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以前の「ひとこと」 : 2019年11月前半



11月1日(金) 円の合同分割(その5)

 先月末のほんの軽い埋め草の話題のつもりで書き始めた円の合同分割の話、説明用の図を描いたりしていたら思いがけず面白くなってきて、回数が増えています。月をまたいで、「円の合同分割」の話を継続します。まずはこんな図形をご覧ください(図1)。

図 1

 ダイヤモンドのカットとかレース編みのような規則的なパターンを連想すると思います。この図1は、図2のような菱形分割を2つ重ねたかたちになっています。

図 2

 これは正多角形(ここでは正18角形)の直線による分割ですが、これこそが昨日までご紹介してきた円の合同分割の骨格なのです(図3)。この線分を、円周を等分した円弧(この例なら18分の1)に置き換えると、円の18等分になり、さらにそれは鏡像対称図形なので、各ピースを線対称に分割すれば36等分になるのです。

 すみません、上記は誤りでした。図3の青枠で囲まれた図形は線対称ではありませんでした。外周の大きな正十八面体の中心を頂点とする菱形と、外周と一辺を共有する菱形は合同ではありません。(2019年11月2日追記)

図 3

 以下、この図1をどうやって描いたのか、ご説明しようと思います。



 鋭角二等辺三角形を考えます。その底辺と同じ長さの線分を使って、与えられた鋭角二等辺三角形を小さな二等辺三角形に分割してゆくことを考えてみましょう(図4)。図に書かれた小さな数字は、下から順番に同じ長さの線分を描き加えている手順を表現しています。

図 4

 もちろん、任意の二等辺三角形で始めると、頂角を含む最後の三角形は二等辺三角形になりません。では、この操作を行ったときに最後にちょうどぴったり与えられた大きな二等辺三角形の頂点にたどり着くのは、与えられた二等辺三角形の頂点の角度がいくつの時でしょうか?

 図5の二等辺三角形A〜Eに対して、与えられた二等辺三角形の頂角を例えば x として、小さな二等辺差角形の底角を上から順に x で表してゆくと、面白いことに気が付きます。(ちなみにAは正三角形です。)

(つづく)

<おまけのひとこと>
 11月になりました。寒くなってきました。






11月2日(土) 円の合同分割(その6)

 すみません、昨日の更新で、大間違いをしてしいまいました。この図の青い、凸でない等辺十角形は線対称ではありません。そもそも、この場合は九角形でなければいけないのです。十角形になっている時点でおかしいと気が付かなければいけないはずです。(恥ずかしいので再掲図はサイズを半分にしています)

 正しくはこうです。

図 1

 恥ずかしい…

 ちなみに、図1の青い等辺九角形の下半分をひっくり返して凸にすると、正九角形になっています(図2)。

図 2



 実は今回、この一連の話題を取り上げたのは、TILING A CIRCULAR DISC WITH CONGRUENT PIECES(A.Kurusa, L.Zsolt, V.Vigh:2019)という論文を見たのがきっかけです。

 この論文の図を見て、そういえばこんな風にピザをカットするという話題を、Gigazine だったか GISMODO だったかで1年前くらいに見たような気がするなあと思ったのです。検索してみたら、ありました。数学者が発明した「ピザを平等に食べやすくカットする方法」(Gigazine)、数学者の研究に基づいたピザの均等な切り方(ちょっと変)(GISMODO)です。

図 3

 この記事を読んだときには、あんまり面白いと思わなかったのです。「円の合同分割で、中心を含まない(接しない)ピースがあるものは実現できるか?」「円周を含まないピースがある分割は実現できるか?」「全体の分割パターンが中心に対する回転対称になっていない分割は実現できるか?」といった問いに対する実現例ということで提示してもらえれば、「面白い!」と感じたと思うのですが、そこまでの面白さを発見する能力が自分にはありませんでした。GISMODOの記事は3年も前なのに、元論文にあたっても見ませんでした。うーむ残念…

(つづく)

<おまけのひとこと>
 3連休です。疲れて家に引きこもっています。土日の2日分を日曜日の午前中にのんびり書いています。






11月3日(日) 正多角形(偶数角形)の菱形分割

 一昨日の更新で、こんな図をご紹介しました。

 二等辺三角形の底角の頂点にコンパスの足を立てて、底辺の長さの円弧を描いて対辺との交点を求める、ということを繰り返していって、何ステップか後に最初の二等辺三角形の頂点に到達するのはどんな三角形でしょうか? という問いかけをしていました。

