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以前の「ひとこと」 : 2002年10月前半




10月1日(火) Snub Square Antiprism (ねじれ四角反柱)

 辺の長さが全部同じである正多角形だけに囲まれた凸な多面体は全部でどれだけあるんでしょうか、という研究があります。日本語であれば、以前にもご紹介したThe Polyhedra World (多面体の世界)ジョンソンの立体というページに、系統立てて説明されています。ちなみに英語ですと、こちらが詳しいです。ジョンソン多面体という名前で、Jの何番、という番号が振られています。(これがどの程度一般的に通用する名前なのかはわかりません。)

 「多面体の世界」の基本形(016)、もしくはJ85:Snub Square Antiprismを LaQ で作ってみました。(ちなみにこのJ85のページのモデルは、マウスでドラッグすることによって回転させることができます。)

LaQ の ねじれ四角錐
上から
LaQ の ねじれ四角錐
横から

 LaQ で作るとエッジが丸くなるので、元の立体とはイメージが変わってしまいます。そこで、上から見た図と横から見た図をつけておきました。正方形の周りに12枚の正三角形を配置したものを、上下に組み合わせて作る立体です。図を見ると、簡単な宝石のカットのように見えないこともないのですが、LaQのモデルは丸っこくて川原の石ころのようです。妙に手になじみます。(でもジョイントにはかなり無理がかかっています。)

 この立体のことを、英語名ではSnub Square Antiprism(ねじれ四角反柱)と呼びます。まあイメージとしてはそのとおりなのですが、snub(ねじる)という操作を、なんとなくねじれているから、というイメージではなく、元の多面体の稜の部分に正三角形2枚を菱形状に挿入する拡張であると定義すると(このあたりの話については、過去の8月23日8月28日8月30日などの「ひとこと」をご覧ください)、この立体はねじれ四角錐と呼ぶのが正しいことになります。でもそれはそれでこの立体を的確に表現した名前であるとは言い難いですね。

 <おまけのひとこと>
 スラッシュドットに載っていたお家で作れる台風の三次元モデルというのが面白そうです。
 もう1つ。東京新聞一筆入魂こだわり絵地図。これもすごい。




10月2日(水) ねじれ切頂四面体(Snub Truncated Tetrahedron)

 3Dジオシェイプスで、切頂四面体を拡張したねじれ切頂四面体というものを作ってみました。写真1が一般的な視点から、写真2が真上から、それぞれ撮影したものです。

 もともとの正四面体の面に由来する黒い正六角形が4枚と、もともとの正四面体の頂点に由来する白い正三角形が4枚がまず在ります。それぞれの辺に、黄色と緑の正三角形をつないで組み上げました。

ジオシェイプスのねじれ切頂四面体 ジオシェイプスのねじれ切頂四面体
写真1 写真2

 ジオシェイプスはもともと骨組みだけのパーツなのでわかりにくいですが、元の切頂四面体の頂点に相当する12の三角形の部分が空いています。ここは本当は切頂四面体の双対多面体である三方四面体(triakis tetrahedron)の12の面になっていないといけないものですが、この模型ではすべての稜の長さが同じになるので、三方四面体の平べったい鈍角二等辺三角形ではなくて、正三角形になっています。

 このように準正多面体や、昨日もちょっとご紹介したジョンソンの多面体の「ねじれ拡張」を考えると、いろいろおもしろい形になります。

 <おまけのひとこと>
 理研、1つの分子だけを化学反応させることに成功なんだそうです。詳細はこちらにあります。π電子系による平面状分子であるトランス2ブテン(CH3-CH=CH-CH3)に電子を注入して、やはり平面状分子である1,3ブタジエン(CH2=CH-CH=CH2) に変えたのだそうです。とても面白いと思いますし、大変意義のある研究だとも思いますが、

この技術はナノテクノロジー、特に生体分子の反応や分析評価手法として今後威力を発揮するものと考えられます。
と言うには今回の化学反応はあまりに特殊な例だと思います。理化学研究所であっても、そうやって研究の意義をアピールしなければいけないということなのですね。




10月3日(木) ねじれ十二面体(Snub Dodecahedron)

 ねじれ多面体をいくつかご紹介してきましたが、そういえばねじれ十二面体を一度も掲載したことがなかったような気がするので、3Dジオシェイプスで作ったものを載せることにしました。写真1が正5角形の面からみたもの、写真2が正二十面体を構成する正三角形の面からみたもの、です。色はランダムです。

