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以前の「ひとこと」 : 2022年3月後半


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3月16日(水) 連結した2本の稜で正多面体骨格をつくる(その1)

 3月も後半になりました。新しいトピックです。



 昨夜、寝床の中でふと思いついた問題です。こんな正四面体ABCDを考えます。(床面に三角形BCDが接していて、頂点Aが三角錐の頂点、というイメージの見取り図のつもりです。)

図 1a: regular tetrahedron

 長さが等しい2本の棒を、角度が60度になるように繋いだ「部品」を考えます。

図 1b: two connected edges

 この部品で、正四面体を作ってみることにします。たとえば稜ABと稜BCに重なるようにこの部品を配置した状態を ABC と表します。

図 1c

 正四面体は6本の稜があります。部品1つで稜2本分ですから、部品3つで正四面体を構成することができます。一例を示します。

図 1d

 ABC, BDC, CAD の3部品で正四面体を作ることができました。



 では、正八面体ではどうでしょうか。

図 2: regular octahedron

 正八面体は6つの頂点があります。この多面体を地球だとみなして(かなり無理がありますが)、赤道面の4つの頂点をA,B,C,Dと名付け、北極と南極をNとSと名付けます。正八面体は12本の稜がありますから、稜2本を60度で連結した部品で組めるとしたら、部品は6つ必要なはずです。この6つの部品で正八面体の骨格は作れるでしょうか?



 さらに正二十面体を考えてみましょう。

図 3: regular icosahedron

 正二十面体には12の頂点があります。これも同様に地球だとみなして(正八面体よりはだいぶ球に近いです)、北極と南極をNとSと名付けます。今度は赤道面には頂点は無くて、北回帰線と南回帰線(と無理やり呼びます)のあたりに5つずつ頂点があります。北半球のほうを A,B,C,D,E 、南半球のほうを a,b,c,d,e と名付けることにしました。

 正二十面体は30本の稜がありますから、同じ部品で組めるとしたら、部品は15必要なはずです。この15の部品で正二十面体の骨格は作れるでしょうか? また、これ以外のデルタ多面体(全ての面が合同な正三角形の凸多面体)はどうでしょうか?

(つづく)



 江端智一さんの新連載、「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論が始まって、楽しく読ませていただいています。

 江端さんはメーカーの技術者(研究者)で、世代も近い方なので勝手に親近感を覚えています。今回のお話もいろいろ身につまされます。今回の第1回では、特にコラムの2ページ目の「お金の黒歴史」の表の

 
 やったこと  具体例
 日経新聞を購読してみたりした  「日経新聞読んだって、別段何も変わらないよ」が結論 --- そもそも楽しくない 

 に大変共感しました(ちなみに私は日経新聞を購読したことはありません)。 メーカー勤務を30年もやっていながらここに共感しているという時点で、自分は今の職業の適性は高くないよなあと改めて思います。私の娘も息子も就職していますが、彼らのほうが私よりよっぽどまともな道を歩んでくれていると思っています。

 それにしても江端さんのサイトは毎日1万アクセスくらいあるのですね。すごいなあと思います。


<おまけのひとこと>
 今日は引っ越し記念日です。今住んでいるこの家に越してきて、24年になりました。早いものです。






3月17日(木) 連結した2本の稜で正多面体骨格をつくる(その2)

 長さが等しい稜2本を60度に固定した部品で多面体骨格を作る話のつづきです。



 こんな部品で正多面体の骨格を組むことを考えています。

 正八面体について考えてみました。正四面体(=正三角錐)と同じように考えると、上半分の正四角推(ピラミッド型)が部品4つでできることがわかります(図1左)。

図 1

 NAB、NBC、NCD、NDA です。残りの2部品を ASD, BSC に配置すると完成します(図1右)。できたことはできたのですが、あまり対称性が高いきれいな解ではありません。もうちょっときれいな解ができそうです。



 正二十面体も同様にまずは正五角錐部分を5部品で作ります。NAB、NBC、NCD、NDE、NEA です(図2左)。

図 2

 正二十面体は中央の正五角反柱の上下に正五角錐を貼り付けたかたちをしていますから、上下の正五角錐を5部品ずつで作って、残りの5部品で五角反柱の側面のジグザグの稜を作れば正二十面体の骨格になります。

 これもできることはわかりましたが、こんな3枚におろしたような構成はあまり美しいとは思えません。もうちょっとなんとかならないでしょうか。また、今回は正三角形の面の正多面体を考えていますが、2本の稜の角度を90°や108°にして、同様に立方体や正十二面体の骨格を組むことはできるでしょうか?

(つづく)



 昨日、「デルタ多面体は?」という問いかけをしました。大前提として、稜の本数が奇数だったらダメです。例えばデルタ六面体は稜の本数が9、デルタ十面体は稜の本数が15ですから組めないことは明らかです。

図 3:デルタ六面体 図 4:デルタ十面体

 では、稜の本数が偶数だったら必ず組めるでしょうか? デルタ多面体は8種類しかありませんから、しらみつぶしで調べればわかります。さらに全ての面が正三角形の凸でない多面体(無限にあります)は、稜の本数が偶数であればかならずこの部品で組めるのでしょうか? (これは頭に浮かんだ疑問を書いただけで、現時点で私は答えを知りません。)


<おまけのひとこと>
 昨夜、夜中に地震がありました。いつもなら良く寝ている時間帯です。目が覚めてしまって眠れなくなって、明け方ようやく少しうとうとしました。今朝は睡眠不足です。






3月18日(金) 連結した2本の稜で正多面体骨格をつくる(その3)

 長さが等しい稜2本を60度に固定した部品で多面体骨格を作る話のつづきです。



 こんな部品で多面体の骨格をつくる話の続きです。

 正四面体の場合、3つの部品で作ることができました。1つの部品は1つの面を張ります。青と赤の部品が張る面に色を付けてみました。

図 1

 青の三角形のうち、2辺は青の部品がありますが、残りの一辺は「開口部」になっています。青の開口部の辺に青い丸印を付けてみました。その青の開口部の辺をふさいでくれる赤の部品は、隣の三角形の面を張っています。この赤の開口部の辺にも赤い丸印をつけてみました。このマル印をつないでゆくことを考えます。

