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2000年10月の疑問

★ 疑問、議論、および回答への不満は右まで→ 掲示板


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10月31日 デカン高原の溶岩台地

 地理の疑問・発見掲示板で、とるささんから頂戴した疑問です。転載します。

インドは安定陸塊なのに、デカン高原は溶岩台地なのはなぜなのか? 火山学会のホームページには溶岩台地の説明はあっても、安定陸塊との関連についての記述は発見できませんでした。当然例外は存在するとは思われますが、デカン高原もその例外に含まれるのか、それとももっと単純な説明がなされているのに、私がただ知らないだけなのか(勉強不足なのか)どうなんでしょうか?教えて下さい!

お答え かつてインドがホットスポット上を通過したときの火山活動で形成されました。

掲示板でのお答えを転載します。

インドは大陸移動によってヒマラヤにぶつかってユーラシアの一部になったんだが、移動してくる途中で、

「現在のレ・ユニオン島の直下にあるホットスポットの活動によって形成されたという考えが有力である.すなわち、ゴンドワナ大陸から離れて年間15〜20cmという猛烈な速度で北上しつつあったインド半島は、白亜紀最末期から古第三紀に現在のレ・ユニオン島付近を通過した.ちょうどその頃、ホットスポットの活動が始まり、大量の玄武溶岩を流出し、半島中央部を広くおおった.」(丸善『理科年表読本空から見る火山』より引用)

ということです。

海底のホットスポットなのでハワイと同じく、下痢状のとろとろの玄武岩質の溶岩でできているわけです。ハワイはアスピリンを飲まなければいけないほどの下痢なのでアスピーテ、デカン高原はペニシリンを打たなければならないほどの下痢なのでペジオニーテなんです、というのは、私の仲間でありジオゴロの師匠であらせられるもっくん氏の口癖です。

 さ〜らも、むかし、気になって調べたことがあります。今の火山ではなくて、大昔の火山なんですよね。その点で、同じホットスポット型の火山であるハワイのキラウエアなどとちょっと違います。また、同じ安定陸塊でも、プレートの広がりかけの境界付近の火山であるキリマンジャロなどとも違いますね。大昔の火山だから、溶岩の風化がたいへんに進んで、玄武岩の風化してできたレグールという火山性の土壌が分布しているのでしょう。似ているのは、ブラジル高原かな。あそこにも、テラ・ローシャという玄武岩・輝緑岩が風化してできた火山性の土壌が分布しています。デカン高原の溶岩台地などは、今も噴火したり噴火する可能性のある火山ではないから、「火山のなれのはて」と呼んだ方がいいですね。


10月26日 大麦は「麦界のゴキブリ」か?

前回の記事に対して、窯元さんから、次のような補足説明を頂戴しました。今日は、それをネタに昔話をします。

「大麦」は、北と南しか書いてねぇーじゃん。
 去年のセンターでも、ネパールのところで判別問題が出ましたよねぇ…
 高地でも栽培できるのが、大麦の凄いところです…
「麦界のゴキブリ」みたいなもんでしょうか(汗)

さ〜らのコメント チベット高原ではチンコーという高地大麦を栽培しています。

窯元さん、補足説明ありがとうございました。作物の栽培限界には寒冷限界乾燥限界がありますが、このうち寒冷限界には、極限界と高距限界があります。大麦の極限界は、麦類の中で最も高緯度にあり、ということは、高距限界も最も高い、ってことですね。

 北でも栽培できるとということは、寒いところでも栽培できるということなので、当然、標高の高いところでも栽培できるということになります。高度による土地利用の違いは、中央アンデスを例に説明されることが多いが、ヒマラヤからチベット高原にかけての地域でも、高度による土地利用の差異が観察されます。