ジオシェイプスのねじれ十二面体 ジオシェイプスのねじれ十二面体
写真1 写真2

 ジオシェイプスの5角形の6角形のパーツは、面の内部に補強が入っているのでちょっとわかりにくいかもしれません。

 この形は準正多面体で、すべての頂点は等価です。以前これをビーズで組んでみたことがあるのですが、5本の稜が集まるこの頂点が凸に安定せず、一番広い5角形の角のせいで内側に凹んでしまい、きれいに立体として安定しませんでした。

 これも時間があったら紙のブロックモデルを作りたい立体の1つなのですが、なかなかやっている暇がありません。

 <おまけのひとこと>
 今日は子供の小学校の社会科見学です。さっき5時過ぎに起きてみたら、妻はすでにせっせとお弁当を作っているし、本人もしっかり起きて出かける準備をしています。朝の市場の取引(せり)を見るので、6時半にはバスで学校を出発するそうです。(それでも遅いくらいだとか。)あとは食品工場を見学したり、水門を見学したり、なぜか温泉の温水プールで泳いだり、忙しい一日になるようです。

 ちょっと前ですが、脳:「損」に反応する脳領域 「不公平」にも敏感 という記事がありました。いくつか気になる論点があるのですが、たとえば

「脳のこの領域は、出来事が予想にあわず、計画の変更が必要なときに発火することが、動物を対象にした研究から分かっている」
と書かれていますけれどもこれはどんな実験をやって確かめたのでしょうか? おそらく動物に何らかの条件付けをして、それに矛盾する状況を提示しているのだと思うのですが、それで上記のように言い切ってしまっていいんでしょうか。(元の論文にもあたらずにこんな疑問を書いても仕方がないですね。)




10月4日(金) ねじれ四角反柱、ねじれ五角反柱

 今週の火曜日に、ねじれ四角反柱(?)という図形をご紹介しました。(日本語名は不明です。気持ちが悪いと言いながら英語名をそのまま日本語にしてみました。)先日はこれを LaQ ブロックで作りましたが、同じものをジオシェイプスで作ってみました。さらに上下の正方形を正五角形に変えたものも作ってみました。

ねじれ四角反柱とねじれ五角反柱
写真1

 写真1は、2つのモデルを並べてみたところです。五角の方が大きいですが、高さは四角の方が高いです。

ねじれ四角反柱(snub square antiprism) ねじれ五角反柱(snub pentagonal antiprism)
写真2 写真3

 写真2、写真3は真上から見たところです。多少なりとも立体の構成がわかりやすいように、3つの色を順番に使ってみたのですが、いかがでしょうか?

 ところで、写真2の方はジョンソンの多面体の1つになるのですが、写真3は違います。なぜかというと、これは凸多面体ではないためです。写真3を見ると、中央の赤い正五角形の周りに青い正三角形があり、その青い正三角形同士の間を、黄色い正三角形2枚がつないでいます。この黄色い正三角形2枚のなす角度が180度を越えていて、内側に食い込んでいます。そのためこの立体はジョンソン多面体の条件を満たさないのです。

 写真2・写真3は四角形・五角形をベースに作ったものですが、同じ構成を三角形から作ると正二十面体になります。また6角形以上でも作ることができると思いますが、だんだん星型反柱のようになってきます。

 <おまけのひとこと>
 Hotwiredより。地球温暖化で伝染病が増大?という記事が載っていました。(最後のクエスチョンマークが大事。) この記事に対して、とあるページで『生命体「地球」の免疫機能』とコメントしていて、ちょっと面白いなと思いました。
 たとえば風邪などのときの発熱というのは、熱によって病原菌を殺すために身体が防衛反応として起こしている行動で、それを対症療法的な薬で抑えてしまうというのはよくないという研究があります。もっと重大な病気である癌についても同様の研究があって、高熱によって癌の進行が止まるという報告もあるそうです。(もちろん、だからといって高温の風呂に長時間はいれば病気が治るとかいう話ではありません。)
 人間の体温というのは普通は36〜37度くらいに維持されています。これほどさまざまな環境にさらされる、これだけ熱容量の大きい人間の身体というものを、これだけ正確に温度を維持するというのは大変なことです。
 地球というシステムが、生命を維持できるきわめて微妙な環境を維持しており、しかもその変化に対してある範囲では揺り戻しの作用があるという点で、ある種の生命体としての「地球」という見方は可能だと思います。
 ただしこういったアナロジーは、ちゃんとその概念をわかって使ってくれるならばいいんですけれども、とかく表面的なイメージだけで語られることが多くて辟易します。たとえば、最近目に付くのはDNAという言葉の使われ方で、「遺伝」ないしは「遺伝子」と言ってくれればまだましなのに、あえてDNAという言葉を使う場面を新聞などで見かけます。
 でも書き手も読み手の多くの人もその言葉で意図が伝わるのであれば、それは言葉の新しい意味ということで成立してしまうのでしょうか。




