さて、今回『宗教的経験の諸相』から引用した次の例

              スイス人の手記  
              J. トレヴォーアの自叙伝
              R.M.バック博士 

についても念のために照合しておこう。


1. 内的エネルギーの高密度の蓄積状態

(スイス人)               完全な健康状態で徒歩旅行、わたしの状態は平衡状態
(トレヴォーア)         新しい霊感と私の生命の拡大とを必要だと感じていた。
(バック)                  私の心は、観念や心像や感情に深く影響されて、

2. 魂の突然の跳躍

(スイス人)               そのとき突然、持ち上げられるような感じ、神の現前
(トレヴォーア)         突然、なんの前触れもなしに、自分が天国に。
(バック)                  突然、前触れなしに、火炎のような色をした雲に包まれて、

3. 諸能力の停止状態の下で見る光

(スイス人)               神の善と神の力とが滲みとおる
(トレヴォーア)          温かい光を浴びているという感じ。
(バック)                  火事だと思った。火事は私の心のなかにあった。

4. 通常の精神状態にもどるときに湧き上がる喜悦の感情

(スイス人)                わたしの眼からは涙が溢れおちた
(トレヴォーア)           筆紙に尽くしがたいほどの強度の、心の平安と歓びと確信
(バック)                  そのすぐ後に、狂喜の感じ、無限の歓びの感じ

5. 従前の状態

(スイス人)                四、五分のあいだ、泣きつづけた。法悦の状態は去った。
(トレヴォーア)           深い感動はその強さがだんだん弱まり、しばらくして消え
                       て行った。

(バック)                  数秒つづいて消え去った。記憶は四半世紀の間、消えていない。


このようにスイス人、トレヴォーア、バック博士の三人についても、精神構造モデ
ルのパターンにあてはまることがわかる。

A  の  記  述  例

筆者が引用したA体験については、すでに分析を終えて
おり、結論は次の通り「
人間の心の波動現象」の項で
りまとめてある。

1. 内的エネルギーの高密度の蓄積状態

2. 魂の突然の跳躍

3. 諸能力の停止状態の下で見る光

4. 通常の精神状態にもどるときに湧き上がる喜悦の感情

5. 従前の状態

さらに、Aに関して図のように、精神構造モデル(内的
精神エネルギーレベルの時間的推移)を作成し、その際生
じる現象のイメージをご理解していただけるように配慮し
た。

また、これらのA体験については、ジェ
ムズが第十六・十七講のなかで「神秘
主義」あるいは「神秘的」という語(こ
とば)をあらわす四つの標識に合致して
いることもご了解願えるのではないか、
と考える。

ジェイムズの提出する4条件とは、次で
ある。(下 
P183

  1. 言い表わしようがないということ。
  2. 認識的性質
  3. 暫時性
  4. 受動性

さて、神秘体験Aについては、筆者の記述した例

玉城康四郎のA体験
林武の一回目の体験
林武の二回目の体験
テレサの神秘体験A
白隠の神秘体験A
谷口雅春の神秘体験A

アウグスティヌスの神秘体験A
上村松篁の道徳的なる神秘体験
ゲーテの神秘体験
朋子の神秘体験A
ハムレットの神秘体験A

により、Aの実態を充分にご理解願えると考えている。

本稿は神秘体験Aの記述例について
調べるものだが、『宗教的経験の諸
相』に引き合いに出されている
Aの例
はきわめて少ない。

  先に

1. スイス人の手記 
『宗教的経験の諸相』上 
P105
2. J. トレヴォーアの自叙伝 
『宗教的経験の諸相』下 
P210
3. R.M.バック博士 
『宗教的経験の諸相』下 
P212

を典型的な三例として挙げたが、この
ほかには、ジェイムズが主眼とする
「根源的な経験」はほとんど記載され
ていない。

光明現象(フォーティズム)の項にA経験と見られる短い報告書がふく
まれている。この現象はジェイムズが考えているような「回心」ではな
く、典型的な
Aである。

4. 聖者ブレイナード 『宗教的経験の諸相』上 P322
5. スターバックの収集例 『宗教的経験の諸相』上 P381


さらに、無理に引っ張り出すとすれば、経験談ではないが「客観的な記
述」として

6. WR・イング博士の記述 『宗教的経験の諸相』下 P28
7. 聖女テレサの記述 『宗教的経験の諸相』下 P228/232
8. 聖イグナティウスの記述 『宗教的経験の諸相』下 P230
9. ヤコブ・ベーメの記述 『宗教的経験の諸相』下 P230

4例が挙げられる。全体的に数としてはきわめて少ない。各人の記述を
に抜き書きしたので参照願いたい。