 さ〜らは、1985年に登山隊にくっついて、チベット高原の長江源流域に行ったことがありますが、その際、標高4400m付近で大麦畑を見ました。9月15日に、チベット高原の谷間の道をラサに向かって下って行ったとき、ラサの北西約70km(直線距離)にヤンパーチン(羊八井)というところがあって、そこで地熱発電所(4基の発電機があり最大出力は計11000kW)を見学しました。大麦畑をしっかり見たのは、その後、そこからラサ側に3kmほど行った標高4400m付近付近です。ヤンパーチンよりもやや高いところにも少し畑があったので、チベット高原の大麦栽培の最高所は4500m近くになるでしょうね。そこから10kmほど行ったところでは刈り取りをしていました。なお、チベット高原で栽培される大麦は、チンコーという種類の高地大麦です。チンコーのチンは青、コーは禾へんに果と書きます。もちろん、いろんな都合で試験には出ません。

 チベット高原で高地大麦が栽培されているところは、谷沿いの低地に限定され、広大な高原上ではヤク・羊・ヤギの遊牧が行われています。さ〜らたちが遊牧民を見た最高所は、標高5300〜5400mぐらいのところでした。そこは、大半が標高4000m以上のチベット高原の中でも高いところに位置する長江源流のナーチンチュー(納欽曲:広い草原の川という意味。チュー=曲は川という意味)という川の流域です。標高5000mをきることはほとんどない広くて浅い谷です。人間の定住できる上限は約5300mといわれているようだが、長江源流域では、その上限付近、いや、それよりやや高いところに遊牧民のテントが設けられていたわけです。気圧が低く、大気中の酸素は低地の半分にも満たないところで、一生暮らしているのだから驚きです。

 チベット人は、茶碗の中でチンコーの粉をバター茶で練って、団子状にして食います。これが彼らの主食で、ツァンパといいます。

 なお、大麦は「麦界のゴキブリか!」ですが、ゴキブリは寒さに弱いので、北方ゴキブリや高地ゴキブリはいません。さ〜らは18才の浪人のとき、東京暮らしをして、そこで初めてゴキブリを見ました。「ああ、これが、世にいうゴキブリか!」と感激したものです。


10月24日 ヨーロッパの混合農業の南北差と、大麦・エン麦

 混合農業に関する疑問が相次いでいる。一昨日、隠れG-SALANDERさまの一人から、次のような疑問を新たに頂戴した。

某記述模試の解説に、次のような説明があった。

「ヨーロッパの混合農業では、主食用穀物と飼料作物が輪作され、肉用家畜が飼育されるが、気候の寒冷な北部と温暖な中南部では作物や家畜に若干の違いがみられる。中南部では、主食用穀物は小麦、飼料作物はクローバーなどの牧草、カブ・テンサイなどの根菜類、そして新大陸原産のトウモロコシであり、家畜は肉牛であるのに対し、北部では、主食用穀物はライ麦、飼料作物はほとんど同じだがトウモロコシは実らないので代わりに同じく新大陸原産のジャガイモ、家畜は豚が多くなる。」

この説明で、北部に大麦、エン麦が入ってないから覚えなくていいのかな? なんでこんなことを言うかといいますと、ジオゴロで、「お偉い小麦」というように、ヨーロッパでは、大麦・エン麦・ライ麦・小麦が、北からの順じゃないか! なのに、なぜ大麦やエン麦について説明してないんだ!と、思ったからです。どうでしょ う?

お答え ジオゴロ菌におかされています。「大麦は北だけ」ではないんです。

 上記疑問に、ちょっと補足しますと、「おえらい小麦」というのは、ずいぶん昔から、参考書などに載っている「ヨーロッパの農業地域」の図、例えば某出版が出している某塾シリーズ『地理要説』(坂野祐弘・新島岩夫共著)ならp105にあるやつ、そいつを覚えるためのジオゴロです。ヨーロッパからロシアにかけての各地で主に栽培される麦類を北から順番に覚えるためにジオゴロと言ってもよいでしょう。今から10年以上前に、某塾の塾生が考案した傑作中の傑作ジオゴロです。

  おえらい小麦 : 大麦・エン麦・ライ麦・小麦

 これを覚えているので、混合農業(北部型)の飼料作物としては、ジャガイモも大事だろうが、大麦・エン麦はもっと大事だろうと考え、これを書き落としている上記の模試解説は不備ではないか、と思ったわけです。

