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2000年3月の疑問

★ 疑問、議論、および回答への不満は右まで→ 掲示板


おすすめ記事 2月(インディヘナ 大鑽井盆地 英国 マラ) 1月(テラロッサ アーケード) 1999年12月(大晦日 12/26 


3月29日 サンゲンアジャホの舞台裏(2)

 続きです。が、サンゲンアジャホの舞台裏で、公表すべきことは、もうありません。その日の夜、モンゴル語専門家のY恵さんに電話して、ほぼ完全に納得です。

二回目のお答え  かつさん、私の頭は、今日は一日中、サンゲンアジャホで、アホみたいでした。
   国営農場でいいようですね。
 知り合いのモンゴル語専門家に聞いたところ、正調(?)モンゴル語では、「サ
 ンギーンアジアホイ」と発音し、「サン」が「国」で、「サン・ギーン」が「国
 の」、「アジ・アホイ」が「経営」という意味らしいです。
 ネグデルがソ連のコルホーズに、サンギーンアジアホイがソホーズに対応するが、
 ソ連と違うのは、ネグデルが牧畜主体、国営農場が農業主体。
 食料自給をめざし処女地開拓によってつくられたのが国営農場。
 麦やジャガイモなんかを作っていたが、モンゴル人はジャガイモなんか食べない
 ので作っても家畜のエサにするばかりだったとか。
 かつさんのおかげで、また一つ利口になってしまった。愉快ですね。
かつさんの書込  感謝感激,あめあられ!!です。
   とっても勉強になりました。
 なんか気持ちがいいですね!

 疑問を頂戴したお方に、このように言われると、さ〜らは素直に喜んでしまい、気分うきうき状態がしばらく続きます。ネットは楽しいな!って感じで、更新意欲も大いにわきますね。おだてにのせられやすい部類の単純人間なんです。

 今年合格した若者が、「さ〜らさん、ジオゴロだとか疑問コーナーだとか設けて得意になっているようだけど、まずくないですか。手のうちをどんどん公開して、もったいないじゃないですか。大事なことや舞台裏は、本業の授業の中だけで話して、さ〜らさんの授業を受けていない受験生や、さ〜らさんと同業の人には秘密にしておいてほしいですよ。」というような内容のことを言って、心配してくれたことがある。私にも見栄があるので、その場では、「なるほど、そうだねえ。」と答えておいたが、内心では、以下のような諸々の理由を頭に描いて、「馬鹿なこといっちゃいけません。」と思っていた。

(1) 商売柄、仕方のないことであるが、G−SALANDには、内容上のオリジナリティは乏しい。
 見栄、というのは、このオナページにはさ〜らにしか書けないような大事な内容が盛り込んであるんだぞ、と言いたい見栄です。本当は、ものの本に書いてあったり、知り合いの専門家に聞けばすぐわかるようなことを書いているにすぎないし、オリジナル的な部分は、その場の思いつき程度のお粗末なものです。一言で言えば、他人の褌と更新時のひらめきだけを頼りにした駄文の寄せ集めにすぎません。その点では、私が携わっている本業に似ています。本業における私の役割は受験生の得点アップにあり、そのためには、他人が一生かかって発見したり作り出したりした事柄を、あっという間に受験生に理解させる必要があります。難しいことでも、聞いた人が短時間ですーっと理解できるように、わかりやすくかみくだいたり整理したりして話すのが商売でして、話す内容にオリジナリティはありません。もし、オリジナルな珍説を開陳すれば、受験生はひどい迷惑をうけちゃいます。

(2) 自ら楽しむオナページなので、G−SALANDにはウソの珍説が含まれる場合もある。
 本業と違うところもあります。本業と違って時間的制約がないので、説明もだらだらで、脱線も多いですね、また、本業では珍説の開陳はしないが、このオナページではします。わたしの信条の一つに、「ネットに書いてあることは半分うそと思え。」というのがありますが、私が発信している情報も例外ではありません。ネットサーフィンによってG−SALANDをみつけ、「おっ、こりゃ勉強になるじゃん!」と感じて、さ〜ら発信の情報を何の疑問ももたずにまるまる信じ込む人がいたら、それはまずいですよ。このオナページは、私の個人的楽しみのためにやっておりまして、他人さまのためにやっているのではありません。だから、一見、役に立ちそうに見えて、実は、各所にまき菱がちらしてあり、疑うことを知らずに利用した人は、思わぬ傷を負うやもしれません。G−SALANDは、さ〜らの本業の授業を受けていない受験生や同業者を惑わすためにつくられているのかもしれない、というぐらいまで深く疑っておつきあい下さるのがいいと思います。

(3) G−SALANDの内容が有益であったとしても、G−SALANDを見る受験生はきわめて少ない。
 また、今年受験した生徒でネットができる環境にある人はきわめて少なく、さらに、受験生でG−SALANDを見てくれた人は日本国中で最大でも10人程度だろうから、実質的には公開ではないのです。でも、ネットは急速に普及しつつあるから、この4月からの受験生の場合、あるいは、その次の年は、っていうことになると、より多くの人が見てくれるようになるでしょうね。そうなると、価値ある情報や裏舞台を公開すればもったいないじゃないか、と言ってくれた先の若者の心配が真実味を帯びてきます。ネットのできる受験生とできない受験生が半々ぐらいになる日は近いでしょうね。そうすると、ネットができる受験生は、G−SALANDのような有益なページを見ることができるから有利で、できない受験生は不利、という状況になるんではないかと予想する人がいるかもしれません。

