サンクトペテルブルク(1)

                         2005/06/21&22  (2010/03/09作成)


 この本のなかで、「世界で一番古いカーペット」と称して紹介されていたThe Pazyryk Rugがエルミタージュにあるのです。

 最近ではRugと称して平織りの布地もラグと呼ぶようですが、元来は「ラグ」と呼ばれるカーペットは布地に毛糸を差し込み、ノット(結び目)を作ったものを指します。

 だから、ロシアのS.R.ルーデンコ氏が1947年、アルタイ山脈のスキタイ人貴族の墓から掘り出したパジリク・ラグも立派にターキッシュ・ノットで作られているのです。そして、紀元前5世紀に作られたと考証されたこのカーペットが、世界でもっとも古いカーペットであり、カーペット好きには堪えられない珍品なのです。

 このWest Wingには、普通の観光客が訪れることの出来ない特別室があります。前にご紹介したGold Roomがそれです。事前に許可をとらないと入室できないのですが、The Pazyryk Rugなどを見物して回っていると、博物館のなかでの有名人になりますから、担当部長に頼んで入室させてもらうのです。最近はダイヤモンド室というのも出来たそうですよ。あれやこれや、実にエルミタージュという美術館は見応えがありますね。

 では皆様ご機嫌よう。

 では、このパジリク・ラグはエルミタージュのどこにあるのでしょうか。

 通常の観光客が観光目的で入る美術館は中央入口を入って右側、すなわち東側の建物なのですが、パジリク・ラグは反対の左側、West Wingにあるのです。West Wingは暗いし、いろいろの蒐集品が雑然と置いてありますから、探すのが大変。まず一人で探し当てるのは無理ですから、館員(ほとんどいないのですが)に頼んで案内して貰うのです。

 電気を点けてもらっても暗い場所なので目を凝らして見物するのです。お隣にカーペットではありませんが、同じくパジリクで発掘された巨大なフェルトの敷物も展示されています。縦が6.5mもある巨大さですが、相当痛んでいます。

 古来、中近東・アジアを含めての定説は、人間はアルタイから湧き出てくるのだそうです。中国の歴史をかじってみたことのある人ならば、中国の歴史は北方民族によって作られてきたことをご理解いただけるでしょう。中央アジアにおいても、人間はアルタイから湧いてくるので、東から西へ流れているのです。ですから、中東のカーペットの文様を研究すると、カーペットの文様は部族の移動によって伝搬することが観察できますし、その民族の流れは東から西にながれていることも観察できるのです。

 古いから技術が貧弱で芸術的では
ないだろう、とお考えになるでしょ
うが、そうではありません。写真を
お見せしましょう。中心の縞模様を
取り巻く帯には大きな角をもつエル
クが精緻に描かれています。外側の
帯には騎乗馬の行列が織り込んであ
ります。美しい鞍掛が観察できます。
打ち込み密度こそ小さいけれども、
年代が古いことも世界一なら、芸術
的な価値も世界一です。

 カーペット商人はパキスタン人ですから、彼等と仲良くなって、週末は必ず、彼等の店でカーペットを鑑賞したのですが、

 あまりに沢山のカーペットやラグを買い付け、あまりに熱心に通うので、リヤド・インターコンチネンタルのカーペット屋の親父が私にカーペットの専門書をプレゼントしてくれました。

Rugs & Carpets of the World,
   edited by Ian Bennett,
   New Burlington Books, 1977

という本でした。

 いまから5年も前の話なのですが、
サンクトペテルブルクとモスクワへ
旅行しました。

 H.I.S.で個人旅行を組んでもらい、
ひとりで旅行しました。妻と娘はす
でに旅行していて、数々のアドバイ
スを貰いました。サンクトペテルブ
ルク
は広いから、足が棒になるまで
歩かされるよ、というアドバイスで
した。

 でも、夏のさかりのロシアはすば
らしく美しかったですね。

画題:”Nero’s death” Vasily Smirnov, 1888, Russian museum, Room 21

画題:“Memory of the Garden at Etten” (Ladies of Arles), Vincent Van Gogh, 1888,         Shchukin collection

 私は、サウジアラビアのリヤドで3年半生活したことがあって、禁酒、禁欲生活を強いられたことがありまして、その退屈な日常をもてあまし、カーペット蒐集を趣味としたことがあるのです。イランは申すに及ばず、インド、パキスタン、コーカサス、トルコ、ありとあらゆる地域からのカーペットがこの金持ち国のサウジアラビアにやって来るのです。

 なにを見にいったのか、と問われれば、エルミタージュを見物しに行った、と月並みな返事をすることになるのでしょうが、実は隠れた目的があったのです。エルミタージュでしか見られない美術品を見に行ったのです。

 なにを見に行ったと思いますか?