 正四角推の場合、側面の4枚の三角形を順に巡る構成になっているので、開口部の中点を繋ぐと図2右のように底面の正方形を縮小したかたちになっています。

図 2

 正五角錐の場合も同様です。

図 3

 手描きの図がちょっとゆがんでいます。



 正八面体の場合、実はこんなきれいなパターンができるのです。

図 4

 正八面体の稜の本数は12なので、稜を2つ連結した部品は6つ必要です。1つの部品が1つの面を張るので、正八面体の8つの面のうち、6つの面の3辺は部品2つで構成されます。残りの2つの面は3辺とも異なる3部品で構成されることになります。図4は、この6つの面を順に巡る経路になっているのです。



 正二十面体を15の部品で構成したとき、対称性が高いきれいな構造が作れない理由も同じ考察から理解できます。図5は適当に15の部品を、異なる部品が同じ頂点を共有しないように配置してみたものです。(そうしないと部品の見分けがつかないのです。)

図 5

 部品が15使われているということは、それぞれの部品が張る面が15で、残りの面が5面あることになります。「残りの面」(=3辺とも異なる色の面)に着色してみたのが図5右です。一応3回回転対称形にはなっていますが、もともとの正二十面体の対称性の高さから考えるとかなり対称性が低い構造です。

 デルタ多面体、凸でないデルタ多面体(全ての面が合同な正三角形から成る凸でない多面体)もいくつか考察してみていますが、いったん今日はここまでにします。



 同じことを、プラトンの5つの正多面体のうち、まだ考察していない立方体と正十二面体についても考えてみることにしましょう。90度のL字型の部品6つで立方体の骨格は作れるでしょうか。(できそうですね。) 正八面体のような対称性が高い構成はできるでしょうか?

図 6:立方体

 108度の部品15個で、正十二面体は作れるでしょうか。これは正二十面体と同じくらいちょっと面倒かもしれません。

図 7:正十二面体

(つづく)


<おまけのひとこと>
 このあたりの話は、グラフの彩色問題の分野になるのだと思います。






3月19日(土) 連結した2本の稜で正多面体骨格をつくる(その4)

 多面体の隣り合う稜2本を固定した部品で多面体骨格を作る話のつづきです。



 60°に固定した2本の稜を部品として、正四面体、正八面体、正二十面体の3つの正多面体が構成できることをご紹介してきました。「では立方体や正十二面体は?」という問いかけを昨日しましたが、実はこれは正八面体や正二十面体と同じなのです。

 立方体(図1の赤い部分)と正八面体(図1の青の部分)はいずれも稜の本数は12です。図1で示すように、12本の稜はそれぞれ1対1に対応させることができて、寸法を適切に調整すると対応する稜の中点は完全に一致させることができます。

図 1

 正八面体の隣接する2本の稜に対応する立方体の稜も必ず隣接しています。なので、正八面体を2本の稜の部品6つで組めるなら、同じやり方で立方体も2本の稜の部品6つで組めるのです。

 昨日、対称性が高い配置ということでご紹介した正八面体の6部品組みのパターン(図2a)に対応する立方体の6部品組みは図2bのようになります。

図 2a 図 2b

 立方体がちょっと小さく見えますが、稜の中点が重なるようにしたためです。上の2つの図を重ねてみます。(片方ずつ、半透明にしてみました。)

図 3a 図 3b

 両方とも不透明にしてみます。

図 4

 これを見ると、正八面体と立方体の対応する稜が互いに中点で直交していることが改めてよくわかります。それらが定める面が見えてこないでしょうか。



 過去にも何度もご紹介していますが、この立方体と正八面体の一番近いものどうしを結ぶと菱形十二面体ができます(全て等距離です)。先ほどの「直交する2本の稜」が定める面が、この菱形十二面体のそれぞれの面になっています。

図 5

 菱形十二面体の各面の菱形の対角線の長いほうを結んだのが正八面体(図6a)、短いほうを結んだのが立方体(図6b)です。

図 6a 図 6b

 なので、隣接する稜2つによる部品で正八面体を作る問題のそれぞれの解に1対1対応する立方体の問題の解があり、さらにそれは菱形十二面体の隣接する2つの面をペアにした面の塗り分け問題に対応しているのです。



 全く同じ関係が正二十面体と正十二面体と菱形三十面体の間にも成立しています。そちらの図の用意まではできませんでした。今日載せた立方体と正八面体の図も、昨日までと同じようにCGではなく手描きの図で説明しようかとも思ったのですが(「手描き」と言ってもパソコンで作画していますが)、正確な図のほうが気持ちがいいのでCGを作りました。


<おまけのひとこと>
 今日はフロントガラスの交換をしてもらうために車を預けに行きます。結局任意保険を使うことにしました。せっかく保険の等級が上限に戻る寸前だったのに、また下がってしまいます。残念…






3月20日(日) 連結した2本の稜で正多面体骨格をつくる(その5)

 多面体の隣り合う稜2本を固定した部品で多面体骨格を作る話のつづきです。



 2本の稜を角度が108°になるように連結した部品15個で正十二面体を作ることを考えます。

 この問題、正二十面体のやり方と対応させて考えると解が見つかりました。

図 1

 同じ色の部品が同じ頂点を共有しないように色分けしてみました。これはあくまでも一例です。



 正二十面体は1つの頂点に5本の稜が集まっていますが、そのうちの2本がなす角度は、隣り合う稜ならば60°ですが、2つ隣の稜だったらどうでしょうか。下の図2の左のように、1つの頂点のまわりの5つの正三角形は正五角錐になっています。ということは図2右のように、この部分は正五角形です。

図 2

 ということは、正十二面体を作るのに使った角度が108°の2本の稜の部品15個で、正二十面体を作れないでしょうか?

