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以前の「ひとこと」 : 2002年11月前半




11月1日(金) fortune(その2)他

 昨日に続いてfortuneからの引用を2つばかり。これは以前流行したマーフィーの法則のようなものです。

One way to make your old car run better is to look up the price of a new model.

 君の古い車が調子よく走るようにするためには、ニューモデルの価格表を見るという方法がある。

One way to stop a runaway horse is to bet on him.

 逃げ出した馬を止めるには ─── その馬に賭けるといい。

 先日、コンピュータ科学者のクヌース(Knuth)の話をしましたが、ちょっとWebで検索をかけてみると、いくつか面白いページが見つかりました。ちえの和Webページというところのコンピュータ偉人伝。ここのドナルド・クヌースのページは、ごく一般的な、多数意見としてのクヌース先生の紹介が詳しく書かれています。

 もう1つ、日本のコンピュータ科学者として著名な萩谷先生のエッセイの1つ、「天才」というテキストの中で、

しかし、はっきりいって、Knuthは、コンピュータ・サイエンティストとしてはセンス・ゼロ、要するに馬鹿である。それは、あのTeXという処理系を見ればわかる。
と書かれていて、興味深く読みました。(ここだけ引用するのはよくないかな。)TeXに興味のある方はご一読をお勧めします。萩谷先生の他のエッセイも面白いです。

 ちなみに私はKnuthのファンです(笑)。

 <おまけのひとこと>
 昨日の朝日新聞に、山本夏彦を追悼する文章を安部譲二が書いていました。これまで以上に安部譲二の文章を好きになりました。




11月2日(土) 数字のパズル

 問題です。自然数で、各桁の数字を3乗して足したら元の数に戻る、というような性質を持つ数字というのは、1以外にどんなものがあるでしょうか?

 【例】
 たとえば153ならば、

 13+53+33=1+125+27=153

というように、1,5,3を3乗して足すと、もとの153になります。こういう数字はほかにもあるでしょうか?

 <おまけのひとこと>
 こういうのは、何かのちょっとした待ち時間などで手持ち無沙汰なときなどに頭の中だけで考えたりすると楽しいです。また、ごく初歩的なプログラミングの演習の題材にもなります。




11月3日(日) 自然対数

 とある本を読んでいたら、こんな箇所を見つけました。 3は、ネーピアの自然対数の底 e = 2.71828… に最も近い整数であるから、数を表現するのには3進法が最も経済的である。 こんな風に考えたことはなかったので、ああそうか、なるほどなあと感心しました。(ひょっとして常識でしょうか?) ここから連想したのが、アーサー・クラークの「宇宙のランデヴー」というSFで、ここに出てくる未知の宇宙船は、設計思想が3という数字に支配されていた、という設定になっていたと思います。

 この e というのは円周率 π と並んでとても有名な古典的な超越数だと思うのですけれども、これをたとえば小中学生とかに平易に説明しようとするととても難しいです。 ちょっと探してみたのですが、この数字の由来を説明したページというのがあまりみあたりません。こちらが比較的わかりやすいでしょうか。

 昨日の、各桁を3乗して足すともとの数にもどる数字の解答をこちらに載せました。Cのソースコードも載せてあります。興味のある方は3乗だけでなく、4乗以上の場合も試してみると面白いかもしれません。 (あと、このくらいの問題ならばExcelのような表計算ソフトを使っても解けます。)

 <おまけのひとこと>
 私よりも数学の能力の高い知り合いに先日のレンガの問題を出したのですが、あまり面白がってもらえなくてがっかりしました。




11月4日(月) 立方体の展開図

 「数学玉手箱」(ナギビン著 山崎昇、宮本敏男訳 東京図書 1960年11月初版)という古い本を古本屋のチェーン店のBook Offで100円で買ってきました。ソビエト連邦の小中学校の算数の問題集らしいのですが、いろいろ面白い問題が入っています。

 その中にこんな問題がありました。(問題文は私が言い換えています。)

