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Composition Regeln
作曲の規則

オランダの音楽家スヴェーリンクが著した作曲法の書です。
その大部分がツァルリーノの調和概論を元に書かれています。
ツァルリーノは説明文にかなり力を入れていましたが、
スヴェーリンクは譜例を中心としており、説明は最小限にとどめています。

「作曲の規則」は調和概論1558年版を増補改定した
1573/89年版を主に用いており、その第3部と第4部に基づいています。
特に第3部については、ツァルリーノの譜例の多くが引用されています。

スヴェーリンクは「作曲の規則」を弟子の教育に用いたと思われ、
今日いくつかの写しが残っていますが、その中にはスヴェーリンクの
孫弟子にあたるラインケンやヴェックマンの手によるものがあります。
その教えが北ドイツを中心に広く普及したことをうかがわせます。

「作曲の規則」の内容は、おおむねツァルリーノの教えを踏襲していますが、
変更された箇所や、新たな譜例を加えて拡充された箇所もあります。
ここでは「作曲の規則」の中から以下の3点について紹介したいと思います。


1.フーガの様々な手法について

フーガはツァルリーノ同様に、「自由な」フーガと「束縛された」フーガ、
すなわち今日のフーガに近いものと、カノンとに分けられています。
ただし、ツァルリーノがフーガを模倣に含まれるものとしていたのに対し、
スヴェーリンクはフーガという語を模倣全般を示すものとして用いています。
(Imitation ist eine Manier von Fugen, 模倣はフーガの手法の一つ)

譜例についてはすべてツァルリーノの譜例が引用されています。
その中から「半分フーガで半分模倣」と書かれた例を紹介します。



これは「束縛された」フーガ、すなわちカノンです。

なお、フーガの定義は同度および4・5・8度のでの模倣となっています。


2.2重対位法について

ツァルリーノが挙げた3種類、12度・10度及び転回が述べられています。
後の音楽家が言及している8度の2重対位法は、ここには見られません。
以下に、ツァルリーノによる3つのカノンの譜例を紹介したいと思います。
これらは調和概論の1573年以降の版にしか見られないものです。

1つ目は転回対位法による反行カノンです。
3度の反行カノンが、のちに上下転回されています。





上2段が原形、下2段が転回形です。

2つ目は12度の2重対位法によるカノンです。





上2段が原形、下2段が12度の2重対位法による転回形です。
すなわち上2段は5度、下2段は8度のカノンになっています。

3つ目は10度の2重対位法によるカノンです。ここでは、
一方の旋律を3度で重複させて3声にすることも紹介されています。





上2段が原形、下2段が10度の2重対法による転回形です。
転回形には一方の旋律に3度の重複も付け加えられています。

以上のように、ここには「フーガの技法」のカノンに見られる
対位法的要素の多くが、同じカノンによって紹介されているのです。


3.様々なカノン

上に紹介したもの以外にも、ツァルリーノによるカノンが引用されています。
これらは、対位法による作曲の模範として紹介されたものです。
とりわけ規模が大きいのが、聖歌を定旋律とした8つの3声カノンです。
いわばカノン風変奏曲で、聖歌"Veni Creator Spiritus"に基づいています。
この曲も調和概論の1573年以降の版にしか見られないものです。

こちらのBGMはその8つのカノンです。

以下にその第1曲(同度のカノン)と第5曲(5度のカノン)を紹介します。


第1曲です。上2段がカノン、下1段が定旋律です。


第5曲です。上1段が定旋律、下2段がカノンです。

「作曲の規則」には、ツァルリーノによる譜例以外の作品も散見されます。
教程の最後には、コラール旋律に基づく2つのカノンがあります。
2つのうち一方には、ブル博士作(Doctor Bull fecit.)と書かれており、
イギリスの音楽家ブル(Bull,J. 1562/63-1628)の作であると思われます。
この2つのカノンは、どちらもルター派のコラール
"Wenn wir in hoechsten noeten sein"に基づいています。



「ブル博士」によるコラール旋律下のカノン。
上1段がコラール旋律、下2段が反行2重カノンです。

何という偶然か、「フーガの技法」初版の最後に加えられた
あのコラール編曲と同じ旋律に基づいた曲が、
「作曲の規則」の最後にも紹介されているのです。

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