10月5日(土) ねじれ六角反柱、ねじれ七角反柱

 昨日の続きで、六角と七角の模型を作ってみました。七角のほうは、正七角形のパーツがジオシェイプスにはないので、上下の面は空けてあります。

ねじれ六角反柱とねじれ七角反柱
写真1

 写真1の手前が七角のものです。こちらはパーツが足りなくて、色はランダムです。六角のほうは黒、黄色、緑で作ってあります。

ねじれ六角反柱(snub hexagonal antiprism) ねじれ七角反柱(snub hepagonal antiprism)
写真2 写真3

 写真2、写真3は真上から見たところです。写真3のように上下の面を入れていないと、七角形の頂点が平面上に拘束されないため、変形してしまいます。でもこの形は家族にはなかなか好評で、壁に掛けて飾っておこうか、という意見も出ました。その場合、どういう配色にするのがいいんだろうと考えています。

 <おまけのひとこと>
 昔から岩波書店から出ている子供向けの本のシリーズで「ドリトル先生物語全集(12巻)」というのがあります。1冊1冊は基本的に完結したお話になっているのですが、12冊全体として見ると、物語は時間軸通りに進むわけではなくて行きつ戻りつします。この12冊のうち、2巻から順番に毎月1冊ずつ子供に与えています。
 なぜ1巻目を飛ばしているかというと、最初の「ドリトル先生アフリカ行き」は若干完成度が低いのと、あとがきに全12巻の内容が説明されてしまっているので最後に読んだほうがいいだろうと思っているからです。
 今月は3日の社会科見学が終わってから出してあげるという約束になっていて、昨夜催促されて9巻を渡しました。この9巻「ドリトル先生月から帰る」は、小学生だった当時、全12冊の中でも特に好きだった1冊です。




10月6日(日) ねじれ五角柱(snub pentagonal prism)もどき

 正五角柱に“ねじれ(snub)操作”を加えてみました。こういう実験にはジオシェイプスは本当に役に立ちます。

ねじれ五角柱 ねじれ五角柱 ねじれ五角柱
写真1 写真2 写真3

 写真1が斜めから見下ろした普通の角度の写真、写真2が真上から見下ろしたところ、写真3は横から見たところです。

 黒のパーツがもともとの正五角柱で、正五角形が上下に2枚、側面に正方形が5枚あります。上の五角形の各辺には黄色い三角形を2枚ずつ、下の五角形の各辺には青い三角形を2枚ずつ加え、側面の正方形の間は赤い三角形2枚ずつで繋ぎます。空いている三角形10枚分が、正五角柱の双対多面体である重五角錐由来の面ということになります。

 これはねじれ立方体の1対の正方形を五角形に変えたものですが、この“ねじれ五角柱”というのは、本当はすべての稜の長さが同じにはなりません。正五角柱の双対多面体の三角形は正三角形ではないからです。ではこの模型のどこにウソがあるかというと、側面の黒い正方形が、折り紙を対角線で三角に折るように、ちょっと折れ曲がっています。

 その分パーツに無理がかかっているということですから、パーツにへんな癖がついたらいやなので、写真を撮ったらすぐに分解してしまいました。

 <おまけのひとこと>
 昨年の11月30日のひとことで、色の錯覚の話をご紹介しましたが、これのさらに強力な例がありました。こちらです。チェッカー模様(白黒の市松模様)の上に円柱が1つ置かれていて、その影が伸びています。図の中にAとBと書かれているマス目があって、Aは光線の当たった明るい部分の濃い色のマス、Bは陰になった部分の淡い色のマスです。この2つのマスは実はまったく同じ灰色で塗られているのだそうですが、とてもそうは見えません。




