古代のプラトンの理想が現在に生かされないのは何故か、と
う疑問はいったん横におくとして、プラトンが設定した、自
己のなかに価値基準を見つけることができる、その基準は「イ
デア」であり、(西田幾多郎の用語を使えば「純粋経験」であ
る)、その基準は人間が努力すれば達成できる、その中身は
「真・善・美」である、という思想は、人類に与えた影響がき
わめて大きかった。

 九鬼周造が述べるように「さうして其感じ方には哲學者の個
性が與かるのだ」としても、すなわち、各哲学者によって表現
の仕方に種々の差異があるとしても、少なくとも1,900年間、西
欧とアラブ世界を席巻したのである。

 簡単に名前だけ挙げておこう。

      プロティノス            204- 269
      
アウグスティヌス      354- 430
      ファーラービー                   870- 950
    イブン・シーナー               980- 1037
      アンセルムス                     1033-1109
      ガッザーリー                     1058-1111
      イブン・アラビー            1165-1240
    トマス・アクィナス         1224/5-1274
      エックハルト                  1260-1328
      デカルト               1596-1650
      カント                           1724-1804
      ヘーゲル                       1770-1831
      ベルグソン                     1859-1941

プ ラ ト ン の 影 響

画題:
Gold mask from Mycenae.,
"Schliemann's Agamemnon", Mycenae.
Dated to the second half of the 16th century B.C.
Inv. no. 624.
アテネ国立考古学博物館

アガメムノンの時代から
われわれ人間は考え続けている。
この深刻な顔を見よ!

  なお、アラブ世界の哲学者については、井筒俊彦氏の
諸著作、インドの哲学者については、中村元氏のヴェー
ダーンタ哲学関係の本を読まれることをお勧めする。

 これらの人々は、すべて同一体験、神秘体験Aに到達
したのだが、この体験にもとづき構成した世界観には若
干の差がある。にもかかわらず、プラトンの主張したイ
デアを否定するものではなく、その表現に個性的な差を
提供しているにすぎない。

 では、どのようにすれば、この神秘体験Aに到達でき
るものであろうか。

 われわれはこれから、西欧の代表選手として、スペイ
ンのテレサのケースを例にとって調べることとしよう。
別にテレサでなくともよいのだが、彼女の報告書が比類
のない正確さを持ち、正鵠を射ている点が多いので、こ
れを皆様にご紹介したいのである。