 最初に与えられた二等辺三角形の頂角の大きさを x として考え始めます。それぞれの図において青い線はすべて長さが等しいので、これは与えられた二等辺三角形を辺の長さが等しい二等辺三角形に分割する手順になっています。

図 1

 最初の正三角形(図1左)は自明で、頂角と底角の比率は1:1です。次(図1中)は、正五角形でよく出てくるかたちですが、頂角と底角の比は1:2。その次(図1右)が3つの二等辺三角形に分割されるパターンで、比が1:3になっています。 ここまでは同じ角度を小さなマルの数で表していたのですが、描き切れなくなって、次の図では角度の比率を数字で表しています。

図 2

 同様に、図2左は頂角と底角の比が1:4、図2右は1:5になっていることがわかると思います。以下同様です。

 このかたちは二等辺三角形ですから、こんな風に裏返して重ねることができます(図3)。

図 3

 これをぐるっと並べるとこうなります。

図 4

 一昨日のこの2つの図はこうして作ったものでした。

(つづく)

<おまけのひとこと>
 久しぶりにピアノを弾きました。最近はバッハの平均律の2巻がお気に入りです。昨日は1番から順に弾いて行って、難しい曲を3つほど飛ばしながら1時間かけて14番まで弾きました。今日は22番まで行きました。ゆっくりでも自分の手で弾くと曲の構造が実感できて楽しいのです。






11月4日(月) キャストパズル:PADLOCK

 近所の本屋さん(といっても車で20分くらいの隣の市にあるのですが、)に行ったとき、キャストパズルのコーナーのサンプルの1つとして、PADLOCKがありました。しばらくいじってみて、これは面白そうだと思ったので1つ買ってきました。

図 1

 しばらくいじってみて、「おそらくこういう風に外れるんだろうな」ということは想像できたのですが、店頭では外せなかったので購入したのです。ところが、家に帰ってやってみてもうまくいきません。

 簡単には外せる位置にもっていけないような仕掛けがあるのだな、とわかりました。ここで改めてパッケージの写真をよく見ると、切れ目のある長円形の2つのパーツは合同ではないのですね。(同じ写真がハナヤマのキャストパドロックのページにあります。)

 長円形のパーツの内側に、小さな扇形の突起があるのですが、これが単純な移動を阻んでいるのです。この突起が1つだけのパーツと、両側に突起があるパーツがあるのです。

 けっこう苦労して、ようやく外せました(図2)。

図 2

 キャストパズルで難易度の高いものは、微妙な寸法の違いや構造の違いで動きを限定しているものもあります。実はあまりそういうのは好きではなくて、シンプルな構造で、完全に対称的(もしくは合同)なほうが好みです。もちろんその条件で難易度が高いものを作るのは難しいです。なので、より一層価値が高い気がするのです。たとえば、キャストマーブルとかキャストデビルというのは、そういった微妙な違いではなく、パーツの構造から本質的に難易度が高いもので、たいへん美しいと思うのです。

<おまけのひとこと>
 近所でこういうパズルが買えるのはありがたいので、定価であってもありがたく買っています。






11月5日(火) 正十八角形の菱形分割(その1)

 先日、正十八角形の菱形分割の図をご紹介しましたが、この菱形の配置を変えて遊んでみています。

図 1

 図1の菱形は4種類それぞれ9個ずつあるのですが、これを正十八角形のかたちに並べる方法はものすごくたくさんあります。菱形を並べているので、図2のように凸になっている領域を探すと、それは点対称(180度の回転対称)のかたちになっています。そういう箇所は至る所にあります。この領域を図3のように回転させます。

図 2 図 3

 色を白に戻すと、こんな図になります(図4)。

図 4

 さらに、図5→図6のように、もうすこし広い領域を回転させてみましょう。

図 5 図 6

 すると、こんな風になります(図7)。

図 7

 右下のほうが対称性が強く感じられるので、今度は途中経過は図示しませんが、さらに入れ替えてみます(図8)。

図 8

 こうやって遊んでいると、すぐに時間が経ってしまいます。

(つづく)