 勉強が進んでいるからこそ出てくる疑問ですね。でも、ジオゴロ菌におかされ、ジオゴロ至上主義に陥ったがために出てきた疑問である、と言わざるを得ない面もあります。

 その某記述模試の解説は、混合農業の南北差の説明です。一方、「おえらい小麦」は麦類だけに限って、各地の主な麦を北から順に並べて覚えるためのジオゴロです。

 おっしゃるとおり、混合農業地域(北部型)では、ジャガイモだけでなく、大麦・エン麦も、飼料作物として作っています。しかし、大麦は、北の方での生産が多いものの、混合農業(南部型)でも作っており、ジャガイモのように、北部だけの特色ある作物とはいえません。ヨーロッパにおける生産上位国を書き出し、北の国を青、南の国を赤で示すと、下のようになります。
 これを見てもわかるように、ジャガイモは北部での生産が多く、トウモロコシは中南部での生産が多いが、大麦は、北から南までのいろんな国が登場しています。 

エン麦  ロシア・ポーランド・フィンランド・ドイツ・スウェーデン・ウクライナ
ジャガイモ  ロシア・ポーランド・ウクライナ・ドイツ・ベラルーシ・オランダ
大麦  ドイツスペイン・フランスロシア・イギリス・ウクライナ
トウモロコシ  フランス・イタリア・ルーマニア・ハンガリー・ユーゴ・スペイン

 じゃあ、エン麦は? という疑問が出ると思いますが、エン麦はジャガイモの上位国よりもさらに北の北欧諸国が上位に登場するから、北部の飼料作物ですが、大麦に比べて生産量がぐっと少ないから、混合農業(北部型)の説明において特にとりあげなくても問題ないでしょう。
 また、北部型の混合農業の最も盛んな地域は、上記参考書の図では「ライ麦地域」に当たります。そこはまさに、ジャガイモ生産で上位のポーランド付近です。一方、上記参考書などの図で「大麦・エン麦地域」になっているところは、「ライ麦地域」のさらに北です。その地域、すなわち、エン麦生産で上位のフィンランドやスウェーデン付近は、そもそも農業生産の多い地域ではなく、混合農業も行われるが酪農も行われることもあって、混合農業地域の典型とは言えません。これもまた、混合農業(北部型)でエン麦を特にとりあげなくても問題ないと考える理由です。

 繰り返しますが、「おえらい小麦」は、麦類に限っての北限の順番です。北限なので、小麦を主とする中南部でもライ麦や大麦の栽培は可能です。中南部では、ライ麦から作る黒パンはまずいからライ麦はわざわざ作らないが、大麦は、他の作物との輪作により、飼料作物としてけっこう作っており、北部だけの専売特許ではないのです。大麦は、北方系やら南方系やらさまざまな品種があるので、麦類では最も栽培可能地域が広く、最も北まで作られるが大麦であり、南の方でもけっこう作られているのが大麦なのです。


10月21日 アルゼンチンの湿潤パンパは、混合農業? それとも、企業的牧畜?

 10月14日の記事「放牧・移牧・遊牧」に対して、次のような疑問を頂戴した。

新大陸で行われる企業的牧畜(企業的放牧業ともいう)では、牧場で家畜を放し飼いしているから、・・・アルゼンチンの湿潤パンパの肉牛または乾燥パンパやパタゴニアの羊であろうが、・・・すべて放牧。混合農業では、・・・アルゼンチンの湿潤パンパの肉牛であろうが、・・・、耕地で飼料作物を栽培してそれを家畜に与えるから、舎飼いであって、放牧ではない。

 と説明してあるが、企業的牧畜と混合農業の両方に、アルゼンチンの湿潤パンパが入っているのはおかしいのでは??

お答え それでいいんです。

 またまた鋭い疑問です。

 地図帳掲載の「世界の農業地域区分図」を,目を凝らしてみて下さい。湿潤パンパには,混合農業と企業的牧畜の両方の色がぬってあります。また、教科書あるいは地図帳で、「パンパの土地利用」というような名称の図を見て下さい。その図を見ても,湿潤パンパには混合農業と放牧の両方が分布していることがわかります。

 「パンパの土地利用」の図を見て下さい。家畜の種類は、混合農業の方は書いてないが肉牛(入試受験用の決めつけですが、南半球では豚の混合農業はないと思ってよい)です。放牧の方は主に牛(当然,肉牛)と書いてあるでしょう。そして,この放牧の部分が企業的牧畜地帯に当たるのです。

 というわけで、湿潤パンパについては、混合農業と企業的牧畜の両方の説明でとりあげていいのだ。どうだ、まいったか!

