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海のローカル線に乗る 第2回
(93年5月の旅)
海の小駅・驫木(とどろき)
その駅は「驫木」と言う。とどろき、と読むそうである。この五能線は、海の景観がいいことと同時に、難読駅がいくつもあることでも有名だ。驫木のほかには、風合瀬(かそせ)、艫作(へなし)、追良瀬(おいらせ)といった駅名がある。
そのなかでも、私がこの驫木駅に立ち寄ることにしたのは、一冊の本の影響を受けたことに始まる。レイルウエイライターの種村直樹さんが書いた「駅を旅する」(中公新書)である。そこにこの驫木駅の描写が出ていた。その部分を紹介する。
「ホームに面してバラックがひとつ立っている。もとより無人駅で、この小屋が駅舎兼待合室なのだけれど、表へまわってみても、駅であることを示す看板はあがっていない。(中略)駅前に一軒だけ大きな家が建っていて(中略)軒下には青電話もあり、鉄道だけでなく電話の面倒も引き受けているようだ。人の気配はない。以上が驫木駅と駅前のすべてで・・・(後略)」
種村さんが本を書いてから10年ほど経過している。駅も駅前も少しは変わっているのかなという思いで下り立ってみた。だが、種村さんの描写どおり、駅舎はバラックであった。ただ、窓も入り口もサッシになっていた。それから、駅名の看板はしっかりついていた。駅前に一軒だけある家というのも、今も残っており、人も住んでいるらしい。ただ、そのほかは建物がまったくなかった。これは変わっていない。そして、軒下の青電話はカード式の公衆電話ボックスに変わっていた。
驫木は、海すれすれを走るこの列車の駅のなかでも、最も海に近いところにホームがある。いや、続く線路の途中に申し訳程度にホームと駅舎を設けただけ、という感じがしてならない。列車が走り去ったあとは、周囲に聞こえる音は、時々通行する車の音と絶えず聞こえる海の波の音だけである。
あまりにもポツンと残された感じがして、何ともいえない寂しさを感じる。まさに、みちのくのさいはて、と言うにふさわしい駅である。近くには海にそそぐ小河川もあり、絶えず海に向かって水を供給していた。種村さんは、ここから風合瀬まで歩いたそうであるが、私のほうは逆方向からくる列車が40分ほどの待ち合わせだったため、この驫木駅で時の経つのを待った。
(つづく)
圧倒的海岸風景へ