<おまけのひとこと>
 昨日は先日の出張の報告書を書いていたのですが、A4用紙で16ページ分になってしまいました。おそらく多くの方は表紙のサマリーだけしか読まないだろうな、と思いつつ、自分の記録のために書きました。






11月6日(水) 正十八角形の菱形分割(その2)

 昨日、正十八角形を4種類9枚ずつの菱形に分割して、その中の凸な平行等辺形(平行六辺形や平行八辺形、平行十辺形)を180度回転させることで、様々なパターンを作れるという話をご紹介しました。この手法で、まずは対称性が高いパターンを作ってみています。4種類の菱形を見分けやすいように、はっきりした原色で塗り分けました(図1)。ここから始めます。

図 1

 3回回転対称を保ったまま変形してゆきます。まず、「青3枚、緑2枚、黄色1枚」の平行八辺形を3つ、回転させました(図2)。中心に黄色3枚の正六角形ができています。

図 2

 次に、最外周にある「赤・黄色・青」1枚ずつの平行六辺形6つを回転させます(図3)。

図 3

 さらに、内側にある「赤1枚、緑2枚」の、鏡像対称軸を持つ平行六辺形3つを回転させました(図4)。ここでパターンは鏡像対称性を失って、回転対称性だけになりました。

図 4

 次に、外周にある「青、黄色、緑」1枚ずつの平行六辺形3か所を回転させます(図5)。

図 5

 さらに、「青2枚、緑1枚」の平行六辺形3つを回転させました(図6)。

図 6

 こんな風に続けてゆくことができます。

(つづく)



 これらの図は、Microsoft Office の図形オブジェクトを使って描いています。4種類の菱形を1つずつ定義して、あとはコピーして回転して最初の図を作って、以降は回転させたい部分をグループ化して180度回転してグループ解除する、という手順を繰り返しています。

 こうすることで、それぞれのパーツ(菱形)の角度は常に正しく維持されます。位置は手作業で微調整しているので、若干の誤差がありますが、でもだいたいの雰囲気は保たれていると思います。本当は実物があって、それをいじるほうが楽しいと思うのですけれども。次の週末あたり、スチレンボードとかで自作してみようかなと思いました。

<おまけのひとこと>
 昨日の朝はだいぶ気温が下がって、車の窓が凍っていて、それを削り取るのが大変でした。車の外気温の温度計の表示は氷点下2度でした。いよいよ冬が来るな、という感じです。今月中には冬タイヤに交換しないといけないです。






11月7日(木) 正十八角形の菱形分割(その3)

 正十八角形を4種類9枚ずつの菱形に分割して、並べ替えて模様を作るというあそびをしてみています。昨日は変化のステップを丁寧に解説しましたが、今日はデザインとして「いいな」と思えるものを選んでご紹介します。

 昨日の最後の図から、再び鏡像対称(線対称)が復活するように2ステップ操作してみました(図1)。 同じ色の菱形ができるだけ辺を共有しないように、ということを意識してみました。緑だけは接してしまっています。

図 1

 中央の十二角形(6回回転対称ですが、正十二角形ではありません)を回転させてみました(図2)。周辺の3か所に、菱形十二面体のようなかたち(赤3つ、青2つ、黄色1つ)が見えています。図1と図2、一見よく似ているように見えると思いますが違いがわかりますか?

図 2

 さらに何ステップか変形してみました(図3)。緑を内側に集めてみました。なんだか全体のデザインが「ボールっぽい」気がします。

図 3

 再び鏡像対称性が失われるようなパターンです(図4)。赤・黄・緑の立方体の見取り図のようなものが見えて面白いです。

図 4

 もう少しいじっていると、こんなパターンができました(図5)。赤・青・黄・緑の順に徐々に正方形に近づいていく順に4つの菱形を並べた滑らかな図形が基本になっているパターンです。この一連の変形の1つの到達点かなと思ったので、このパターンはここをゴールとしました。

図 5

 このシリーズ、明日もう1回だけ続けます。

(つづく)



 昨日の6つの図から今日の5つの図までは、凸な平行等辺形を回転させる操作をすることで順に生成したパターンになっています。昨日は1ステップずつ丁寧に説明していたので、途中のパターンはデザインとしてあまり美しくないものもあったかと思いますが、今日は昨日のものよりもデザインとして好ましいものを選んでご紹介しています。

