本稿には『イエズスの聖テレジア自
叙伝』女子跣足カルメル会訳、中央出
版社を使用する。

 アヴィラのテレサは、欧州ではアウ
グスティヌスとともに、宗教文学の最
高峰を築いた人として知らない人がい
ない存在であるが、日本ではまったくといってよいほど知ら
れていない。

 そもそもルターの宗教体験(神秘体験Bを参照のこと)が
(日本では)正しく理解されなかったから、ルターのあとで
反宗教改革者の筆頭として出現した彼女の実像も理解される
ことがなかった。

 十七世紀にイタリアの天才彫刻家であったベルニーニの、
生涯最良の傑作は「聖テレジアの法悦」であると、ベルニー
ニ自身が述べている。二十世紀フランスの女性思想家ボーヴ
ォワールは、『イエズスの聖テレジア自叙伝』こそが人類の
著述のなかで最高傑作といってはばからない。(*)

 べつに筆者はカトリック信者ではないけれど、洋の東西を
問わず、この本が人類史上最高傑作であることを認めるに異
存はない。この邦訳本が絶版になっているのは残念だし、岩
波書店はなぜこの本の邦訳決定本を岩波文庫にくわえないの
かまったく疑問だと思っている。

 とはいえ、この本が簡単に理解できないことも事実だ。筆
者のばあいは、なんと完全な理解までに三年もかかった。聖
テレジアという人の徳性があまりにも高く、周囲の人たちに
たいする配慮が二重,三重にはりめぐらされているから、自
叙伝を読む人は、このヴェールを慎重に取り外す作業から始
めなくてはならない。それには時間がかかる。

前置きはさておいて、具体的に彼女はいったい何者なのか?

 聖女テレサ・デ・アヴィラは1515328日、スペインの
アヴィラで生まれた。もともと聖女であったわけではない。
彼女が死んでからローマ教皇によって聖化されたのである。
だからこの本では単にテレサと呼ぶことにしたい。テレサと
呼ばせてもらったほうが親しみが湧く。なお、彼女のラテン
語名はテレジアである。

ア ヴ ィ ラ の テ レ サ

写真:アヴィラ城壁の外に新しく
      作られたテレサ像。
          1997年撮影。
   あまり感心しない彫刻だが。

 ⇒ 16世紀初頭のスペイン
 ⇒ ユダヤ人の血筋
 ⇒ テレサの評価 
   ⇒ テレサの家族
 ⇒ テレサの大誓願

(*) 次を参照のこと。
新潮文庫 1997
ボーヴォワール
『第二の性』
T事実と神話 P219
U体験(下)P373-375

写真:
Gian Lorenzo Bernini (1598〜1680)
Estasi di Santa Teresa
The Hermitage
撮影 2005年6月