみると私の場合、だいたい1辺あたり30秒程度で切り出し作業をしています。これでも3角形1枚に1〜2分かかりますから、たとえば正二十面体を作ろうとすれば最低でも30分以上はかかりますし、もっと凝った立体を作ろうとすると、すぐにパーツが60枚とか必要になるのでかなり大変です。 このお盆休み、結局トータルで10時間くらい切り出し作業をしていた計算になります。

 明日から、このパーツで作ってみた模型をいくつかご紹介したいと思います。

 <おまけのひとこと>
 パーツの切り出しをやっていると、小学校のころの漢字練習を思い出します。15マスとかのノートに1列ずつ漢字を書いていくという宿題がよくありました。とにかくできるだけ速く楽に宿題を終わらせたくて、漢字をパーツに分解して、たとえばという字ならば最初に“木へん”だけを15マス全部にだーっと書いて、次に“なべふた”だけを全部書いて…という風にやったりしていました。そんなことをしたら字のバランスは悪いし、字をきれいに書く練習にも、覚える助けにもなりません。まあでも作業手順を工夫して効率化するという勉強にはなったかな、と思っています。 1文字ずつ完成させてゆく通常のやり方も大変ですが、といって全ての画を分解して、たとえば木へんの横棒だけを全部書いて、次に縦棒だけを全部書いて、次に左の払いを全部書いて…とやるのもやっぱり効率が悪いのです。そうすると、完全に分解するパターンと、まったく分解せず(宿題の趣旨どおり)1文字ずつ完成させるパターンとの間に一番速いやり方が存在するはずで、小学生の私は、今考えると日々どのような分解の仕方が速いかという実験をしていました。当時はそんな意識はありませんでしたが。

 パーツの切り出しの時にも、できるだけ紙やナイフの角度を変えずに、次にどこを切るか迷わずにどんどん切って行くことが速く作業するコツです。パーツを1枚ずつ、線に沿って切ってゆくのと、系統的に同じ位置・同じ角度の線を全部切りながら作業してゆくのとでは、多分倍以上時間が違います。(前者が漢字を1文字ずつ書くことに相当し、後者が“木へん”だけを全部書く手法に相当します。)それに、系統的に切り出すと、だんだん飽きてくる最後になって、ざらっといっぺんにパーツが切り出せてきますから、とても気分がいいです。

 (お盆休み明けの更新は、本文は全て休み中に書いてあって、「おまけのひとこと」だけを更新時に書いています。そのせいで長くなってしまっています。)




8月29日(木) 紙で作る面ユニットによる多面体モデル:ねじれ立方体

 1週間前、8月23日のひとことで、多面体の稜の部分に2枚の正三角形を挿入することによって、ねじれ多面体(snub polyhedron)を作ることができるという話をご紹介しました。 この“ねじれ多面体”というのはとても面白い立体なので、まずこれを作ってみることにしました。

ねじれ立方体
ねじれ立方体

 3Dジオシェイプスやビーズ多面体などで何度かご紹介したねじれ立方体(snub cube)です。これを昨日お話した紙のユニットで組んでみました。正方形が6枚に正三角形が32枚です。

 アルキメデスの準正多面体というのがあります。その中に、このねじれ立方体と、ねじれ十二面体(snub dodecahedron)というのがあります。はじめてこの立体を知ったときには、プラトンの5つの正多面体のうち、なんで2つしかねじれ多面体にならないんだろうという疑問をもちました。実はこの疑問は誤りで、以下の表のとおり正四面体のねじれ拡張(と仮に呼んでおきます)は正二十面体になるし、正八面体、正二十面体はそれぞれねじれ立方体とねじれ十二面体になるためです。

元の多面体ねじる(snub)操作の結果
正四面体 正二十面体
立方体 ねじれ立方体
正八面体
正十二面体 ねじれ十二面体
正二十面体

 上の写真に、もともと正方形の面だった部分(赤)と、もともと正八面体の面だった部分(水色)に色をつけてみました。(うーむあんまりわかりやすくなりませんね。)

