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魅惑の渓谷鉄道へ 第2回

(02年11月の旅)

影待駅ホーム

秘境駅・影待

 いくつかのトンネルを抜けると、いよいよ目的地の影待駅である。本来ならワンマン運転をしているところだが、団体車両を連結しているためか、車掌が乗車しており、「お客さん、ここで降りるんですね?」と念を押しながら、私の切符を受け取った。ところが、運転士の方はまさかこんな駅で下車客がいるなんて思いもしないから、ドアを開けようともせずに発車しようとした。あわてて車掌が「運転手、ドア開けて!」と大声で2度ほど叫び、やっとドアを開けてくれるという始末。お陰で、こっそりと下車しようと思っていたのに、乗っている人たちの注目を浴びてしまった。「運転手がドアを開けないような何にもない駅になんのために降りるのか」という好奇な視線がそそがれるが、そんなことを気にしてはいられない。

 下車し、列車が立ち去るのを見送ったあと、改めて駅全体を見渡した私は、一言「すごい」と発してしまった。秘境駅の本で予備知識はあったものの、これはまさしく何にも無い駅であった。何にも無い、というよりも、何か作りたくても作れないという表現の方が正しいであろう。崖のほんのわずかなスペースに申し訳程度にホームを設けただけというのが、この駅のすべてであるからだ。

 ホームづたいにある猫の額ほどの駅前広場?から、山の上へ延びる道とホームをくぐって下る道とがあった。下りの道は、秘境駅の作者が書いていたとおり、50メートルほど下を走っている旧道までつながっているようだ。上の道を少しだけ登ってみたが、こちらはつづら折りになっており、とてもじゃないけど登っていこうという気力にはならない。おそらく、バイパスまで通じているのだろうと想像されるので、これ以上の探索はやめておく。

 影待駅が、ちょうど山陰にあったおかげで、風はほとんど感じなかった。おまけに日差しも出てきてくれたので、この駅で次の日之影温泉行を待つことにする。約1時間の探索時間がある。ちょうど、高千穂行の列車がやって来たので、車両を入れての駅の全景写真も撮影することができた。少し高い位置に陣取っていたが、運転士に私の存在が分かっただろうか?

 列車が去った後、安全を確認しながら、線路上での写真撮影などもする。秘境駅探訪はなんだかしらないけどワクワクするせいか、バンバンと撮影してしまう。この影待駅は、ロケーションが飯田線の田本駅に似ている。ただ、断崖絶壁の駅としては、田本駅の方がはるかに条件は過酷である。影待駅の場合、下を走る道路があり、時々自動車の音がするという点で秘境度が下がる。それでも、ほとんどの時間、聞こえてくるのは五ヶ瀬川のせせらぎと鳥のさえずりだけである。

(つづく)
もう少し影待駅を探索してみます