図 3

 正十二面体のほうは頭の中だけで解が思い浮かんだのですが、こちらは無理でした。

(つづく)



 正二十面体もそろそろ手描きで図を作るのが面倒になってきたので、CGにしようと思いました。何度もCGは作っているのですが、座標を簡単に求める方法をおさらいしておくことにしました。

 正二十面体の2つの相対する頂点を3次元座標軸に揃えて、5回回転対称な座標を計算する方法もあるのですが、それだと頂点を求めるのが大変です。それよりも、相対する3組の稜が、立方体の面に載っているということから座標を決めるのが簡単です。

 この3つの長方形はいずれも合同で、縦横の長さの比が黄金比になっています。ここから頂点を決めるのが簡単です。

 3つの長方形を重ねて描画してみました。透過率が高いとわけがわからない図になってしまうので、透過率を下げました。

図 5

 CGを描画するプログラムの中では、12の頂点にはこんな名前を付けています。

図 6

 たとえば opm といのは、x座標がゼロ、y座標がプラス、z座標がプラスを表します。それぞれの長方形は、x,y,z座標のいずれかがゼロで、残りの2つが(±,±)の組み合わせになっています。

 こう名付けておくと、塗り分けをしたり面を張ったりする描画をするときに楽なのです。

(つづく)


<おまけのひとこと>
 お彼岸です。お墓掃除に行ってきます。






3月21日(月) 連結した2本の稜で正多面体骨格をつくる(その6)、他

 昨日の多面体骨格を作る話のつづきです。



 昨日、2本の稜を108° の角度で固定した「くの字型」の部品15個で正二十面体を作れるでしょうか、という問いかけをしましたが、これは可能です。一例を図1に示します。

図 1

 正二十面体の頂点は12個あります。「くの字型」の部品は15個なので、12個の頂点のうち、少なくとも3か所は「くの字」の中点が2つ配置されることになります。そのような頂点はパーツは3つ使われることになります。

 図2は、12の頂点を分類して色分けしてみたものです。緑(6か所)は部品が3つの頂点、赤(3か所)は部品が4つの頂点、青(3か所)は部品が5つの頂点です。

図 2

 このように、全体の構造は3回回転対称になっています。5回回転対称の構造はあるのかなあと思っていますが、まだ見つかっていません。



 昨日は春のお彼岸のお墓参りに行ってきました。私の家のお墓は昔、本家のあった集落の近くにあります。明治のころに私の曾祖父が、今の市街地のあたりに商売のために移転してきたのですが、墓地はそれ以前からのところの場所をずっと引き継いでいます。

 千曲川の河岸段丘の斜面の雑木林の下にあるため、枯れ葉がすごくたくさん積もります。毎年春のお彼岸はお掃除が大変です。お参りに来る人のいない墓石のあたりは、すっかり枯れ葉に埋もれています(写真1)。

 
写真 1

 たっぷり1時間以上かけて、お墓の掃除をしました。今回は丈夫なほうき、我が家のお墓の上にかぶさってきている木の枝を落とすためののこぎり、頑丈なガーデンレーキ(熊手)などを持参したので、かなりはかどりました。

 
写真 2 写真 3

 墓石の裏手の石垣との隙間に枯れ葉がぎっしり詰まっていたのですが、それも全て取り除いてきれいにしました。

 
写真 4

 この後、お花を切り揃え、お石塔にお水をあげて、お線香をごく短く折って火をつけて、燃え尽きるまでそこにいました。10時過ぎに墓地について、全て終わって撤収したのは12時過ぎでした。

 祖先のお墓参りをすることは良いことだと思っています。亡くなった人のことを考えたり、直接会ったことはないけれど話に聞いている祖先の話を思い出したりといった過去を振り返ること、また、自分が今何を望んでいて今後どうありたいのか、自分は今何が心配なのか、などを改めて静かに考えることができる時間です。以前誰かが「祖先のお墓参りをすると運が良くなる」ということを書いていたのを読んだことがあるのですが、それはこういう風に落ち着いてゆっくり過去を振り返ったり、自分の心の中を改めて見返すことができる機会だからかな、と思いました。


<おまけのひとこと>
 帰り道、いつもとは違う道を通ってみようとしたら、迷ってしまってとんでもなく遠回りになってしまいました。それもまた楽しいです。






3月22日(火) 円柱を箱に詰める問題(その1)、他

 新しいトピックです。



 直径が等しい円柱を横倒しにして箱の中に詰めることを考えます。ビールのビンとか缶とかをイメージしていただくと良いかと思います。(全部同じ大きさであれば、別にビールでなくてもいいのですけれども。)

 通常は無駄なスペースができるだけ少ないように専用の容器が用意されますが、たまたまぴったりの寸法の箱がなかったとしましょう。下の図1は断面方向から見た図です。

図 1

 箱の幅(矢印)は、円柱の直径3個分よりも長く、4個分よりは短いものとします。なので一番底には3本入ります。AとCはそれぞれ両端の隅に入って箱の側面に接しています。BはたまたまAともCとも接していません。2段目のDとEは側面には接することなく、AとB、およびBとCに載っています。3段目のF,G,Hは、図のように左右のFとHは側面に接しています。同様に4段目(I,J)、5段目(K,L,M) まで積むと、K,L,Mは水平になっているように見えます。これ(K,L,Mの高さが等しいこと)を証明してください、というのが問題です。

 なお、箱の幅が広くなって円柱4本分に近づいてゆくと、図2のように3段目の端の円柱が側面に接しなくなって1段目(C)と2段目(E)に接するようになることがあります。

図 2

 このような状況は考慮しなくて良いです。あくまでも図1の状態をお考え下さい。

 ちなみにこの問題はこちらのmental gymnastics - Recreational Mathematics Puzzles(Dick Hess, DOVER)という本に載っていたものです。リンク先はこの本の裏表紙の画像で、この問題の画像になっています。ただしリンク先にはこの画像に関する説明やコメントはありません。この本は以前、毎月数回の出張があったころに、帰りの新宿発の中央線の特急の発車時刻を待つ間に紀伊国屋の洋書フロアに行って買ったのでした。パズルの本は英語であっても他の分野に比べれば理解しやすいので、すぐに読み終わらない長持ちする本として、そういう本を見かけると喜んで買っていました。しかもDOVERの本は洋書としては極めて安価なのです。この本は1,000円もしませんでした。とてもありがたいです。

 今回たまたま上記のリンク先を開いて、「あ、この本持ってる!」と思って引っ張り出してきて、この話題はご紹介していなかったなあと思って図を作ってみたのでした。

(つづく)



 実際に図を作り始めて思ったことです。最下段のA,B,Cの中央のBの円柱の位置は決まっていません。とすると、Bの位置を変えると、その上の2段目以降のD〜Mの10本の円柱の位置が変わるように思えます。

図 3

 上記の問題では、Bの位置がどこであっても5段目のK,L,Mは水平になることを示せというものでしたが、Bの位置が変わると、その高さはどう変わるのだろう? と思いました。そもそも高さは変わるのでしょうか? 変わるとしたら、一番高くなる場合、一番低くなる場合はBの位置がどこにあるときでしょうか? 図3のように、一番端かど真ん中になるときが極値になりそうですが…

(つづく)



