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観光列車しんぺい号に乗る 第4回

(08年10月の旅)

ループ線の案内板もお目見えした

大畑ループとスイッチバック 

 矢岳駅を出発すると今度は下りへと転じる。いよいよ人吉盆地へと入っていくわけである。矢岳周辺にほんのわずかあった民家もすぐになくなり、無人地帯をひた走る。改めてよくもこんな場所に鉄道を敷いたものだと感心させられる。そして、鉄道ファンならだれもが一度は乗りたがるループ線とスイッチバックの組み合わせがやってくる。ループ線というのは急傾斜をいやがる鉄道路線が高度を稼ぐために設けられるもので、この肥薩線のほかに代表的なのが上越線の湯桧曽手前、北陸本線の敦賀手前などにもある。ただ、スイッチバックがセットになっているのは、この大畑駅が唯一である。

 実は前回訪れたときも、なんとかループのようすを撮影しようとカメラを構えたのであるが、当時の急行列車には徐行などのサービスもなく、ぐるぐる回っている感覚だけを体感したに過ぎなかった。今回はさすが観光列車だけのことはあり、ちゃんと眼下に大畑スイッチバックを眺められるポイントで停車してくれる。言われてみなければ分からないほどごく小さく見えるので、当時探そうにも無駄であることもよく分かった。ここにも案内看板が設置されており、やはり乗客が物珍しそうに車窓を眺めていた。このポイントを出発すると列車はぐんぐんと下りながらループを回っていく。このあたりの感覚はループ線ならではの味わいといえる。

 ループが終了したところで、進行方向左側から線路が近づいてきた。次はスイッチバックである。大畑駅の場合はまず引き込み線に入ってから、逆方向に進んでホームへと進入する。列車が止まると、先ほどと同じように運転士がハンドルを持って後部へと向かう。そしてほどなく列車が逆方向へと進み、やがて大畑駅のホームが見えてきた。

古い駅舎の大畑駅

 ここもまた数分の停車時間があったので、まずは駅舎の撮影をする。この大畑は三つの駅のなかで最も山の中にあり、典型的な秘境駅といえる。もちろん人家はまったく見あたらない。スイッチバックのために設けられた駅という感じで、土讃線でいえば坪尻駅のような存在であろう。それだけに周辺の雰囲気は三駅のなかで最も素晴らしい。駅構内は無人駅に似つかわしくないほど広々としており、かつて蒸気機関車が利用した給水塔や乗客が顔を洗った手水鉢も残されている。駅舎も年輪を感じさせるものであるため、構内全体が文化財的な存在といえよう。唯一残念なのが、駅舎内に張り付けられた無数の名刺。この駅の名物となっているようだが、こういうのは野暮の一言に尽きる。

 大畑駅からはさらに列車がどんどんと下っていく。この先はそれほどの見どころはないのでようやく自分の座席に座って次の人吉でのプランを考える。相席になったのは、人吉に友人を訪ねてきたというおばさんとお年寄りを連れて旅行をしている中年女性二人。席が取れずにお年寄りとはバラバラになってしまったようである。袖擦る縁も他生の縁とでもいうか、中年女性からお菓子のおすそ分けももらいながら、やがて人吉の盆地へと入っていく。雄大な球磨川の鉄橋を渡るともう人吉駅に到着である。

 

(この項おわり)

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