と,力んでみたが,我ながら大人気(おとなげ)ないですね。

(続報)
 「まいった!」と言うと思ったら、「わからん!」という答えと、さらなる疑問がやってきました。

ちょっとよくわからん・・
湿潤パンパでは混合農業なのでは?
 だから、企業的牧畜が行われている地域の例として、湿潤パンパをあげているのは、おかしいのでは?
もう少していねいに言いかえると、
 湿潤パンパは、年降水量500mmラインより湿潤な地域だから、混合農業地域になるんじゃないですか?
年降水量500mmラインは、湿潤パンパと乾燥パンパの漸移帯の企業的穀物農業地域(小麦帯域)の中に引かれるんですよね。だったら、500mmラインより雨の多い地域なら牧畜地域ではなく、農業地域になるはずですが。



お答え 決めつけ的な整理をして理解することは、受験勉強ではきわめて有効な方法であるが、ときには、なぜ、そうなるんだろう? と考えてみましょう。

こんち、さ〜らでごんす。お〜っと! どんどん突っ込んできますね。その調子で、深く追求しましょう!

 決めつけ的な受験勉強では、パンパの農牧業は、次のように整理して理解します。

  農業形態 作物や家畜
湿潤パンパ 商業的混合農業 とうもろこし・大豆・アルファルファなど+肉牛
漸移帯 企業的穀物農業 小麦
乾燥パンパ 企業的牧畜

しかし、それだけの理解では,説明できない部分があります。

 「世界の農業地域区分図」のパンパ付近をよくみると、企業的穀物農業地域の東の混合農業地域の、そのまた東に企業的牧畜地域があります。ここは、どう理解したらいいのでしょうか? また、「パンパの土地利用」の図にも、湿潤パンパに見られる放牧(主に肉牛)が分布しています。これは、どう理解すればいいのでしょうか?

 確かに、新大陸では、年降水量500mmラインが農業地域と牧畜地域の境界線になっており、それより乾燥する牧畜地域では企業的牧畜が、それより多雨の農業地域では混合農業などが行われています。そして、このことは、アメリカ合衆国で典型的に見られるが、パンパやオーストラリアにもあてはまるので、受験地理の基本かつ頻出事項です。

 しかし、これは、アメリカ合衆国では完璧にあてはまるが、南半球の南アメリカとオーストラリアでは、おお筋ではあてはまるものの、ちょっとした注意書きが必要です。というのは、アメリカ合衆国の企業的牧畜は主にBSの乾燥地域だけで行われているが、南アメリカとオーストラリアでは、BSだけでなく、Awでも広く行われているからです。すなわち、南半球の新大陸の場合、企業的牧畜の分布地域は乾燥地域だけに限定されないのです。そこで、南アメリカとオーストラリアの企業的牧畜は、次のように整理しておきます。

気候 主な家畜 代表的分布地域
BS 乾燥パンパ、パタゴニア、大鑽井盆地以南
Aw 肉牛 カンポセラード、リャノ、オーストラリア北部

 この場合、Aw地域の年降水量は、当然のことながら、500mmを上回っています。このことからわかるように、アメリカ合衆国とは異なり、企業的牧畜は湿潤地域にも分布しているのです。Awで混合農業が行われないのは、人口希薄で広大な土地があるから放牧で十分だし、気候的にも不向きだからです。

 アルゼンチンからブラジルにかけてのCfa地域は、混合農業だけでなく、Awではないけれど、企業的牧畜も行われています。そして、そこは湿潤地域なので牧羊には適さず(羊は乾燥に強いが湿潤に弱い)、Aw地域と同様に、肉牛の放牧が行われているのです。というわけで、「湿潤パンパ=湿潤地域だから混合農業」というのは、決めつけで、「湿潤パンパ=混合農業や放牧(企業的牧畜)」というのが、より正確です。よって、企業的牧畜地域の例として、湿潤パンパをあげるのは、確かにあまり一般的ではないかもしれないが、間違いではないのです。

 ところで、湿潤パンパでは、気候的に混合農業が可能なのに、なぜ、全域が混合農業地域とはならず、企業的牧畜も行われるのでしょうか?