 昨日、二十面体の話をしましたが、せっかく一昨日にCGで正二十面体骨格を描画できるようになって、その骨格には12枚の正五角形が存在する、、つまり「大十二面体」の話に繋げようと思って図を用意していたのをすっかり忘れていました。

大十二面体(Great Dodecahedron)

 CGにしてしまえば、見る位置や姿勢、光源の位置や強さ、影の有無、面の色や透過率など、いろいろ変えることができます。それらが徐々に変化するアニメーションを作るのも簡単(なことが多い)です。



 プロが語る胸アツ「神」漫画(きたがわ翔:インターナショナル新書,2021)という新書を買って、一気に読んでしまいました。著者のきたがわ翔先生は(本文中で漫画家にはすべて「先生」という敬称をつけて書かれていたのでそのように記載させていただくことにしました)1967年生まれで13歳で少女マンガ誌にプロデビューした漫画家です。同世代の私は、デビュー作をリアルタイムで雑誌で読んだ記憶があります。

 この本で主に語られている時代のマンガは大好きなので、とても共感して読みました。特に萩尾望都は本当にすごいと思います。この本、昔のマンガがお好きな方にはとてもお勧めです。


<おまけのひとこと>
 今朝は更新が遅くなってしまいました。






3月23日(水) 円柱を箱に詰める問題(その2)、他

 円柱を寸法が合わない箱に詰める問題の話のつづきです。



 昨日の、mental gymnastics - Recreational Mathematics Puzzles(Dick Hess, DOVER)という本に載っていた円柱を箱に詰める問題の解説を途中まで書きます。

 13個の円柱が幅Lの容器に図1のように積まれています。幅Lは円柱3個分より大きく円柱4個分より小さいです。円柱の半径を1とすると、 6 < L < 8 ということになります。13個の円柱に下から順に A, B, C, … , M と名付けることにします。AとBのすきまを a, BとCのすきまを b とします。 0 < (a+b) < 2 です。

 箱の左下を原点としてxy座標系を導入します。A,B,C,…の円の中心の座標を a, b で表してみます。

図 1

 1段目の A, B, C は簡単です。 2段目の D, E は、3つの円の中心を結ぶ斜辺の長さが2の二等辺三角形の高さを考えると中心がわかります。3段目の両側のF, H は、x座標は1段目のA, C と同じで、高さは同様に三平方の定理から求まります。

 Gは、BEGD が菱形であることから B, D, E の座標から計算できます。

 実はこれが F と H の中点になっているのです。あとは全体の対称性から K,L,M が水平であることがわかります。



 ところで、上記の円G の高さ(y座標)をグラフでプロットしてみましょう。変数は2つあって、箱の幅L の隙間 (a+b) と、真ん中の円柱のB の位置(a) です。下のグラフは、青い太線と、淡い色の線が何本か描かれています。太線は a+b = 0.5で、徐々にa+bの値を増やして、a+b=2 になるまでのグラフを淡い色で描画しています。

 それぞれの上に凸のグラフは、a+bを固定したときにa(つまり円柱Bの位置)を変化させたときの高さの変化を表しています。本当はこのグラフの定義域は 0 < x < a+b なのですが、関数が実数値をとる範囲すべてを描画してしまっています。

 いずれにせよこのグラフを見ると、円柱Bが中央にあるときが高さが一番高くなることがわかります。違いはこの程度ですが…

図 2

 なお、この問題が紹介されていた本には、箱の幅が円柱4個分より大きく円柱5個分より小さい場合、ある段数で4個が水平になるという結論だけが書かれていました。何段積めば水平になるでしょうか。また、これは一般化できるのでしょうか? (箱の幅が円柱 N-1個より大きくN個より小さい場合、k段積んだら水平になる、と言えるでしょうか?) なんとなく言えそうな気がしますが、これは本には書かれていませんでした。

(つづく)



 昨日はしっかり雪が積もりました。車に積もった雪をそのままにすると、翌朝(=今朝)凍って大変だろうと思ったのです。昨日は在宅勤務だったのですが、19時までリモート会議でした。会議のあいだに妻が車のフロントガラスの雪を落としておいてくれました。本当に助かりました。でもすでに凍り始めていて大変だったようです。今朝はしっかり車を暖めて出かけないと、と思っています。


<おまけのひとこと>
 ここ10年以上、朝食後に高血圧の薬を飲んでいます。薬は頂き物の素麺が入っていた桐の箱に入れてしまってあるのですが、薬を飲んだ後、敢えてその箱をテーブルの上に出しておきます。箱が出ていたら「今日は薬を飲んだ」ということがわかります。子どものころは、年配者が「薬を飲んだかどうか自信がない、忘れた」というのが驚きでした。今や実感としてよくわかります。ほんと、忘れるのですよね。






3月24日(木) 正方形に円を13個詰める

 円を正方形に詰める(パッキングする)話です。



 昨日までご紹介してきた円柱を箱に詰める問題、一番下から 3個-2個-3個-2個-3個 の5段で13個を使っていました。これを見て、正方形に円をパッキングする問題を連想しました。13個を規則正しく配置するとこうなります。円の半径を1とすると、正方形のサイズはこうなります(図1)。

図 1

 円の配置をこう変えると、対称性は下がりますが正方形のサイズはもっと小さくできます(図2)。

図 2

 左下のA,B,E,F は4円の中心が正方形になるような配置で、B,D,F と C,D,G は3つの円の中心が正三角形になる配置です。これが最小で正しかったっけ? もっと正方形が小さくなる配置があったんだっけ? と思って Circle packing in a squareを確認してみたのです。そうしたらこんな図が載っていて(図2と向きを合わせるために図を反転しました)、

図 3

正方形の1辺は 7.463… と書かれているのです。図2の K と L に相当する2つの円が接しておらず、隙間があるのです。一方、右下の C と G は接しているように見えます。また、左下の A の円、少し上に浮き上がっていて、正方形の下の辺には接していないように見えます。図2は斜め45度に対して鏡像対称な配置なのですが、図3は対称ではないようです。7.464… と 7.463… なので違いはわずかですが、でも図2より小さくできるということ、しかも円の位置関係が大きく変わるところに別の極小値があるのではなくほんの少し位置を変えたところに極小値がある、ということが大変驚きです。この図3の 7.463… という解、どうやって求めたのか気になりました。



