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2000年4月の疑問

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4月20日 七つの海

「七つの海」ってありますがどこの海を指すのでしょうか?

 SALAND掲示板で、かつさんが提出された疑問、第3弾です。今回も掲示板でのやりとりを掲載します。掲示板のコピーだけではつまらないので、お答えの部分に少しだけ書き足しをしました。なお、七つの海はどこかという問題は、入試ではまず出題されません。地理マニアの遊びとしてお読み下さい。

最初のお答え 七つの海というのは、全部の海ってことでしょうね。

 七つの海というのは、全部の海ってことでしょうね。七つ道具ってのも、七つではなくて、一揃いの道具とか、道具一式を意味します。あえて言うなら、百科事典には次のように書いてありました。

世界の海を総称する呼び方に次のようなものがある。(1)三大洋 太平洋、大西洋およびインド洋。(2)四大洋 三大洋に北極海を加えたもの。おもに欧米で使われる。(3)五大洋 四大洋に南大洋(南極海ともいう)を加えたもの。(4)七つの海 南・北太平洋、南・北大西洋、インド洋、北極海、南大洋(南極海)。世界の海の総称としても使う。

 別の箇所には、「転じて全海洋をさす言葉でもある」という説明もありました。が、もともとが「全海洋」の意味で、あとから七つの海をこじつけたのでは? って気がします。

 関連話。「八紘一宇」「八百万の神」「八百屋」「八雲立つ」「八重垣」「八宝菜」「五目そば」「九十九里浜」「九十九湾」などは、「全部」とか「いろいろ」とか「たくさん」というような意味で数字が使わることが多いですよね。

また、「七不思議」ってのは、「不思議なことを数えあげていったら七つあった」のではなくて、「まず七ありき」で、七に合わせるように不思議なことがらを探し出してこじつけています。「七」は聖なる数字なのでしょう。こじつけの例は、「三大美港」などの「三」でもよくやります。

 関連話をさらに続けますと、近世以前の日本には、「三国」世界観というものがあり、「三国一の器量よし」などという具合に、私のような旧人類は、「世界」の意味で「三国」という言葉を、今も使います。この「三国」は、天竺(インド)、震旦(中国)、本朝(日本)を指すわけで、こちらは、「三国」が先にあって、それが転じて「全世界」の意味になっています。地図の歴史を書いた本なんかには、北畠親房の『神皇正統記(じんのうしょうとうき)』(右翼思想の源流は恐らくここにあり)の中の一節をとりあげて、「三国世界観」の説明をしています。さ〜らの青春時代の恩師大先生の書いた岩波新書の中にも言及されていました。

 なお、この「三国世界観」の「三国」は、石原都知事が言って物議をかもした「三国人」の「三国」とは全く違う意味です。後者はそんなに古い言葉ではなく、ごく短い年数の間だけ使われた言葉で、消えゆく運命にある言葉でしょうね。まあ、いまどきの流行語と同じようなもので、一時代だけに通用した言葉でしょう。第二次世界大戦で日本と闘った戦争当事国ではない国、第3者的な国、英米でも日本でもない国(朝鮮や中国が第3者ってのも変な気がしますが)という意味らしいです。差別的意味が込められるようになったので、封印されて死語になっていたはずなのだが、この言葉がよく使われていた当時青春期をすごした人の中には、いまだにこれを日常の語彙として使っている輩がいたわけです。このように、青春時代に頭に入ってしまったものは、いいものでもわるいものでも、その後、老人になっても、なかなか忘れ去ることができないものであります。初老期に突入しているはずのさ〜らも然りで、文章中に、しばしば青年さ〜らが登場しますね。青年期よりも今の方が楽しいのに、不思議です。
 一方、ここでいう「三国」は、中世・近世を通じて使われた由緒正しき言葉であります。高校地理のどこかの出版社の教科書にも、この「三国」の解説がコラム的に載っていました。「三国世界観」については、関連話があれば日を改めて、一席ぶちたいと思います。

上記のような脱線の多いお答え(再掲載にあたって、さらに脱線しておいた)に対するかつさんのさらなる疑問

なるほど。なんか奥が深そうですね。僕も自分でいろいろと調べた結果,こんなHPを見つけました。
http://www.genki-town.co.jp/rural/meisu/