 今日の図4と図5はまるで違ったデザインに見えると思いますが、注意してみると、図4の最外周の菱形の配列は図5とよく似ています。図4から図5までは5ステップくらいかけて変化させています。私はこれらの図をPowerPointを使って描いているのですが、シート1枚に図を1つにして、変形するたびにシート(ページ)をコピーしています。なので、あっという間に数十ページになってしまうのですが、その中から「きれいだな」と思えるものを選んでご紹介しています。

 PowerPointなので、ページを送っていくと途中経過がアニメーションのように見えて、それも面白いです。おすすめです。

<おまけのひとこと>
 昨日も書きましたが、そろそろ冬タイヤに交換するタイミングを考えないといけない時期になってきました。ここ10年くらいは自分で交換するのはやめて、お店に持っていってやってもらっています。勤労感謝の日あたりに交換することが多いのですが、そのころは混雑するので、もう少し早めにやろうかなと思っています。






11月8日(金) 正十八角形の菱形分割(その4)

 正十八角形を4種類の菱形でタイリングするパターンのうち、対称性をもつものをいくつかご紹介してきました。これらは、既にできているパターンの一部を入れ替えて新パターンを作るという方法で生み出してきたものでした。入れ替えの単位となるのが凸の平行等辺多辺形だということを書きましたが、具体的にそのパターンの例をいくつか示しておきたいと思います。

 まず、平行六辺形です。「平行四辺形」という名前は皆さん馴染みがあると思いますが、その六角形版です(図1)。5つほど例を挙げています。

図 1

 3つの菱形が集まってできるかたちです。部品である菱形の辺の長さはすべて等しく、向かい合う辺は平行ですから、出来上がった六角形も、辺の長さはすべて等しく、向かい合う辺が平行になっているのは明らかだと思います。これは、立方体の投影図(見取り図)のように見えます。

 次に、平行八辺形です。図2に3例ほど挙げてみました。

図 2

 辺の長さが等しくて向かい合う辺どうしが平行、という条件は同じです。これは、菱形十二面体の投影図と見ることができます。

 下の写真は、2009年6月21日のひとことでご紹介したものです。ゾムツールというブロックで菱形十二面体の骨格を作ったものです。

菱形十二面体

 菱形十二面体には2種類あって、ひとつはシルバー比(1:√2)の菱形による、立方八面体の双対多面体のもの、もう1つは黄金比の菱形による、やや対称性が低い菱形十二面体で、上の写真は後者のかたちです。何が違うかと言うと、シルバー比の菱形十二面体は、菱形の鋭角4つが集まる頂点と、鈍角3つが集まる頂点しかありませんが、黄金比の菱形十二面体は鋭角と鈍角が混在する頂点があります。

 例えば昨日の図2には、この平行八辺形(菱形十二面体の射影図)に相当する部分が埋め込まれています。

再掲図

図 3 図 4

 なお、いまさらですが4種類の菱形の鋭角と鈍角の値はこのようになっています。

図 5

 すみません、今日で終わるつもりだったのですが、補足の説明の図を作ったり、過去のページを探索したりしていたら時間がなくなってしまいました。続きます。

(つづく)

<おまけのひとこと>
 今朝(?)は午前2時から起きているのですが、5時を回ってしまいました。時間がない…






11月9日(土) 正十八角形の菱形分割(その5)

 予定より1回余計になってしまいましたが、正十八角形の菱形分割の最終回として、今回作った中で一番気にったパターンをご紹介して終わりにしたいと思います。テーマは「同じ色の菱形を隣接させない」ことです。

 基本のこのかたちは、青以外の3色の菱形はすべて同じ色の菱形と辺を共有していません。青の隣接を減らすため、3か所の平行六辺形を回転します。すると図1のようになります。

