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Fuga a 3 Soggetti(未完フーガ)をひっくり返す。

この実験は実験室の設置に先駆けて行ったもので、
未完フーガの完成形の中で、未完フーガが
「鏡像」フーガではありえないという論拠になった実験です。
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本当なら全曲ひっくり返すのがいいのでしょうが、長大な曲である上、
半音上げ下げの判断に悩む箇所が非常に多いので、
(判断に悩む箇所が多い事自体、転回2重対位法としては問題なのですが)
やむなく第2主題の呈示・展開部(114〜193小節)のみとしました。

BGMは第2主題の呈示・展開部をひっくり返したものです。
それなりに聞けるようにするためにはずいぶん工夫が必要でした。

第2主題は真正応答されていますので、上下転回すると応答は
下属調になります。Contrapunctus10でも触れましたが、
下属調での応答は「フーガの技法」の中では大変稀です。



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Contrapunctus12の中で述べたように、転回2重対位法には
作曲上様々な制限が付きまとっています。
ことさらにドミナントの後で最上声に主音を持ってきたり、
さらに主音を重複したりすると、上下転回によってそれらは
属音に反映されるため、調がぼやけてしまいます。



その最たる例が上の楽譜の193小節です。この部分は下属調の終止で
主音を3つ重ねているため、転回すると空虚な和音になってしまいます。
こればかりは気の利いた調性的解決ができません。
同様に調性のぼやけた箇所があちこちに見られます。
BGMではできるだけごまかしていますが・・・
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また、半音階の使用が転回する上で好ましくないと思われました。
うまく処理できずに妥協した箇所がいくつかあります。



上の楽譜はその一例で、正確に転回するには
下段に青い音符で示した音を半音下げなければなりません。
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以上の例からわかるように、未完フーガは転回形にはなりません。
「後に全声部が転回される最終フーガ」という個人略伝の記述には、
「転回対位法によるフーガ」ではなく別の解釈が試みられるべきでしょう。

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