この現象の意味するところは、電子が粒子ではなく、波長と
振動数をもつ波の性格をもっているからなのだという。
和田純夫『量子力学が語る世界像』(講談社、1994)より、波の構造ならびに基底状態と励起状態の波の構造についての概念図を借用することにしよう。
原子のなかの電子は、じつは小さな米粒のような固体ではなくて、雲のようにひろがった存在であり、その雲は常に振動している。
振動体の一例は上図のような「ひも」の振動であるが、一定の場所で上下に振動する波を定常波と呼ぶ。この定常波は、波の振動数が増えると(振動エネルギーが増加すると)a.の状態からb.ないしc.の状態に変化し、波長が短くなる。
この「ひも」の振動の定常波で示されるとおり、電子のエネルギーにはこれ以上減少できない限界があり、また電子のエネルギーは段階的にしか増加できない性格があって、エネルギーの増加はつねに「飛躍」的である。これを量子飛躍と称する、と和田純夫は言う。
画題:Doppelgefass in Formzweier Schweinchen,
Assur, 8./7. Jahrhundert v. Chr.
Pergamon- und Bodemuseum, Berlin
海に住む魚は、
波を表象するのか?
では、現実に水素原子のなかの電子はどのような振動を起こしているのであろうか。彼は下図のとおりだと模型図を示す。
波の構造から考えて(a)より小さい波は考えられないので、この状態が基底状態であると考えられ、二番目に考えられる波の状態 (b)が励起状態であると考えられる。
水素原子の場合、エネルギーを与えると、電子は(a)の状態から(b)の状態に変化するが、短時間でもとの(a)状態にもどる。
和田純夫の説明を聞いてみよう。
この性質がまさに、原子中の電子のエネルギーの特徴を表していることはすぐわかる。まず原子中では、電子のエネルギーに、これ以上減少できないという限度がある。これは山(あるいは谷)が一つだけの振動に対応する。さらに原子では、電子のもちうるエネルギーが不連続的、つまり段階的に増えていく(量子飛躍)。これが、山や谷が一つずつ増えていくという、定常波の分類に対応するのである。
(和田純夫『量子力学が語る世界像』講談社 1994)