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ちほく高原鉄道初乗車(前編) 第2回
(05年10月の旅)
足寄−陸別
やがて、ターミナル駅のひとつである足寄に到着する。人口は本別の方が多いが、ここは松山千春のふるさとということで知名度は高い。神秘の湖・オンネトーや名物のラワンブキといった観光の目玉も多い。この駅では、池田や本別からの乗客がかなり下車した。そして、乗り込んできたのはマニアと思われる男性一人だけであった。
ここから先は、平野部から山間部へとだんだん入っていき、風景も畑地帯から原野や林間が増えていく。ある意味では、人口の少ない地域を走るちほく高原鉄道らしい風景といえる。帰りの列車からではあったが、この区間でエゾシカの姿も見ることができた。
次の駅は「あいかっぷ」という何となくいやらしく聞こえる駅である。漢字で表記すると「愛冠」。その名前から、カップルに人気がある駅名と言われている。ただし、駅そのものは小さな集落にある小さな駅で、駅待合室もコンパクトな感じである。そのかたわらにおばさんが立っており、てっきり列車に乗るものと思っていたのだが、この人はじっと立ったまま列車を見送った。おそらく地元の人だと思うが、ちほく高原鉄道に惜別の思いで見ていたのであろうか。
愛冠に続いては「西一線」駅。こちらはなんとも北海道らしい、味気ないような駅名である。駅自体も例によってホーム一列だけの駅で、周辺にはほとんど民家がない場所にある。その次の駅である「塩幌(しおほろ)」も同じような秘境駅だけに、この両駅を歩いて訪ねるというマニアも多いと聞く。「塩幌」は明日、途中下車をする予定になっているので、そのときに詳しく紹介する。
次は上利別(かみとしべつ)駅である。ここは古い駅舎があり、対面ホームで列車交換ができる設備が整っている。ここも明日途中下車予定を組んでおり、実際に駅に降り立ってみて、いろいろな思いをめぐらせることになるので、やはり後で詳しく紹介したい。ただ、車窓から見る限りでも、ちほく高原鉄道のなかで指折りのいい雰囲気を持った駅であることだけは記載しておく。
続く「笹森」は、名前が記すとおりの秘境駅である。この駅に到着したとき、私は思わず「こりゃすごい」と声を上げたほどだ。駅手前に側線跡があったので、かつての交換駅だったことを物語っているが、それにしては駅周辺にはまったくなにも見えない。実際には国道もそう遠くない場所を走っており、民家もあるそうだが、駅周辺の雰囲気だけ見ると、林の真ん中にポツリとある寂しげな駅に映る。
次の大誉地(およち)駅は、ちほく高原鉄道でも一、二の難読駅名である。ここはだんだんと陸別の盆地が近づいてきていることもあってか、少し開けた小集落が形成されている。この駅ではマニアらしい2人の男性がおり、そのうちの一人は列車に近づいてきたので、運転士も列車に乗るものと思って声をかけた。だが、この男性は乗らないとの合図をした。乗らないなら、乗るようなそぶりは見せないほうがいい。
そして、マニアの間でもマニアックな待合室があると評判の「薫別(くんべつ)」に着く。マニアックという意味は、木造で倒壊間もないような待合室に雑木を組んだ手作りベンチがあることに由来する。当初は、スケジュールのなかに薫別駅途中下車を組み込んでいたのであるが、最終的にそのプランはやめておいた。もう少し時間があればたぶん来訪ということになっていただろう。
この駅については、いろいろなサイトで紹介されていることもあって、駅周辺の雰囲気はだいたいつかめていた。塩幌や笹森に比べて、見通しのいい牧草地や畑地帯のど真ん中にあるため、寂しげな雰囲気というのはあまり感じない。ただ、廃線後にホームが撤去されてしまえば、真っ先に原野に戻っていくだろうと思わせる、周囲になんにもないポツリとある駅だ。
むろん、こんな駅から乗る一般の乗客などいるはずがない。列車が進入してきたときにも人影はまったく見られなかった。ところが、列車が発車しようかというその時に、ホームの先からマニアらしい男性が駆け込んできた。さっきの大誉地駅でのこともあり、運転士は再度「乗るの?」と訪ねると、男性は必死の形相で手を上げている。やっとのことで後部のドアから飛び乗ってきた男性は、最後部にいる私や他の乗客に対してバツの悪そうな顔をしていた。
(つづく)
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