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2000年2月の疑問


おすすめ記事 2月(インディヘナ 大鑽井盆地 英国 マラリア) 1月(テラロッサ バザールのアーケード) 1999年12月(大晦日 12月26日


2月27日 病雑感 −入試地理に登場する病(2)− 

 先頃、新聞に、WHOが今年秋に、西太平洋地域(東アジア・東南アジア)におけるポリオ(小児麻痺)根絶を宣言するというニュースが載っていた。地域別では北アメリカに次いで2番目らしい。近代医学・衛生学は、多くの病気を制御してきた。が、一方で、エイズ、エボラ出血熱、狂牛病など、新興ウイルス(エマージングウイルス)による病が流行したり、MRSAやVREのように医学・薬学が新たに生み出した細菌(薬剤耐性菌)が登場したりもしている。受験生にとって怖いのはインフルエンザで、これまた、次から次へと複雑に進化するウイルスなので、根絶は難しいと言われている。なお、インフルエンザの感染経路は、かなり地理っぽい話で、これについての蘊蓄は友人のもっくん氏が詳しい。

 ポリオもウイルスによるものだが、一般に、細菌による病はかなり制御できるようになった一方で、ウイルスによる病との闘いはこれから、という感じらしい。遺伝病についても、人ゲノム計画とか遺伝子治療とかに期待がもたれ、最近の話題になっている。

 細菌やウイルスは退治したいと思う。が、遺伝病を克服すべきかどうかについて、私は意見を留保している。知り合いの人間を直したいとか、家族にそういう病気が出ないでもらいたいというレベルでは大賛成なのだが、生物としてのヒトの未来ってことを考えると、どうかな?って思う。消極論の多くは、人権無視や差別を引き起こす可能性を危惧するわけで、私はこれにも組みする。そのうえに、私は変なことを考えるのだ。特に老人になって呆けてしまうような遺伝子についてであるが。

 人類にも将来いつか滅びる日が来る。それが、日本のトキのように、最後の一人が年老いて子孫を残さずに死ぬ、というかたちなら問題はない。ところが、恐竜の隕石滅亡説のように、地球に小惑星がぶつかって、ある日突然、絶滅する、または絶滅に至らぬまでも大量に死んでしまう場合が問題だ。恐竜滅亡説も、ある日突然というわけではなく、気候が変わって徐々に滅亡したのだという説なんだろうが、もののたとえとしての極論です。

 トキのようなタイプを「畳の上の大往生型絶滅」だとすると、隕石滅亡説のようなタイプは「突発事故型絶滅」ということになる。突発事故型の場合も、絶滅の瞬間まで普通に生活できれば何も問題ないのだが、人間の場合は智恵がまわるので、いついつに隕石がぶつかるなんてことがわかってしまう可能性が大きく、さらにそれに対して何も抵抗できないこともわかってしまうかもしれない。

 そんなふうに、死んでしまう日時がわかったとき、人々はどうするのであろうか? そんなときは、変に智恵があるとまずいのではないだろうか? 呆け老人のようになっていれば、幸せな気分で、いや、幸せか不幸せかもわからずに、絶滅の日を迎えることができるだろう。呆ける遺伝子とか白痴(ワープロで出てこなかったから差別語かな?)の遺伝子(そんなものがあるかどうか知らないが)というのは、その日のためにあるのかもしれない。人類全体がパニックに陥って、隠れていた呆け遺伝子が活動を開始し、皆が狂いながら、何もわからずに絶滅の日を迎えるのだ。

 理科に弱い人間なもので、つい、言葉遊びに走るが、智恵のある動物は呆けるが智恵のない動物は呆けようがなく、したがって、呆けの遺伝子は智恵がつくと同時に作られたもので、これは、呆ける能力なのだ、と思うのである。呆ける能力に限らず、普通なら、困ったものだと思われている病や能力も、人類存亡の危機に当たって、火事場の馬鹿力のような力を発揮させるための能力かもしれない、なんて思うのだ。何しろ、人間の能力は多様なのだから。

 何やら話がオカルトめいてきた。標題の内容に至る前に、馬鹿なことを書いてしまった。私は、小さいころから「忘れ物の王様」と呼ばれて、ちょっと呆けているので、呆けに対する関心と愛着が強く、それで、話がついついそちらの方向に進んでしまった。入試地理とは全く関係がない。前期試験が終わった直後のフヌケ状態の時期なので、こんな内容でも許される、ってことにする。本論は、後日。いつか気の向いたときに。