 昨日の朝は、「暑さ寒さも彼岸まで」のお彼岸も過ぎたというのに気温が氷点下10℃でした。家の水道管は電気のヒーターの凍結防止帯を巻いているのですが、温度センサで自動でon/off してくれる「節電太郎」というアダプタを設置しています。唯一トイレに給水している水道管のみ、凍結防止帯の電源を室内のソケット(コンセント)から取っているため、ここだけは手動でプラグを抜き差ししています。このところ暖かかったのでこのプラグを抜いておいたのです。それを忘れていて、昨日の朝はトイレの給水管が凍ってしまいました。失敗…。 妻によると「1時間後くらいには水が出た」ということでした。


<おまけのひとこと>
 勤務先の事業所は人数が急激に増えたのですが食堂は1か所だけしかなく、15分刻みの5班に分かれて交替で昼食を取ります。今週から一番遅い班になったのですが、昨日はいくつかのメニューが売り切れていました。私はセットメニューではなく小鉢や単品を組み合わせることが多いのですが、予定していたものが品切れになっていてプランが破綻してちょっと困りました。すでに取ったもの(1品ごとにカードリーダーで清算します)を返すわけにはいかないので、バランスが悪くなってしまったのでした。






3月25日(金) ナンバースネークパズル

 盤面(表)に数字を順に入れるパズルの話です。



 先日のmental gymnastics - Recreational Mathematics Puzzles(Dick Hess, DOVER)という本に紹介されていた別のパズルです。1冊の本からあんまりたくさんご紹介するのも気が引けるので、これだけにしておこうと思います。

 図のような6×7の42マスの盤面があります。11, 20, 30 の3つの数字が書かれています。

図 1

 縦横1マスずつ動けるコマ(図2)を考えて、そのコマが42マスの盤面の全てのマスを1回だけ訪れる経路を考えることにします。

図 2

 最初のマスを1、次のマスを2、というように訪問した順番にマスに1,2,3,…,42 の数字を記入したとき、11,20,30 が図1のマスだったとします。残りの全てのマスに数字を入れて下さい、というのがこのパズルです。

 この3つの数字だけで解がユニークに決まるのだ、というところがすごいと思いました。実は例題としてもっとマスの数が少ない盤面の例を作ろうと思ったのです。ところが適度に面白くて、かつユニーク解になる例題を作るのは簡単ではないのです。4×4の16マスで、数字3個で経路が一意に決まるものを考えてみたのですが、なかなか良い問題が作れませんでした。そのなかでも若干ましかな、と思ったのがこの問題です。

図 3

 これ、ユニーク解だと思うのですが、違ったらごめんなさい。(ヒントというかカギの数字として16は使いたくなかったのですが…)



 22日、23日にご紹介した「円柱を箱に詰める問題」について、tb_lb さんという方から初等幾何学の手法で考察したメールをいただきました。感激しています。上のパズルの例題を作っていたら時間がなくなってしまったので、いただいた情報に関しては週末にご紹介させていただきたいと思います。ありがとうございました。


<おまけのひとこと>
 4月から同じ事業部内の別の組織に異動することになったのですが、元職場の次年度の計画と新職場の次年度の計画と両方に関わっているため忙しいです。(まあ忙しいくらいのほうがありがたいです。)






3月26日(土) 円柱を箱に詰める問題(その3)

 円柱を箱に詰める問題をアニメーションにしてみました。



 今週の火曜日に円柱を箱に詰める問題というのをご紹介しましたけれども、それに関して tb_lb さんという方からコメントをいただいたのです。tb_lbさんは ポロロッカ というサイトに初等幾何の問題を定期的に投稿されていらっしゃるそうで、同サイトの中のtb_lbさんのプロフィールを拝見すると、現時点で57問もの問題を投稿されていらっしゃるのですね。

 その中で、先週の日曜日(3月20日)に投稿された5個の二等辺三角形と10個の菱形という問題が「円柱を箱に詰める問題」とよく似たテーマだったので、偶然の一致に驚いてご連絡を下さったとのことでした。ありがとうございます。問題の縮小画像を載せさせていただきましたが、pororoccaの問題のページをご覧ください。(下の画像からもリンクしています。)

 
5個の二等辺三角形と10個の菱形(tb_lb)

 確かにこの問題、円柱を箱に詰める問題とよく似ていますね。この問題もとても面白いです。

 さらに、tb_lbさんの過去の問題に触発されて、二等辺三角形と菱形のアニメーションを作られた方が複数いらっしゃるのだそうです。https://twitter.com/jagarikin/status/823573227649675264(じゃがりきん さん)、https://twitter.com/dearsip/status/823859823464751104(蝶番 さん) のgifアニメーションを教えていただきました。これらもたいへん面白いです。

 ご紹介下さって本当にありがとうございました。ポロロッカという出題サイトは知らなかったので、見せていただこうと思います。過去のtb_lbさんの問題も面白そうなものがたくさんあるので、見せていただきたいと思いました。



 アニメーションを拝見したら、自分でも作ってみたくなりました。円の中心の座標は計算済みなので、CGにするのはそれほど大変ではありません。幅を固定して、中央の円柱を左右に単振動させてみました。

図 1a 図 1b

 せっかく三次元CGの世界で描画しているので、ちょっと視点を変えて奥行き感を出してみました。まずは平行投影です。

図 2a 図 2b

 透視投影の図も作ってみました。

図 3a 図 3b

 CG、楽しいです。


<おまけのひとこと>
 月曜日の朝までにやらなければいけない仕事がまだ全然終わっていないのです。「まあ金曜日に終わらなければ、いざとなれば週末もあるし…」と思ってしまっているのが敗因です。






3月27日(日) エノン写像

 日曜日なので単発の話題です。力学系のカオスアトラクターの話です。



 「数学と物理の計算機実験と可視化」Computer experiments and visualization in mathematics and physics(J.-R. Chazottes, M.Monticelli:2022) という論文を興味深く眺めました。(読んだのではなく眺めただけです。)1950年代ころから急激に発達したコンピュータによって、それまで知られていなかった面白い現象がいろいろ見つかってきたのですが、そんなトピックを紹介してくれている論文です。

 ローレンツアトラクターとか、エノン写像とか、有名なカオスアトラクターが、発見者の写真や当時の機材の写真などとともに紹介されていて、大変興味深いのです。この論文を見て、エノン写像でちょっと遊んでみたのでご紹介しようと思います。