図 1

 さらに、3か所だけ残った青の隣接を失くすため、「青・黄・緑」の平行六辺形を3か所、回転させます。すると図2になります。

図 2

 この図2、比較的バランスの良い「立方体」の見取り図や「菱形十二面体」の見取り図が散りばめられていて、とてもいいデザインだと思うのです。

 外周がすべて赤、というのがちょっと残念な気がして、さらに外周の「赤・黄・青」の平行六辺形を3か所回転してみました。

図 3

 「同じ色の菱形が隣接しない」条件は保っていますが、デザインとしては図2のほうが好きかなと思いました。

 部分的なかたちや色にこだわってみるとまだまだいろいろあそべますが、今回はここまでにしたいと思います。

<おまけのひとこと>
 週末なので遅い時間(朝9時)の更新です。持ち帰りの仕事をしなければいけなくて、気が重いです…






11月10日(日) 「三体」

 昨日、11/9(土)のお昼に外食した後に本屋さんに寄ったら、前から気になっていた「三体」(著=劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)、訳=大森 望、光吉さくら、ワン・チャイ、監修=立原透耶:早川書房)が平積みされていたので買ってきました。10日(日)の朝、8時半くらいから読み始めたのですが、止まらなくなって3時間半ほど、ちょうどお昼くらいまでかけて一気に読了しました。

図 1

 久しぶりに夢中で読みました。昔だったら読むのが辛かったであろう第一部の文化大革命の描写を過ぎて、第二部の「現在」編に入ったあたりで完全に物語に引き込まれました。特に第二部前半の「物理学は存在しない」という記述やカウントダウンの恐怖など、「こんなことがあるはずがない」「どう考えても説明ができない」という事象に遭遇したときの科学者(技術者)が感じる恐怖や無力感、これまで拠り所としてきた全てが否定される感覚に胸が締め付けられるような想いを追体験させてもらいました。

 本のタイトルになっている「三体」といのは古典物理学の三体問題に由来するキーワードです。以前、2001年6月14日のひとことで、三体問題の特別な解の1つがみつかったという記事をご紹介したことがありました。 (会社で、こういった話題を好む数少ない人とこの話をしたのを思い出します。その彼も、もう10年以上前に亡くなりました。) また、それからだいぶ最近の2014年6月1日に、その他の特殊解をご紹介したことがありました。

 この「三体問題」については、15章の注釈というかたちでこんな風に説明されています。

三体問題 質量が同じ、もしくはほぼ同程度の三つの物体が互いの引力を受けながらどのように運動するかという、古典物理学の代表的な問題。天体運動を研究する過程で自然とクローズアップされ、16世紀以降、おおぜいの科学者たちがこの問題に注目してきた。オイラー、ラグランジュ、およびもっと近年の(コンピュータの助けを借りて研究してきた)科学者は、それぞれ、三体問題のある特定のケースについて、特殊解を見出してきた。後年、フィンランドのカール・F・スンドマンが、収束する無限級数のかたちで三体問題の一般解が存在することを証明したが、この無限級数は収束がきわめて遅いため、実用上は役に立たない。

 読み終わった後、Netでどのように紹介されているのか、少し検索してみました。こちらの中日新聞のあの人に迫る:劉慈欣 中国のベストセラーSF小説「三体」の著者(2019年8月30日)とか、個人のblogではこちらの劉 慈欣『三体』 (2019年9月11日)などが読み応えのある紹介文でした。

 SFとして、この三体問題というのが重要なモチーフになっています。上記のblogにも書かれていますが、私もアシモフの「夜来たる」という古典SFを連想しました。あちらは周期解でしたが…

 また、この本を読んで「サピエンス全史」(ユヴァル・ノア・ハラリ)を連想しました。 この「三体」のテーマの1つとして、私たち人類は今後も生き延びて繁栄してゆけるのだろうか、その価値があるのだろうか、ということを極上のエンタテイメント小説というかたちで問いかけているようにも思えました。

 この「三体」は三部作の第一部だそうです。中国では三部作はすでに出版済みで、合わせて2100万部も売れているのだそうです。第二部の日本語版は2020年に出る予定のようです。とても楽しみです。

 この本を読んで、ジャンルは全く異なりますが、藤沢周平の時代小説の傑作である「蝉しぐれ」の文庫版の巻末の解説を連想しました。

藤沢周平「蝉しぐれ」の解説(秋山駿)
 少年の日のように読んで徹夜してしまったのだ。私は文芸批評を始めてほぼ30年に達する。本を読むことにかけては、すれっからしである。この「蝉しぐれ」は、そんなすれっからしを、少年の心に還してくれた。フランスのチボーデという批評家が、批評家になってしまうと、もう二度とあの少年の日の読書の幸福は味わえない、と言っているが、この小説は、正しくその幸福を私に与えてくれた。すべての物に鋭敏に心を働かせ、何に対しても率直に感動する、そんな少年の心に人をして還らせること。それがこの作品の持つ第一の徳であった。