10月7日(月) ねじれ六角柱(snub hexagonal prism)もどき

 昨日の正五角柱に続いて、正六角柱への“ねじれ(snub)操作”を作ってみました。昨日の写真と比べてみてください。

ねじれ六角柱 ねじれ六角柱 ねじれ六角柱
写真1 写真2 写真3

 昨日と同じく、斜めからの見下ろし、真上、真横の写真です。色使いも昨日とまったく同じです。

側面のアップ
写真4

 この立体も、側面の正方形はかなり折れ曲がっています(写真4)。

 <おまけのひとこと>
 最近、広告収入だけで成り立っている無料の新聞というのが注目されているのだそうです。たとえばテレビならば、民放は、視聴者の立場からすると広告を見る代わりに視聴料を支払う必要のないメディアです。また、ウェブ上の新聞社などのサイトでは、基本的には無料でたくさんの記事や情報を読むことができます。
 とすれば、新聞だってあんなに広告が載っているんだからそれでまかなえるのではないか、という発想なのだそうです。世界的に見ると、北欧だったかの無料新聞がすでに340万部もの発行部数に達しているそうです。
 日本でも最近そういった試みがはじまったそうです。特に毎日の新聞配達の負荷が大きいため、企業などの協力を得ながら、駅などのスタンドで配布するという形式なのだそうです。(すみません、情報源のURLを見失いました。)

 ちょっと調べてみると、都道府県別新聞発行部数とか、朝日新聞購読世帯の特性毎日新聞社広告局ホームページ、なんていう情報がみつかりました。こういうページを見ていると、発行部数が300万を越えるというのはなかなかすごい数字だということ、地方では地方紙ががんばっているということがわかります。
 また、世代別の読者層というデータを見ると、若年層の読者が少ないように見えます。これはこのデータをどのように作ったのか(たとえば50代と20代の親子の同居世帯では、読者は50代とカウントされているのか両方にカウントされているのか)とか、世帯主の年齢別人口構成比などを考慮しないと簡単には結論を出せませんが、いずれにせよ若い世代は昔ほど新聞をとらなくなったという話はききます。メディアのあり方も否応なく変わっていくのですね。




10月8日(火) 平成黄身返し

 日経産業新聞を見ていたら、ゆで卵の黄身と白身が逆転しているという黄身返し卵というのが載っていました。おもしろそうだったのでウェブで検索してみたら、ちゃんとホームページがありました。こちらです。

 平成黄身返しとは?というページの情報によると、

反転卵は江戸時代の料理集“万宝料理秘密箱”の“卵百珍”に「黄身返し」という名前で紹介されていたとのことです。しかし、その作り方が今に伝わってなく、幻の食材と言われています。
 なのだそうです。いったいこれをどうやって作るのだろうと職場でちょっと議論してみましたが、文字や模様を自在に作れるという方法がよくわかりません。しかも所要時間が30秒程度、コストも300円くらいとのことです。感心しました。特許出願中、ということはいずれ(もしくはすでに)公開された広報が読めるということですね。探してみようかな。

 ちなみに、万宝料理秘密箱で検索してみると、いくつかページが出てきてそれぞれ面白かったですが、その中にこの「黄身返し卵」の作り方を引用しているところがありました。こちらです。それによると

 新鮮な地卵を針で頭のほうへ一寸(3cm)ばかり穴をあけ、糠味噌へ三日ほど漬けておいてから取り出し、水でよく洗う。これをゆで卵にすると卵の黄身と白身が入れかわり、中の黄身が外側になり、白身が真ん中に入る。これを黄身返しという。

だそうです。

 <おまけのひとこと>
 最近の遺伝情報に関する商売の話で、いくつか気になるものがあります。CNNに載っていた“あなたの遺伝情報をCD―ROMに 6千万円でいかが?”というのもその1つです。希望者に、その本人の全遺伝情報をCD-ROMに記録するという商売を始めるんだそうです。将来は1,000ドルでできるようにしたいんだそうです。その情報を有効に利用して、病気の予防や治療に役立てるのだそうです。この、あまりに楽観的なビジョンに驚きます。 遺伝情報による選別や経済格差による不公平、保険制度の大変動、クローンへの応用などの問題が山ほどあるでしょうし、そもそもそういう社会的問題以前にこれがどの程度効果があるのか疑問です。