2月25日 マラリア雑感 −入試地理に登場する病(1)−

 いよいよ受験シーズンまっただ中! 大物なのか馬鹿者なのかわからないT君、、まじめなN君とこれまたまじめな2人のH君、地理の得意なN君、地理好きのSスケ君、この1年でちょっと肥えたI君、そして、りっぱな名前をもつ痩身のO君や彼と仲よしのちょっと肥え始めたまじめなK君、それから痩身のI君、M君、Y君、Kさん、Sさん、Nさん、などなど知り合いの若者たちは、只今受験中。

 入試は水もので、運に左右されることもある。上記の若者たちは実力があるから、少々運が悪くてもちょっと点数が低くなる程度で、よほどのことがない限り、大方の人は合格間違いなしだ。もちろん、なかには、ちょっと心配な人も若干名いる。彼らには幸運の女神が力添えしてくれますように。

 運の一つに病があり、見栄っ張りの奥さま方がよくこの手を使う。「うちの息子は入試当日に風邪をひいてしまったんですよ、それで・・・」とネ。入試は水ものだから実力があってもうまくいかないことがあるってことを世間の人は知っている。だから、そんな言い訳をしなくたっていいのにね。運一般のせいにするのはいいが、病だけのせいにしちゃいけません。健康管理のできないダメ人間の烙印を押されちゃいますから。

 そうは言っても、管理できない病はあるものです。そうした病は、個人個人の生活を脅かすだけでなく、人々の生活スタイルに影響を与えたり、歴史をも変えてしまうことがあります。カワイックワールドの「受験生掲示板」で、古代ローマの頃におけるイタリア南部の丘上集落とマラリアの関係が話題になり、闘ふ受験生氏が「えーーーー マラリア?!」と驚き、ユタカ氏が「マラリアって熱帯の病気じゃないの!」と疑問を提示していらっしゃいました。この一件には、さ〜らも一枚噛んでいるので、ちょっと気になって、仕事の帰りに本屋に寄って関連本を捜してみましたところ、おもしろそうな本がみつかりました。ちょっとだけ値がはるし、地理と歴史にまたがる本なので、地理受験生は購入する必要はないでしょう。地理も世界史も必要という人には役立つかもしれません。岩波新書などにも類似本がありますが、そちらは地理というより世界史の本です。

 フレデリック・F.カートライト(倉俣トーマス旭/小林武夫訳)『歴史を変えた病』(法政大学出版局)です。倉俣氏にはミドルネームがありますね。カリフォルニア在住のようです。この本では、マラリア・ペスト・梅毒・眠り病などの病をとりあげており、蘊蓄が多いので、読めばモノ地理ハカセになれます。

 疫病流行のインパクトは、国王級の人物が病にかかって自暴自棄となり悪政を行うとか、有能な政治家が病に倒れて政治が混乱するとかいうだけではない。多くの人が死に、生きている人も「どうせ先のない命、ならば、生きているうちはおもしろおかしく暮らすが一番!」という風潮を生んで放蕩と貪欲がはびこったり、社会がパニックに陥りヒステリー的な事件や暴力行為が頻繁に行われたり、で、結果的に強国の衰退を招くこともある。結果論としてよかったのかもしれないのは、病気が人口調整機能をもってきたことでしょうか(こう書くと、人口爆発を止めるために病原菌をばらまくべし!と考える真性馬鹿がわいてくるので困りますが)。また、宗教は人の不幸につけこんで信者を増やす傾向にあるので、疫病の流行は高邁な宗教を普及させ、結果的に人々を道徳的な生活に導くってこともあります。

疑問  マラリアって熱帯の病気じゃないんですか?