 集約度の観点から見ると、企業的牧畜よりも混合農業の方が集約的です。ある地域で農牧業が発達していく場合、最初の人口の少ない頃は粗放的に行われ、人口の増大や販路の拡大により需要が増えれば、次第に集約的になっていくのが普通です。南アメリカの場合は、混合農業が可能な温帯の湿潤地域といえども、人口希薄な地域があるので、そこでは、混合農業に変化せず、粗放的な企業的牧畜の段階にとどまっているのだ、と考えられます。

以上。今回は,「まいったか!」とは申しません。「わかったような気がするかしらん」と言っておくにとどめましょう。


10月15日 イラクはスンニ派?シーア派?

 イラクはスンナ派? それともシーア派? 帝国書院の地図帳(P28)では、スンナ34% シーア62%。二宮書店の データブックオブザワールドではスンナ55 シーア45。 中東でシーアは非アラブのイランだけだと思っているのですが・・・

お答え 鋭い指摘です! 正確にはどっちなんでしょうねえ?

 世界中でシーア派が多数を占める国としては、センター試験ならば、もちろん、「イランはいらんことしーや」のイランだけで十分ですし、以下の駄文を読む必要もありません。私大を受験するなら、イランとアゼルバイジャンを覚えておきましょう。この2つは完璧にシーア派が多数です。他には、立命館大学で、バーレーンが出題されたことがあります。

 さて、イラクですが、よくわからないものの、恐らくシーア派が多いのだと思います。古今書院の統計でもシーア派60〜65、スンニ派32〜37とあります。

 確かなことは、支配政党のバース党は世俗政党ではあるが、基本的にはスンナ派の政党であることと、ペルシャ湾に近い南部にシーア派住民が多く住んでいることで、そのことが、イラン・イラク戦争の背景(シャトルアラブ川をめぐる国境紛争というのは口実)だということです。この戦争は、革命でシーア派の国になったイランに対して、シーア派革命の波及を恐れたイラクが、イランのシーア派政権を揺さぶって弱体化させるべくしかけた戦争です。イラク南部に住むシーア派住民がイランの後押しで決起するのを恐れたわけです。革命で混乱しているからすぐにつぶせると思ってしかけたが、予想に反してイランが強かったため、アメリカ合衆国もイラクの味方をしたのに、てこずって、ずるずると長引き、最後はどっちかが勝ったか負けたかわからなくなっちゃいました。精選問題集p62に関連解説があります。また、湾岸戦争後、イラク北部のクルド人居住地域と南部のシーア派住民居住地域の上空が、今度はイラクの敵になったアメリカ合衆国(多国籍軍だったか?)により飛行禁止区域にされて、イラクにとっては、自国の領空でありながら、イラクの軍用機が飛んではいけない区域とされたことがありました(今もそうかな?それとも解除されたかな?)が、これも、アメリカ合衆国に言わせると、イラクが両地域の住民をいじめてきたから、そういうことをさせないようにするためだそうです。なお、これは、かなりおおざっぱな説明なので、本当に関心のありこのいい加減な解説を不満と感じた人は自分で調べて下さい。

 イラクに限らず、ペルシャ湾岸にはシーア派住民が多く、立命館大学の問題で問われたことのあるバーレーンのように、シーア派が圧倒的に多い国もあります。ところが、バーレーンも含めて支配者はみなスンナ派なので、シーア派革命(君主制など既成の体制を倒してシーア派の共和国をつくる運動)の波及は、イラクばかりでなく、クウェートなど湾岸の8つの君主国にとっても迷惑このうえないことと恐れられています。イラン革命直後にこれら8つの君主国がGCC(湾岸協力会議)を結成した目的もこの波及を防止するためで、イラン・イラク戦争の際には、GCC諸国はイラクの味方をしました。でも、後の湾岸戦争の頃以後は、クウェートがイラクに攻められたから、当然、反イラクです。アメリカ合衆国といいGCCといい、昨日の味方は今日の敵! 国際政治においては「未来永劫にあなたの味方よ」なんて言葉は信じられないのであります。

