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実験5

Contrapunctus7の付点音符の演奏

曲の副題Augment et Diminutにも示されているとおり、
Contrapunctus7には主題とその拡大形・縮小形が混在しています。
このため、一曲の中に2分音符、4分音符、8分音符の
各付点リズムも混在する事になり、演奏上混乱をきたしかねません。

例えば、Contrapunctus7の冒頭に見られる、基本形と縮小形の主題のストレット。
この2声は片手で弾かねばならず、青い音符で示した部分が少々弾きにくいです。


実験4でも述べましたが、バロック時代の演奏習慣として、
一曲の中に音価の違う付点リズムが混合している場合、
短いほうのリズムに合わせて演奏されたというのです。

とは言うものの、拡大形の主題は問題にはなりません。
拡大形の主題は付点リズムといっても譜点2分音符と4分音符なので、
いずれも拍頭に納まり、演奏しにくいということはないのです。
実際に問題になるのは原形の主題と縮小形の主題の組合せです。
(ここで言う「原形」とは音の長さが元のままであることを示します)

ところが、
そう思って確認したところ、意外な事実が発覚しました。
曲中に原形の主題と縮小形の主題の組合せがほとんどないのです。
正確に言うと、両者の組合せが見られるのは、2〜5小節と13〜18小節の
2ヶ所だけなのです。しかも、両者の組合せの中で4分音符と8分音符の
付点リズムがバッティングする箇所は上に楽譜を示した1ヶ所だけです。

14小節から開始した原形の主題(アルト)に、縮小形の主題(テノール)が続きます。
両者の付点音符は絡み合いません。


それなら問題はないですね。
で済む問題でしたら、わざわざページを割いたりしません。

原形の主題と対旋律との組合せに問題があるのです。
曲中の対旋律は16ビートを基本としていて、8分音符の付点リズムが
原形の主題に重なることはあまりないのですが、しかしながら対旋律が
原形の主題の8分音符と2度でぶつかる箇所が多数見られます。

37(36)小節〜のテノールと38小節〜のソプラノに原形の主題があります。
2度の衝突箇所を青い音符で示しました。


これらはすべて、原型の主題の8分音符を16分音符にする、
すなわち4分音符の複付点リズムにすることで解決されます。
またそれ以外の箇所において、原形の主題のリズムを
変えたために新たに衝突が生じることはありません。

主題のリズム変更箇所を青い音符で示しました。いずれも衝突がすっきり解消されています。


どうやら原形の主題は4分音符の複付点リズムで演奏した方が
演奏しやすく、かつ聞こえがよくなりそうです。

BGMは変更された演奏になっています。不和解消のため、ほかにも変更した箇所があります。

どうせなら拡大形の主題もリズムをそろえてみてはどうでしょう?
と思って試してみましたが、これは出だしから失敗でした。
下の楽譜に青い音符で示した箇所で問題が発生しています。
6小節ではソプラノの対旋律とバスの主題が並行5度を生じ、
7小節では7度の衝突を起こしているのです。



以上のことから、どうやらこの曲では原形の主題のみ、付点リズムを
複付点リズムにした方が聞こえがいいとわかりました。

ただし、気をつけなければいけないのは、バッハがほかの曲の中で
2度の衝突を容認しているということです。例を挙げればキリがありません。
in Stylo Francese(フランス様式による)という副題を持つ
Contrapunctus6とは違い、この曲の原形の主題を複付点音符のリズムで
演奏すべきだとはっきり主張することはできないのです。
あるいは耳に残る2度や7度の衝突を能動的に使うことで、
聞き分けにくい主題の印象を強めているのかもしれません。

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