 1辺の長さが3の正方形から、1辺の長さが1の立方体の展開図を切り取るにはどうしたらいいでしょうか? ただし、展開図は「ひとつながり」で、組み立てたときに重なる部分はありません。 のりしろも考えなくていいです。

 正方形のほうは面積は9、立方体のほうは(サイコロの形ですから)面が6つあるので展開図の面積は6です。ですから少なくとも材料の広さとしては十分なはずです。

 一応ヒントを書いておくと、完成した立方体の面の正方形は展開図上では分断されていてもかまいません。これを問題の中に注釈として書き入れておくべきかちょっと悩みました。 とりあえず引用元にはこの注釈は入っていませんでしたが、「ひとつながり」とか「重ならない」とかいった条件も書かれていませんでした。

 「数学玉手箱」の序章では、ガロアやアーベルの逸話と並んで、ロバチェフスキーなどロシアの数学者が迫害された話などが語られており、

 これらの例は資本主義が人民出身の才能ある人々を抑圧していることを物語っています。だが今日のソ連邦では才能ある人々のためにはあらゆる道がひらかれています。私たちはどうしてこれを喜ばずにいられましょう! どうして科学と勤労の面での祖国の成功を賞賛し、祖国の心遣いに対して答えないでいられましょう!

などと書かれていて、時代を感じます。(日本語版の初版が1960年ですから、この文章の原文が書かれたのはもっと古いはずです。ちなみに翻訳は1958年版のロシア語版をもとにしているようです。) それはともかく本文中では500問の問題が載っていて、パズルとしても面白いものがたくさんありました。

 <おまけのひとこと>
 先週、長野県の大町市で10月に20cmという積雪が記録されていましたけれども、私の住む地域でも今日は初雪です。こちらではまだ積もることはなさそうですけれども、朝、子供たちが大喜びで報告に来ました。




11月5日(火) 時計を合わせる

 昨日に続いて、「数学玉手箱」より。

 昨夜、うっかり柱時計のねじを巻くのを忘れてしまったので、今朝起きたら時計が止まっていました。うちには他に時計はないし、ラジオもテレビも電話もありません。私はどうやって時計を正しい時刻に合わせたものかと考えました。2丁先に友人が住んでいて、そこには正確な時計があります。でも、どちらの時計も動かせません。どうやったら私の時計をほぼ正確にあわせることができるでしょうか?

 柱時計というのは振り子の往復運動で時間を刻みます。振り子には錘(おもり)がついていて、その錘はねじなどで高さが微調整できるようになっています。時計が進みすぎるときは錘を下げて振り子の往復時間を遅くし、時計が遅れるときには錘を上げて速くします。時計をきちんと垂直に固定することも大切で、曲がってしまうと時刻が読みにくいばかりでなく、振り子の往復運動の時間に影響して、時計自体が狂ってしまいます。

 コンピュータの世界に、NTP(ネットワーク・タイム・プロトコル)という情報のやりとりの決まりがあります。これは離れたところでそれぞれ動作しているコンピュータの時計を合わせるときにやりとりする情報の書式の約束事です。

 現在のインターネットというのは TCP/IP という通信プロトコルに支えられていますが、これは間違いなく情報が伝わることを保障するかわりに、時間がどれだけかかるかはわからないという方式です。しかも、情報が伝わる経路は毎回変わるかもしれない、つまり所要時間も毎回違うかもしれないという厄介な通信路です。

 このような通信路を使って、どうやったら正確に時刻合わせができるでしょうか?  これは半世紀も昔の「数学玉手箱」に載っている、上に引用した時計を合わせる問題と同じ問題なのです。

 <おまけのひとこと>
 昔、当時ですら大変珍しくなっていた古い大きな柱時計を自分の部屋に掛けて、毎日振り子の錘を調節していました。錘の下のねじをほんの少し回すだけで、一日経ってみると時計の進み具合が変わるのがわかってとても面白かったものです。 ただ、時計のぜんまいをいっぱいに巻いたときは進み方が速くて、その両者の調整が楽しかったです。




