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山から里への列車旅 第3回

(01年11月の旅)

私以外誰も乗っていない車内

たった一人の乗客

  運転手と「おはようございます」の挨拶を交わす。ワンマンカーは事前の情報どおり、一列のロングシート車両であった。「こんなローカル線にはそぐわないな」と言いながら、シートの最後部に陣取る。シート上方の窓に「優先座席」のシールが張ってあるが、どうせ誰も乗ってこないのだから関係ないだろう。それにしても、このロングシートには閉口である。これがこれからのワンマンカーのスタイルだとしたら、だんだんとローカル線の妙味みたいなものは薄れていってしまう。

 列車は定刻の9時26分に発車した。芸備線のほうもその1分後に発車であるから、両列車が出て行った備後落合駅は再び静寂に包まれることになる。たった一人の乗客、すなわち私を乗せて、木次線はいきなりさらに深い山へと突入していく。三江線と違い、駅間も長いし、トンネルも長い。なによりも山の深さが違う。これだけの山深さは、夏に乗った山田線、岩泉線にも匹敵する。

 油木駅で二人乗ってきて、なんだかホッとする。そして列車はここからさらに急な勾配をうなりを上げて上っていく。もう、ほとんど歩くような速さでしかない。時々止まりそうになり不安になるが、エンジン音を響かせてなんとか上っていく。最新のディーゼルカーでこの調子なのだから、その昔は相当このあたりは苦労したのではないかと思われる。

 三井野原駅で3人乗車。このくらいでやっとローカル線ぽくなる。この駅を過ぎたあたりが分水嶺になっているようで、そこからは下りになる。そして、木次線最大のハイライトが次々とやってくる。

国道のループ橋

 まずはおろちループと呼ばれる国道の橋と、ループ道路を一望に見渡すビュースポットの到来である。ここで列車はスピードダウンする。車内放送こそないものの、観光用のサービスであることは言うまでもない。私もそうだが、リュックを背負ったご夫婦などほとんどの乗客が、ループのある窓側に釘付けとなり、ため息をつく。ループもさることながら、ここからのダイナミックな山間の景観は、おそらく車窓のなかでも指折りの場所であろう。私も写真に一応収めてはみたものの、実際に目で見た風景を再現することはできなかった。久々に「写真に撮れないすごい風景」にお目にかかった。

 ループが見えなくなると、列車はスピードを増し、トンネルを突っ走る。そしてトンネルを出て、出雲坂根駅を知らせる車内放送が流れた。次のハイライトは、JR屈指の三段スイッチバック駅・出雲坂根である。

(つづく)
三段スイッチバックの出雲坂根へ