お答え マラ関係はうちが専門です。

 マラリアと聞いて、マラ、すなわち「魔羅」を連想するのは、世間広しと言えども、「おつむの程度は男子中学生レベル」と言われ、日本ちんこまんこ学会に所属するさ〜らさんだけでしょうね。「魔羅」は「魔」と同じくサンスクリット語マーラの音写で、岩波の『仏教辞典』によると、「男根を<まら>というのは、<魔羅>が諸悪・諸煩悩の根元であることからの転義で、もと僧侶の隠語だったとされる」らしい。ヒンドゥー教の男根崇拝の男根はリンガというので注意(と言っても試験には出ない)。一方のマラリア(Malaria)はイタリア語のMala(悪い) aria(空気)に由来する。北インドの言葉とイタリア語が同じインド・ヨーロッパ系の言語だからといって、魔羅のマラとマラリアのマラが同じ語源だということにはならないと思うが、「悪い」という意味では同じだから、マラリアから魔羅を連想しても奇異に感じないでもらいたい。

 脱線ついでに、試験によく出るマラ地名というものがありまして、マラッカ海峡、マラバル海岸、マラカイボ湖、ヒマラヤ山脈がこれに該当する。試験にちょっと出るマラ地名にはマラウイ、マカケシ、アスマラ、スマランなどがあり、これらに試験に出ないものを加えると、世界には数多のマラ地名が存在する。

 と、いうわけで(ん?何が?)、マラリアは熱帯だけの病気ではないのです。

 マラリアは世界史の殺し屋の旗頭であり、長い間人類の死因の第1位であった。(中略)
もともと熱帯の風土病であったマラリアは、ヨーロッパとオリエントとの交流をとおして、
まずギリシアにもち込まれ、つづいて南イタリアのギリシア植民地に広がった。ギリシア・
ローマ文明の衰退の一因はマラリアにあるともいわれ、マラリアは民族の肉体的な衰弱のみ
でなく、精神的な活力をも喪失させる重要な要因となった。 (平凡社 世界大百科事典)

日本でも古代・中世にはかなり猛威をふるい、平清盛はこれで死んだらしい。現在は消滅し、WHO(世界保健機関)から無マラリア国に指定されているが、1960年代初頭までは発生報告があったようだ。海外旅行者が持ち帰るヤツは今もある。『歴史を変えた病』によると、なんと、イギリスでも1840年までは通俗的な病気で、清教徒革命で有名なクロムウェルも一生この病に悩まされ、死因もマラリアだということだ。ハマダラカ(蚊)によって媒介される病気なので、沼沢地が多いところで発生しやすい。ハマダラカはイギリスにも日本にも今だっている。マラリア原虫がいなくなったので、マラリアが発生しないだけである。

 マラリア治療薬として初期に効果があったのは、キナノキ(チンチョナ)の樹皮から抽出したキニーネである。小学館の百科事典ニッポニカには、「キナノキの属名Cinchonaは、17世紀にスペインのペルー総督であったチンチョーンChinchon伯爵にちなむ。一説によれば、1638年、伯爵夫人がリマでマラリアにかかった際、侍医のD・J・ベガがキナの皮を服用させたところ全快したので、夫人が本国に持ち帰ったものが広がったという。 」とある。語源というものは詮索すると異説があって楽しいもので、『歴史を変えた病』では、「本当の話はそれほどロマンチックではない。ペルーのインディオはペルーの芳香樹脂を産出するミロキシリオンという木にキナキナ(樹皮の樹皮)という名をつけた。」 このキナキナの混ぜものとして使われたのがチンチョナであり、「ミロキシリオンではなくチンチョナがマラリア治療に好結果をもたらすことが発見されるまで長年にわたって二本の木の樹皮が無差別に処方された。」と書いてある。その結果、ミロキシリオンに対してインディオが命名したキナキナが、混ぜものの方の名前となって、現在に至っているらしい。ま、いずれにせよ、「チンがマラを退治した」わけですな。

 くだらんオチがついたところで、本日はお終い。「入試地理に頻出する病」は登場しませんでした。それをメインにしたかったのだが、導入で長くなったので、続きは後日、気が向いたときに。


2月22日 英国王室の称号について(続報)

 いろんな都合(秘密。でも、けっしてやましいことではありません)がありまして、ん十年前の恩師大先生につけ届けをする必要が生じたので、本日、アポもとらずに研究室を襲ったところ留守。仕方なく、ご自宅に伺い、奥様にことづけてきた。奥様がおっしゃるには、なんと! 大先生、研究と称してアマゾン川を見にブラジルまで行っていて、3月下旬にならないと帰ってこないとか。うらやましい限りなり。この話はこれでおしまい。