(4) G−SALANDが有益なHPであったとしても、受験生はG−SALANDだけを見るわけではない。
 でも大丈夫です。ネットのできる受験生が有利ということにはなりません。ネットは受験生活に不向きなんです。ネットができる受験生は有益な情報を得るチャンスも多いが、掲示板でのおしゃべりなど無益な行為によってきわめて膨大な時間を無駄にしてしまう可能性もまた大なんです。私はこの1か月間、暇だったので、受験生らの群がる掲示板をかなり多く巡回して、ネット生活をしている受験生が志望大学に合格したかどうかを調査しました。もちろん、調査といっても、科学的な方法ではありませんが、私の印象では、ネット生活に深入りしている人たちの第一志望大学合格率はかなり低いですね。私が本業で担当したクラスに比べて格段に低いようです。今年(1999年4月〜2000年3月)の担当クラスでは、ネットのできる人は、20人のクラスでなら1人という程度の割合でした。G−SALANDは、一見、受験生のためのページという装いをしており、内容の大半も受験生向けですが、実は、受験生向けのHPをつくること自体が、結果として、受験勉強の邪魔をすることになるのであります。

(5) 面識の有無を問わず、同好の仲間が、互いに疑問を出し合い、互いに賢くなる、これがネットの効用。
 ネットの利用は、よほど注意しないと、受験生活の邪魔になるが、この調子でいくと、利用者は急増していくでしょう。ネット時代は情報公開時代でもあります。自力更生と秘密主義をかたくなに守り、秘伝・元祖「合格術」家元なんてことを言って、やっていける時代は終わりです。これからは、改革・開放でいかざるを得ないでしょう。互いに市場開放し技術交流をして競い合ったり、外の資本・技術を積極的に導入したりして、競争力をつける時代の到来です。疑問に答えるのは、疑問を出してくれた人のお役にも立てますが、実際は、答える方の役に立っていることの方が多いと思います。ジオゴロのような実利的な裏技も秘密にしておかずに公開すると、「私はこんなのも考えました。」と言って、新ネタを教えてもらえます。公開したネタよりも、公開することによって新たにもらえるネタの方が、質が高いことが多いし、数のうえでも多いのであります。

というわけで、本日は、大幅に脱線しましたが、これもまた、「舞台裏公開」に関連するお話です。


3月26日 サンゲンアジャホの舞台裏(1)

 以前、何かの参考書にモンゴルの大土地所有制か何かの名前で「サンゲンジャホ」という名が載っていました。「サンゲンアジャホ」って何ですか。(掲示板3月21日の夜)

最初のお答え この日が来ることを恐れていました。情けないことに、「知っりませーーーん」 「誰か知っている方は教えて下さーーーい!」 受験地理用語であるらしいにもかかわらず、このように、お答えしなければならない日が来ることをであります。(掲示板3月22日の朝)

 初登場、かつさんの疑問です。知りませんでしたので、夜を徹して調べました。「モンゴルの大土地所有制」というヒントがあったので、革命前の制度かと思ったが、「はて? 遊牧民が土地所有にこだわるだろうか?」と不思議な気がしました。遊牧における放牧地のなわばりみたいなものだろうか? それとも、内モンゴル辺りで漢民族が農地を拡大していくときにできた地主制あるいは屯田制度みたいなものだろうか? あるいは、ラマ廟に寄進される土地のことだろうか? 遊牧民でも寄進地なら所有になるのかな? などなどと、考えてみましたが、へたな考え、休むに似たり、でありますから、調べるべし。手持ちの新書・文庫の類とモンゴル史概説書をひっくりかえして、ザザザザザッと、ページを繰ること、3時間。

 さ〜らは、今を去ること、ん10年前、チベット高原に行ったことがあるので、ラマ教がらみや遊牧がらみの文庫本がけっこうありまして、さらにまた、知り合いに西アジア史研究家がいて、そいつが西アジア・中央アジア専門であるにもかかわらず、モンゴル好きだったので、彼にすすめられるままに買いちらかした(読みちらかしたわけではなく積ん読に終わっていただけの)本もそこそこありました。それらの本を手にすると、昔のことが思い出され、懐かしい気分になりながら、パラパラ読みのつもりが、つい、中身まで読んでしまったりで、時間はどんどんすぎていきました。

 いろいろ懐かしんでいるうちに、1985年の夏にチベット高原でしでかした大失態まで思い出してしまいました。日中友好学術登山隊というたいそうな名前の隊に参加したのですが、標高約5000mの高原上で、気圧が低く空気が薄い(酸素量は低地の1/2)ためか、大仕事が終わったあとは、みな頭が呆けてのほほんとしていました。それだけならいいのだが、腹の具合も芳しくなく、招待所と呼ばれる簡易ホテルみたいなところで宴会があった晩の翌朝、まだ暗いうちに便意を催しまして、枕元においてあったはずのトイレットペーパーを手探りで捜しているうちに、括約筋がゆるみはじめ、こりゃいかん、ベッドの中で排泄がはじまりそ〜だ〜、こんなところでやったら「寝糞」になってしまう、紙はもういい! 便所に向かって走るべし!

