これを個別に説明すると、


(a)
 通常の人間のタイプ

   神秘体験Aの経験も神秘体験Bの経験も持ち合わせていない、
  通常の人間のタイプであるから、人口比で99%の人がこのタイプ
  に属する。
   心は常にグラグラしているが、それでいてちっとも痛痒を感じ
    ないし、不都合も感じない。自然人と渾名をつけることができる
    かもしれない。

(b) A only タイプ

   神秘体験Aのみの経験を持ち合わせているタイプ。
   谷口雅春タイプ。哲学者といわれる人種に多い。西田幾多郎、
    プラトン、プロティノス、デカルト、カント、ヘーゲル等々。宗
    教関係ではアウグスティヌス他。
   なにかといえば、生命、光、絶対、唯一という「かたくな」な
    言葉を好んで使う。

(c)
 B only タイプ

   神秘体験Bのみの経験を持ち合わせているタイプ。
   日本人には該当者がいないから、日本人にはこのタイプの人間
    に対する理解が決定的に欠けている。
   西洋ではルターが典型的であるが、カルヴァンも同様の経験を
    有する。
   現れる神は、「死神」だけであり、逃げ道は絶対にない、と主
    張する。したがって、人間は永遠に奴隷状態となる。神の前です
  べてを捨てて祈ることしか残されていない、と信じる。

(d) A after B タイプ

   神秘体験Bを経験した後、神秘体験Aに到達したタイプ。
     出口ナオ。ひょっとすると西田幾多郎もこのタイプかもしれな
    い。
   西洋では、イグナチオ・デ・ロヨラが典型的。
   考える余地のない狂信家となる。信じる内容は(b)に同じ。

(e)
 B after A タイプ

   神秘体験Aを経験した後、神秘体験Bに到達したタイプ。
     正受老人、白隠など、日本の宗教界には数多い。
   西洋では、アヴィラのテレサ。西洋ではこのタイプの概念が確
    立していないので、西洋人には理解が難しい。新約聖書が足枷に
    なっているようだ。

   結果としてアヴィラのテレサのように、「怖いものなし」の自
    由な境地を確立してしまう。



 彼らは、この五つのタイプのいずれをも、それはもっともである
と認める。人間は彼の受けた体験で、たったそれだけで、評価判断
を決定する傾向があるので、わけても魂のすべてを巻き込む特殊体
験があった場合、その特殊体験にもとづいて判断を下すのは当然の
ことなのである。

体験の履歴によるカテゴライゼーション

 話は変わるが、神秘体験の数は一つではなく、
二つなのだという仮説に立脚する人たちは、唯
心論者あるいは、合理論者と称せられる人たち
が主張する「かたくな」な理論を超えて、「や
わらか」な理論を提示できる権利をもっている。


 彼らは人間の提示する人間に関する理論を、
人間が受けた内的経験の履歴によってカテゴラ
イズして、そのどれもがまことにもっともであ
る、と同意するのである。彼らは彼ら独自の人
間性の哲学理論を持たない。彼らが主張するの
は、いままで述べた人間の心の構造と働きかた
だけである。


 では、彼らが主張する「体験の履歴によりカ
テゴライズされた理論」とは何か、聞いてみる
こととしよう。

 彼らは次のように説明する。


 人間の思想は、おおまかに言って、
5タイプにわかれる。それは人間の精神が受けた内的体験の履歴によって決定する。


 量子力学モデルによってこれを図示すると、


画題:東洲斎写楽
       『四代目岩井半四郎の
             乳人(めのと)重の井』
       寛政6年(1794)
    大判錦絵
      ドレスデン国立版画館、
       Staatliche Kunstsammlungen Dresden,
       Kupferstich-Kabinett
       平山郁夫
       『秘蔵日本美術大観十二 
       ヨーロッパ蒐蔵日本美術選』
       講談社 1994

    江戸河原崎座上演の
        「恋女房染分手綱」の六立目。
      片はずしに打掛姿という
      御殿女中特有の格好の半四郎が
      守り袋を持っている。

    「お前の子に違いない、
           証拠と云うはこの守り。……」

    ……見れば見るほど我が子の与之助、
      守り袋も覚えあり、飛びついて懐へ、
      抱き入れたく気はせけども、
      いいや大事のご奉公……

    というくだりである。(浅野秀剛)

    印象派の画家たちは、
    「守り袋というこの証拠」を
    理解していたわけではない。
    写楽が使う人間描写の
    構造パターンに魅せられたのである。