 ついでだったので、知り合いの若者Tくんと知り合いにして紳士のTくん(トップページのpush1参照)にも会ってきた。こちらはアポをとってあったので、しっかり会えた。おふた方とも、合格をGETしているので、私はすでにお払い箱なのだが、まだ受験生気分が抜けずに会ってくれるのだ。願わくは、早く吾輩なんぞのことを忘れ、未来だけを見つめて精進し、明日の地球世界を担う活躍をしてほしいものだ。

 紳士のTくんに会ったので、「英国王室の称号について」の記事を思い出し、帰りがけにちらっと本屋に立ち寄ったところ、たやすく入手できる関連本がみつかったので、ここに紹介する。ただし、地理の受験にはあまり関係ないので、特に購入する必要はない。

 海保眞夫「イギリスの大貴族」(平凡社新書)、です。そこに、上院の世襲貴族議員に関する説明がありました、ありました。おもしろいので、著者に断りなしに引用します。

彼らが立法者としての義務に目覚めて一斉に登院すれば、議事の進行に支障をきたすのではないか
と危惧されるが、幸い彼らの大半はめったに姿を現わさない。作家のサマセット・モームの言葉を
借りるならば、「小用のために立ち寄る程度である」。

 なるほど、やっぱりね。 


2月17日 英国王室の称号について

 イギリスはイングランドなど4王国(北アイルランド王国?)の連合王国で、イングランド王が各国の国王を兼任することになっていると思いますが、プリンス・オブ・ウェールズ(プリンス・オブ・アイルランド?」)だとかエディンバラ公爵(ベルファスト公爵?)なんてのは、各国で認知され、何らかの権限があるのでしょうか?

お答え あいにく存じあげませんわ。ごめんなさい。

 アノー王朝のアノ〜公爵さまお尋ねの疑問は、いつも難くて、弱小国、サランド王国の侯爵夫人にすぎないわたくし、サ〜ラは、今回も困ってしまいましたわ。大国、カワイックワールドの青年王サネユーさまならご存じかもしれませんが、どうかしら? こちらはランドで、あちらはワールドですから、国の規模が全然違いますでしょ。領土が広くて自国の王族の方々のお世話だけでもたいへんでしょうから、外国の王室のことには関心が薄いかもしれません。サネユーさまに、あまり無理難題を押しつけてはいけませんから、わたくしが社交界で聞きかじったことや夫の侯爵に尋ねてわかったことを、不十分とは存じますが、申し述べることにします。

 イギリス王家の方々は、王室外交でたいへん活躍されていらっしゃるようですわね。香港返還のときにはプリンス・オブ・ウェールズのチャールズ皇太子さまがご出席されたり、昨年10月には女王さまの従兄弟のケント公爵さまが南アフリカ共和国でボーア戦争の謝罪をなさったり、その直後には、エリザベス女王さま、じきじきに、南アにお飛びあそばされたとか伺っております。女王さまもたいへんお元気でいらっしゃるようですし、お母様のストゥラスモア伯女さまに至っては、今年百歳を迎えるんじゃないかしら、たいへんなご高齢にもかかわらず、ご健在で、クイーン・マザーと国民から敬愛されていらっしゃいますでしょ(*)。ウィリアム王子さまもずいぶん成長され、立派な青年におなりあそばされていらっしゃいます。ロイヤルファミリーの公私にわたるご活躍により、王室は今後も千代に八千代に安泰、とお慶び申し上げます。ただ、プリンセス・ダイアナさまのご不幸については何と申し上げてよいのか。。。チャールズ皇太子さまもいろいろあるようですし、ほかにも、王母さまがお金を使いすぎるって議会だったかタブロイド紙だったかで批判されたり、など、女王さまが気をやむこともちょっとおありになるようですが、そのくらいはどこの国の王家にもよくあることですわ。あら、ごめんなさい。わたくし、イギリス王家の方々とは、こちらから一方的で、思いこみで、写真やテレビを通じてですけれど、お会いしたことがあり、仲がいいものですから、ついつい、タブロイド紙的なお話になっちゃいました。わたくしとしたことが、お恥ずかしいですわ。