 この「三体」を読んで、こんなに夢中になって全てを忘れて物語に没頭できて、本当に幸せな時間でした。細かいことを言うといろいろありますが、でも圧倒的な面白さで物語に引き込む力はすばらしいです。この本がこんなに売れるなんて、中国恐るべし、と思います。

<おまけのひとこと>
 週末に持ち帰った仕事、予定の半分も進んでいません…(半日、読書に逃避していた自分の責任です)






11月11日(月) 

 先週、お隣に独りで住んでいらした男性が亡くなりました。2年ほど前からご病気で自宅で療養されていると伺っていました。週に何度か、近所に住んでいる息子さんが通って来ていらっしゃったのですが、家の中で倒れているのを発見したそうです。9日(土)の夜にお通夜、10日(日)が告別式でした。

 喪主の息子さんに、「何かお手伝いはありますか、お通夜と告別式、どちらにお伺いするほうがよいでしょうか」と尋ねたところ、葬儀屋さんがすべて手配してやってくれているので大丈夫です、週末で皆さんご予定もあるでしょうし、ご無理をなさらなくても…とお気遣いいただきましたが、お通夜には顔を出させていただくことにしました。

 お通夜はご自宅でした。開始時刻にお伺いしたところ、御親戚の方々が10名ほどいらっしゃっていました。ご挨拶とお焼香だけと思ったのですが、そういう雰囲気ではなく、お通夜の読経の間、ずっと参列をさせていただくことになりました。宗派は真宗大谷派で、後半に本が配られて一緒に読経をしました。その後で法話があって、浄土真宗は亡くなられた方に特別な旅装束をしない、杖や六文銭(三途の川の渡し賃)を持たせたりしない、いつもの通りの姿で、明日の朝までに故人が親しんでいたものを棺に入れてあげてください、というお話でした。 また、お焼香の時にも単に炭の上に御香を載せるだけ、特に拝んだりしなくて良いです、とか、お線香も立てないで横に寝かせておいてください、とか、この宗派の流儀を知らなかったので勉強になりました。

 亡くなられた方はまだ69歳でした。療養中とはいえお一人で暮らせる状態だったそうなので、おそらく息子さんご家族をはじめ「こんな急に」という想いがあるのではないかと思います。でもその分、長く寝込んで親族に大きな負担をかけるということはなかったのではないかなあと思いました。自分も、いつが最期なのかはわかりませんが、できるだけ周囲に迷惑がかからないようになるといいなと思いました。

<おまけのひとこと>
 今週は金曜日の報告が山場かなあと思っています。日帰り出張もあったりして、相変わらず忙しいです。






11月12日(火) Building Rome in a Day

 先日の沖縄の首里城の火災消失はとても残念な事件でしたが、首里城、写真100万枚でデジタル復元 東大講師ら3D化プロジェクト「再建までの観光資源に」という沖縄タイムスの記事を読んで興味を持ちました。異なる視点から撮影されたたくさんの写真や動画データから3次元の正確な構造を推定するという技術のようです。

図 1

 こちらのみんなの首里城デジタル復元プロジェクトというプロジェクトの特設サイトに詳しく説明されています。それによるとこのプロジェクトは、ICCV 2019(International Conference on Computer Vision)という、今年の10月27日から11月2日に韓国のソウルで開催された、コンピュータビジョンの研究では最も大きな国際会議の研究発表に触発されたそうです。

 ICCV2019の優秀論文賞のページを見ると、PAMI TC Awards (PAMIは Pattern Analsys and Machine Intelligence を指すようです)のHelmholtz Prize(基礎研究への貢献賞のようです)の受賞論文に、"Building Rome in a Day" by Sameer Agarwal, Noah Snavely, Ian Simon, Steven M. Seitz, Richard Szeliski という論文がありました。

 「ローマは一日にして成らず」(Rome wasn't built in a day)という有名なことわざがあります。この論文のタイトル Building Rome in a Day (ローマを一日でつくる!)は、明らかにこのことわざを踏まえて名付けられています。この研究論文のタイトルをこう名付けるのか、とセンスを感じます。このタイトル、いいですよね。