 便所は、招待所の前の道路をわたったところにあるので、大急ぎで、廊下を通って、建物を出ました。廊下といっても土間です。寝ている部屋も、土間にベッドがおいてある、という造りになっていました。ところが、ところが、です。今思い出しても、泣けてきます。廊下を走っている途中から、括約筋は完全にゆるんでしまい、建物を出て庭にでたときは、便所まではまだまだ遠いというのに、すでに全部出し切っていたのです。

 世界広しといえど、走りながら糞をしたって経験をもつ人は、そうはいないでしょうね。歩きながらじゃありませんよ。走りながらです。それも20歳代ですよ。青年さ〜らは、チベット高原で走りながら糞をしてしまったんです。情けないじゃありませんか。これではもはや青年とは言えませんね。わたくしの老化はこのときから始まりました。以来、知り合いからは「サカじい」と呼ばれ、「青年さ〜ら」と呼んでくれる人は誰もいなくなりました。

 はて? 何の話でしたっけ? そうそう、モンゴルのサンゲンアジャホでしたね。こんな調子で、調べは遅々として進まず。あきらめかけていたとき、ようやく、「おっ、そうだ! ネットで検索してみよう」と思いつきました。普通なら、まずネットで検索、なんでしょうが、古いタイプの人間なので、まず本に当たる癖がついていてダメですね。

 ネグデルは山ほどあり、サンゲンジャホは1件ありました。広島大学の地理学科の学生らしき人のHPの地理学マニアッククイズの上級編に問題として出ていました。「次の中から、モンゴルの国営農場に該当するものを選べ。@サンゲンアジャホ Aネグデル Bモシャブ」だったかな? 「はは〜ん、これだな。ということは、サンゲンアジャホは国営農場ってことだな。掲示板には、とりあえず、HPの紹介だけしておこうっと。」

 恐らく、モンゴル語で国営農場のことをサンゲンアジャホというのだろうが、腹のそこまで納得とはいかない。古いタイプの人間で、「ネットに書いてることは半分うそと思え」を信条にしているので、信用しきれないのであります。そこで、また、ものの本で、モンゴルの農牧業集団化について調べてみると、ネグデルと国営農場についてはいろいろ書いてあるが、国営農場のことをサンゲンアジャホと書いてくれている本はない。仕方がないので、再びネットでいろいろ見たが、ない。そうこうするうちに朝になった。朝になればしめたものだ。知り合いのモンゴル語専門家のT岡Y恵さんに電話して聞けばいいのだ。電話した。が、すでに家を出たらしい。朝あまり早いのも失礼だと思って、8時すぎに電話したのがまずかった。仕方ない。夜を待とう。

 という、わけで続きは後日。答えは掲示板を見ればわかるので、尻切れトンボでもいいのだ。


3月8日 湖沼国境について(附記)

 今日は珍しく仕事で町に出ました。仕事が終わって、仕事仲間、それから、待ち合わせしていた若者KN氏と連れだって、野郎5〜6人で喫茶店に入り、パフェやケーキセットを注文して、小一時間ほど談笑しました。KN氏は、6〜7年前に知り合いになった若者で、詩人です。ペンネームも持っており、今までに数多の詩を作ってきたが、惜しいかな、公に発表したことは、まだ、ない。

 KN氏からは1年に1回ぐらい連絡が来て会い、そのたびに、書きためてきた作品をプレゼントしてくれる。もらっても嬉しいような嬉しくないような。私は、彼が元気かどうか確かめるために会うだけで、彼の詩が読みたくて会うのではない。というのは、詩ごころのない私が評するのも変だが、今までもらった作品は、私に言わせれば原稿用紙とインクの無駄遣いにすぎないようなものばかりだったからだ。

 でも、今日は「あれっ」と思った。ちょっといい感じのものが多い。オレにも詩ごころがわかるようになってきたのかな? それとも、KN氏が化けて、詩人としての才能が花ひらき始めたのかな。言魂がKN氏に宿り、アポローンだかムーサの女神だかも味方して、詩やら音楽といった芸術的・文学的なるものとおよそ縁のない私ごときをも魅了する作品をものにする日が近いのかもしれない。

 いつになるかわからないが、彼の詩集が出たらお知らせしますので、そのときは、皆さんも読んで下さい。この話の続きは、その日までおあづけにします。

 さて、本題。昨日の記事の中で、「国際河川」、「国際海峡」、「国際運河」と併置して、「国際湖沼」という熟語を書いた。そのうち、「国際湖沼」については、私が思いつきで創造した熟語にすぎず、覚えてもらっては困ると思ったから、「そんな用語はありませんが」と但し書きしておいた。最初の3つは入試頻出の超重要用語だが、「国際湖沼」は造語なので入試には出ない。

 喫茶店を出てから、ふと、そのことが気になったので、本屋に寄ったついでに、国際法関係の本を立ち読みしたところ、その中に、なんと! 昨日の記事中の説明と同じ意味で「国際湖沼」という熟語を使った文章がありました。用語として熟しているかどうかは知らないが、ちゃんと使っているんですね。へえ〜、私一人の造語じゃなかったんだ。なんとなく愉快な気分です。


3月7日 湖沼国境について(続報)

 前回のお答えの中で、ロシアとイランに対して悪口を言っているように受け取られる箇所がありました。誤解されるといけないので、今日は、逆の立場から、補足説明をしておきます。

 カスピ海は、『理科年表』を見るまでもなく、普通は湖沼に分類されています。だから、ロシアとイランがカスピ海を湖沼扱いするのは、しごくまともです。また、両国が、「その管理や資源利用においては沿岸国の協議が必要」としていることについても、歴史的経緯をふまえれば、これまた、きわめてまともな見解です。

 カスピ海は、旧ソ連時代の早い時期から湖面水位が低下していました。これは、もともと、河川からの流入水の量や降水量に比べて蒸発量が多めだったことに加え、湖に流入するボルガ川水系で開発が進み、河川から都市・農業・工業用水をとりすぎたため、ボルガ川から流入する水の量がますます減ったためです。