*Her Majesty passed away peacefully at Windsor in March 2002. She was 102 years old and was given a full state funeral.(2002年4月付記)

 王室の称号でしたわね。爵位は、どこの国でも、国王が授けるもので、公爵(デューク)・侯爵・伯爵・子爵・男爵などがあり、たいていは世襲されます。イギリスもそうで、さらにその下に、世襲の準男爵(バロン)と、一代限りのナイトという爵位もあります。ただし、貴族階級として扱われるのは、男爵までです。イギリスには階級制度が今も残っているとよくいわれ、確かに日常生活の中には存在しているようですが、現在は、貴族という特権階級が制度として存在するわけではありません。国王(今は女王のエリザベス2世)以外の貴族には、法的な権限はなく、実質上の特権も失われています。

 ただ、昨年までは、議会の上院のうち、約半数の659議席が世襲貴族議員でしたわね。しかしこれも、昨年10月に廃止されました。昨年の新聞記事を調べましたら、上院でも世襲議員廃止が221対81で可決したとありました。伝統を重んずるイギリスの、それも、保守的な響きのする上院にしては、反対票が少なかった気がします。わたくし、社交界でおしゃべりするのは好きなんですが、政治向きのお話は苦手ですの。ですから、実のところはまったく存じませんが、そもそも世襲貴族議員というのは、国会の開院式に出るぐらいの形式的な特権をもつにすぎなかったではないかしら、と想像しています。

 それから、イギリスという国についてですが、「4つの国」ならいいんですけれど、「4つの王国」というのは誤りですわ。正式名称の「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国」の「連合」というのは、「『グレートブリテン』と『北部アイルランド』が連合した1つの王国」という意味で、「4つの王国が連合した国」という意味ではありません。国名が正式に定められて以後、イギリスの正式国名は次のように変化しています。

1707年 「グレートブリテン王国」 イングランド王国とスコットランド王国が統合したとき
1801年 「グレートブリテンおよび
     アイルランド連合王国」
グレート・ブリテンとアイルランドの統合=アイルランド
  を併合したとき(実質的な支配は以前から)
1922年 「グレートブリテンおよび
     北部アイルランド連合王国」
アイルランド自由国(現アイルランド共和国)が成立し、
  北アイルランドが連合王国にとどまったとき

 イギリス、すなわち、連合王国は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域からなっていて、サッカーのワールドカップでは、それぞれが一つの国として扱われ、イングランド国、ウェールズ国、スコットランド国、そして北アイルランド国のチームとして出場しているように、4か国の連合国家であるとされますが、実質上はもちろん、形式的にも王国が4つあるわけではありません。

 スコットランドについては、かつて、イギリス国王が、スコットランド王とイングランド王を兼ね、この2つの国が同君連合という形式をとっていたことがありました。でも、それは1707年までで、それ以後(1801年まで)、国王は、グレート・ブリテン王国という1つの国の王になっています。また、上の表にウェールズがないのは、もっと以前にイングランドに組み込まれてしまっていたからです。

 プリンス・オブ・ウェールズという称号は、呼称としてあるにすぎません。これは、慣例で、皇太子に対して与えられる称号ですが、「ウェールズ王国の皇太子」という意味ではないようです。プリンスには、「小さな国の王」という意味があり、ですから、「ウェールズ国王」が本来の意味だということです。この本来の意味からすれば、ウェールズは、形式上「ウェールズ王国」ということになりそうですが、現在では、本来の意味からずれて、単に、皇太子さまの称号になっているにすぎません。なお、プリンス・オブ・ウェールズは称号としてありますが、プリンス・オブ・アイルランドやプリンス・オブ・スコットランドは、社交界の冗談話でしか、聞いたことがありません。存在しないと思いますわ。 

 4地域は、別の王国ではないが、サッカーチームに象徴されるように、別の国として自己を主張したり、そのように扱われたりすることが多いことも確かです。それぞれが国旗・国歌(や国花も)をもっているようです。そして、現在のブレア政権による地方分権化政策によって、スコットランドとウェールズにはそれぞれ地方政府が生まれ、何百年ぶりかの自治が始まりました。北アイルランドもその方向で進みかけていましたが、2000年2月の「今日の出来事」にも書きましたように、うまくいきませんでした。