それによると,さ〜らさんのいう七つの海とは少し違うみたいなんです。どっちが正しいのかな?? それによると次のようです。

七海洋 / ななかいよう
  北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋、北極海、南極海
七つの海 / ななつのうみ
  南シナ海、ベンガル湾、アラビア海、ペルシア湾、紅海、地中海、大西洋

2回目のお答え さ〜らも負けずに、検索してみました。

 さ〜らも負けずに、検索してみました。
http://wwwhtm1.nippon-foundation.or.jp/1998/0827/contents/015.htm
これによると、「七つの海とは、北極洋、南極洋、北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋およびインド洋をいう。 英語でオーシャンと呼ばれる七つの大洋のことである。七は神聖な数だと考えられ、不特定にすべてを指すことが多い。七つの海はすなわち世界中にあるすべての海という意味をも持っている。太平洋と大西洋を赤道を境にして南北に二分したのも七という数に合わせるためだったのかも知れない。古くには、北海、バルト海、地中海、紅海、シナ海など、そのどれかを一つに数え上げた幾種類もの七つの海があり、時代により、また人によって異なった。それぞれにとってすべての海だった。現在の数え方に落ちついたのは19世紀末である。(杉浦昭典著「海の昔ばなし」から抜粋)」

また、別のHP(ちゅーやんのページ)の中の「生きていくのには不必要な知識」の「世界の陸と海」)
それによると、「ところで昔からよくいうと七つの海とはどの海をさすのでしょう。 中世の帆船時代、アラビア人はその勢力圏のアラビア海、紅海、ペルシア湾、地中海、大西洋、ベンガル湾、南シナ海を「七つの海」としました。後にこの言葉はジャングルブック(1894 )を書いた、イギリスのノーベル文学賞受賞小説家・詩人キップリング(Rudyard Kipling 1865-1936 )の同名の詩集( The Seven Seas 1896 )で有名になりました。 現在では「七つの海」とは南北太平洋、南北大西洋、インド洋、北極海、南極海を言い、結局は全世界の海を表す言葉となっています。」

ということは、かつさんの調べたHPにあった「七つの海」は中世アラビア人のいうヤツということになるみたい。

奥が深い!
「七つの海」の変遷と西洋における世界観の拡大、なんていう題名で、大論文が書けそうですね!

 

8月22日 付記(5月7日の掲示板より)

 ユタカさんから頂戴した情報です。

4月20日の今日の疑問で取り上げていた「7つの海」で気がついたんですけど、
確か地中海沿岸の小さな海(マルマラ海、リグリア海、アドリア海、エーゲ海など)を
全部足すと7つになって、それを「7つの海」と呼ぶ、
という話をどこぞで耳にしたことがあります。
う〜ん、地域によって色々な7つの海があるのかも....

 ユタカさんのこの情報のおかげで、「『七つの海』の変遷と西洋における世界観の拡大」なる大論文の完成に向けて、一歩踏み出すことができました。「七つの海」についても、中世アラビア科学の源は古代ギリシャ・ローマ世界にあり、の感が濃厚になってきました。そして、聖数「七」の起源は?「一つの知識は百の疑問を生む」という名言がありますが、「一つの知識は七つの疑問を生む」という状況になってまいりました。


4月11日 第三のイタリア

第三のイタリアというのが注目されているそうなんですが、これはどこですか?
また、なぜ注目されているんでしょうか?

お答え 豊かな「北部」でも貧しい「南部」でもない「第三」のイタリアです。注目されている理由は、元気だからです。

 SALAND掲示板で、sealandさんが提出された疑問です。掲示板でのさ〜らの回答と、それに対する、謎の人エヌヨさんのご意見を掲載し、そこに補足的な説明を入れます。これらのやりとりで、ほぼお答えが出ています。