 たとえば、遺伝情報が自動車の詳細な設計図だとして、それを調べ上げてその欠陥や特徴をデータベース化すれば自動車事故はなくなるかというと、確かに有効な事例はあるでしょうけれども、抜本的な対策になるとは思えません。事故の多くはあくまでも運用上の問題だからです。どんな安全な車に乗っていても事故は起こるし、それを完全に無くそうとすれば、そもそも現在の定義における自動車ではなくなってしまうでしょう。それと同じことのように思えます。




10月9日(水) ねじれ八角反柱

 先日のねじれ反角柱シリーズの続きで、八角のものを作ってみました。とりあえず角の数によらない規則的な色づけをしようとすると、たとえばこんな風になります。

ねじれ八角反柱 ねじれ八角反柱
写真1 写真2

 写真1が全体、写真2が部分的に拡大したものです。(元は同じ画像です。)原色を使っているのでくどい感じになるかと思ったのですが、意外といいな、と満足しています。

 <おまけのひとこと>
 エッシャーの「上昇と下降」をLEGOで作ったページがありました。すばらしい。




10月10日(木) 石のパズル他

 ずっと昔、プレゼントでもらった石のパズルが出てきたので写真に撮ってみました。外側は正四面体の形状で、中に球状の空間があり、その部分も同じく立体パズルになっています。

 7ピースだけなのでパズルとしては簡単ですが、質感や色が気に入って飾ってあります。

 <おまけのひとこと>
 一昨日のカミオカンデの小柴昌俊氏のノーベル物理学賞に続いて、島津製作所の田中耕一氏がノーベル化学賞の受賞が決まったそうです。生き物の身体を作る部品であるタンパク質を壊さずに調べる方法をみつけたことによる受賞だそうです。
 タンパク質というのは、身体自身を作る材料になったり、何か特定の分子を選択的に取り込んだり、毒物を分解したり、それはそれはたくさんの種類のものが大変巧妙に働いています。 たとえば私たちの社会が、交通機関や電気や電話や水道があったり、食料や工業製品を生産して販売したり、ものすごくたくさんの職業があって、一人一人の人間の仕事はまるで異なるように、タンパク質にも非常に多くの種類があって、それぞれがまったく違った働きをして、その全体の働きによって生命が維持されています。
 でも、社会を構成しているのは結局は人間であるように、タンパク質というのも元を正せば単に20種類くらいのアミノ酸が一列につながったものにすぎません。(もちろん、要素20種類の重複を許す任意の長さの順列ですから、そのパターンは無限に多くなります。)たった20種類の部品を並べるだけで、たとえば眼の水晶体の中のフィブリンというレンズを作る透明なタンパク質や、ご存知ヘモグロビンのように酸素を運ぶタンパク質のように、色も大きさも機能も形もまったく違うものができてくるのです。
 この、アミノ酸をどうやって並べるとどんなタンパク質ができるかが書かれているのが有名なDNAなわけですけれども、DNAには部品であるタンパク質の作り方は全部載っているけれども、今そこでどのタンパク質を作るべきかはDNAが決めるわけではありません。たとえば発生段階で眼になる部分ではフィブリンを作らなければいけないし、赤血球ではヘモグロビンを作らなければいけない。これがどうして実現されているかはDNAだけを調べていてもわからないのです。
 タンパク質というのはとても面白い研究対象で、その形・機能の巧妙さというのは、私が知っているごくごく限られた例だけを見ても、いくら長時間かけて進化してきたとはいえ「よくもまあこんなうまい仕掛けができるもんだな」と感心します。こういった分野の研究を飛躍的に発展させる道具を開発された田中氏の業績は本当にすばらしいものだと思います。




10月11日(金) コインの計量問題(その1)

 とある本を読んでいたら、有名なパズルとそのバリエーションが出ていました。いくつか紹介したいと思います。

問題1
 コインが9個ありました。そのうち1枚だけは重さが他より軽いニセモノです。天秤ばかりを2回だけ使ってニセモノを見つけてください。

 たとえばコインが3個あって、1個だけが軽いことがわかっているとします。この場合は2個を秤の左右に載せて、釣り合わなければ軽いほうがニセモノ、釣り合えば残っている1個がニセモノです。基本的にこの手のパズルはこのバリエーションです。


問題2
 十分たくさんのコインが入っている袋が10個あります。そのうちの1袋にはニセモノしか入っていません。残りの袋は全部本物だけが入っています。ニセモノは、本物より正確に1グラムだけ軽くなっています。1グラムの分銅は十分あるものとして、天秤ばかりを1回だけ使って、どの袋がニセモノの袋か当ててください。