 イギリスの現在の首相のブレア氏は、世襲貴族議員制度の廃止、地方分権化による自治政府創出、旧植民地に対する謝罪などのけじめづけ、など、対内的にも対外的にも、因襲を打破せんとする政策を実行していらっしゃいます。北アイルランドの問題でも、うまくいかなかったからといって、へこたれるようなお方ではないと伺っております。あのお方の勇気を持ってすれば、それほど遠くないうちに、事態が、再びよい方向に向かうと思います。「気に入った」と決めたら、その殿方を一途に応援するのが、わたくしのいいところですが、夫であるわたくしの侯爵さまから、あらぬ嫌疑をかけられ嫉妬されても困りますので、ブレアさまをこれ以上ほめるのはやめにしておきましょう。

 アノ〜公爵さまの疑問に対しては、まだまだ十分お答えできていないのですが、そろそろ夜もふけてまいりました。サランド王国では、社交界でおしゃべりするとき、目を輝かして相手の顔を見つめ、顔の表情を豊かにしてしゃべらないと、誰も相手にしてくれません。話術が巧みなだけではだめですの。ですから、わたくし、お肌のお手入れにはかなり気を使っていますわ。申し訳ありませんが、お先にやすませていただきます。睡眠不足はお肌の敵ですもの。


2月8日 どうして大さん井盆地はいつまでも日本語なのですか?

お答え 「鑽」の誤字の減点を至上の喜びとする採点者の楽しみのためではないと願いたいですね。

 「あの〜」の疑問第2弾です。「あの〜」さんは「初歩的な疑問」とおっしゃっていますが、前回の疑問といい、今日の疑問といい、「初歩的」どころか「根本的」な疑問ですね。結論を申しますと、わかりません。

 高等学校地図帳の発行元である帝国書院などにお尋ねになるとよいでしょう。地図帳を発行している某出版社の手引きを見せてもらったことがあるが、そこには、「地図帳の地名表記は、原則として現地語での発音を採用しているが、日本で慣用的に定着しており現地語で表記するとかえって混乱を招く恐れのあるものについては、定着している方を採用する」という趣旨のことが書いてあったように覚えています。「イギリス」や「オランダ」が現地語でないからといって、これらを現地語で表記されても混乱しますから、この方針はいいと思います。

 「あの〜」さんの疑問は、「『大鑽井盆地』は、学校の地理の時間に初めて習う地名であり、イギリスやオランダほど定着しているとは言えない。だから、『グレートアーティージャン盆地』と表記しても、それほど混乱を招くとは思えない。なのに、なぜ?」だと思います。う〜ん、どうでしょうかねぇ。そう言われればそうですね。ということは、この地名に限り、定着度以外に、日本語表記される理由がありそうで、それは、「テストで『鑽』の誤字を減点したい教師側の要望が強いため」というものかもしれません。

 「鑽井」は「掘り抜き井戸」のことですよね。「アーティージャン」は「自噴する掘り抜き井戸」のことらしく、意味は微妙にずれますが、訳語としては適訳ですね。誰が最初に訳してくれたのか知りませんが、格調高くてゴロもいいですよね。「大掘り抜き井戸盆地」なんて訳していたら、とうの昔に現地語地名にされていたでしょうよ。そして、「アーティージャン」なんていう専門的な英単語を知らない我々としては、現地語表記されるよりも、「大鑽井盆地」と言ってくれた方が、かの盆地に対するイメージが湧きます。だから、私としては、いつまでも「大鑽井盆地」と表記してほしいと思っています。ひょっとしたら、私のような意見の人が多く、だから、いつまでも日本語表記なのではないか、と思います。地図帳出版元は、地名をどう表記するかについて、大学や高校の先生方の見解や専門知識をしっかりと聞き、それをふまえて地図帳を作っているようですよ。

 なお、日本語で漢字表記される地名は大鑽井盆地に限りません。大・小、東・西・南・北、中央、白・青、これらについては、その部分だけが漢字で残り部分が現地語表記の例がけっこうたくさんあります。ただし、大小、東西南北がついていても、すべてが現地語表記になっている例もあります。