掲示板でのやりとり1 さ〜ら
 
推測するに、豊かな「北部」でも貧しい「南部」でもない「第三」のイタリアってことじゃないかな?
今年の早稲田(商)で出た地域、昨年も、中央だったか学習院だったか法政だったか失念しましたが、出た地域じゃないかな? ボローニャを中心とするベネチア・フィレンツェ・ベルガモを結ぶ地域が中小企業が元気で、世界的に注目されているっていうことを岩波新書で読んだことがあります。引っ越ししたばかりで、その本はどの箱に入れたかなあ? 詳細がきちんとわかり次第、再度返答し、今日の疑問でも扱わせていただきます。

 「第三のイタリア」に関する昨年度の出題は、専修(文)でした。その該当部分をとりあげます。 

 その一方で,東欧の市場経済化や1993年のECの市場統合により、ロンドンか
らドイツ南部を経て北イタリアにいたる南北軸の「ブルーバナナ」が,重心を南
に移行させつつ,改めて〔 8 〕の成長軸として注目されている。スペインの
トゥリア川下流にある〔 9 〕から北イタリアに達する地中海沿いでは,航空
機,電子機器などの〔 10 〕集約型の産業の集積が進み,ヨーロッパのサンベ
ルト」とも呼ばれている。また,世界最古といわれる大学がある〔 11 〕など
を中心とするイタリア北東部から中央部の地域において,中小企業が急成長を
とげている
。従来の経済の中心であったイタリア北部や経済発展の遅れた南部と
は異なる「第三のイタリア」として注目されている。この新しい工業地域の出現
によって,地域問題が新たに生じている
問1 空欄にもっとも適切な語句・地名を記入しなさい。
問2 下線部Aの急成長する中小企業として,具体的にどのような産業が考えら
  れるか,述べなさい。
問3 下線部Bの新たな地域問題とは何か,述べなさい(20字以内)。

 昨年度、専修大学を受験した若者(彼は、別の大学にも合格し、今年はその大学の2年生になっています)から、入試翌日に、この問題の答えを作ってくれと言われたことを思い出しました。そのときに書き散らかしたメモが、たまたまパソコン内に保存されていたので、掲載します。

問1 8−第2   9−バレンシア  10−知識   11−ボローニャ

問2 アパレル産業、or 衣服・服飾品の生産
* 解答欄にもよるが、上記が妥当な線でしょう。EUの周辺で最近元気な第二の中心軸の発展業種を問われたら、フランス南部のニース(に近いソフィア=アンティポリス)やグルノーブルに建設されたテクノポリス、スコットランドのいわゆるシリコングレンの先端産業、フランスのツールーズの航空機などのように、普通はエレクトロニクス・通信などの先端産業と答えたいが、ここでは中小規模の産業、中小企業の成長なので、あてはまらないような気がします。イタリアなのでブランド品の生産を念頭において答えればいいでしょう。

問3 連邦化を主張する地域主義の動きが高まった。(句点を入れると1字オーバー)
* 北部では、自分たちの地域で生み出された富が中央政府を通じて南部につぎこまれ、豊かな北部の発展が妨げられている、という不満、すなわち、イタリア経済を牽引しているにもかかわらず政治的には国家権力から疎外されているという被収奪意識が強まっている。近年、北部で支持を伸ばしている北部同盟(ロンバルジア同盟)は、そうした豊かな地域の大衆の意識に迎合し、それを助長する政党です。豊かな地域が自立を求める動きはスペインでもみられますね。民族の自立ではなく、地域固有の伝統・文化を尊重し、国家全体ではなく地域の利益を第一に考えるこのような動きを地域主義と呼びます。

* ちと、難しいが、梶田孝道『新しい民族問題−EC統合とエスニシティ』(中公新書、1993年11月発行)はおすすめです。電車の中で読むのもよいかも。EC(EU)統合、外国人労働力、民族問題、地域主義の問題、中心と周辺(中心軸の青いバナナ、第2の中心軸など)等々、ためになる話がいっぱい書いてあります。上記解答作成でも大いに参考にしました。姉妹本は、同じ梶田氏の『統合と分裂のヨーロッパ』(岩波新書、1993年2月発行)です。これもおすすめ。

