パターンあやとりの世界


第3章:三本指パターンあやとりにおける様々な装飾処理・終了処理

2.親指と小指を取り合う処理 [終了処理]

 「親指と小指を取り合う処理」について少し詳しく調べてみることにします。前のページで新しく導入した用語でいうと、「親指と小指でそれぞれの内側の糸を取り合う」操作です。

 最初に、「人差し指の構え」から親指と小指でそれぞれの内側の糸を取り合って、人差し指を外してみましょう。

人差し指の構え 「易しいゴム」
親指と小指で内側の糸を取り合って人差し指を外す

 人差し指にかかっていた糸は反対の手の掌まで戻っていってしまいました。(これを「易しいゴム」という場合があります。親指と小指をすぼめたり広げたりするのに伴って両手を左右に放したり近づけたりすると、あたかもゴムのように伸び縮みしているように見えるためです。)終了処理というのは、図形中央のパターンを保持することが目的ですから、これではダメです。

 人差し指を外しても輪が戻っていかないようにするために、親指と小指を取り合うときに人差し指の輪の中から取る、という操作をします。

Fig.3-21a:「人差し指の構え」
右手の甲の側から見た図
Fig.3-21b:人差し指の向こうの糸を持ち上げて、
人差し指の輪の中に通路をつくる

 この通路を通して親指と小指を取り合ってみます。こうなりました。 (取り方の表記は従来の表記です)

Fig.3-23a:人差し指の構えから親指・小指を人差し指の輪の中から取り合う
  1. 人差し指の構え
  2. 親指を人差し指の輪に上から入れ、小指の手前の糸を取る
  3. 小指を人差し指の輪に下から入れ、親指の向こうの糸を取る
  4. 人差し指を外す

 これはすでに立派な終了処理です。全体が外側の4本の指の長方形にぴったりおさまりました。上下に大きな"X"の文字ができています。


 次に、親指・小指を取り合う前に輪をひねる効果について調べてみます。以下、親指と小指の2本の指を「外側の指」、人差し指を「内側の指」と呼びます。

 最初に外側の指だけひねってみましょう。向こうへ1回転ひねりました。

Fig.3-23b:外側の指だけ1回転ひねる
  1. 人差し指の構え
  2. 親指と小指を向こうへ1回転ひねる
  3. 親指を人差し指の輪に上から入れ、小指の手前の糸を取る
  4. 小指を人差し指の輪に下から入れ、親指の向こうの糸を取る
  5. 人差し指を外す

 「7つのダイヤモンド」と同じパターンができました。"X"の文字に注目すると、上下に2段3つずつ、全部で6つあります。(「10人の男」という有名なあやとりがありますが、それにちなんで呼べば「6人の男」と言ってもいいかもしれません。)

 指をひねる向きを全部反対にしてみると、「ハワイの星」のようなパターンができます。ひねる方向や本数を変えてみると楽しいです。


 さらに、内側の糸も含めて両手の3本の指をすべて向こうへひねってみましょう。これはハワイの伝承あやとり作品の「焼け焦げた葉のククイ」そのものです。

Fig.3-23c:「焼け焦げた葉のククイ」
  1. 人差し指の構え
  2. 親指と人差し指と小指を向こうへ1回転ひねる
  3. 親指を人差し指の輪に上から入れ、小指の手前の糸を取る
  4. 小指を人差し指の輪に下から入れ、親指の向こうの糸を取る
  5. 人差し指を外す

 「人差し指の構え」では「内側の指だけひねる」パターンはあまり面白くないので写真は載せませんが、一般に、親指・小指を取り合う処理においては

 の4通りの選択肢があり、さらにひねる方向をかえるとパターンが変わるものもあります。第2章でご紹介した様々な開始処理・継続処理を行った後で、これら4通りの終了処理を行ってみると、いろいろ違いが現れて面白いのです。