 上記の論文の7ページ目に、実際に推定された3次元の点群が示されています。例えば下の例では2,097枚の画像から81万点の位置を推定していますし、

図 2

 下の写真の例では1,935枚の画像から約100万点の位置を推定しています。

図 3

 凄いなあと思った次第です。

<おまけのひとこと>
 論文は、まだ図を眺めたくらいで全く読んでいないのですが、撮影に用いたカメラが全部違うということは、光学系に起因する歪みのモデルを推定することはできないはずで、そこを画像を増やすことで誤差を減らす手法があるのかな、と思いました。同じカメラでたくさんの画像を撮るならば、光学系の歪みのモデルのパラメータ推定をすることができるはずですが、その手が使えないということになると、自分ならどういうアプローチをするかなあと考えてから論文を読んでみようと思いました。






11月13日(水) 「三体問題の新しい1223の平面上の周期解」

 先日読んだSF「三体」をきっかけに、最近の三体問題の研究について少し調べてみました。A remarkable periodic solution of the three-body problem in the case of equal masses(Alain Chenciner, Richard Montgomery:2000)という論文が、こういった研究のはしりになった、質量が等しい3つの物体の平面上の8の字解です。

図 1

 最近の論文では、The 1223 new periodic orbits of planar three-body problem with unequal mass and zero angular momentum(Xiaoming Li, Yipeng Jing, Shijun Liao:2017)というのがありました。ある一連の族(ファミリー)に分類される平面上の周期解がたくさんみつかっているようです。

図 2

 また、2015年のサーベイ論文(?)の、その名もThe three-body problem(Z.E. Musielak, B. Quarles:2015)というのもありました。アブストラクト(あらまし)を読むと、300年くらい研究されている三体問題の研究の歴史をたどる内容のようなのですが、まだ全然目を通せていないです。面白そうですが…

 昨日の“Building Rome in a Day”もそうですが、面白そう、読んでみたい(そして、可能であれば雰囲気だけでも理解できたつもりになりたい)と思うのですが、なかなかそうはいかないです。

<おまけのひとこと>
 こういう論文が自宅に居ながら無償で読めるということはとんでもないことだと思います。これはあくまでも情報の受け手である私自身の問題なのですが、情報がありすぎて、ありがたみが薄れて、時間をかけて理解しようとしたり味わったりすることがなくなってきているなあと思います。 音楽でも論文でも何でも、世界の選りすぐりのものを簡単に知ることができてしまうというのは必ずしも幸福なことではないのかもしれないなあと思います。






11月14日(木) 名古屋

 一昨日の火曜日は名古屋に、昨日の水曜日は東京に出張でした。今日は軽い話題です。

 私の住む長野県から名古屋に行くには中央西線というJR線を使います(図1)。木曽谷を抜けて岐阜県の中津川や多治見を通過して愛知県の名古屋市が終点です。(昔は大阪まで直通の列車もありました。)

図 1

 名古屋は日本の大動脈である東海道本線の巨大な駅で、東西をつなぐ要衝です。なのでなんとなく名古屋駅のJR線のホームは東西方向に延びているという先入観があって、中央西線は西向きに名古屋駅に侵入するというイメージがあります。なのでホームから階段を下りて改札を出て広い連絡通路に出ると「この通路は南北方向なのだ」という感覚が私には自然と浮かんできます。

 名古屋をご存知の方ならばこれが大間違いなのはすぐにわかると思います。名古屋駅のJR線のホームは東西ではなく南北に延びていて、連絡通路は東西なのです。そうすると次の誤解は「中央本線は南向きに名古屋駅に到着する」というものです。実はこれも間違いで、長野から名古屋に向かう鉄道は名古屋駅に南から侵入するのです(図2)。

図 2

 名古屋駅を利用するときは新幹線に乗り継いでしまうことが多いため、線路の東西南北はあまり気にしたことがないのですが、9月末に続いて今回も名古屋駅周辺に用事があったため、改めて方角を確認して、自分の思い込みが面白いなあと思ったのです。



 目的地の近くにこんなオブジェがありました。

図 3

 リボンを結びかけた途中、といった造形でおもしろいです。

<おまけのひとこと>
 今日は更新が遅くなってしまいました。






11月15日(金) 3つの半円の問題

 こんな図形問題を知りました。

図 1

 大きさの異なる3つの半円が図のように互いに接しています。直径はすべて水平です。一番大きな半円の直径を求めてください。

(つづく)

<おまけのひとこと>
 今日はさらに更新時刻が遅くなってしまいました。ごく簡単な更新です。






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