 掲示板に戻ります。

掲示板でのやりとり2 さ〜ら
 今、ネット検索してみましたら、やっぱり、上記の地域でいいようです。
まずは、法政大学の先生の講演記録らしきもの
http://www.kawasaki-net.ne.jp/topix/jyouhou/JOHO9908/topkiji.htm
次は、大分大学の宮町先生の研究室紹介ページ
http://www.ec.oita-u.ac.jp/prof/miyama.html
おぉ〜っと、宮町先生ですか! おなつかしゅうございますってメールを出したい気分になりました。宮町先生は、かつて、さ〜らの職場にいて、同僚だったんです。なつかしいなあ。あのころは、宮町先生もさ〜らも青年だったんです。「青年さ〜らはチベット高原で走りながら糞をしてしまったんです」でおなじみ(今日の疑問3月の記事参照)の「青年さ〜ら」の時代です。

 宮町先生とはじっこんの仲なので、勝手に引用しても怒られないでしょう。

日本で新規産業育成といえば、「産学官の連携」が決まり文句ですが、アメリカのシリコンバレーでは「金」(金融)が、イタリア中北部の第三のイタリアでは「労」(労働組織)が大きな役割を果たしています。(宮町先生HP)

 ここまでのやりとりのあと、マニア仲間で、つい最近まで掲示板に書込もしていただいていたオナペットK氏に、この件についてお尋ねしたところ、何冊かの本をご紹介してくれた。オナペットK氏は、つい先頃、saland掲示板で「脱オナペット宣言」をされている。さ〜らとしてはたいへん悲しいことなので、引きとめに努力しているが、氏の決意は固く、翻意はかなわぬようである。だが、うれしいことに、氏は、オフ活動において、G−SALANDに協力を惜しまないと言ってくれた。勇気百倍、うれしいことです。氏の力を得れば、さ〜らの手に負えない疑問も、アッという間に解決するのだ。

 何冊かの本のうち、あまり難しくなくて、かつ、イタリアの南北問題など、地理でおなじみのテーマをも盛り込んであるおすすめ本は、馬場康雄・岡沢憲芙編『イタリアの経済−「メイド・イン・イタリー」を生み出すもの』早稲田大学出版部(1999年9月10日発行)です。その中の「第1章 経済地理」は、元一橋大学(現在は駒沢大学)の教授、半分イタリア人と言ってよいぐらいのイタリア通、ダンディにして地理学会の大御所、竹内啓一氏が書いています。引用します。

第三のイタリア
 1970年代中頃から「第三のイタリア」という表現がなされるようになった。世界経済が、石油危機による深刻な不況に喘ぐなかで、ボローニャ、フィレンツェ、ヴェネツィアにほぼ囲まれた地域で、中小企業を主体にした家庭電器、ファッション関連、繊維、食料などの新しい工業などが、高い成長率を記録したのが、第三のイタリアが注目されるようになったはじまりである。

 ちなみに、第一のイタリアとは、工業三角地帯と呼ばれているミラノ、トリノ、ジェノヴァに囲まれた地帯で、1890年代の産業革命以来イタリア工業の中心。第二のイタリアとは、工業化が遅れ1950年代からの南部開発政策によって資本集約的な装置産業が立地したものの、今も工業化という点で後進的なイタリア南部。

 これで、地域はだいたい明らかになったので、掲示板でのやりとりは、今年の早稲田(商)の問題の答探しに関心が移っていきました。

掲示板でのやりとり3 さ〜ら
 早稲田(商)は問題文が悪いので、3大予備校ともベルガモを答えにしていたが、ボローニャが正解じゃないかという気がします。
掲示板でのやりとり4 謎の人エヌヨさん
 第三のイタリアならボローニャが正解ですが、早稲田・商の問題には
地場産業型の中小企業は,アパレル,皮革製品,陶器などでダイナミックな展開を繰り広げ,世界の注目を集めている。その中心は,ベネチア,フィレンツェ,( I )を結ぶ地域である。
とありまして、第三のイタリアとは必ずしも言ってませんね。ファッションに縁のないさ〜らさんは知らないでしょうが、ベルガモはトラサルディの創業の地です。ベネチアの近くのトレビーゾの近くの何とか村はベネトン、フィレンツェはフェラガモ。とまあブランド三角地帯とでも言っておきますか。