 というわけで、イラクの比率については確かなことは言えず、また、イラクについて問われることはないだろうが、大事なことは、イラクを含めて、ペルシャ湾岸の国は支配者がスンナ派だがシーア派住民がけっこう多くいて、それが、この地域の政情不安の一因になっているということです。なお、湾岸地帯以外では、レバノンやイエメンなど、多数派ではないがシーア派が比較的多い地域もいくつかあります。


10月14日 放牧・移牧・遊牧

 放牧という単語はUSAだけで使うと考えていいのですか?  ヨーロッパでは移牧だし、中央アジアでは遊牧だし。 それとも混合農業のときの家畜を飼うことを放牧というのかな?  あと、NZとオーストラリアでも放牧?

お答え 馬鹿もーん!

 受験勉強もいよいよ佳境に入ってきつつある時期なので、マニアックな疑問以外に、超基本の疑問も掲載することにした。上記疑問は、受験生でも、見る人が見れば、何を寝ぼけたことを言ってるんだい?というレベルの疑問ですが、このレベルがわからない人は、けっこういると思います。

 放牧とは、家畜を放し飼いすることです。 放牧の反対言葉は、舎飼い。これは、畜舎で飼うことです。わかりる?

 放牧の場合、家畜は、その辺に生えている草を自分で喰んで育っていきます。一方、畜舎いでは、人間がエサを与えて育てます。

 新大陸で行われる企業的牧畜(企業的放牧業ともいう)では、牧場で家畜を放し飼いしているから、アメリカ合衆国のグレートプレーンズの肉牛であろうが、アルゼンチンの湿潤パンパの肉牛または乾燥パンパやパタゴニアの羊であろうが、ブラジルのカンポセラードの肉牛であろうが、ベネズエラのリャノの肉牛であろうが、はたまた、オーストラリアの大鑽井盆地の羊であろうが、オーストラリア北部の肉牛であろうが、すべて放牧。

 混合農業では、ヨーロッパの肉牛や豚であろうが、アメリカ合衆国のコーンベルトの肉牛や豚であろうが、アルゼンチンの湿潤パンパの肉牛であろうが、いずれも、耕地で飼料作物を栽培してそれを家畜に与えるから、舎飼いであって、放牧ではない。購入した飼料を与える場合も放牧ではない。

 スイスの酪農などは移牧形式で行われるが、こいつは、舎飼いと放牧の組み合わせです。冬は麓で舎飼い、夏は山の牧場で放牧。冬は、夏の間につくって麓まで運んできておいた干し草を与えます。

 ニュージーランドの酪農は、牧場面積が広大で、冬も草が枯れないから、一年中放牧。デンマークや五大湖周辺の酪農は、畑で栽培した飼料作物を与えるので、舎飼い。

 遊牧では、どこであろうと、家畜は広大な草原で自然に生えている草を喰って大きくなるから、これは放牧。

 家畜の種類で言うと、牛(肉牛・乳牛)は舎飼いされたり放牧されたりする。羊はたいてい放牧。豚は絶対に舎飼いで放牧はない。群をつくって移動するくせのある動物は放牧で飼うことができるが、群をつくらない家畜は放牧されない。特に遊牧では絶対無理だね。豚の遊牧は絶対にないし、遊牧以外でも、恐らく放牧はないんじゃないかな? 奇特な人が自然農法とか言ってやっていることはあるかもしれないが、大規模なものはないだろうね。今月の「読むと元気が出るかもしれない至言・格言」は、「思いもよらぬことは起こると思え!」なので、その流儀でいくと、世界のどこかには、豚の放牧を大規模にやっているところがあるかもしれないが、少なくとも試験には出ない。