大・小 大シンアンリン山脈、小シンアンリン山脈、大スンダ列島、小スンダ列島、
大アンティル諸島、小スンダ列島、大インド砂漠など
  グレートベースン、グレートプレーンズ、グレートディヴァイディング山脈など
東西南北、中央 東ヨーロッパ平原、西ガーツ山脈、西シエラマドレ山脈、南アフリカ共和国、
北ドイツ平原、中央アフリカ共和国、中央シベリア高原など
  サントラル高地、ノースダコタ州、ノーススロープ、サザンアルプス山脈など
白・青などの色 白ナイル川、青ナイル川、赤道ギニア共和国など
  イエローナイフ、オレンジ川、カラクーム砂漠、ネグロ川など

また、すべてが日本語の漢字表記という地名も、「大鑽井盆地」以外にいくつかあります。特に海洋の名前に多いですね。

大・小 大西洋、大西洋岸平野、五大湖など
東西南北、中央 北海、北極海、南極半島、中央平原、北島・南島(ニュージーランド)など
白・青などの色 黒海、白海、紅海
その他 死海、死の谷、喜望峰、珊瑚海、海岸山脈、海岸山地、木曜島

さらに、両方併記のものとして、グレートバリアリーフ(大堡礁)、シュヴァルツヴァルト(黒森)などがあります。

 表中の漢字表記地名のうち、南極半島や大西洋などは、領有が禁止されていたり、大部分が公海であったりするので、現地語地名にしようとしてもできません。複数の沿岸国をもち、国により呼称の異なる海洋に日本語表記が多いのもうなづけますね。そういったものを除けば、「あの〜」さんご指摘の「大鑽井盆地」と、それから、「喜望峰」あたりが、現地語表記になってもおかしくないが今後もずっと日本語漢字表記でありつづける地名の横綱だと、私は思います。

 以上、今日は、疑問にお答えするというよりも、疑問を肴に地名で遊んじゃいました。ごめんなさい。


2月4日 インディオとインディヘナどこが違うの?

お答え  インディアンとネイティヴ・アメリカンの違いのようなものです。が、使いにくい言葉です。

 初登場「あの〜」さんの疑問第一弾です。ネットのおかげで交友範囲が広がります。ありがたいことです。未知に友あり、ネットで知遇を得、互いに疑問を出し合い、互いに賢くなる、また、楽しからずや、って感じであります。これからの疑問は、今年の受験生ではなく、来年度の受験生などまだ時間的に余裕のある方々からのものだと思いますので、試験に出る出ないをあまり考慮せず、マニアックにお答えしていこうと思います。

 さて、今日の疑問の「インディヘナ」ですが、これは、「インディオ」という呼称に差別的な意味があったためにあみ出された言いかえ言葉です。日系アメリカ人や中国系アメリカ人が「イエロー」などと呼ばれたり、「ジャップ」「チンク」という蔑称で呼ばれていたのが、最近は、他のアジア系移民とともに「アジア系アメリカ人(エイシアン・アメリカン)」と呼ばれるようになったようなものと、ちょっと違うがまあまあ似ています。こうした言いかえは、いろいろな民族に対して行われていますね。地理で学習するものでは、例えば、次のようなものがあります。
    カラハリ砂漠のホッテントットとブッシュマン   → コイ・サン
    スカンディナヴィア半島北部のラップ人      → サーミ
    カナダ北部(ヌナブット自治州など)のエスキモー → イヌイット
「インディオ」についても、早いとこ「インディヘナ」と言いかえればいいのに! と思われるかもしれませんが、「インディヘナ」と呼ばれるのを嫌う人もいるので、この言いかえには慎重になる必要があります。

 「インディヘナ」という言葉は、スペイン語で「先住民(先住の)」「現地人(現地の)」という意味の名詞・形容詞に由来し、「先住民」と言えば聞こえはいいが、もともとは、「土人」「原住民」という差別的意味も含んだ普通の名詞・形容詞であります。スペイン語ではindígena、同じラテン系言語を調べたら、ポルトガル語でもindígena、イタリア語ではindigeno、フランス語ではindigèneというようで、いずれも普通の名詞・形容詞です。多くの場合、ヨーロッパ以外の地域の現地住民に対して使い、少し差別的意味を含む場合もあるようです。彼らから見れば、日本人は日本のインディヘナであり、例えば、日本に進出しているフランス企業で働く日本人労働者は現地採用の現地人という意味で、インディヘナ労働者なのであります。そういえば、オーストラリアの先住民を「アボリジニー」と言いますが、これも、英語の「原住民」という普通の名詞・形容詞のaborigineまたはaboriginal(ab+originalです)に由来します。