 ( I )に入るのは、ボローニャか、それともベルガモか、というお話です。上記引用中の「ボローニャ、フィレンツエ、ヴェネツィアにほぼ囲まれた地域」に注目すれば、ボローニャなのだが、地図を見ればわかるように、この3都市はほぼ直線上に並んでおり、「3都市で囲まれる」のいうのは変であり、また、ボローニャを答えさせたいなら、北から順番に「ベネチア,( I ),フィレンツェ」と書くのが普通のような気もします。ベルガモなら三角形で囲まれた地域ということになります。さらにまた、謎の人エヌヨさんのように日本で名の知れたブランドに注目すればベルガモがよさそうです。

 第三のイタリアは、中心が上記3都市であることは確かのようですが、その範囲はもっと広く、また、ここだ!と特定できるものでもありません。上記竹内説明の続きにもそう書いてあるので、それを引用します。

 厳密にどの州、どの県がこの第三のイタリアに属すると定義することは困難である。中小企業を中心にした新しい工業の発展は、ヴェネト、エミリア・ロマーニャ、トスカーナ、マルケなどの諸州で見られ、ここには、ベネトンのように日本でも知られたメーカーのほかに、日本の地場産業にも似た企業集団が各地に形成されている。しかしこのような産地は、ブリアンツァの家具製造のように、ロンバルディア、ピエモンテのようにいわば第一のイタリアに属する部分でも形成されているし、新興産地の形成は、アドリア海にそって南部のプーリアにまで及んでいる。

 というわけで、早稲田(商)の答えを特定するのは至難の業で、むなしい作業だということがわかります。早稲田大学出版部のこの本をネタに作問したとすればボローニャを正解とするつもりだっただろうし、ブランドに詳しい人が作問したならベルガモのつもりなんでしょうね。オナペットK氏に尋ねたところ、氏も「前者の可能性が高い。」とおっしゃっていました。

 さてさて、「第三のイタリア」。他の本なども見ると、こんな大事なことを、今までないがしろにしてきた自分が恥ずかしいって気になりました。最近は、一部の教科書でも言及されています。なぜ大事だと思ったかですが、話せば長くなるので、舌足らずでわけのわからない書き方にとどめます。日本の地場産業、伝統工芸、あるいは、日本が強いと言われているアニメなどの産業などの、今後の発展にとって、「第三のイタリア」方式から学ぶことが多そうな気がしたからです。また、発展途上国の工業化においても、新たな工業化戦略になるんじゃないかって気もしたからです。さらに言えば、一人の人間の生き方においても、大企業に就職し大企業のメリットを活かして大きな仕事をする方向や、独立自営のたとえば自由業について、自由ではあるがちまちまと仕事をする方向などとは、別の方向、すなわち、独立自営でありながら、他の独立自営の人々と強いネットワークをはりめぐらすことにより、大企業の中で活動するのと同じくらいか、あるいはそれ以上の活動をなしうる可能性を、第三のイタリア方式の中に見たからであります。とまで言えばいいすぎかしら。

 なお、ファッションに縁のないさ〜らからの脱却は? 無理でしょうね。


4月6日 カンポ・セラード

ブラジルにはいろんな植生景観の名前がありますよね。
次のやつがどんな特徴があって,どのあたりをさすのか、ずっと気になってました。
カンポ、カンポ・セラード、セラード、リャノ、カーチンガです。
また、カンポ、セラード、それぞれ別表記の場合と、カンポ・セラードと表記している場合と、
両方見たことがあるんですが、この辺の定義づけも知りたいです。

お答え 欧米学者の使用法に基づけば、カンポとセラードの関係は、カンポ∋カンポ・セラードが正解のようです。

 SALAND掲示板で、かつさんが提出された疑問、第2弾です。まず、掲示板での回答を掲載しておきますが、お茶を濁したようないいかげんなお答えでした。結論を早く知りたい方は、その部分をすっとばして下さい。

カンポ、カンポ・セラード、セラード、リャノ、カーチンガについて
 いずれも南米のサバナの植生だが、このうち、リャノはオリノコ川流域。残りはブラジル高原にみられるが、うち、カーチンガは、北東部に局所的にBS気候が分布している辺りを中心にみられるもので、サボテンのような棘のある灌木が生えている植生。

