この図の示すところは、

1.  人間の精神は「波」である。それは物理学の世界で、光が波であり、
   物質も極微構造を調査すれば、「波」であることが証明されているよ
   うなものである。

2.   この波が内なるエネルギー状態を吸収したまま、(+)基底状態と、
   
()基底状態の中間を浮動している。

3.   内なるエネルギーの値が大きくなって、基底状態の値を越えて励起
   状態のエネルギー値に到達してしまったときに、「波」はその構造を
   変えて(波長が短くなり)、
(+)あるいは()の励起状態に一時的に
   遷移する。

4.   このとき、(+)励起状態に飛びあがるのか、()励起状態に下がる
   のかは、本人の意向とは関係なく、本人の資質とか、その際の健康状
   態に依存するようである。

5.    短時間だが励起状態に滞留する間に本人の受けるイメージは、非常
   に強烈な、本人の全身全霊を表現する類のもので、それが
(+)の場合
   は、生命が現出し、極度の喜悦感を伴うが、逆に
()の場合は、死が
   現出し、極度の恐怖感に襲われる。それが生命であろうが、死であろ
   うが、人間の精神の本質を教えてくれる類のものである。

6.   それが(+)励起状態の場合には、喜悦感を伴っているものだから、
   本人はこれを「神からの賜りもの」あるいは「神の啓示」として至極
   当然に受け止めるのだが、
()励起状態に陥った人は、極度の恐怖に
   震えながらも、これが「神の啓示」であるとはストレートに受け止め
   ることができない。だから、理由がわからず、時間をかけてその恐怖
   の記憶を癒すこととなる。

7.  まれなことだが、ムハンマドあるいはルターのように、思考と経験
   を重ねた上で、これを「神の啓示」であり、「神の恩寵」と断定し、
   
()の励起状態を(神の)奴隷としての私と定義して自得する場合が
   ある。価値の転換を行うのである。

8.      ()の励起状態を受け自得に至らない場合は、無駄に理由を考え続
   け、体力を消耗し、衰弱の結果自殺にいたる場合が多い。芥川龍之介
   はこのケースである。

「心理操作」を取り外す



(+)励起状態


(+)基底状態





(-)基底状態


(-)励起状態


通常我々が、祈り崇めるのは、イエス・キリストであり、ルターであり、
ムハンマドであり、釈迦であるが、これらの偉大な人物はいずれも
(+)励起
状態と
()励起状態のいずれかあるいは双方に立脚したものである。が、
ジェイムズは、これらの人物を理解することができず、「救い」を新興宗
教と薬物にもとめた。

新興宗教というのは、前節でも述べたがが、(+)()の基底状態の間に
ある人間の、ぐらぐらと動く精神を
manipulateして(人工的に操作して)
期待値を得ようという精神操作行動である。

例えば、「折伏(しゃくぶく)」という心理操作がこれに該当する。


だから、『宗教的経験の諸相』を読む場合は、一旦このmanipulation(
理操作
)の部分を一切取り外し、正統的な宗教の核である(+)励起状態(以
下、
Aと称する)ならびに()の励起状態(以下、Bと称す)のみを取り出
して調べ上げ、ジェイムズの精神状況を確定することから始めなければな
らない。

ジェイムズは8.のケースに該当する。

従って、この「絶望的な境地から救われ
る」方法を必死になって探索したのであ
る。

この結果、彼は宗教と称せられるもの
の、あらゆるパターンを膨大な事例を収
集して分析した。その検査報告書がこの
『宗教的経験の諸相』になった。

筆者はすでに「カテゴライゼーション」の節で人間の精神構造を次の図
を利用して説明した。

さて、以上に述べたように、ウ
イリアムジェイムズは
B2 onlyのタ
イプの人間であり、しかも自らが

B2 onlyであることについての自己
認識の欠けた、(現代的なものの
言い方をすれば)主体性の欠けた、
実態としては、「ひたすらに絶望
的な境地から逃れるべく救いを求
める」
B2タイプとなってしまった
のであるから、彼の宗教観には宗
教哲学は存在せず、「如何にした
ら救いが得られ、平穏で安全な境
地に到達できるか」、言葉を換え
ると、「
B経験を打ち消してしまえ
るような至上の幸福感を与えてく
れる」宗教を求めることになるわ
けである。

取り外すべき個所は次のとおりである。

第四・五講 「健全な心の宗教」のうち
「精神治療運動」(
P144からP194まで)
第八講 「分裂した自己とその統合の過
程」のすべて

第九・十講 「回心」のすべて
第十一・十二・十三講 「聖徳」のすべ

第十四・十五講 「聖徳の価値」のすべ

第十六・十七講 「神秘主義」のうち薬
物利用のすべて


これらを取り除くと、全体像がすっきりと見
えてくる。

取り外した部分についての分析はあとで改め
て行うことにして、まず、通常宗教学で正常
な神秘主義のコアと認められている
Aの分析か
らはじめよう。