 水位低下により(水質汚濁も相まって)、カスピ海ではチョウザメが少なくなり、カスピ海特産のキャビアの生産が減りました。沿岸漁民の生活が脅かされるだけでなく、カスピ海産のキャビアは最高級品として知られ、旧ソ連の外貨の稼ぎ頭、とまではいきませんが、外貨獲得源の一つでもありましたから、旧ソ連はたいへんな損失を受けます。また、キャビアはイランでもつくっています。損失は旧ソ連一国にとどまらず、当然、対岸の国イランでも発生しました。

 そこで、旧ソ連では、水位低下を防ぐため、北極海など北の方へ流れている川の水をボルガ川へ導く工事を行いました。これによって(主因は流域の降水量の増加ともいわれています)、ボルガ川の流量が増え、カスピ海の水位低下はおさまりました。ああ、よかった、と思ったら、今度は、流入量が多すぎて、1977年以後は水位上昇が始まります。そして、そのために、対岸のイランの沿岸集落は、洪水の被害をひんぱんに受けることになりました。

 このように、湖沼の場合は、国境線によって画された自国内なら何をしてもいいんだというわけには参りません。だから、その管理や利用については、沿岸国の協議が必要で、旧ソ連とイランはそういう立場でやってきたわけです。

 ところが、旧ソ連が解体し、沿岸国は5か国になりました。イランはもとより、旧ソ連時代の対外的なとりきめを継承したロシアが、「協議が必要」という従来からの立場をとるのは当然です。一方、ロシアと同じ旧ソ連の構成国だったとはいえ、新たに誕生したと言った方がいい他の3か国は、これから国づくりをしていく際に、ロシアの干渉はできるだけ排除したいと考えます。そして、これら3か国にとって、カスピ海の石油資源は今後の経済開発に必要な外貨獲得の頼み綱ともいえるほど重要なものです。今までどおり、湖沼の扱いにして「協議が必要」とすれば、ロシアやイランの干渉を受けることは必至です。そこで、考え出されたのが、海洋の扱いにすることでしょう。国連海洋法条約の適用を受ければ、領海と経済水域については排他的に独占管理できるからです。

 カスピ海は広いと言っても湖です。こちらの岸でやったことが対岸に即、影響を与えます。また、国際河川と同じように、交通路として複数国に利用されている点も見逃せません。交通路として重要な水域であるなら、河川に国際河川(領土内であっても船舶の自由航行が認められている河川)があり、海峡に国際海峡(領海内であっても船舶の自由航行が認められている海峡)があり、運河に国際運河(領土内であっても船舶の自由航行が認められている運河)があるように、湖沼にも国際湖沼(なんていう用語はありませんが)と呼ぶべきものがあってしかるべきでしょう。うんと広い海洋と同じ法律を湖沼に適用するのはまずいと思います。そう考えると、海とみなして領海や経済水域を設定しようとするアゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの主張よりも、「管理や利用は沿岸国の協議によって」というロシア・イランの見解に軍配が上がりそうです。

 前回は「強国のしたたかさ」を強調しすぎました。新参の弱小国がそれに対抗するには、手を変え品を変えて「悪智恵」を働かし、強国が思いもつかない裏技を使う必要があるわけです。と、いうわけで、今回は「新参者である弱小国の裏技」を強調しておきます。なお、今回も、理屈ではそうなる、というにすぎませんので、あしからず。


3月4日 湖沼国境について

 例年、受験生のなかに「質問小僧」という輩がいます。彼らの頭の中はどういう構造になっているのか、試験に出ないような細々とした疑問がどんどん湧いてくるようです。世の中には、赤子の手をひねるように、簡単に解決できる問題と、一生かかっても解決できないような問題とがあります。真の勉強のおもしろさは、後者の解決にあるはずで、簡単な問題を解決して、赤子の首をとった気分に、えっ? 失礼! 赤子の首をとったらいけませんね、もとい! 鬼の首をとったような気分になり、天狗になっていてもつまりません。そうではありますが、受験勉強というのは、真の勉強ではありませんので、わからないことは、わからないとしてほったらかしにしておくか、いい加減なこじつけ説明に甘んじることにして、次に進まないと、受験に必要な学習範囲全体に手がまわらなってしまいます。だから、受験生が「質問小僧」になりすぎるのも考えものです。

 このところ、オナペットクラウンさんが出され、さ〜らが嬉々として調べお答えしている疑問は、「質問小僧」的な、いわゆるマニアの疑問です。そのため、本来、受験生のために設けてある「今日の疑問」コーナーが、受験生が立ち入ってはならない「18禁」的な「禁断の疑問」コーナーと化しています。オナペットクラウンさんもさ〜らも大人であって、受験生ではないので、これは仕方のないことです。

 今日の疑問は、掲示板からそのまま持ってきたもので、文章が長いですよ。「18禁的禁断の疑問」コーナーの場合、疑問が高級なので、答えよりも疑問の方が文章が長いこともあります。

明治の政経学部の地理にカスピ海についての問題がありました。

「・・こうした資源の保有をめぐって、周辺国で「湖」か「海」かとの論争が絶え
ない。資源の埋蔵量が多いとされているアゼルバイジャンなど3カ国は「海」だと
主張し、ロシアと[ 5 ]は「湖」だと主張している。」

という文章の空欄に適切な語句を記入せよ、というものです。

空欄5は国名が入ります。かなりの難問ですが、『イミダス』で調べたら、難なく
イランとわかりました。ちょっと引用します。

「アゼルバイジャンは、「カスピ海は海である」と見なして沿岸国が独占的開発権
を持つと主張、・・(中略)・・これに対して、ロシアは、「カスピ海は湖であ
る」と見なしてその地下資源が沿岸5カ国(ロシア、アゼルバイジャン、カザフス
タン、トルクメニスタン、イラン)すべての共有物であり、その開発のためには全
5カ国の協議が必要と主張、アゼルバイジャンが欧米企業との間に行った油田開発
契約に反対し、イランも共同歩調をとっている。」

カスピ海が「海」なら国連海洋法条約が適用されて、沿岸国の排他的経済水域が設
定できる、「湖」ならそれはできないということなんでしょう。「カスピ海が海か
湖か」というのはどうでもいいんです。問題はロシアの主張です。湖ならどうして
その地下資源が沿岸国すべての共有物なんでしょうか?
 変だと思いませんか?