10月9日 所得と食料消費の関係について

 下の表は、世界の各国を1人あたり所得水準によって6段階に分類し、所得と食料消費を示したもの(荏開津典生『飢餓と飽食』より)です。この表から、平均所得の上昇とともに、1日に摂取する食事エネルギーが上昇していること、そして、その上昇は動物性食事エネルギーの増大に負っていることがわかります。そこまでは理解できるのですが、この表をよく見たところ、2つの疑問が湧いてきました。
(1) 植物性食事エネルギーの摂取量は、V・Wグループが一番多く、それより所得水準の高いX・Yグループが少ないですね。植物性エネルギー摂取量は所得水準と相関関係がないようですが、それが不思議です。なぜですか? 
(2) 動物性食事エネルギーの摂取量は、所得水準とかなり相関関係がありますが、UグループがVグループより多いのが気になります。これはなぜですか

所得
階層
平均所得
(ドル)
食事エネルギー
(kcal)
植物性エネルギー
(kcal)
動物性エネルギー
(kcal)
T   187  2125   2014   111  
U   340  2294   1991   302  
V   644  2426   2259   167  
W  1938  2797   2407   390  
X  8350  3358   2107   1251  
Y  13440  3396   2104   1292  


(1)のお答え 人間の食う量には限りがあり、おかずを多く食えばご飯はたくさん食えません。

 今日は、昨日とは別の隠れG-SALANDERさんからの疑問です。

まず、(2)の疑問、すなわち、Uグループの動物性が多い理由は、調べないと確証が得られないのですが、恐らく、遊牧地帯の国がこのグループに多いためではないかと思われます。お答えはもう少しお待ち下さい。

次に、(1)の疑問ですが、それは、次のような理由によります。
 V・Wグループで植物性エネルギー摂取量が多い理由:Tグループもそうだが、モンスーンアジア・アフリカの途上国では、穀物やイモ類などでんぷん質の摂取量が多いからです。
 X・Yグループで植物性エネルギー摂取量が少ない理由:動物性を多く食う場合、必然的に植物性を食う量は減るからです。日本でも肉を多く食うようになったら米をあまり食わなくなり、米が余る原因の一つになっていますよね。

したがって、所得水準と、食事エネルギーの内訳の関係を整理すると、次のようになります。

最貧国 :植物性も動物性も少ない
普通の途上国 :植物性が多く動物性は少ない(遊牧国は例外)
先進国 :動物性が多くなり、それとともに植物性が少なくなる

 人間の食う量には限度というものがあるので、所得の向上により、動物性も植物性も、ともに限りなく増える、と言うことはありません。動物性が増えれば植物性が減っていき、植物性が減っても動物性から多くのエネルギーを得るので、摂取する合計の食事エネルギーの熱量は増えます。

 植物性は、所得水準の上昇とともにまず増えるが、所得水準がうんと高くなって動物性が増加すると、今度は減少に転じるのです。だから、植物性が、V・Wグループで多く、X・Yグループで少ないことは不思議ではありません。

 ちょっと不思議なのは、(2)の疑問、すなわち、Uグループの動物性の多さだが、これは、冒頭に書いたように、その理由を私は遊牧に求めます。Uグループにどんな国が属すのかを調べていないので、確証はありませんが、たぶんそうだと思います。調べがついたらお答えします。

 動物性が多いか少ないかは、単に所得水準だけでなく、食文化の影響も受けています。たとえば、日本は所得水準はきわめて高いが、その割には動物性の摂取量が多くありません。逆に、アルゼンチンは所得水準はそんなに高くないのに、その割には動物性の摂取量が多いのです。食生活のタイプが、肉をよく食う欧米型なのか、穀物をよく食うモンスーンアジア型なのか、ということも考慮する必要があります。また、韓国や中国は、日本より所得水準は低いが、食事エネルギーの摂取量は日本とそんなに変わりません。摂取量は体格の影響も受けます。身体の大きな人はたくさん食べ、小柄な人はそんなには食べません。日本人は小柄な人が多かった(最近はそうでもないかもしれませんが)から、所得水準の割に食べる量は少ないと思います。私はかつて、「デブはデブを呼ぶ」という格言を作ったことがあります。周囲を見回すと、一般に、太っている人は肉をたくさん食べるようです。そして、たくさん食べるから、さらに太るようです。そういう人でも、インドで1ヶ月ばかり暮らし、現地の多くの人と同じように、肉を食わないでいると、みるみるうちに痩せるはずです。ついでに、下痢でもすれば、一層効果的に痩せることができるでしょう。が、太っている人は、効果が現れる前に、音をあげてしまうでしょうね。

 私自身も、むかしに比べれば少し太めになりましたが、むかしよりも肉を食う量が増えているような気がします。食欲の秋には、秋の実りをたくさん食べるようにしたいものです。秋の実りは植物性ですから、少々たくさん食べても大丈夫です。秋の実りをたくさん食えば、いいうんこがもりもり出て、気持ちいいですよね!


