Villeneuve-les-Avignon(ヴィルヌーヴ レザヴィニョン)というのは、
Avignon(アヴィニョン)からローヌ川を渡った北北西2kmのところにあ
る小さな村。その名の示すとおり、「アヴィニョンの新しい村」である。
アヴィニョンの新しい村で創作されたこの傑作は、現在はルーブルの
初期フランス絵画室に収められている。
この絵は、初期フランス絵画の最高傑作であるとされている。
私の考えでは、この絵こそルーブルの最高傑作である、と思う。「モ
ナリザ」は精神性の深さにおいて、この絵の足元にもちかよれない。
ご承知のようにルネサンスの頃、フランスは、文化が花と開いたイタ
リアとオランダとの間に挟まれて、文化の谷間であった。14世紀に法王
庁が一時的にAvignonに引越しした影響もあり、15世紀の中頃になって初
めてAvignonに絵画の天才が現われた。それがアンゲラン・カルトンであ
る。彼がフランス絵画を創始したと言っても過言ではない。
十字架から降ろされたキリストの身体は母親マリアの膝の上で弓なり
に反り返っている。右手が床に向ってだらりと下がっている。右胸にロ
ーマ兵の槍で刺された傷跡があり、流れ出した血が干からびている。
この日の昼三時に、十字架上で最後の力を振り絞ってキリストは叫ん
だ。「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ」(「わが~、わが~、なぜ
わたしをお見捨てになったのですか」)(マルコ 15-34)
彼の短い一生は抵抗の連続であった。彼は旧約聖書に描かれる「恐る
べき~」の絶対性を拒否した。ユダヤ人の世界を拒否した。また、明る
いギリシャ哲学を継承したローマ人の主張する絶対性をも拒否した。彼
はそれらの二つの相反する概念を並立的に認めたうえで、実質的妥協点
としての「愛」の精神を提示した。結果としてキリストは、対立する両
派からの挟撃に会い、人間の痛みを一身に引き受けることとなった。
この深い精神性を表現するために、アンゲラン・カルトンは背景に金
箔を用いた。
カンバスは木材であったから、砥粉と膠を混ぜ合わせ、温めて薄く木
材の上で展ばし、金箔を置き、そして温かいうちにエンボスを施した。
すなわち、人間は深い精神性を表現するときに金箔を用いるのである。
画像:
Enguerrand Quarton
"The Villeneuve-les-Avignon
Pieta" circa1455(?)
Michel
Laclotte
"The
Louvre, European Paintings" 1989
Scala Publications Ltd.