平凡社の百科事典によると、国境の項目に、「湖または内海が二つ以上の国家の間
にある場合は,原則として,特別の合意が湖または内海の国境を規定する。特別の
合意がなければ,それぞれの沿岸国に属する岸からの中央線が国境になる。」
とあ
ります。

カスピ海は5カ国にまたがるのですから、私はその中に5カ国の国境線が引かれて
いるのだと思っていました。国境線が引かれているのなら、カスピ海が5カ国で分
割されているだけの話で、国境線の内側では、他の国に遠慮することなく油田開発
でも何でもできるはずですね。

ところが、ロシアは資源は共有物であるといっているのです。ロシアの主張に根拠
があるなら、これはカスピ海には国境線が引かれていないということを意味してい
るのではないでしょうか。確かに、地図帳にはカスピ海に国境なんて引かれていま
せん。5カ国にまたがる湖であるカスピ海は、いわば「公海」の状態で、どの国も
自由に利用できる無主の空間なのではないでしょうか。

カスピ海に限らず、大はスペリオル湖から小はレマン湖まで、その他の2か国以上
にまたがる湖の国境はどうなっているんでしょうか? 百科事典のいうように、き
ちんと設定された国境なんてあるんでしょうか? それとも、いわゆる湖沼国境と
いうものは、山岳国境や河川国境のような線としての国境ではなく、面としての湖
全体が国境なんでしょうか? あるいは、湖の中には国境はなくて、沿岸に国境が
あるんでしょうか?

ついでに、日本で数少ない県境となっている十和田湖(青森・秋田県境)や中海(
鳥取・島根県境)の場合はどうなんでしょうか?

 お答え 湖沼は領土に含まれます。

 湖沼は、河川や湾と同様に、陸地に囲まれた水面、すなわち、内水であり、領土の概念に含まれます。 領海ではありません。したがって、平凡社の百科事典に書いてあるように、二つ以上の国家の間にある場合は、特別の合意によって沿岸国によって分割され、湖沼国境は、湖の中に線としての引かれた国境です。もちろん、その合意がないこともあり、その場合、原則では、やはり百科事典のいうように、岸からの中央線が国境になるのだが、これはあくまで原則であって、合意がないということは、国境未確定地域と同じ扱いになります。

 湖沼国境における国境線の確定状況を一覧表を作成しました。受験生ではなく、大人の方が力を合わせ、みんなで調べて、空白を埋めていきましょう。

湖沼国境の例 領有権をもつ沿岸国 国境線の
確定状況
備   考 (ジオゴロ)
カスピ海 ロシア・イラン・
カザフスタン・アゼルバイジ
ャン・トルクメニスタン
  × 湖沼か海洋かをめぐる見解すら相違あり。
ロシア・イランは湖沼と主張、他の国は海洋と
主張。
アラル海 カザフスタン・ウズベキスタン   ○  
スペリオル湖 アメリカ合衆国・カナダ   ○ 面積約8万2360km2のうち、2万9000km2がカナダ
に属する。
ヒューロン湖   同上   ○  
エリー湖   同上   ○  
オンタリオ湖   同上   ○  
レマン湖 スイス・フランス   ○  
ボーデン湖 スイス・ドイツ・オーストリア   ○  
ビクトリア湖 ウガンダ・ケニア・タンザニア
  ○
試験を受けたらビクトリー
タンガニーカ湖 コンゴ民主・タンザニア・ザン
ビア
  ○  
マラウイ湖 マラウイ・モザンビーク   ○ タンザニアは領有権をもたない?
トゥルカナ湖 ケニア・エチオピア   ○  
キブ湖 ルワンダ・コンゴ民主   ○  
チャド湖 ニジェール・チャド・カメルー
ン・ナイジェリア
  ○
ちゃん、かめないで、え〜んかい?
死海 イスラエル・ヨルダン   ○  
チチカカ湖 ペルー・ボリビア   ○  
カリバ湖 ザンビア・ジンバブエ   ○ カリバダムによる人造湖。ザンベジ川扱い?
  ブラジル・パラグアイ   ○ イタイプダムによる人造湖。パラナ川扱い?

 カスピ海についてですが、自国の沖に地下資源が少ないロシアやイランにとっては、海洋扱いにすれば資源の利権を主張できないので、湖沼だと主張するのでしょう。湖沼でも、きちんと合意をして国境を確定してしまったり、中央線を国境にすることを認めれば、これまた、利権を主張できない可能性が高く、よろしくないので、未確定扱いにしているわけです。未確定にしておけば、資源の利用には協議が必要ということになり、利権にありつける可能性が出てきます。ロシアやイランは他の3か国より強国意識が強く、事実、強国ですから、舌戦では負けず、いざとなったら軍事力にものを言わせることもできるわけです。湖沼として扱って、軍事力を背景に協議すれば、合意によってカスピ海全域をロシアの海にできる可能性だって残せます。