11月6日(水) 正方形の頂点を最短距離で結ぶ

 一昨日、立方体の展開図の問題の話をしましたが、それに関連した話をしようと思います。今日はまずその準備の話です。

 砂漠の中に4つの都市がありました。その4つは正確に正方形の4つ頂点の位置にありました。いま、この4つの都市を結ぶ道路を建設することになりました。ただし、建設費を最も安くしたいと思います。道路をどのように配置したらいいでしょうか。 なお、交差点や分岐は都市以外のところにも作ることができます。また、費用は単純に道路の総延長距離のみに比例し、交差点の数は関係ありません。また、道路は全ての都市の間に直接結ばれている必要はありません。

 上図の左のように4つの都市(白丸)があったとします。正方形の1辺の長さはどれだけでもいいのですが、とりあえず1ということにしましょう。最も単純に考えると、上の中央の図のように正方形の3辺を結ぶように道路を作れば、とりあえず全ての都市が道路で結ばれます。交差点のない1本のU字型の道路で、長さは3です。

 対称性を高めるために、上の右の図のように横棒を中央まで持ち上げてH字型にして、T字路を2つ作ることにしましょう。 これでもやっぱり道路の総延長距離は3ということになります。

 さて、もっと道路を短くすることはできないでしょうか? 今度はHの字の横棒を徐々に短くしてゆくことを考えます。上の図のように、中央の横棒を短くしてゆくと、最後にはX字型の道路になります。このときの道路の総延長距離は、正方形の1つの対角線の長さはルート2、つまり1.414…ですから、それが2本で 2.828…ということになります。これは最初のH字型の道路の総延長の3より小さくなっています。

 これが最小でしょうか? 実はそうではなくて、H字型とX字型の中間に、距離が最小となるパターンが隠されています。下のグラフをご覧ください。このグラフは、横軸に三叉路が正方形のタテの辺からどれだけ離れたかを表し、縦軸にそのときの道路の総延長距離をプロットしたものです。横軸0のところ(H字型)で距離が3、横軸0.5のところ(X字型)で距離が2.828…となっているのがご覧いただけるかと思います。

 答を言ってしまうと、距離が最小となるのは3本の道路が集まる交差点が、ちょうど120度ずつの角度になるときで、道路の総延長距離は1+ルート3=2.732…となります。

 さて、この話が立方体の展開図とどんな関係があるかといいますと、それはまた次回お話します。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 本当は立方体の展開図の話に続けてこの話をしたかったのですが、図面が用意できなくて、昨日は違う話題になりました。続きの話の内容はもうご想像がつくでしょうか? 




11月7日(木) 立方体を切り開く

 問題です。

 紙でできた立方体があります。これにカッターナイフで切込みを入れて、平らな展開図に切り開いてください。 稜に限らずどこを切ってもかまいませんが、切る長さをできるだけ短くしてください。

 普通の展開図ですと正方形が6つ集まった形になります。まずは、このように切り開くためには立方体の稜の何箇所を切ればいいでしょうか? また、立方体の展開図にはいろいろなパターンがありますが、展開図の形が変わると切るべき稜の数は変わるでしょうか?

 <おまけのひとこと>
 今日は図を用意する時間がありませんでした。
 昨日の「ひとこと」をお読みいただければお気づきかと思いますが、昨日の話題が今日の問題に密接な関係があります。

 だいぶ寒くなってきました。昨日の帰り道の温度計の表示がマイナス1度でした。




11月8日(金) 多面体を稜で切り開く

 昨日の立方体を切り開く問題ですが、まずは稜だけを切ることを考えます。この場合はどのように切っても、それがひとつながりで平らになるには立方体の12の稜のうちのちょうど7箇所を切る必要があります。これは次のように考えるとわかります。

 12本の稜を全部切ってしまえば6枚のばらばらの正方形になります。ということは切る個所を1箇所減らして11箇所切れば5つに分解しますし、もう1箇所減らして10箇所を切れば4つ、以下同様に考えると適当な7箇所を切ればちょうどひとつながりになります。(ここでいう「適当な」とはデタラメということではなく、「ある条件を満たす、ふさわしい」という意味です。)

