プラトンが生まれたのは、アテネの外港ピレウスの沖合、船で約1時間20分のエギナ島。ピレウスから一日クルーズの船に乗ると一番初めの寄港地だから、そことは知らずに訪れた日本人観光客も多いだろう。時は紀元前427年5月頃、民主政治家ペリクレスに率いられたアテネがスパルタとペロポネソス戦争を始めた(BC431)頃、島の観光名所であるアフェア神殿が建立されてから間もない時期であった。ちなみに最終的にアテネがスパルタに破れる(BC404)までは、アテネは強力な海軍の力でエーゲ海の制海権をもち、小アジアのペルシャを抑え、ギリシャでは最強の都市国家であった。
父親のアリストン、母親のペリクティオネはともにアテネの貴族の家柄で、今でいうなら政治家の家に生まれ育ったのである。
20歳のときにソクラテスと知合い、ソクラテスは彼が28歳のときに刑死した。
40歳のときに、世界最大の大学アカデメイアを設立し、このアカデメイアは、ローマのユスティニアヌス皇帝が閉鎖(AD529)するまでおよそ900年間存続した。
80歳で亡くなるまで彼は独身で、アカデメイアの学頭を勤め続けた。
エギナ島、アフェア神殿
http://akioya.cool.ne.jp/c48/jadd4.shtml
筆者の見方はあるいは間違っているかもしれないが、プラトンという人は、この世の中でのメンバー制秘密クラブの元祖であるように見える。メンバーは限られていて、神秘体験Aを体験済みの人だけがそのメンバーシップをもっているようだ。
この本の登場人物でいえば、玉城康四郎はそのメンバーであるし、林武もご自分では自覚はされていないままに、立派にそのメンバー資格を持っておられる。後述するアヴィラのテレサも、日本の禅師である白隠も、勿論れっきとしたメンバーであって、このメンバーシップにはおよそ国境というものがないように見受ける。人間精神は普遍的なもので、普遍的なものには国境を造ることができない。
だがメンバーでない人、入会資格を持っていない人はプラトンの本を読んでみても、眼はただひたすらに字面を追うばかりで、5時間も読めば眠気を催してくる。あくびをする。そしてうたたねしてしまう。
それで結構なのだ、と思う。別に秘密クラブの入会資格を持ったところで、その資格からなんらの恩典を期待し得ない。日本でも昔は特典はあった。帝国大学文学部哲学科の教授の資格がそれであり、その傾向は第二次大戦後20年くらいまでは続いた。今はその資格も薄れてしまった。大体いまどき哲学科の教授になろうとする輩は、皆どこかおかしい。バランスがとれていない。実用的な価値の認識が欠けている。とはいえ、このプラトンがその後の西洋文明に与えた影響はきわめて大きかったから、この会員制秘密クラブを通らないことには、西洋文明の歴史がまったく理解できないことになる。
だから、要点のみを押さえて、プラトンの主張するポイントを列記しておくことにしよう。
⇒ 『パイドロス』(1)
⇒ 『パイドロス』(2)
⇒ 「洞窟の比喩」
⇒ プラトンの影響