 さらに言えば、領土と同じ扱いなので、必ずしも、線としての国境線を引かなくたっていいわけです。例えば、共有の領土という手があります。ロシアが他国との間で、領土を共有した事例は、歴史的にもありまして、それは、他ならぬ日本との間で、1867(慶応3)年〜1875年までのごく短い期間ですが、サハリン(樺太)を共有した事例です。1875年の樺太・千島交換条約によって、サハリン(樺太)はロシア領、千島列島は日本領となりました。もちろん、その後、いろいろあり、第二次世界大戦後、両国の間には北方領土問題が発生し、今なお未解決であります。さらに、さらに言えば、国境未確定地域にしておいて実質的には占有して実効支配するという手もあります。強い国ほどいろんな手が使えて、したたかです。

 なお、県境になっている十和田湖ですが、日本では、県境、市町村界を問わず、たいていは、きちんとした線で境界が決まっています。漁業権というものもありますし、管轄意識の強いお役所が、面として共有したり、無主の水域にする、などというしゃれたことをするはずがありません。未確定の場合はもちろんあるかもしれませんが。

 以上は、すべて私の想像した推論です。理屈ではそうなる、というだけで、実態をふまえた根拠はありませんので、あしからず。

後日付記


3月3日 平均の年降水量について(3)

 ある国の平均の降水量っていったい何ですか? それはどうやって調べるのでしょうか? データとして意味があるのでしょうか?

お答え 調べ方はいい加減。それでも、一定の意味はあります。

 まず、平均の降水量について、福井英一郎ほか編『日本・世界の気候図』(東京堂出版、1985年)から引用します。

年降水量
 日本全体の年降水量の平均値は、その計算方法によってかなりの差が生じるが、気候資料からの
推定では、1750〜1850mmであろうと考えられている。この値は気象観測地点の平均値であるが、観
測点の大部分は平野や盆地にあり、降水量の多い山地にはほとんどないのが現状である。したがっ
て、真の降水量はこの値よりも大きいとみられている。
 降水量を推定するもう一つの手掛かりは、河川の流出量である。流量の年合計値にその流域の蒸
発散量の合計値を加えれば、各流域にもたらされる降水量が知られる。河川の流出を加味した推定
平均降水量は、2000〜2250mm/年と考えられている。山地降水量、特に雪や台風時の雨のそれにつ
いては未知な地域が多く、現在では日本の正確な雨量はわかっていない。

 入試でしばしば問われる1800mm前後という値は、引用文で最初に言っている観測地点の平均値から計算したものです。昨日の表中の1714mmというのもこれで、国土庁が気象庁資料に基づいてはじき出した全国46地点の算術平均値です。「な、なんといい加減な数値なんだ!」って思いますよね。私大入試では、「日本の平均の年降水量に最も近い値を次のうちから選べ。」と問い、その選択肢が、@800mm A1300mm B1800mm C2300mm、なんて問題もしばしば出ますが、本当のことを言うと、これはたいへんな悪問だということがわかります。

 いい加減な値ではありますが、これを求めることには、一定の意味があります。素人考えではありますが、水利用の地域間比較のために意味がありそうです。たとえば、昨日書いた「オーストラリアと日本では、年平均降水量では日本の方が多いが、一人当たりではオーストラリアの方が多い」みたいな話は、水の効率的利用法を考える際の出発点の一つになりそうです。この数値は、日本では、気象庁ではなく、国土庁によって(それも毎年)はじき出されています。世界の国々のデータは、国連水会議の場で資料として提示されました。さらには、香川県のHP「かがわの水」など、水を資源としてとらえ、その有効利用を問題とするHPや書物では、話の導入部分でこの値が示されています。

 なお、世界資源研究所という非営利団体がUNEP(国連環境計画)などの協力を得て編集した『世界の資源と環境』という年鑑的な本の中には、「再生可能な国内の年間水資源量」という数値が国ごとに載っています(さわりを下表に示す)。これは、河川の流量や地下水の量からはじきだしたもので、これまたいい加減な数値ではあるものの、同じく、水利用の観点で一定の意味があるでしょうね。

 ついでに、例の「すきあらば勉強!」、この表をちょっとだけ検討してみます。「面積当たり」の数値は私が計算したもので、これを年降水量と比べると、やはり、日本やインドネシアが多く、エジプトやオーストラリアは少ないですね。もちろん、これは降水量ではないので、蒸発量の多い乾燥地域ではぐっと少なくなります。エジプトが利用できるのはナイル川の水だけですものね。逆に、氷河があったり、気温が低くて蒸発量が少ない国は多めになるようです。私もくどい人間なので、また、話を蒸し返しますが、この「面積当たり」を見れば、氷河があるノルウェーの値が多めに見積もられることを差し引いて考えても、アルバニアより降水量が少ないってことはないと思いますよ。

国 名 水資源量(km3 面積当たり(mm) 年降水量(mm)
日本  547.0   1,400  1,714
インドネシア 1905.0   1,328  2,620
ノルウェー  405.0   1,250  
スウェーデン  176.0    391   315
アルバニア   10.0    345  
カナダ 2901.0     291   522
オーストラリア  343.0     44   460
エジプト    2.6      3    65

3月2日 平均の年降水量について(2)

 前回の続き。ヨーロッパの国で平均の降水量が多い国は、アルバニアではなく、ノルウェーであるという話です。

平均の降水量のデータですが、世界の主な国については、誰でも簡単に入手でき、私の手元にもありますが、世界またはヨーロッパのすべての国のデータは手元にありません。せっかくですから、少し脱線し、主な国のデータ(下表)を見ておきましょう。「ころんでもただでは起きない」式の貪欲さで、「チャンスとみれば、すかさず勉強!」です。