 第2章でご紹介したダブルハートの処理に対して、上記の4通りの終了処理を適用してみました。

Fig.3-24a:「ダブルハート」(ひねりなし)
→ 親指・小指を取り合う処理
Fig.3-24b:「ダブルハート」→ 外側だけひねる
→ 親指・小指を取り合う処理
Fig.3-24c:「ダブルハート」→ 内側だけひねる
→ 親指・小指を取り合う処理
Fig.3-24d:「ダブルハート」→ 全てひねる
→ 親指・小指を取り合う処理

 いかがでしょうか。パターンあやとりらしくなってきました。私はこの中では特に「内側だけひねる」パターンがお気に入りです。これらを一通り取ってみることで、「ダブルハートの処理」を4回、「親指・小指を取り合う終了処理」を4回、実行していますから、自然と手順を覚えてゆきます。

 これらのあやとりを取るには、少し長めの糸があったほうがいいです。また、最後に人差し指を外すのですが、中央の糸がギュッとちいさく絡まってしまって人差し指の輪の糸だけが無駄に余っているという状態になりがちです。外側の指で四方をしっかり保持したうえで、余っている内側の3本の指で中央のからまった部分を丁寧にほぐしてやるとパターンが現れてきます。この操作は自分のおなかとか胸とかに押し当てて行うとやりやすいと思います。


 親指・小指を取り合う終了処理を行うと、親指と小指には2本の輪がかかった状態になります。この2本を利用して、両手の掌の近くにさらに図形を作ることができます。この処理はナウルの終了処理と呼ばれるようです。(すみませんちょっと自信がありません。)

Fig.3-25:ナウルの終了処理
  • 小指側:逆ナバホ取り
    1. 小指の下の輪を、逆の手を使って小指の上の輪の中から引き出して小指から外す
    2. 引き出した輪を逆の手で持ったまま、小指の上の輪も外す
    3. 持っていた輪だけを元の小指にかけ直す

  • 親指側:二重ナバホ取り
    1. 親指の下の輪を、逆の手を使って親指の上の輪を乗り越えて新たに上の輪にする
    2. 新しい下の輪(最初の上の輪)を、新しい上の輪(最初の下の輪)を乗り越えて外す(=ナバホ取り)
  •  小指側は、第2章6節でご紹介した 逆ナバホ取りします。親指側はいったん下の輪を上の輪にしてからナバホ取りする、という二重ナバホ取りをします。

     人差し指の構えに対して、「ひねりなし」「外側だけひねる」「すべてひねる」の3つの場合に対して、この「ナウルの終了処理」を施す前と後を比べた写真をご紹介します。

    Fig.3-23a:ひねりなし Fig.3-26a:ひねりなし → ナウルの終了処理
    Fig.3-23b:外側だけひねる Fig.3-26b:外側だけひねる → ナウルの終了処理
    Fig.3-23c:全部ひねる Fig.3-26c:「小さいアムワンギヨ」
    全部ひねる → ナウルの終了処理

     最後の「全部ひねってナウルの終了処理まで施したもの」は、ナウルの伝承あやとり作品の「小さいアムワンギヨ」そのものです。


     伝承あやとり作品では「焼け焦げた葉のククイ」や「小さいアムワンギヨ」と呼ばれる作品で用いられている終了処理は非常に有用で、様々な三本指パターンに適用することができます。このときに指をひねったりひねらなかったり、「ナウルの終了処理」までやったりやらなかったりという組み合わせで、様々な異なるパターンをつくることができるのです。

    Fig.3-27:ナウルの太陽→小さいアムワンギヨ
    1. ナウルの太陽
    2. 全ての指をを向こうへ1回転ひねる
    3. 親指を人差し指の輪に上から入れ、小指の手前の糸を取る
    4. 小指を人差し指の輪に下から入れ、親指の向こうの糸を取る
    5. 人差し指を外す
    6. ナウルの終了処理

     第二章でご紹介した様々な開始処理・継続処理を、この節でご紹介した終了処理と組み合わせてみてください。これだけでも100種類を超えるパターンを作ってみることができると思います。ぜひお試しください。

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    2021.05.05
    長谷川 浩(あそびをせんとや)


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