 …この問題は、大きくて丈夫な天秤ばかりが必要だと思います。(笑)

 コインというのは流通しているうちにだんだん角が丸くなってゆきます。それを逆手にとって、昔、金貨の縁を削り取って貴金属を集めるという不正手段が流行ったのだそうです。いちいち重さを量らなくていいように貨幣の形に鋳造して流通させていたはずなのに、こういった不正をつかまされないために、コインの重さを調べる習慣ができたのだそうです。

 当然、コインに鋳造することによってもとの金属よりも額面上の価値が高くなっているのですが(でないと集めて金属として売ったほうが儲かる)、日本の1円玉に関しては、1枚鋳造するのに1円以上のコストがかかっているという話を聞いたことがあります。

 本日ご紹介した2つの問題、「いくつかの中から重さの違う1個をみつけろ」というパターンと、「いくつかの袋の中からニセモノの袋をみつけろ」というパターンが、こういったコインの計量問題の基本パターンです。明日から、もういくつかこのバリエーションをご紹介しようと思います。

 <おまけのひとこと>
 3日前、10月8日のひとことで、「黄身返し卵」というのをご紹介しました。この作り方が特許に出願されているのを、つい調べてしまいました。このすぐ下に作り方を書きます。 広報として公開されている文書ですから、誰でも読む権利があります。 (今は特許庁のホームページで検索して、誰でも自宅で読むことができるようになりました。学術論文の雑誌もそうなってくれるといいのに…)





 …ちょっとだけ間をあけて… 





 基本的なアイディアは、 (1).黄身と白身を隔てている薄膜を破り、 (2).卵の外側から熱を加えて、黄身を先に外から固まらせる、 というものでした。  まず、卵を高速に回転させてから急に停止すると、慣性で黄身が破れるのだそうです。こうしてできた黄身と白身がまざった卵は、ちょうど池の氷が表面から凍るように、熱すると外側に黄身が固まるんだそうです。模様や文字を描くには、薄膜を破った卵の外側からスポット的に熱を加えていくとよいのだそうです。
 生卵をシェーカーのように激しく振ると、殻を割らずに黄身と白身を混ぜられる、というのをどこかで読んだことがあるような記憶があります。これをゆっくりゆでると反転卵が作れるんでしょうか。このお休みに挑戦してみようかな。




10月12日(土) コインの計量問題(その2)

 昨日に続いて、コインの計量問題です。問題番号は通し番号にします。

問題3
 コインが6個ありました。そのうち2枚だけは重さが他より軽いニセモノです。ニセモノ同士の重さは同じです。天秤ばかりを3回使ってニセモノ2個を見つけてください。

 これは昨日の問題1によく似ています。コインですから、本物はすべて同じ重さであるというのが暗黙の前提になっています。


問題4
 十分たくさんのコインが入っている袋が10個あります。それぞれの袋は、全部本物のコインだけが入っているか、それとも全部ニセモノのコインが入っているかのどちらかです。また、ニセモノの袋の数はいくつのかはわかりません。本物のコインの重さは4グラムで、ニセモノのコインの重さが3グラムのとき、グラム単位で重さがわかる上皿秤を1回だけ使って、どの袋が本物でどの袋がニセモノかを当ててください。

 今度はコインの重さの絶対値もわかっているし、秤も重さの絶対値がわかるものを使います。 この問題では、ニセモノの袋は1つもないかもしれないし、10袋全部がニセモノかもしれません。ということは、仮に袋に1番から10番まで番号が振ってあるとすると、1).1番は本物か? 2).2番は本物か? ・・・ 10).10番は本物か? という10問の○×問題に答えなければならないということです。 10問の○×問題の解答パターンは2の10乗で1024通りもあります。これをたった1回の計量で決めなさい、という問題です。

 これも有名な問題だと思います。計量した結果のあるグラム数(数値)が、1024通りの解答のうちの1つのパターンを一意に決めているということですから、かなり大きな袋にざくざくとコインが入っている必要があるということになりますし、秤も有効桁数が4桁以上必要ということになります。(笑)

