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田園、山、海そして終着駅へ 第2回

(12年6月の旅)

明日萌駅の別名?を持っている恵比島

田園から原生林の山の中へ

 真布を過ぎると田園風景からは徐々に別れを告げ、だんだんと里山へ入っていく。その入り口にあたる駅が恵比島である。こちらは木製のやや新しい駅舎があるのだが、駅舎に掛かっている看板には「明日萌駅」と記されている。知らない人が見ると「どっちが正しい駅名なんだ?」と首を傾げるだろう。実はこの駅は、NHK連続テレビ小説「すずらん」の舞台になったのである。その時の架空の駅名が明日萌だったのだ。番組を見ていないのでどういう話かは知らないが、漫画で事前情報を持っていたのですんなりと理解することができた。ロケのためにつくった駅舎をそのまま残して使っているというのだから、テレビの効果は絶大である。周囲も里山のなかにあって雰囲気はなかなかいい。

 ここからはひたすら原生林のなかを突っ走っていく。いよいよサミットを迎えようといったところであるが、とくに極端な峠越えという感じではなく、少しずつ山間をのぼっている。それでも原生林はどんどんと深くなり、鉄道がなければ人跡未踏の場所が続いていくことになる。トンネルも2ヵ所ほどあり、まさしく山越えの路線といったところ。駅間ももっとも長くなっている。サミットを越えて少し下ったところにあるのが峠下駅。左側の車窓からは民家の姿は見られず、山深い無人駅といった印象である。駅舎には人がいたので、山の中でも乗降客があるんだなあと思っていたのだが、その人たちは列車が来てもおかまいなしのようすだった。よく見ると駅舎の先にはトラックが停車しており、単にドライバーが駅舎内で休憩を取っていただけであった。ちなみにこの峠下駅は、深川―留萌で唯一の列車交換施設を残している。無人駅だけに、実際に施設を運用しているかどうかは定かではない。

 深い山の真っただ中は過ぎたが、しばらくの間、里山や原生林のなかを走っていく。峠下の次は幌糠となっているが、つい6年ほど前までは東幌糠という駅があった。これは事前情報を持っていなかったので、駅の跡を探すことすらできなかったのは残念だった。帰ってから調べてみると、やはり仮乗降場から格上げとなった駅のようで、一日2往復しか列車が停車しないという列車で訪れるのが極めて困難というところだった。駅が廃止になったのは、宗谷本線の南下沼や札沼線の中徳富などと同じころで、板敷きのホームのみの駅だったため、今は跡形もなくなっているとのことだ。廃駅は仕方ないにしても、せめてかつて駅があったことをしのばせるような看板の一本ぐらい立ててあってもいいのではないかと、鉄道好きの私は勝手に思う。

 幌糠駅は里山のなかでも比較的民家の多いところにある。この幌糠集落から高規格道路の深川留萌自動車道がスタートしている。今は全線開通していないせいか、深川西までは無料で通行することができる。幌糠から先も留萌に向かって工事が刻々と進んでいるように見受けられた。いずれ開通するのだろうが、果たしてどのくらいの交通量が見込めるかはいささか疑問ではある。インフラ整備のためにはやむを得ない投資なのだろうが、この道路の開通が留萌本線の首を絞めてしまうことを危惧せずにはいられない。

 列車は同じような里山と原生林のなかを行く。途中で留萌川と何度も交差する。北海道の川は形成年代が比較的新しいため、河原がないものが多く、留萌川もそんな感じに見受けられた。そして、幌糠を出たあとの藤山駅、大和田駅はそろって里山の田舎にある小さな無人駅で、周辺の雰囲気はよさそうであった。大和田駅の駅舎は北海道ではよく見かける貨物列車車両を使ったものだった。大和田駅を過ぎると次は留萌。港町のはずなのになかなか海に近づいているとの実感がない。それでもだんだん里山から都市部へと入っていくにつれて周囲が開けてくるようになり、まちのなかを走っているなあと思っていたところで、留萌到着の車内アナウンスが流れた。ここまで約1時間の列車旅で、距離としては留萌本線の三分の二ほど終えたことになるが、気分的には留萌駅でちょうど半分という感じでもある。
 

(つづく)
日本海そして終着駅へ