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飯田線 秘境駅探訪 第2回

(01年10月28日の旅)

田本→金野の切符

全国有数の景観駅・金野

 上りの飯田方面行きがやってきたところで、田本駅に別れを告げる。続いては、さきほど通過してきた金野駅で下車する。車掌が来て乗車券を販売する。私が「金野まで」と言っても、さほど驚く様子もなく淡々と発券処理にあたった。田本から乗ってくる乗客など、マニア以外に考えられないから、金野へ行くというのも納得済みだった。ちなみに、マニア垂涎ともいえる「田本→金野」という乗車券は下車時に回収されることを見越して、マクロ撮影しておいた。

 金野駅に到着し、やはり私一人がホームに下りた。まずこの駅の第一印象は「実に素晴らしいロケーションの中にある」ということだった。さきほど通過してきたときにそれは思ったのだが、降りてみるとさらに実感がわいてきた。駅前には米川という天竜川の支流が流れており、ちょうど合流地点上方に駅が設けられていた。したがって、駅から天竜川を眺めることはほとんどできない。しかし、米川渓谷の膝元にあるということでそれを補って余りある景観を生み出しているのだ。

 休むまもなく、少し駅周辺を探索してみる。完全な閉鎖空間にある田本とは違い、駅前がしっかりと形成されている。が、周囲に構造物がまったくない。しいて言うなら、使用している形跡のない自転車置き場と、キャンプ・釣り禁止の看板だけ。駅前からの道は車道になっていて車が十分通れる。ホームの反対側はかなり厳しい断崖絶壁になっており、田本駅の断崖と遜色ない。

 駅前からすぐのところに、米川を渡る橋がある。上流側はかなり蛇行して流れているので、奥行きを感じることはできないが、はるか下を流れる渓流の水は澄んでおり、周辺の木々も紅葉が始まっていて素晴らしい景観である。下流側はずっと開けているが、やはり蛇行しているために天竜川との合流点は見えない。しかし、鉄路が川向こうに見えていたので、電車が来れば絶好のビューポイントになりそうだ。

金野駅

 再び駅に戻り、ホームの待合所に座る。ここにも駅ノートが用意されていた。タイトルは「半鐘のある駅」とあった。半鐘がどこにあるのかは後ほど探索するとして、まずはノートへ書き込みをする。私がやって来た足跡を残すためである。その間、聞こえるのは雨音と、米川のせせらぎ、鳥のさえずり・・・。そんな時、エンジン音のようなものが遠くから聞こえてきた。「まさか車が走れる道が、駅前以外にもあるのか」と驚いたが、どうも天竜川を運行する船のエンジン音だったらしい。おそらく下流の唐笠港へ向かっていた船の音だったようである。

この駅の待合所には、少年雑誌が置かれていた。田本の女性週刊誌と対照的でなんとなく面白かった。それから、ホームには花壇も設けられており、今はマリーゴールドの花が咲いていた。やはり定期的に駅の管理をする人がいるのであろう。車を使えば駅前まで来れるし、なによりも電車ならお年寄りでも十分来ることができる。こういう人の気配がない駅で、管理している人の足跡がたどれるというのは、なんかホッとする瞬間でもある。

 さて、駅ノートにある「半鐘」を探してみた。が、ホームのどこにも見当たらない。かろうじて、ひとつの柱の上方に釣鐘のような形をしているものを見ることができた。けれど、半鐘には見えにくい。単なる電灯のような気もするが、一応写真に押さえておいた。が、あとで駅ノートを見直すと、この「半鐘」が駅までやってくる途中の山道にある、との記載があった。「なるほど」とは思ったが、それを確かめに行くだけの気力も時間もなく、次回の課題とした。

 駅ノートにはさまざまな人が書き込みをしている。驚いたことに80歳を超える人の書き込みもあった。それによると、駅から3キロほど離れたところに金野集落があるようだ。その老人は最後に「都会の人にぜひ来てほしい」と書いていた。何にもない駅ではあるが、景観の素晴らしさは全国でも指折りの駅だと私も断言できる。

 次の電車がやってくる時間が近づいたところで、道路のほうから物音が聞こえてきた。「誰か来たのか」と一瞬、身構えてしまった。まあ、よくよく考えればここは駅なのだから、乗客が来て当たり前なのである。それが当たり前と思えないところに、秘境駅たるゆえんがあるのかもしれないが・・・。

 やはり車の音であった。軽トラックが駅前に姿を現したのである。さらにその後ろからは年配と思われる男性が歩いてきた。「金野駅にも乗客がいたんだなあ」と一瞬、感慨深くなった。が、男性はこちらに近づく気配がない。軽トラも男性一人が乗っていたが、ここに車を置いて電車に乗ろうという感じでもなかった。やがて電車がやってきた。ただ一人の乗客として私が乗り込んだが、下車する人はいない。軽トラは迎えの車でもなかった。いったい、何しに来たのだろうか?。思案投げ首のまま車中の人となった私は、再び天竜峡へと戻っていった。

(つづく)
次は小和田駅へ行きます