 逆にいうと、正方形6枚から成る(普通の意味での)立方体の展開図では、のりしろをつけようとすると7箇所必要だということになります。

 稜に沿って多面体を切り開いて平面にするとき、何箇所を切ったらよいかというのを一般的に考えてみます。多面体の面(face)の数をf、稜(edge)の数をe、頂点(vertex)の数をvと表すことにすると、e個所切断すると、パーツはf枚になるので、ひとつながりの展開図にするためには e-f+1 箇所を切れば十分という計算になります。

 オイラーの多面体公式というのがあって、多面体の面f、稜e、頂点vの間には v-e+f=2 という関係がありますので、切断する数は e-f+1 = v-1 、つまり頂点の数よりも1つ小さい数が、切るべき稜の本数ということなります。立方体の頂点の数は8ですから、8-1=7 ということです。

 平らに開くためには各頂点には必ずはさみが入らないといけません。最初に稜の1本を切ると2つの頂点にはさみが入ることになります。平らに開くためには切り口はすべてつながっていなければなりませんから(でないと面が連なった「輪っか」が残ってしまう)、以後1箇所切るごとに開かれる頂点が1つずつ増えてゆくということになります。ということで、v個の頂点すべてにはさみが入るためには v-1 箇所を切る必要があるということになります。

 というわけで正四面体ならば4-1=3箇所、正八面体ならば6-1=5箇所、正十二面体ならば20-1=19箇所、正二十面体ならば12-1=11箇所を切れば切り開けるということになります。

 <おまけのひとこと>
 頂点の数だけで決まる、というところが面白いと思います。考えればあたりまえという気もしますけれども。




11月9日(土) 正四面体の展開

正四面体  昨日はちょっと寄り道して、多面体の稜を切り開いて平面にする話をしましたが、「切り開く長さを最小にするためにはどこをどのように切るか?」という本来の話に戻ることにします。

 とりあえず立方体の話はおいておいて、まず最初に正四面体(右の図)を平面に切り開くことを考えます。

問題
 1.正四面体を切り開いてできる展開図が正三角形になるようにしてください。
 2.同じく展開図が長方形になるようにしてください。
 3.同じく展開図が六角形になるようにしてください。

 それぞれ、切る長さはどれくらいになるでしょうか?

 1番目の「正三角形にする開き方」は易しいと思います。3番目の六角形は、もちろん正六角形ではありませんが、向かい合う3組の辺がそれぞれ平行で長さも等しいという、平行四辺形ならぬ平行六辺形とでも呼ぶべき形になります。平面を充填することのできる六角形です。

 ところで今思いついたのですが、正四面体の展開図というのは必ず平面を充填するのでしょうか?

 <おまけのひとこと>
 先日、11月1日のひとことで、萩谷昌己氏のKnuthに関するコメントをご紹介しましたが、この萩谷氏のbit休刊に寄せてというコラムがありました。 私もこの「bit」という雑誌が好きだったので、残念に思っています。

 「bit」のナノピコ教室の問題を考えて頭を鍛えよう、などというようなことは、もはやコンセプトとして存在していないのである。それが証拠に、ナノピコ教室に応募するのは、おやじか、じいさんだけになってしまった。

 と書かれていて笑いました。わが身を振り返ると確かに「おやじ」世代になったよなあとしみじみとしてしまいました。
 このコラムは、ほかにもいろいろ考えさせられる指摘が書かれていて興味深いです。

付記:今朝あわてて更新したら、ミスがあってコラムへのリンクが見えなくなっていました。失礼しました。




11月10日(日) 立方体の展開・正四面体の展開

 先日(11/6のひとこと)、正方形の4つの頂点を最小距離で結ぶという話をしたときに、右の図のようなパターンをご紹介しました。 いくつかの点を結ぶ距離を最小にするという問題の場合、このように全ての角度が120度のY字型の三叉路を新たに設ける解があります。