 天秤というのは「つりあう」「右が軽い」「右が重い」の3通りの状態をとることができます。ですから、天秤を1回使えば区別できる状態は3つ、2回使えば3×3で9状態、3回使えば27状態・・・というように、天秤をN回使えば3のN乗の状態を区別することができるということになります。 たとえば243個(3の5乗)のコインの中から1個だけ軽いものをみつけろと言われたら、わずか5回の天秤の比較でそれを見つけ出すことができるのです。

 具体的にどうやったらよいかというと、常にコインを3つのグループに分けて、計量1回ごとにニセモノが入っているグループを特定していくことによって実現できます。これをたとえば馬鹿正直に天秤に一個ずつコインを載せて探していくと、1番と2番、1番と3番、1番と4番…というふうに比べていくと最悪242回の比較が必要ということになりますし、もうちょっと工夫して 1番と2番、3番と4番、5番と6番、…というふうにやっても運が悪いと120回の比較が必要になります。これが5回で済むなんてすばらしいです。(ただし1個ずつ比較する方法は、運がいいと1発でニセモノを見つけるかもしれませんが、3等分の方法ではかならず5回かかります。)

 では、3のべき乗個ではない場合、たとえばコインが17個とかだったとしたら、何回計量したらよいか、またそのときの手順はどうしたらいいでしょうか?

 <おまけのひとこと>
 このあたりの話は、情報理論の基礎やコンピュータのアルゴリズムの話などとも密接に関連していてとても面白いです。コンピュータのプログラムの高速化というのは、たとえばここで述べている242回の比較のかわりに5回の比較で済ませるような方法を考えるというようなことをやっています。ただ、下手に工夫するとその下準備のためにかえって遅くなるということもあります。




10月13日(日) コインの計量問題(その3)

 コインの計量問題の第3回目です。だんだん見慣れないパターンの問題になってきているつもりです。

問題5
 コインが5個あります。そのうち1枚は重さが他より軽いニセモノで、別の1枚は逆に本物より重いニセモノです。残り3個が本物の正しい重さのコインです。天秤ばかりを3回使って重いニセモノと軽いニセモノを見つけてください。

 本物とニセモノの重さの差は、軽いほうと重いほうで同じかもしれませんし、違うかもしれません。


問題6
 コインが81個ありました。この中に1個だけ重さが違うニセモノがあります。天秤ばかりを2回だけ使って、ニセモノが本物より重いか軽いかを当ててください。

 問題6は新しいパターンです。ニセモノはこれ、と特定しなくてもいいですが、ニセモノが重いか軽いかだけを決めてくださいという問題です。

 この問題はコイン81個ですが、一般にコインN個の中に1つだけ重さの違うニセモノがあったとき、それが重いか軽いかを決めるための天秤ばかりを使う回数が2回で可能なのは、Nがどんな数のときでしょうか?

 昨日の問題5で、10袋のコインの袋のうち、1個4グラムの本物のコインだけの袋と、1個3グラムのニセモノのコインだけの袋を1回の台秤による重さの計量で決めなさいという問題を出しました。この問題のバリエーションとして、ニセモノの袋は1袋だけ、ただしニセモノコインの重さは不明のとき、やはり1回の重さの計量だけで、どれがニセモノであるか、またニセモノコイン1個の重さは何グラムかを決めなさいというものもあります。

 <おまけのひとこと>
 先日、「黄身返し卵」という外側が黄身で内側が白身になっているゆで卵の話をご紹介しました。生卵を激しく振るなり、小さな穴を開けて竹串等でつつくなりして黄身を破ればこれが作れるんじゃないかと思って、昨日とりあえず実験してみました。あくまでもゆで卵を作るのが目的で、そのついでの実験です。どうせ食べるのは私ですし。

 結果ですが、シェーカー方式は、さすがに手で激しく振ったくらいでは黄身は破れないようです。比較のため、シェーカー卵2個と普通の卵1個を茹でてみたのですが、シェーカー卵は殻が弱くなっていて、弱火で茹でても至る所にひびが入ってぼろぼろになってしまいました。(もちろん食べる分には平気です。)一緒にゆでた普通の卵は傷ひとつないきれいな普通のゆで卵になりました。今度やるときは卵のおしりに小さな穴をあけて黄身を破ってみます。その段階でよく混ぜるにはどうするのがいいんでしょう? また、茹でるときには外側からゆっくり固めると思うのですが、この穴は何でふさぐのがいいんでしょう?