 まず、ここまでの部分について、補足解説をします。南米のサバナ(熱帯草原)の植生は、固有の地方名がついており、地域と呼称の関係は、次のようになります。

オリノコ川流域(主にベネズエラ) リャノ
ブラジル高原の大半
 うち、ノルデステ地方
カンポ・セラード
カーチンガ
パラナ・パラグアイ川流域(パラグア
イと南緯30度以北のアルゼンチン)
グランチャコ

これらは、植生名としてだけでなく、それぞれの植生が分布する地域の地名のように使われる場合もありますが、受験用には、植生名だとしておけばよいでしょう。また、リャノ、カンポ・セラード、グランチャコは、場所により樹木の高さや密度に違いはあるが、基本的にはAw気候のもとに分布(カンポ・セラードとグランチャコの一部はCwまたはCfaにもかかっているが)するサバナの植生であるから、これまた受験用には、草原の中に低木がまばらに分布する景観が広がっているとしておけばよいでしょう。卓越する樹木の種類は覚える必要はありません。グランチャコにみられるケブラチョは試験に出ますが、これはサバナの樹木としてよりも、タンニンの原料として利用されるこの地域の有用樹として覚える方がいいでしょう。

 カーチンガだけは、乾燥度の強いブラジル北東部、通称、ノルデステ地方の植生で、他と異なる特色をもっているので、景観上の区別まで理解しておく必要があります。また、ノルデステはブラジルの貧困地帯として有名で、カーチンガはその文脈の中でも登場する植生でもあります。カーチンガやノルデステについては、「今日の疑問」1月にも記事にしましたが、まだ解説不足です。後日、機会があれば、もっとしっかり解説したいと思います。

 次に、カンポとカンポ・セラードについて、掲示板では、次のようなよれよれ回答が始まります。

カンポとカンポ・セラードについて
 やっかいなのが、カンポとセラード。受験ではカンポ=カンポ・セラード=セラードとして扱うか、カンポ・セラード∋カンポ+セラードとして扱うのが普通。区別する場合、セラードは灌木と草原が混じったところでカンポより灌木が多い。ポルトガル語のcerradoは「閉ざされた」「密閉された」の意味。灌木でおおわれているとか、侵入しにくい、というところから来ている名称だと思います。一方、カンポは灌木が少なく草原が卓越しているところ。したがって、早くから農園開発が進んだのはカンポ。現在牧場や農地などに開発中なのがセラード。土地はセラードの方がやせている。以上、受験地理的理解。
 分布あるいは実際はどうかというと、アマゾン盆地南部からブラジル高原のAw地域の大半はセラード。カンポはポルトガル語でCampos。campoは草原とか畑というような意味。実は、Awの植生の代表例ではない。植生名として世界的に認められているかどうかも怪しい。植生名だとしても、南部など一部の草原卓越地域の植生にすぎないだろう。
 教科書で、ブラジル高原のサバナ=カンポ、としているのはなぜか。ブラジル高原のカンポと呼ばれている一部地域での農業開発が日本に知られるようになった頃に、日本の教科書で一挙に広まったためだろう。昔広まったことが今も惰性で使われているにすぎない。本当はセラードの方がブラジルのサバナの典型で、分布域も広いんだが、カンポをセラードに変更すると教師も生徒も混乱するので、完全に変えることができないでいるのだ。苦肉の策がカンポ・セラードというわけのわからない用語。現在は、ODA絡みで、セラード開発の方がメジャー。そういえば、最近のセンターで「カンポ」なんて用語はほとんど出ませんね。セラード開発は写真の問題が出ました。

