法隆寺金堂の広目天像
 
   − 裁 文 と 截 金

 作り方はこうだ。

 まず、ガラス製円盤の上に金箔を糊で貼り付ける。この金箔
を刻んで模様を作る。この写真の場合は、ソロモン王がイスラ
エルの神殿に飾っていたという
menorah。七つの枝がついたシ
ャンデリアの模様である。ちょうど
4世紀のころに、ユダヤの
象徴としての
menorah(メノラー)の模様が定着したのである。

 こうして模様を刻んだのちに、金箔の上にガラスの泡を吹き
つけて薄いガラス層を作った。つまり、金箔はガラスの二枚の
板のあいだにサンドイッチされた。

 ‘The Israel Museum’によれば、ローマのカタコームで発見さ
れるこのようなガラスのコースターは何百個もあって、たいて
いはキリスト教の画題が使用されている。このようにユダヤマ
ークのものは数が限られていて、僅かに
1ダースほどなのだと
いう。

 ‘The Metropolitan Museum of Art’をめくると、キリスト教モテ
ィーフのコースターが一例だけ紹介されている。次である。

画像:

Roundel showing Peter and Paul crowned by Christ.
Probably from Rome, c.350
Gold-glass, diam 35/8in.
‘The Metropolitan Museum of Art’
By Howard Hibbard
Harrison House 1986
P97
キリストによって戴冠されるペトロとパウロ
墓に埋め込まれたときのセメントの残りが付着している。

画像:
Glassbase
Gold-glass Bases
Roman Catacombs(?)
4th century CE
Diameter 10, 11.7cm (4, 41/2in)
‘The Israel Museum
The Vendome Press, New York
1995

広目天像に残された裁文と截金

画像:裁文

裳(も)(注:令制の男子の礼服(らいふく)で、表(うえの)
袴(はかま)の上に着用したもの)に橙で縦長の四菱繋ぎ文を描
き、各小菱の中心に菱形の截箔を置いて文様を象っている。

着衣の衣文や縁どりに細い截金

頭光の円圏に金箔が曲線で置かれている。

四天王像は七世紀中頃の制作

この頃にはすでに金を薄く打ち延ばして金箔を作る工人や金箔を
截り、透し、押すなど截箔、裁文、截金を自由に使用することの
できる工人がいたとみてよい。

『日本の美術』6 有賀祥隆 至文堂 1997

画像:

法隆寺

広目天像

 この写真を筆者は‘The Israel Museum’と題する美術館の写真集のなかで見つけた。

 ローマのカタコームの中から発見された4世紀に製造されたガラス製のコースターである。

 話は変わるが、西洋での裁文、截金の実例はないものだろうか。

画像:截金
縦長に細く裁断した
金箔をスカートの
襞に貼り付けてある。