 たとえば、2枚の透明なアクリル板を水平に置いて床と天井を作って、その間に細い棒で柱を立てる模型を考えます。アクリル板は平行ですから柱の高さは全部同じです。この柱を正方形の頂点になるように配置して、模型をざぶんと石けん水に沈めて静かに引き上げると、上から見ると右の図のようなパターンに石けん膜ができるそうです。(本で写真を見たことがあるだけなので、一度本物を見てみたいです。子供の夏休みの自由研究のネタとしてそのうち推薦してみようかな。)

 石けん膜はお互いに引っ張り合って、できるだけ距離が近くなろうとします。そのおかげで、「自然に」距離が最小(正確には極小)になるパターンを示してくれるのです。

 正方形の4つの頂点が区別できるとすると、Y字の三叉路同士を結ぶ短い線がヨコになってる場合とタテになる場合の2つの解があることになります。もちろん距離は同じです。石けん膜がどちらのパターンに落ち着くかは、石けん膜が作られてゆくプロセスによって決まります。

 実際の実験のときには、本当に正確な正方形にするのは難しくて、誤差が生じます。そうするとヨコ向きの解とタテ向きの解では、総延長距離が異なることになります。このとき、石けん膜の実験で必ず距離が小さいほうが出来上がるのかというと、おそらくそうではあるまいと思うのですが、どうなのでしょうか。

 膜の研究は盛んですから、このようなパターンをシミュレーションで求めることもできるような気がします。もしそれが可能だとしたら、1つ次元を上げて、立方体の表面を切り開く最小距離を4次元の世界でうまく石けん膜で解かせるモデルができないものかな、と考えています。

 ところで、昨日「正四面体の展開図は必ず平面を充填しそうだな」と思ったのでとりあえず書いてみたのですが、さっそく「必ず充填します」というご教示をいただきました。ありがとうございました。

 <おまけのひとこと>
 新聞に、「『普通』という言葉の反対は?」という国語の問題に対して、鉄道ファンの子供が「急行」と答えたという話が載っていたので、子供に尋ねてみました。 そうしたら「変な」とか「変わった」という答が返ってきました。 (普通の日の反対はお休みの日、という意見もありました。)
 一応こちらが期待した答は「特別」だったので、「普通のおやつ」の反対だったら? とか、「普通のご飯じゃなくて、お誕生日とかクリスマスとかのときのお料理はどんなお料理?」とか誘導してみたのですが、なかなか期待した答が返ってきませんでした。




11月11日(月) 石けん膜の形など

 最近ご紹介している、正方形の4つの頂点を結ぶ最短経路を見つける問題は、一般にはシュタイナー問題とか、最短ネットワーク問題と呼ばれます。

 シュタイナー問題
 平面上にn個の点 P1,...,Pn が与えられたとき、これらを線分で結ぶ最短ネットワークを作れ。ただしこのときに任意の個数の点 Q1,...,Qm を任意の位置に付け加えてよい。

 この問題の解のネットワークを最小シュタイナー木(Minimum Steiner Tree)と呼ぶようです。正多角形の場合、正三角形・正方形・正五角形の頂点を結ぶ最小シュタイナー木は、それぞれ内部に新たな点を1,2,3個追加した形になりますが、正六角形以上の場合は、その多角形を結ぶ辺のうち、一箇所だけを取り除いたものが最小シュタイナー木になるそうです。

 シュタイナー問題の工学的な応用としては、たとえば敷設に高い費用のかかるケーブル専用線で遠く離れたたくさんの都市(たとえば東京と名古屋と新潟とか)を結びたいときにどのような経路にするのが効率的か、とか、逆に小さいほうでは電子回路の基板やチップ内部の配線をどのように取り回すのが効率的か(ノイズや遅延の問題や、コストの問題で小さい・短いほうが圧倒的に有利)など、いろいろな応用があります。

 石けん膜についてちょっと調べてみると、以下のようなページがみつかりました。

 The Surface Evolver。これはKen Brakkeという方が開発されたソフトウェアのようで、これを研究の道具として利用している方もたくさんおられるようです。 このソフトウェアを用いて、たとえば、こんなページのような画像を計算することができるようです。ここの右上の画像は、石けん膜によるメビウスの帯になっていて面白いです。(本物を作ってみたいものです。) とりあえず私もソフトウェアとマニュアルはダウンロードさせていただきましたが、まだほとんどいじっていません。