10月14日(月) コインの計量問題(その4)

 コインの計量問題の第4回目です。またちょっとパターンが違います。 もはやパズルではなくなってきてしまいました。

問題7
 重さの違うコインが8個(8種類)あります。この中から、一番重いコインと一番軽いコインを見つけるには、天秤ばかりを何回使えばいいでしょう?

 まずは8個のコインはすべて重さが異なるとしてください。次に、たまたま同じ重さのものがある場合にはどうなるか考えてみてください。 ちなみに、コイン68個ならばちょうど100回の計量で一番重いコインと一番軽いコインをみつけられます。こんなにたくさんの種類のコインというのはちょっと現実的ではなさそうなので、小石68個ということにしましょう。


問題8
 重さの違うコイン8種類があります。この中から、1番重いコインと2番目に重いコインを見つけるには、天秤ばかりを何回使えばいいでしょう?

 今度は、8種類それぞれは必ず重さが異なるとします。 同じく、小石64個のうち一番重い小石と二番目に重い小石を見つけるには68回の計量が必要です。

 昨日までの問題を出題した後でこの問題を出すというのは少々意地悪かもしれません。(とまあこれがヒントです。)

 実際の上皿天秤は、正確な重さの分銅を使って釣り合わせることによって質量を測定しますが、これら一連の問題で使っている天秤ばかりというのは、両側を比べて「どちらが重いか」だけを知ることができるものとしています。

 コンピュータのアルゴリズムの勉強などをすると、最初のほうに必ず出てくる必須知識として、「ソート」(並べ替え)とか、「探索」とかいうものがあります。 数字がたくさんあって、それを大きい順に並べろ、とか、その中で一番大きいものと一番小さいものを探せ、なんていうのはそれはそれはしょっちゅう出てくる処理です。 (これもヒントかな)

 <おまけのひとこと>
 計量問題シリーズは明日でおしまいにしようと思います。




10月15日(火) コインの計量問題シリーズ最終回

 コインの計量問題の最終回です。

問題9
 見かけの大きさが全く同じ6個のコインがあります。このうち2枚が青、2枚が赤、2枚が黄色の色がつけられています。それぞれの色のペアは見かけ上区別がつきませんが、重いコインと軽いコインがあります。重いほうは色にかかわらず同じ重さ、軽いほうもやっぱり3つとも同じ重さです。 天秤ばかりを2回だけ使って、重いコイン3枚と軽いコイン3枚に分けてください。

 状況説明がいささかわかりにくくてすみません。


問題10
 コインが6個あります。このうち2枚だけが本物で、4枚は本物よりもちょうど0.1グラムだけ軽いニセモノです。今使っている天秤ばかりは精度が悪く、左右の重さの差が0.2グラム以上でないと傾きません。4回計量して、本物2個を選び出してください。

 このあたりの問題は、あまり見たことがない方もいらっしゃるのではないかと思います。


 最後に、おそらくコインの計量問題としては最も有名なこの問題を載せておきます。(問題ゼロ番ということにしました。)

問題0
 コインが12枚あります。そのうち1個だけがニセモノで、本物とは重さが違いますが、本物より重いのか軽いのかはわかりません。計量を3回して、ニセモノをみつけてください。

 これは場合わけが非常に厄介ですが、これが3回の計量でわかってしまうなんてとても面白いです。 今回のコイン計量問題に関して、メールで解答とコメントをいただいたのですが、その中でこの問題に触れられており、さらにご親切に解答に関しては、こちらにありますよ、という情報までいただきました。本当にありがとうございました。 なお、ご紹介いただいたページにも、コインの計量問題がいくつか掲載されていました。

 コインの計量問題のシリーズは今日でおしまいにしますが、解答をきちんと作るのが面倒だなあと思っています。「○番の問題の答がわからなくて気になるから教えてほしい」というご希望がありましたら、メールをいただければその問題に関してヒントと略解をお送りします。ご希望が複数あるようでしたら、きちんと解答ページを作ろうと思います。

 <おまけのひとこと>
 先日の「黄身返し卵」ですが、殻に小さな穴を空けて黄身を破ったら、ポーチドエッグを作る要領で酢を入れて茹でれば(穴が小さければ)中身が出てこないのでは? というアイディアをいただきました。そのうちやってみます。
 そういえば、Fast&Firstというページのお手軽料理実験コーナ!というところで、いろいろ変な(ほめ言葉です)お料理実験をやっていてとても面白いです。

 連休明けは忙しいので、今日はフライング更新です。



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