 エノン写像というのは、下の漸化式で定義される(xn,yn)の系列です。aとbはパラメータです。オリジナルのエノン写像では a=1.4、b=0.3 です。

 たとえば最初(初項)が (x0,y0) = (0,0) だったとしましょう。パラメータは a=1.4、b=0.3 とします。定義式より、

x1 = y0 + 1 - 1.4 * x02 = 0 + 1 - 1.4 * 0 * 0 = 1
y1 = 0.3 * x0 = 0
x2 = y1 + 1 - 1.4 * x12 = 0 + 1 - 1.4 * 1 * 1 = -0.4
y2 = 0.3 * x1 = 0.3
x3 = y2 + 1 - 1.4 * x12 = 0 + 1 - 1.4 * (-0.4) * (-0.4) = 1.076
y3 = 0.3 * x2 = 0.3 * (-0.4) = -0.12

 という風に順々に計算して決めることができます。ここには乱数の要素はありませんから、nがどんなに大きな数であっても、n項目までを順に計算してゆけば、必ず答えが一意に定まります。nが無限大になったとき、(xn,yn)はどうなるでしょうか。

 計算機実験ができない時代は、こういった漸化式の極限は、1つの点に収束するか、無限大に発散するか、周期解になるか、いずれかだと考えられていました。でも、このエノン写像は、計算していっても発散も収束もせず、周期解にもならないのです。Excelで2000ステップくらい計算してみたものをプロットしてみました。

図 1

 このように、ずっと計算していったときにn番目以降は必ずある領域の中にはとどまっているという状態になったとき、その領域のことをアトラクター(attractor)と呼びます(attract : 引き付ける、より)。この例のように、n番目は折れ曲がった形の中のどこかにはいるけれども、その中のどこにいるのかはn番目まで順次計算しない限りわからない、というようなアトラクターをカオスアトラクターと呼びます。このエノン写像はカオスの概念が生まれる初期のころに発見された代表的なカオスアトラクターの1つです。



 上記の論文に紹介されていた、Henon's attractor というサイトには、パラメータ a, b をいろいろ変えたときにこのアトラクターがどのように変化するのか、インタラクティブに実験できるようになっています。アニメーションにしてみました。

最初に b=0.3 を固定して、a の値を 1.0 から 1.46 くらいまで 0.01 刻みで変えてみました。

図 2

 最初はアトラクタは離散的で、とびとびの値しか取らないようなのです。このサイトでは、パラメータは0.01刻みでしか入力できないのですが、だんだんアトラクタが連続的になってきたなと思っていると、途中でまた離散的になります。また徐々に連続的になって、アトラクタの構造もだんだん折れ曲がった複雑なかたちになってきます。1.42を過ぎるとまた離散的になりました。面白いです。

 次にパラメータ b を変えてみます。 a=1.4 で固定です。こちらは徐々にy軸方向にふくらんでゆくのがわかります。

図 3

 これらの実験はExcelでも簡単にできますので、興味がある方は実験してみることをお勧めします。Excelを使えばパラメータ a や b を 0.01 刻みよりももっと細かく指定して計算できます。やっていることは単なる足し算・引き算・掛け算の繰り返しだけなのに、こんなに複雑で精緻な構造が現れる、というのはとても面白いと思います。

 もう少し図を用意していたのですが、時間切れです。このトピック、もう少し続けるかもしれません。



 上の2つのアニメーションを見て思うのは、本来このアトラクタは (x,y,a,b) の4次元で考えると面白いのだろうな、ということです。図2のアニメーションは b を固定した「切り口」の x,y,a の3次元の構造をxy平面と時間の3次元で表現したものですし、図3のアニメーションは同様に a を固定した「切り口」の x,y,b の3次元の構造をxy平面と時間の3次元で表現したものです。とすると、例えば (x,y,a) の3次元の散布図を射影図として図示しておいて、4つ目の次元である b の変化を時間変化で表現する、といったことが考えられます。


<おまけのひとこと>
 今日は特に新しい視点や発想のご紹介ではなく、有名な話のご紹介でした。面白がって遊んでいたら他のトピックを準備する時間がなくなってしまったので、今日はこの話題で書くことにしました。






3月28日(月) エノン写像をExcelで

 エノン写像の話のつづきです。



 昨日、エノン写像のご紹介をしたのですが、単発の話題のつもりだったのです。でも、Excelでいろいろ実験をしたりしてみたら面白かったので、今日はそのご紹介をします。Wikipediaのエノン写像のページ(日本語です)が詳しくて面白いです。

 上記のページに、Jordan Pierce氏が Mathematica で作ったという非常に精緻で美しい図が載っています。これは横軸にパラメータ a、縦軸にエノン写像が取りうるxの値をプロットしたものです。

図 1

 この不思議な模様のような部分だけを少しだけ大きくしてみました。

図 2

 図1、図2ともクリックすると大きな画像が別窓で開きます。

 これがどんなに精緻な微細構造を持っているのかをちょっとご紹介するために、下の赤い A と B の部分を拡大してみましょう。

図 3

エリア A エリア B

 これが、こんな単純な漸化式

 から生み出されるということがとても不思議です。



 昨日ご紹介したサイトでは、パラメータ a と b を変えたエノン写像のアトラクタが簡単に描画できて楽しいのですが、いかんせんパラメータの刻み幅が0.01なのが残念です。せっかくExcelで実験できるようにしたので、もっと細かく刻んでみることにしました。上の図を眺めて、a=1.3 と a=1.31 の間を調べてみることにしました。

図 4a:a=1.31 図 4b:a=1.3

 等間隔で調べても面白くないので、1.31、1.301、1.3001、1.30001、1.300001、1.3000001、1.30000001、1.300000001、… というように、1.3に足す値を指数的に小さくしてみました。単純にアトラクタの点の密度が低くなってゆくのではなく、増えたり減ったりするのがわかっておもしろいです。gifアニメーションをこちらに置きました。(別窓で開きます。)

 Excelはおそらく多くのPCにインストールされているソフトウェアで、プログラミングをしなくてもこんな実験が簡単にできてしまうのがすばらしいです。昔、津田一郎先生がカオスの研究をするときに、パソコン(当時はマイコンと呼んでいたような気がします)のプログラムが信用できなくて、手で電卓を叩きまくって感覚を掴んだ、という話をされていました。また、合原一幸先生が、自分が書いたプログラムの結果が信じられなくてソースコードを一切変えずにもう一度コンパイルし直して実行してみる、ということを何度もやったことがあると言われていました。これも私は共感したお話でした。

