鉄道乗車レポートMENU

> ちほく高原鉄道(前編) 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回
ちほく高原鉄道初乗車(後編)へ
 

ちほく高原鉄道初乗車(前編) 第3回

(05年10月の旅)

日本一寒い地をPRする陸別駅

廃線の事情

  こうして、列車は終点の陸別駅へ到着した。陸別の駅舎は、道の駅や宿泊施設との併用になっているせいか、とてつもなく立派な建物であった。もちろん、廃線後の利用というのは十分すぎるほど整っている。陸別に到着した列車を降りたマニアたちは、列車の撮影に余念がない。もちろん私もしかりである。
 
 陸別では駅員が常駐しているものと思っていたが、無人であった。降りて分かったことだが、土曜、日曜はすべての駅の窓口業務が休みになっていたのだ。いくら赤字ローカル線といえども、ここまで徹底しているのは珍しい。したがって、池田駅でも北見駅でも、切符の回収業務は運転士の仕事になっているだ。もうひとつ困ったことに、今回の旅で手に入れたかったちほく高原鉄道の記念グッズも買うことができずじまいとなった。

 陸別は日本一寒い町として、デメリットとも思える気象条件を逆手にとって売り出している。確かに、ちほく高原鉄道のなかでも標高の高い土地柄であり、紅葉もほとんど散りかけているところだった。冬場の気温はマイナス20度や30度はザラであるとのことで、日本で唯一、オーロラの観測さえ出来た地でもある。私も寒いところに住んでいる人間なので、厳冬期にわざわざ寒い陸別にやって来ようという気はさらさらない。

 ところで、今回の旅行には久しぶりに一眼レフを携えてきたのであるが、撮影したいものがあまりにもたくさんあって、大量に用意したはずのフィルムが心もとなくなった。この日の分くらいは何とか持ちそうな気もしたが、どうせ途中下車したのならフィルムを調達しておこうと思い、駅舎のオーロラタウンにある観光売店を訪ねた。だが、フィルムは売っていないとのこと。売店の女性に駅近くにコンビニがあると聞き、そこへ行って無事フィルムを補給できた。それにしても、閑散とした駅前である。プランニングの際、駅舎内ホテルに宿泊するプランも考えたが、結果的にやめておいてよかった。下手をすれば、コンビニで酒と肴調達ということになりかねなかった。

 陸別までやってきたラッピング列車は、8分後に池田行となって折り返していった。このあとはしばらく陸別にやってくる列車はない。そこで私が立てたプランは、ここから2駅先の川上駅までタクシーで乗りつけようということだった。約2時間後に川上駅に停車し、陸別方面に来る列車があるため、こうした芸当が可能となった。早速駅前へ陸別タクシーを呼んだ。

 運転手に行き先を告げると、私がマニアであることを見抜いて、すぐさま「そういうお客さんが増えているんですよ」と話しかけてきた。せっかくのチャンスなので、ちほく高原鉄道の廃線について話を向けると、運転手は「廃線になるべくしてなった」と嘆いていた。やはり沿線の人口減少が原因かと思っていたが、運転手の話ではどうやらそれだけではないらしい。

座っている乗客のほとんどは旅行者!

 ちほく高原鉄道は、第三セクター会社としてスタートしたのであるが、半民間会社であるにもかかわらず、経営努力やサービス面の努力をまったくしてこなかった、と運転手は批判した。例えば、陸別駅の駅員は北見から始発列車で通勤してくるという。つまり、朝方は駅員がいないことになる。そのため、割引を必要とする障害を持つ人などは前日のうちに切符を確保しておかなければ適用外になってしまうのだそうだ。「陸別周辺の人を雇うとか、方法はあったはずだ」と運転手の嘆きもわかる。土、日の休業もまたしかりで、せめて委託をするなどの手段は取れないものなのかとも思う。

 また、運転士の態度も決してほめられたものではないと話す。例えば、雪で列車がストップしていても、駅で何のアナウンスもしないのだそうだ。運転士に話を聞いても「俺は何も知らん」といった態度をされるという。サービスというのは、その善し悪しがボディブローのように少しずつ影響が出てくる。確かに、年配の運転士が多いところを見ると、旧国鉄時代の悪い部分だけを引きずってきたのではとかんぐりたくもなる。

 ただ、運転手が強調したのは「はっきり言って、廃止ありきの論議だった。大株主の北海道がやる気がないのだから、いくら地元が何を言ってもどうにもならなかった」という点。そして、列車が廃止されたあとの代替交通となるバスも「通学する高校生にとっては料金が何倍にもなる。そうやってだんだん乗らなくなっていくと、バスですらなくなってしまう」とも言っていた。運転手にとって、私のようなマニアや鉄道ファンが廃止決定後の今になって多く訪れているのは皮肉に感じているに違いない。「もっと早くから皆さんに来てもらっていたらねえ・・・」という言葉が重い。
 

(つづく)
そして、いよいよ川上駅へ