ねじれ立方体:立方体由来の面 ねじれ立方体:正八面体由来の面
立方体の面 正八面体の面

 なぜ“ねじれ八面体”などという言い方をしないかというと、私の想像ですが、正八面体や正二十面体のようなデルタ多面体(正三角形の面だけを持つ多面体の総称だそうです)に対してねじれ拡張を施すと、新たに付け加えられたたくさんの正三角形と、もともとの正三角形の区別が一見つきにくい。ところが正方形や正五角形はあいかわらず元の形のまま目立っている。そのためではないかと思うのです。

 とある本に、「だから、ねじれ立方体はねじれ立方八面体と呼ぶのがより正確」といった記載がありましたが、私はこれには反対です。立方八面体はそれ自体に対してねじれ拡張を施すことができます。そしてそれは、立方八面体の双対多面体である菱形十二面体を“ねじった”ものと同じ立体になります。


<おしらせ>

 ホームページ3年限界説、なんていうのをこちらのページの日記に書かれているのを見て思い出しました。個人のページはたいてい3年くらいで更新が止まってしまったり消えてしまったりするんだそうです。

 私のページは2001年2月末から公開をはじめて、ここで1年半を迎えました。上記の説はあくまでも統計的な経験則にすぎませんが、この仮説が私のページにも当てはまるとすれば、1年半というのはちょうど折り返し地点ということです。カウンタもちょうど1万5千を越えたところですし、よそのサイトのように感謝のプレゼントというのをやってみようかな、と思いました。

 具体的には、今回設計した多面体を組める紙のパーツに、淡い色で URL を入れたものを作って、希望される先着○名様にプレゼント、といったことを考えて、とりあえず三角形のユニット30数枚と、正方形のユニットを24枚ばかり切り出してみました。 使用している紙はKOKUYOのインクジェットプリンタ用の紙厚0.19mmという厚紙で、パーツの1辺の長さは約5cmです。 下の写真は、ちょっとわかりにくいですがそれぞれ20〜30枚を重ねてみたものです。

正三角形と正方形 URL部分
正三角形パーツと正方形パーツ URL部分

 とりあえずちょうど立方八面体が組めるパーツということで三角形8枚と正方形6枚を1セットと考えて、4セット分あります。この1セットから、立方体と正八面体(あるいは正四面体2つ)とか、四角反柱とか、四角錐(ピラミッド)と三角柱とか、多少は作れるもののバリエーションもあります。素材が紙ですから、そう何度も組み替えに耐えるものではありませんが、飾っておいてちょっと珍しいかもしれませんし、邪魔なら分解は簡単です。

 日ごろご覧いただいている皆様への感謝、ということで、ささやかですがこの4セットをご希望の方に差し上げたいと思います。希望される方は8月31日(土)朝までにメールを下さい。ここを一応最初の〆切にしてみます。この段階で希望者がいらっしゃらなければ(そういうことは十分ありうると思っています)、再度考えます。

 もしも希望者がいらして、なおかつ4名に達しない場合は、パーツを希望者に分配したいと思います。もしお一人しか希望されなければ、全てのパーツをその方に差し上げます。それだけあると正二十面体はもちろん、本日ご紹介したねじれ立方体をはじめ、いろいろなものが作れます。

 もしも4名以上だったら、どなたに差し上げるかはすみませんが私が勝手に選ばせていただきます。(多分先着順ですが、厳密ではありません。いただいたメールを見て考えます。)まあこういう心配はしなくていいでしょうね。

 なお、お渡しする方法は郵送を考えています。(多分郵便の封書80円でお送りできると思っています。)最初にご応募いただくメールには住所等を書いていただく必要はありません。差し上げることになった方に、こちらから確認のメールを差し上げますので、それに対してご希望の郵送先をご連絡いただければ結構です。メールの送付先はこのページの一番下に書いてあるアドレスにお願いします。

付記:おかげさまで〆切までに複数名の方からのご応募をいただきました。ありがとうございました。(2002.08.31)




8月30日(金) 紙で作る面ユニットによる多面体モデル:ねじれ菱形十二面体

 昨日、ねじれ立方体の写真をご紹介しましたが、今日は昨日の最後にちょっと触れておいたねじれ菱形十二面体(snub rhombic dodecahedron) をご紹介します。

ねじれ菱形十二面体(snub rhombic dodecahedron) ねじれ菱形十二面体(snub rhombic dodecahedron)
正方形の面 菱形の面