 いずれにせよ、電卓でもExcelでもプログラムでも何でもいいのですけれど、自分で計算してみる、ということが感覚をつかむために大事です。そういう経験をしてみると、世の中に発表されているフラクタルやカオスの図形などがどれほど大変なことをやっているのか、これがどれほど単純な規則から生み出されているのか、実感としてよくわかるのです。


<おまけのひとこと>
 26日(土)〜27日(日)の週末は本業のほうの情報収集にそれなりに時間を割きました。でも自分で勝手にやっていることで仕事ではないので、昼間からお酒を飲んでご機嫌でパソコンに向かっていました。(昨日はお昼に妻に車の運転をしてもらって、サイゼリヤでワインをたくさん飲んできました。)エノン写像はもちろんプライベートな趣味の作業なのですが、本業も趣味もやっていることはそんなに差が無いかもしれません。(もちろん業務にはプライベートな趣味は一切持ち込みませんが、プライベートのほうには仕事の興味が顔を出すことがあります。)






3月29日(火) 分銅の問題(その1)

 新しい話題です。



 天秤ばかりで重さを調べることを考えます。今、使える分銅が2グラムのものと5グラムのものがそれぞれたくさんあったとします。1グラム単位で計量したいと思ったとき、量れない重さはあるでしょうか?

分銅 天秤

 2グラムの分銅があるので、すべての偶数は作れます。また、5グラムの分銅があるので、(5+偶数)グラム、つまり 5,7,9,… は量れます。ということは、量れないのは1グラムと3グラムだけです。与えられた分銅のセットが(2,5) だったとき、量れない(作れない) 最大の数は3、ということになります。



 一方、分銅のセットが(5,10) だったとしましょう。この場合、5の倍数のグラム数はすべて作ることができます。でも、5の倍数以外の数は作ることができません。なので、「作れない最大の数」というのはありません。(作れない数は無限に存在します。)

 与えられた数(分銅の重さ)を a, b とします。a を x個、 bをy個 でできる数(重さ)は ax + by です。xとyは0以上の整数だとして、 ax + by で作ることができない最大の数はいくつでしょう? というのがこの問題です。

 たとえば(a,b) = (4,7) だったら、作れない数の最大はいくつでしょう? (5,12) だったらどうでしょう? 作れない最大の数(=それより大きな数は必ず作れる、という数)はあるでしょうか? あるとしたらいくつでしょうか? どんな規則性があるのでしょうか?

(つづく)


<おまけのひとこと>
 ご存じの方なら、「ああ、あの問題ね」とお気づきだと思います。今日は時間がないのでごく簡単な更新です。






3月30日(水) 分銅の問題(その2)

 昨日ご紹介した「分銅の問題」の解説です。(証明ではありません。)



 昨日、「2グラムと5グラムの分銅で作れない最大の重さは3グラム」という話をご紹介しました。これを毎回言葉で書くのは面倒なので、 g(2,5)=3 という記号で表現することにします。最大公約数をGCD(greatest common divisor)と表記したりしますが(ちなみに最小公倍数はLCM:least common multipleでした)、2と5で作れない最大の数、ということで g を使うことにします。

 昨日、g(4,7) と g(5,12) はいくつでしょう? という問いかけをしたのでした。まず、g(4,7) のほうをすごく丁寧に求めてみることにします。最初にゼロ以上の全ての整数を4行に書いてみます。(7行にしてもいいのですが、4のほうが小さいので4行にしました。)

 1行目が4で割り切れる数、2行目が4で割ると1余る数、という風に表を作ってあります。この表にはゼロ以上の全ての整数が1度だけ出てきます。どんなに大きな数を与えられても、この表の何段目の何列目にあるのかは簡単に計算できます。

 この表の1行目は、7は1つも使わずに作ることができます。

 7を1つだけ使えるとすると(4はいくら使っても良いです)、この表の4段目の数は全て作れます。ただし 7より小さい3は作れません。

 7をちょうど2つ使うとすると、この表の3段目が作れます。ただし7×2=14の左側の2,6,10は作れません。

 7をちょうど3つ使うとすると、最後に残ったこの表の4段目が作れます。ただし7×3=21の左側の1,5,9,13,17は作れません。7を4個以上使ったとしても、ここまでで作れなかった数は絶対に作れません。「4と7をいくらでも使ってよい」という条件でしたが、実は7は最大3個まで使えれば充分だったのでした。

 以上より、4と7で作れない最大の値は g(4,7)=17 だということがわかりました。これを計算で求めるとすると、7を3個でできる数より4だけ小さい、ということですから、4と7 で表すと、 g(4,7) = 7×(4-1) - 4 = 4×7 - 4 - 7 と表せます。

g(4,7) = 4×7 - 4 - 7



 同様な操作を 5 と 12 でもやってみます。今度は5段の表を作って、12を1つも使わない場合、1つだけつかう場合…を表に色付けしてゆきます。

 同じ操作の結果、5と12で作れない最大の値は G(5,12)=43 だということがわかりました。これを計算で求めるとすると、 g(5,12) = 12×(5-1) - 5 = 5×12 - 5 - 12 と表せます。

g(5,12) = 5×12 - 5 - 12

 この2つの例から、g(a,b) = ab - a - b なのではないか? という仮説が自然と思い浮かびます。

g(a,b) = ab - a - b

 既に答えを知っている例で試してみましょう。g(2,5) = 2×5 - 2 -5 = 3 で、確かに私たちがすでに知っている答になりました。



 この計算が成立するためには条件があります。 例えば昨日の例で、5と10だったら、いくらたくさん使っても5で割り切れる数しか作れません。1の位が0か5の数以外は作れないのです。この計算が成立するためには、(4,7) の場合であれば 7×0、7×1、7×2、7×3、を4で割った余りがすべて異なること、(5,12)の場合であれば、12×0、12×1、12×2、12×3、12×4、を5で割った余りがすべて異なること、が条件です。

 実はこの条件を満たす(a,b) は、「aとbが互いに素」なのです。

(つづく)


<おまけのひとこと>
 この説明だったら小学生にも話せるのではないかなあと思って、丁寧に説明してみました。いかがでしょうか。






3月31日(木) 「分銅の問題」改め「フロベニウスのコイン問題」

 昨日の話の続きです。



 一昨日から「分銅の問題」としてご紹介してきた「2種類の分銅がふんだんにあるとき、その2種類の分銅で作れない最大の重さは?」という問題ですが、これは通常フロベニウス(Frobenius)のコイン問題と呼ばれます。「2グラムの分銅と5グラムの分銅で作れない重さは?」という問いは、「価値が2のコインと価値が5のコインでぴったり支払えない(どうしてもお釣りが必要になる)最大の金額は?」というのと同じです。