10月8日 インドの小麦

 今日、Eメールが飛び込んできて、隠れG-SALANDERの若い友人から、たいへん鋭い疑問を頂戴しました。入試地理の範囲を超えていますが、公開させていただきます。

インドとパキスタンにまたがるパンジャブ地方はかなり乾燥しているが、灌漑設備が整っているため、小麦の大産地になっている。これは理解できますが、ここは、小麦を作るにはUSAとかヨーロッパと比べると生育期の気候が暑すぎるのではないか? という疑問を持ちました。どうでしょうか?

お答え 品種が違うのです。なお、「熱帯の小麦なし」は正しいが、ここは熱帯ではありません。

 鋭い疑問です。したがって、お答えは、入試地理の域を超えざるを得ませんので悪しからず。

 「小麦は冷涼を好む」といわれていますが、正確には、生育初期に冷涼期が必要ということで、生育期間全体が冷涼では実りません。普通の小麦は冬小麦で、秋まいて冬の間は丈が短い段階のまま、じっとしていて、春になって暖かくなるとぐんぐん伸びていきます。「過保護は人のためならず」といいますが、冬小麦も同じで、子どものときに低温にあわないと、たくさん穂が分かれて花が咲いていっぱい実ることができないようです。

 これとは別に春小麦というやつがあります。入試用には「冬小麦は温帯で、春小麦は冷帯で栽培する」と理解し、これ以上の理解は不要ですが、インドの小麦の種類を説明するためにはこの春小麦の詳しい説明が必要なので、仕方がありません、ちょっと深入りします。

 入試用には、春に種をまくから春小麦というのだという理解で十分なのだが、実は、この春小麦(春まき性小麦)とは、低温をあまり要求しないという特性をもつ小麦を指すのです。低温を要求しないということは、冬を越す必要がないから、春まいて秋に収穫するわけです。だから、春小麦は、普通、寒冷地において、春まいて秋収穫するのですが、実は、この春小麦というやつは、秋にまいてもちゃんと実るのです。しかしながら、こいつは耐寒性がないので、普通の温帯で秋にまくと越冬できず、枯れてしまいます。だから、普通の温帯では秋に冬小麦をまき、春小麦はまきません。春小麦は、冬小麦が栽培できないような冷帯の寒冷地で栽培されるのです。

 ということは、温帯の中でもかなり暖かいところでは、春まき性の小麦を秋にまいても十分越冬できるわけで、そういう暖かいところでは、低温を要求する冬小麦より、こいつの方が適しているということになります。したがって、インドやパキスタンやメキシコでは、なんと、春まき性の小麦を、冬小麦のように秋まいているというわけです。実は日本の九州や四国でもそうなんです。そして、緑の革命ってご存知ですよね。あれは米だけでなく小麦でも行われているのだが、その多収量品種の親は、なんと日本の春まき性小麦を親にして改良されたものなのであります。有名な事実ではあるが、びっくりですねえ。

 春小麦は、生育初期の低温を要求しないかわりに、耐寒性に乏しい、という特性のために、その栽培地域は、冬が寒く冬小麦ができないような寒冷地と、あまり低温にならないために冬小麦の栽培に向かない温暖地、の両方がある、ということになります。

 以上、ちょっとマニアックになりましたが、入試対策としては、インドの小麦は品種が違うのだという理解で十分ですし、それすら不要です。本当は春まき性の小麦(春小麦)なんだけれど、秋まくという点では冬小麦と同じだから、入試対策としては、このことは忘れていいでしょう。むしろ、播種期が10〜12月、収穫期が3〜5月で、ヨーロッパやアメリカ合衆国の小麦に比べて、生育期間がたいへん短いという点の方が重要です。播種期や収穫期については、小麦カレンダーで確認しておいて下さい。