 香川県作成の「かがわの水」というページを発見しました。そこには、下表がきれいな棒グラフで示されています。水の問題はどこの地方自治体でも重要課題ですが、香川県は渇水が頻発するところだからでしょうか、他県にもまして水資源に関するページが充実しています。グラフがあまりにも美しいので、それをパクってここに掲載したいという衝動が湧きました。訪れる人のきわめて少ないG−SALANDなので、盗用しても、誰も文句は言わないでしょう。でも、いつもは陰でしばしば悪さをする私さ〜らも、人並みに「おてんとうさま信仰」をもっているところを見せたいがために、それはやめにします。「みつからなきゃ、何をしてもいいのか!」と言われたくはありませんよね。「おてんとうさまがすべてお見通しだから、下手なことはできない」と考える人は皆、「おてんとうさま信仰」の信者なのであります。

国 名 年降水量(mm/年) 総降水量(億m3/年) 人口1人当たり降水量(億m3/年)
オーストラリア    460    3561      221416    
カナダ    522    5205      203337
旧ソ連    502   11246       40144
スウェーデン    700     315       35619
アメリカ合衆国    760    7116       29485
インドネシア   2620    4990       25354
サウジアラビア    100     215       17902
フィリピン   2360     708       12738
スイス   1470      61        8577
フランス    750     414        7474
中国    660    6334        5907
イタリア   1064     301        5260
日本   1714     648        5241
インド   1170    3846        5021
イギリス   1064     260        4624
旧西ドイツ    803     200         3275
エジプト     65      65        1074


 次年度受験生の皆さん向けに言うと、この統計表に関しては、

@ 世界的にみて、年降水量はインドネシアやフィリピンが最も多く、日本はそれに次ぐ多雨国である。
A 総降水量は、年降水量×国土面積なので、降水量が同じなら面積の広い国が多い。年降水量が日本の1/4しかないオーストラリアは広い(日本の20倍)ので総降水量は日本の5倍以上になる。当たり前。
B 一人当たり降水量は、総降水量÷人口なので、総降水量が同じなら、人口の少ない国が多くなる。オーストラリアは、人口が1800万人台ぽっち(日本の1/7〜1/6)なので、1人当たりは降水量の格差は総降水量の差以上に拡大し、日本の40倍にもなる。当たり前のことだが、ちょっとした驚きである。

なんてことが、ときに、入試問題でとりあげられます。問い方は安直で、上の統計を生のまま出して、国名を選択肢から選ばせる形式が普通です。入試対策としては、雨の多い国か少ない国かをイメージしておくことはもちろん必要です。でも、それはおおざっぱでいいでしょう。統計をよく見れば、総降水量÷年降水量という具合に、ちょっとした暗算で各国の面積や人口がわかるので、主要国の面積と人口の概数が頭に入っていれば簡単に解けます。だから、主な国の人口や面積をおおまかに覚えておけばいいのです。

 そこで、次年度受験生の皆さんにお得な耳より情報! 世界の面積上位6か国の順位と面積の概数(日本の何倍かぐらいでよい)と、人口上位10か国の順位と面積の概数とを、それぞれチェックして覚えておきましょう。さらに、日本の面積・人口の概数も覚えておきましょう。こんなのは勉強とも言えないようなことです。3月中に鼻歌を歌いながら覚えちゃいましょう。そうすれば、「君はライバルに差をつけた!」と、言えます! ってほどのこともありませんが。 さらによくよく考えたら、次年度受験生でこのページを見てくれている人は、私が把握している限り皆無なので、オレは何を書いているんだろう、馬鹿みたい、と少し赤面。今月の標語は「馬鹿と大物が・・・」なので、馬鹿もまたよし。

 なお、上記統計の数値は少しいいかげんですので、細かい部分が違うじゃないかって文句を言わないで下さい。気になる方は、ご自分で統計に当たられることをおすすめします。

 さて、話をもとに戻して、アルバニアやノルウェーの平均の降水量ですが、上記統計のもともとの出典は、1977年に開催された国連水会議で出された資料ですから、それを調べればわかると思います。読者の中で奇特な方がいらして、出典データをみつけられたなら、是非、教えて下さい。できれば、「国連水の日(World Day for Water)」の3月22日までには、この問題のカタをつけておきたいですね。間に合わなかったら、第2締め切りとして、8月1日の「水の日」やその日から始まる「水の週間」まで、としておきましょう。なお、手元に、アルバニアよりノルウェーの方が降水量が多いことの傍証となる資料もありますが、結果はわかりきっていることなので、傍証的データを使ってまわりくどい説明する気にはなりません。

 それにしても、例年なら休憩月の3月に入ったにもかかわらず、連日こんなに勉強できるのも、Yゼミさんが妙なミスをしてくれたおかげですね。「先生が駄目だから・・・」と文句を言う人がときどきいるようですが、先生が駄目な場合は自分で勉強する癖がつきます。結果的にはそれでよかった、ということも多いのであります。ありがたいことです。

 私はオチが好きで、いつもどういうオチにしようかと考えながら、疑問にお答えしていますが、今日は、このところ連日オナページづくりに励んできたせいか、少し疲れています。やむなく、オチなしですが、これでお終いにします。オナペットクラウンさんの疑問の後半に対するお答えは、次回のお楽しみといたします。オナページづくりが高じて本業がおろそかになっていることもあり、明日は更新を禁欲しようか、と今は考えていますが、オナの禁欲は難しいので、どうなることやら。「明日にゃあ、明日の風が吹く!」であります。 


3月1日 平均の年降水量について(1)