 この問題は、最近公開された「3変数のフロベニウスのコイン問題」On the Frobenius Coin Problem in Three Variables(Negin Bagherpour, Amir Jafari, Amin Najafi Amin:2022)を見たのをきっかけに考え始めたのでした。この論文の冒頭に、フロベニウスのコイン問題の数学的な定義に続いて、「数学者ではない人に説明するなら、与えられたコインのセットで支払えない金額は?、と説明するとわかってもらえる」ということが書かれています。フロベニウスが100年ほど前に講義の中でこの問題を紹介した、という記録が残っているのだそうです。

 この論文では、互いに素な数 a と b が与えられたとき、a と b を1つ以上使って作れない数の最大値を G(a,b) 、a と b を 0個以上使って作れない数を g(a,b) というふうに、大文字の G と 小文字の g の表記を使い分けています。その表記にならうことにします。(昨日は間違って大文字のGを使ってしまいましたが直しました。)

 a=4, b=7 の例で説明します。a と b を必ず1つ以上使って作れる数 ax + by を考えます。1つ以上なので、4だけしか使わないとか、7だけしか使わないのはダメです。昨日と同様、ゼロ以上の全ての数を4段の表にしたもので考えてみます。

 下の段から順に、「7が1つと4が1つ以上」、「7が2つと4が1つ以上」、「7が3つと4が1つ以上」、「7が4つと4が1つ以上」、で表される数のマスに色を付けています。これで表せない最大の数は 4×7=28です。 G(4,7)=28、と表記します。昨日のように、「片方の数字は使わなくても良い(ゼロ個でもよい)」とした場合を g(4,7) と書くと、g(4,7) = G(4,7) - 4 - 7 なのでした。上記の論文の冒頭に、まずその話が書かれています。

G(a,b) = g(a,b) - a - b

 この論文では、分銅もしくはコインの種類が3種類になったとき、その3種類では作れない最大の数(この数のことをフロベニウス数と呼ぶようです)を求める計算手順(アルゴリズム)について議論しています。

 詳細は説明しませんが(説明できるほど詳細に踏み込んで理解できていないので)、例えば

a1=468342493, a2=472518070, a3=472714471

 という例が挙げられていて、この3つの数を用いて作れない最大の数を計算する手順として、ユークリッドの互除法(リンク先の「高校数学の美しい物語」は素晴らしいサイトです)を用いるよりも著者らが提案する手法は効率が良いことが実例として示されています。

 それにしても、この例のような大きな数が出てくると、こんな大きな数を複数個足し合わせてできる数はものすごく大きな数ばかりで、小さいほうの桁の数は何一つ作れませんし、作れない数が山ほどあって「すかすか」な印象があります。でも、この3つのうちどの2つのペアも互いに素なので、これらの組み合わせ(3つの数のゼロ個以上の足し合わせ)で作れない数にもちゃんと最大値 g(a1,a2,a3)=M がある、言い換えるとMより1つでも大きい数は、全て作ることができる、というのです。きっと M+1 と M+2 では、a1とa2とa3が使われる個数は全然違うのだろうな、と思います。整数の問題というのは本当に面白いです。



 ちなみに分銅の例で話をしたらいいかなと思ったのには2つ理由があります。コインだと、1,2,5,10 みたいな数はありますが、4とか7とかは不自然だと思ったのが1つ。まあ分銅でも4とか7は不自然かもしれませんが、工業生産物のような、同じ寸法で同じ重さの部品のようなものをイメージすると、4グラムと7グラムのものがたくさんある、というシーンはそれほど不自然ではありません。

 もう1つの理由は、マイナスの数を表現するのが簡単かなと思ったのです。有名な一次不定方程式 ax + by = 1 というのがあります。これはaとbが互いに素であれば必ず x,y の整数解があるのですが(逆も成立します)、a も b も正の数なら、x と y の片方だけは必ず負の数になるはずです。 たとえば4と7なら、4×2 + 7×(-1) = 1 です。5と12なら、5×(-7) + 12×3 = 1 です。 7がマイナス1個、といのは、分銅なら天秤ばかりの逆の皿に分銅を載せれば良いのです。(まあコインでも「お釣り」と考えてもいいですけれども。)

 ax+by=1 に整数解があることと、aとbが互いに素であることは必要十分条件です。この証明もご紹介しようかなあと思っていたのですが、ちょっと調べると日本語でもわかりやすいページがたくさんあるので、敢えて書かなくてもいいかなと思ったので割愛します。



 今回のトピック、g(a,b) = ab - a - b になるのはなぜなんだろう、と思って最初にエラトステネスの篩みたいに「表せる数」を消していってみたのです。そうしたら、表の段数を a 段にしておくとわかりやすい、ということに気が付いて、昨日のような説明に至ったのでした。そのプロセスが面白かったのでご紹介したのでした。

 なお、これが成り立つためには a と b が互いに素でなければなりません。ここで出てくる大事な定理(補題)として、「aとbが互いに素であるならば、b×0, b×1, b×2, … b×(a-1)をaで割った余りは全て異なる」というものがあります。この「余りがすべて異なる」からこそ、a段の数表で b×0, b×1, b×2, … b×(a-1) は全て異なる段に出現するのです。具体的な例でいうと、7x0, 7x1, 7x2, 7x3 を4で割った余りは全て異なりますし(0,3,2,1)、12x0, 12x1, 12x2, 12x3, 12x4 を5で割った余りも全て異なります(0,2,4,1,3)。

 この証明もいろいろなところで見かけるので、ここでは敢えて載せません(書く時間がありませんでした)。


<おまけのひとこと>
 今日は年度末の最終日で、職場のレイアウト(座席)変更があります。今日までの職場とは明日以降も仕事上のつながりは深いので、今使っている座席は「当面そのままにしておくからいつでも来て使ってね」と責任者の部長さんに言っていただいています。とはいえ、新職場側の座席にあまりいないのもどうかと思うので、荷物は運びます。もともと外部とのリモート会議が多いので在宅勤務比率が高く「あまり職場にはいません」と宣言しているのですが。コロナ禍が終息しても、以前のように「出張して対面での会議」には完全には戻らないだろうと思っています。(国内出張は好きでしたが。)移動時間を考慮しなくてよいというのはものすごく効率が良くてありがたいです。






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