と、回答したところ、カレーライスさんからも、疑問が寄せられ、かつさん、私さ〜ら、だけでなく、多くの人が混乱に陥っており、困っていることがわかりました。

カレーライスさん
 実は不思議に思っていたことがあるのですが、某帝国・・の地図帳でカンポ・セラードが大きく表示されていたものが、ここ数年の(新課程になってから?)地図帳では「セラード」が確認するのが難しいくらい小さい表示になっています。これはどう言う経過でこうなったのでしょうか。
 私の想像では、日本のODA投下による開発でセラードが見晴らしの良い大農園になってしまったからかな・・・? と思ったりしたのですが、まちがっているかな。
私さ〜ら
ちょっとカンポの悪口をかきすぎたかなってちょっと反省しています。カンポさんごめんなさい。後日、今日の疑問で扱うときは、もう少し大事にしますから許してね、なんて、カンポに誤っても仕方ないけど。

 

 以上、長々と掲示板でのやりとりを掲載したが、昨日、「これだ!」という説明を得ました。朝倉書店の『人文地理学辞典』です。この本は、前から存在を知っていたが、何せ、定価が25,000円! さ〜らは、少年時代、窮乏生活のなかにあった、というのは言い過ぎにしても、現金収入に乏しい自給自足的世界に身をおいていた昔人間であるうえ、高校卒業後、消費生活に入ってからも、通算13年間の長きにわたって貧乏学生をしていたため、貧乏性が身についており、お金の使い方を知らない「けち」な人間で、「いいものなら大枚を叩いても手に入れる」という「正しいお金の使い方」ができないのであります。ところが、昨日、この辞典を見ると、カンポに関するすっきりした説明があったため、すっかり気が動転してしまい、思わず買ってしまいました。ついでに、「第三のイタリア」に関する本なども含め、地理がらみの本を合計7冊も買ってしまったので、25,000円の倍ぐらいの出費です。オナ・ページを維持するには莫大な投資が必要なのだ。投資しても利潤ゼロなので救われます。5万円投資して1万円儲かったとしたら悲しいが、利潤ゼロなら、「趣味だからいいや」と割り切れますからね。それにしても、普段のさ〜らなら、「たかだか525ページぽっち、それも文字ばっかりできれいな絵や写真があるわけでもない。なのに、25,000円もする。そんな面白くもなんともない色気ゼロの本を買うヤツは馬鹿だ!」と言ってはばからないはずなのに。。。人間、パニックに陥ると何をしでかすかわかりません。賢明な人はパニックに陥ることがないので、こんな辞典は買わないと思います。そこで、以下、賢者の方々のために、辞典中の説明を引用します。

まずは、カンポ(campos)。

 ブラジルではブラジル南部のリオグランデドスール州に広がる木のない草原をカンポという。したがって、アルゼンチンのパンパと同意語で、北アメリカのプレーリーに相当する草原の名称である。
(中略:カンポでウシの牧畜が行われていること、焼肉料理のシェラスコの起源、などの説明)
 欧米の学者はカンポをより広義に使い、
草原(campo limpo)と疎林のあるサバナ状疎林(campo serrados)の両方の意味に使っている。後者はブラジル高原に展開するので、樹木は乾燥のため倭性化し、疎林となっている。ブラジルではこの地域をセラードと呼び、日本政府もセラード開発の援助をしている。

次に、セラード(cerrado)。

 ブラジル中央部を占める広大な草原状の植生、およびその分布地域を指す。ここはイネ科の草原に低木が散生する植生が卓越していて、広い意味でのサバナである。すなわち、サバナのブラジル地方名ということができる。(以下略)

最後に、サバナの説明の中で関連部分。

 (サバナの説明の部分は略) サバナはアフリカで記載された群系である。(中略) 同じような相観をもつ群系は南アメリカやオーストラリアに分布し、南アメリカではセラードと名づけられている。(以下略)

 これらの説明で(信じるとすれば)、完璧にわかりました。やはり、ブラジル高原のサバナはセラードだったのです。カンポは、ごく一部の地域にしか分布しないのです。リオグランデドスル州は南緯30度付近の州でウルグアイに隣接し、気候区はCfaです。パンパやプレーリーと同じ草原なら、サバナ(熱帯草原)ではなく、温帯草原ってことになってしまいますが、仕方ありません。