 今回は、SALAND掲示板にて、オナペットクラウンさんが提示された疑問の前半に対するお答えです。

 roaring forties のsaland へ calmな赤道無風帯のオナペットKより。

 京都大学の地理第4問に「ヨーロッパで国全体の平均降水量が最も多い国はど
こか」という問題がありましたね。インターネットでK塾やS台の解答を見ると
ノルウェーでしたが、Yゼミはアルバニアとなっていました。
アルバニア!!!???
 Yゼミは去年の京大の地形図問題の解答でも、笠野原台地を「扇状地である」
と堂々と書いていましたから、今回も? という感じですが、地図帳を見ると、
アルバニアも結構雨が多い。しかし、ノルウェーよりは少ないでしょう。
 2:1でノルウェーの勝ち。でも、まさかと思うが、ひょっとしたら・・・と
いうのが今日の疑問です。 

 変・性・風態のsalandさんなら、「ザ雨ン」については詳しいのでは?

お答え 弘法も、毎年1回ぐらいは、筆のあやまりをするのでしょう。許してさしあげて下さい。 

 ご指摘のとおり、「ザ雨ン」関係も、うちが専門です。お答えしないわけには参りません。ところで、教養あふれるオナペットクラウンさんの文章中には、地理の超重要用語がたくさん盛り込まれています。まず、受験生のみなさん向けに、その説明をしておきましょう。 

 roaring forties  これは、「吠える40度」(正確には吠える40度台)と訳します。「吠える40代」(正確には吠える40歳台)ではありません。アフリカ南端の沖合、南緯40度〜50度の海域が強風と荒波で航海の難所とされていまして、「吠える40度」とは、そのことを表現しています。南緯40付近付近の海域は、変性風態、おっと失礼! 偏西風帯に位置し、風を遮る陸地がないために、常に強い西風が吹き、波も荒いのであります。なお、南アメリカ南端のマゼラン海峡やドレーク海峡(南緯60度付近)付近も同様の理由で航海の難所として有名で、こちらは「絶叫する60度」と呼ばれています。

 ついでに、緯線のジオゴロ的覚え方ですが、「アフリカ大陸は±35」と覚えましょう。アフリカは北端が北緯35度強、南端が南緯35度弱で、赤道を挟んでほぼ南北同緯度に広がる大陸です。また、オーストラリアとタスマニア島の間のバス海峡とニュージーランド北島と南島と間のクック海峡もだいたい南緯40度なので、「お風呂の温度は40度、料理もできればなお最高!」と覚えます。これは岩尾別ぴりかさんが作ってくれた数多ある「語り継がれるジオゴロ」のうちの一つです。というわけで、南緯40度はほとんど海上を通っており、この緯線が通過する大陸は南アメリカしかありません。

 南緯60度の緯線は、南アメリカ大陸と南極半島の間(ドレーク海峡)にあり、どの大陸上も通過しません。そこで、「南緯60度に陸地なし」と覚えればゴロがよろしいのであります。
 
 calmな赤道無風帯 これについては説明不要ですね。赤道無風帯とは、南東貿易風帯と北東貿易風帯に挟まれた、風の弱い地帯をさします。その付近については、熱帯収束帯とか赤道低圧帯などいろんな呼び方がありますが、受験では、それらを区別して使いわける必要はありません。

 ただ、赤道無風帯は平均すれば風が弱いけれど、毎日昼ぐらいになると積乱雲が発達して、それにともない、スコールと呼ばれる短時間の驟雨(しゅうう)や突風が見られます。無風帯と聞くと、平穏なんだろうなあと思うけれど、いつも平穏とは限りません。オナペットクラウンさんは赤道無風帯と同じくcalmなお方なんですが、ひょっとすると、わたしの存じ上げないところで毎日荒れ狂っているかも。いかん、いかん。また、お得意の、憶測でものを言う癖が出てしまった。

 さて、お答えですが、アルバニアは誤りです。

 確かに地図帳を見ると、アルバニア付近も多いのですが、なんぼYゼミでも(失礼!)地図帳を見て答えたということはありえないはずで、何か根拠があって答えたはずです。恐らく、「国全体の」というのを読み落として、首都のデータを調べて最大の国を答えたのでしょう。首都のデータならたやすく調べることができ、ヨーロッパの国々の中では確かに最大です。大急ぎで解答を作成しなければならなかったためのミスでしょう。

 こういうことは、Yゼミに限らず、プロによくありがちな誤りです。変にプロ意識が強すぎて、裏をとらないとまずいのではないかと思いこみ、自分の頭で考えることをやめてしまうのであります。素人ならノルウェーしか思いつきません。一方、アルバニアという答えは、調べないと絶対に出てこない答えです。Yゼミは恐らく調べたのでしょう。首都の降水量を。受験生が試験中にデータを調べるわけにはいきません。調べないとわからないようなオタク的な問題を出したら、比較的良問を出すことで知られる天下の京都大学地理学教室のスタッフは世間の笑いものになるはずです。わたくしも、今年のYゼミのミスを他山の石、反面教師として、職業人が陥りやすい調査癖、それ自体はたいへんよいことですが、悪しきは、思考停止状態での調査癖、こいつを戒めたいと思います。

 次年度受験生のみなさまも本番では次の警句を頭において問題を解きましょう。
「センター試験と国公立二次試験では、調べないとわからないことは、題意に即した正解ではない。そんなの調べないとわからないや、と思ったときは、問題を読み間違っている可能性が大きい。」
なお、言うまでもありませんが、これは、しっかり勉強をした人だけに役に立つ警句ですので、その点、勘違いなさらぬよう。蛇足でしたね。