 昨日もお話したとおり、ねじれ多面体は元になる多面体の双対多面体からも同じものが得られますから、“ねじれ菱形十二面体”は“ねじれ立方八面体”と同義です。ただ、こうして実際に作ってみると、ごくわずかですが各パーツが歪みます。ちゃんと検証していませんが、この立体は厳密には成立しないのかもしれないと思っています。(単に工作の精度が低いという可能性もありますけれども、同じ設計のパーツで他の多面体を作ったときとは感触が違います。)

 成立しないというのはどういうことかというと、例えば正方形や菱形の4つの頂点が同一平面上に存在せず、対角線を蝶番にして折れ曲がっているような面(とは言えないか既に)になってしまうということです。それをむりやり各パーツをジョイントで繋ぐので、歪みが模型全体に分散して、それぞれの稜の部分が若干反ってしまっているのではないかと思っています。

 実はこの模型を作るのがこのお盆休みの目標で、これを作ってみたくて延々とユニットの設計を繰り返して検討を進めてきました。この立体は菱形12枚・正方形6枚・正三角形56枚から出来ています。切り出す辺の数は12×4+6×4+56×3=240ということで、パーツの切り出しだけで2時間以上かかりました。

 多面体の模型は面モデルだと反対側が見えませんけれども、このような稜モデルだと向こう側まで見通せるので、形がわかりやすくてとてもいいです。


 <おまけのひとこと>
 昨日、プレゼントのお話をさせていただきましたが、幸い複数の方からメールをいただくことができました。ご応募下さった方、このページのイベントにお付き合い頂いて本当に感謝致します。申し込み〆切は明日31日(土)の朝、私がメールを読むまで(だいたい7時頃)と決めています。まだ若干余裕がありますので、ご希望の方はメールをいただけたらと思います。

 7月、8月と「ひとこと」の画像が増えていて、1ヶ月あたり500kbyteくらいになっています。「過去のひとこと」のページを半月単位で管理していますが、それだとちょっとデータ量が多すぎるかなと思っています。読みにくい、重たいページは自分が好きではないのに、いつのまにか自分のページが重たくなってしまいました。




8月31日(土) 裁ち合せのパズル

 今日から新しい話題をはじめようかと思ったのですが、今日は月末で週末なので、ちょっと単発の話題をはさむことにしました。パズルです。

裁ち合せのパズル

 5×5の市松模様の布地があります。これをマス目の縦・横の線に沿って4つに切って、それを組み合わせて2つの市松模様の正方形に裁ち直してください。ただし、市松模様のマス目には“向き”がありますので、上の図の A,B の文字の向きが揃うようにお願いします。ですから90度回して横向きにしたり、逆さにしたり裏返したりすることはできません。

 裁ち合せのパズルというのも広い分野で、形だけのものから今日のパズルのようにパターンや向きの制約があるものまでいろいろあります。今日の問題は、図や問題文は私が作っていますが、問題そのものはH.E.デュードニーの「パズルの王様」という本からの引用です。


 <おまけのひとこと>
 一昨日お知らせしたこのサイトの感謝のプレゼントですが、おかげさまで複数の方から御応募いただくことができました。予想通り4セットまでは到達しませんでしたが、おかげで応募してくださった方の分け前が増えました。御応募ありがとうございました。

 昔、こんなゲームを読んだことがあります。応募すると、プレゼントではなくて懸賞金がもらえます。ただし、応募者が一人だけなら100万円、二人なら10万円ずつ、3人なら一万円ずつ、4人なら千円ずつ、5人なら100円ずつ、6人なら10円ずつ、7人なら1円ずつ、8人以上なら誰も1円ももらえません。(実際は人数と金額の算出方法はもうすこし複雑でしたけれども、人数が増えると、個々の金額だけではなく支払われるトータル金額も少なくなるという点が特徴です。)

 さて、このような懸賞システムの場合、どのような行動をとるのが最善でしょうか? 例えばゲームの参加者が50人いたとしましょう。 応募しなければ確実に何ももらえないのだから、期待値を少しでも0より大きくするために応募すべきでしょうか? でもみんながそのように行動したら、確実にもらえる金額はゼロになるでしょう。 さてどうしましょう?



[←2002年8月前半]  [↑表紙へ]  [2002年9月前半→]

[Home]-[以前のひとこと]-[2002年8月後半]
mailto:hhase@po10.lcv.ne.jp
2001-2002 hhase