 ブラジル高原のサバナをカンポとするのは、欧米の学者の使い方に依拠しているわけで、ブラジルでの呼び方ではないこともわかりました。

 上記カンポの説明中のカンポ・セラードの綴りがcampo serradosで、セラードのcerradoと違う(もしかして誤植かな、それとも?)のがちょっと気になりますが、「セラード(cerrado)」は、よくいわれているように、「閉ざされた、密集した」の意味で、疎林がみられる状態を意味します。そうすると、つい、「リンポ(limpo)」の意味は? と調べたくなりますね。えっへん、さ〜らはこの日のために、ちゃぁあ〜んと、ポ和辞典をもっているのであります。それによると、「清潔な、不純物のない、澄み切った、はっきり見える、完全に」というような意味だそうで、「campo limpo 草原」という熟語も載っていました。

 「欧米の学者は、ブラジルでいうところのセラードをカンポ・セラードと呼び、ブラジルでいうところのカンポをカンポ・リンポと呼ぶ」と理解していいような気がしますが、どうでしょうか? とすれば、カンポ・リンポは南部のごく一部地域だけに分布する草原ということになります。

 が、欧米の学者が書いたであろうと思われる『エンカルタ百科地球儀』を見たら、カンポ・セラードの写真(A)とカンポ・リンポの写真(B)があって、次のような説明がついていました。( )内は私が加えた注です。

 木がかかなり密生しているサバナの森林地帯のことを、ブラジルではカンポ・セラードと呼んでいる。この呼び名は、その地によく見られる植物にちなむ。この森林地帯(Aのカンポ・セラードの写真)は、ピアウイ州のもの。
 ブラジルのマトグロッソ高原にあるエマス国立公園には、多様な生態系が保護されている。この(Bの写真の)カンポ・リンポというほとんど樹木のないサバナの草原もその 1 つである。

 マトグロッソ高原はブラジル高原のまさにAw地域に当たるので、南部とは言えません。ということは、ブラジルでいうカンポと欧米学者の使うカンポ・リンポは、ほぼ同じだが、若干のずれがあるのかもしれません。サバナといっても、まったく同じではなく、樹林の卓越するサバナから木のまったくみられない草原サバナまであるので、ブラジルでいうところのセラード地域の中にだって、木のないところがあちこちにちょこちょことあり、欧米の学者は、そこを含めてカンポ・リンポと呼び、木のあるカンポ・セラードと区別しているのだと思います。

 さ〜て、いろいろわかりましたが、どうしましょうか? 「欧米の学者はけしからん! ブラジル式の言い方に統一すべきだ!」と怒ることもできますが、それこそ、「犬の遠吠え」。

 引用ついでに、小学館のニッポニカの説明もあげておきます。

 ブラジル中部のブラジル高原上に、約200万平方キロの広さに分布するサバンナ(カンポ・セラード)および草原(カンポ・ソンポ)をいい、これらが分布する地域名として用いられることもある。ブラジル北東部の半乾燥地域にみられる刺(とげ)のある低木林(カーチンガ)をカンポに含めることもある。カンポ・セラードはブラジル高原特有のサバンナで、草原の中に幹や枝が曲がりくねった低木が散開した景観をなす。

まあ、こんなところが最大公約数的(最小公倍数的?)理解でしょうね。@「ブラジルのサバナ=セラードで、カンポはその南の草原」としてもよいし、A「ブラジルのサバナ=カンポ=カンポ・セラード+カンポ・リンポ」としてもいいし、もっといいかげんに、B「ブラジルのサバナ=カンポ=カンポ・セラード+カンポ・リンポ+カーチンガ」という場合もあるってことです。そして、帝国書院の地図帳は、欧米式のAからブラジル式の@になりかけたが、再び欧米式のAに戻したのだと思われます。混乱を避けるためでしょう。なお、上記ニッポニカの説明中の「カンポ・ソンポ」は「カンポ・リンポ」の誤植と思われます。

 かつさんのおかげで、長年のもやもやが解消しました。うれしいことです。でも、ちょっと疲れました。

*上記、25000円の『人文地理学辞典』ですが、購入後、他の用語を調べてみたところ、値段が張る割には、そんなにいい本とは言えませんでした。私は、ネット上ではあまりよくなくてもべた褒めする癖がありますので、「いい」と書いてあっても、真に受けないでくださいね。(2000年7月6日付記)