 ラテンアメリカの「インディオ」を「インディヘナ」と言いかえるようになったのは、いつ頃からで、誰が言い始めたのか、については、関心をもって調べましたが、しっかりとした調べはまだついていません。この分野の師匠的先生もいますので、機会があればお尋ねしてみようと思います。ラテンアメリカ先住民の擁護と復権を唱える「インディヘニスモ」と呼ばれる運動がありまして、これが活発になったのが1960年代以後なので、その頃からこの運動の中で広く使われるようになったのだと思います。ものの本によると、「インディヘニスモ」という言葉をつくったのはペルーの思想家マリアテギ(1894-1930)という人だそうです。ただし、1960年代より前は、インディヘニスモの担い手はインテリの白人やメスティソで、、インディヘナ自身によるインディヘニスモは1960年代以後だから、「インディオ」の言いかえとして「インディヘナ」という言葉が広まった歴史は新しいと思います。

 「インディオ」と「インディヘナ」は発音が似ており、指し示す対象も同じだが、出自が異なり、「インディオ」はインド人に由来し、「インディヘナ」はスペイン語の「先住民」という普通の名詞に由来するわけであります。

 使い方ですが、現地ラテンアメリカでは「インディオ」の呼称をいやがる人が多いので、「インディヘナ」を使えばいいでしょう。でも、そう呼ばれることを嫌う人もいるので、言いかえさえすればよし! としてはいけませんね。社交界では「他人のいやがる言い方はしない、真心で接する」が原則なので、その場その場で臨機応変に対処するべし! ですね。私としては、彼らは先祖がインカやアステカ、マヤなどの文明を築いたという偉大な歴史をもっているので、親しくなったときに、「よっ、インカの末裔!」という意味をもつ言葉があったり、日本人と同じモンゴロイドなので、「おおっ、われらと同じ祖先をもつ人々よ!」という意味をもつ言葉があればいいと思いますが。。。「インディヘナ」と呼ばれるのをいやがる人もいて、「インディヘナ」は「インディオ」よりまし、というにすぎないようです。こうした事情も考慮すると、日本では「インディオ」は差別的意味のないとりあえず透明な言葉でもあるので、「インディヘナ」と言いかえるのはどうかと思います。入試でも、特にそれが問われないのであれば、「インディヘナ」と答えず、「インディオ」と答えましょう。少し似た例として、「エスキモー」を「イヌイット」と言いかえる件があります。「エスキモー」には「生肉を食う人」というような意味があるらしいので、カナダではエスキモーの言葉で「人」を意味する「イヌイット」への言いかえが行われましたが、カナダ以外に住む例えばグリーンランドのエスキモーはカナダのイヌイットとは別の言葉を使うので「イヌイット」なんてイヤだと言っているようです。そのため、カナダでは完全に言いかえられましたが、他の地域では言いかえが進んでいないようです。

 また、インディアンとインディオの違いですが、これらは英語とスペイン語の違いで、アングロアメリカではインディアン、ラテンアメリカではインディオと呼んできたにすぎません。民族学では、彼らを総称して、「アメリカ・インディアン」と呼ぶようです。また、アメリカ合衆国では、インディアンに差別的意味が込められているので、エスキモーとインディアンなどアメリカ大陸先住のアメリカ人を、「ネイティヴアメリカン(アメリカン・アメリカン)」と総称するようになっています。以上を整理しますと次のようになります。

  アメリカ大陸先住民∋アメリカインディアンやイヌイット(エスキモー)
  アメリカインディアン∋インディアン(アングロアメリカ)やインディオ(ラテンアメリカ)
  インディオ=インディヘナ
  ネイティヴアメリカン=インディアン+エスキモーなど

 なお、英語やスペイン語では、インド人もインディアンやインディオになるので、混乱しないかという疑問が湧きますが、混乱を避ける必要のある場面では、英語ではアメリンディアン(Amerindian)・アメリンド(Amerind)、スペイン語ではアメリンディオ(Amerindio)と呼び、インド人をヒンズー(Hindu)と呼んで区別してきたようです。