 石けん膜の実験のページ。正四面体や立方体などの骨格を銅線で作って、それを石けん水に沈めて膜を作った写真や図が載っています。

 <おまけのひとこと>
 昨日、妻が子供の靴を買いに行ったとき、レジですぐ前に並んでいたおじいさんとお孫さんらしき人が買おうとしていた靴が、片方が19cmでもう片方が20cmのサイズだということに店員さんが気付いたそうです。
 店員さんがあわてて探しに行ったのですが、なんとそのペアはそのデザインの靴の最後のものだったのだそうで、ということは誰か別の人が左右が19cmと20cmの組み合わせで買っていってしまったということだろうということでした。




11月12日(火) 立方体の展開図

 先日、正四面体の任意の展開図は平面を隙間も重なりもなく埋め尽くすという話を書きました。これはもちろんどんな立体でも成り立つわけではなくて、正四面体がとても珍しい例外です。

 とりあえず、展開図としては一番馴染み深い立方体について、展開図が平面を埋め尽くせるものかどうか考えてみることにしました。まずは普通の意味での展開図、つまり切っていいのは稜だけで、面の内部は切らないものを考えます。

 立方体の展開図は何種類あるか、というのもそれだけでなかなか厄介なパズルです。こういう数え上げというのはとかく見落としが起こりがちです。

立方体の全展開図

 展開図を横長の長方形に収まるように置いたとき、それぞれの段の正方形の数が1-4-1になっているものが6種類、2-3-1になっているものが3種類、あとは3-32-2-2が1つずつ、で全部だと思います。(間違っていたら教えてください。)

 さて、これらのうち平面を充填するのはどの形でしょうか?

 <おまけのひとこと>
 あそびをせんとや・分室の画像の感想をメールでいただいて、とても嬉しくなってお返事を差し上げたのですが、エラーで届かなかったようです。この場でお礼を申し上げます。(特に、ペーパーモデルの飾り棚をほめていただいてにこにこしています。 単純な私。)




11月13日(水) 立方体の展開図によるタイリング

 昨日、立方体の展開図を11種類お示しして、「この中で平面をタイリング可能なのはどれでしょう?」という問題を出しました。昨日、空き時間に手元にあった手帳にボールペンで落書きしてみたところ、11種類全てがタイリング可能なようでした。落書きの一部をスキャナで取り込んでみました。

立方体の展開図によるタイリングの例

 手元の手帳には方眼紙の印刷されたページがなかったので、目分量で罫線を2マス分だとして絵を描いてみました。わかりにくいですが、パズルの答(の一部)ですから、わかりにくくてもいいかもしれないと思ってこのまま載せることにしました。

 タイリングの方法が複数ある展開図もあって、描いてみると楽しいです。

 『ハリー・ポッター』をめぐる盗作騒ぎという記事がありました。ロシアで、ハリー・ポッターシリーズによく似た設定のお話が売れていて、それに対してハリー・ポッターの著者の弁護士と映画会社が、盗作であるとして本の回収と出版停止をしないと訴えると警告しているのだそうです。

 まがいもので満足する読者が多いのであれば、オリジナルの価値ってその程度のものというだけの話ではないの? というのが最初の感想です。 本というのは面白さがわかってしまうと次々と読みたくなるものだと思うのです。とすれば、とっかかりはどうであれ類似の本を読んだ読者がオリジナルを読みたくなるという効果は当然あると思います。 私は、著者というのは本が売れることより本が読まれることを望むのだと思っていました。 (もちろん程度問題で、それが本業ならば収入がなければやっていけませんから売れることを望むのは当然だと思います。)

 それに今回の話というのは、発行部数やタイミングからして、警告を受けている「タニア・グロッター」の読者はおそらく「ハリー・ポッター」を読んでいて、「ハリー・ポッター」の新作を待つ間に「タニア・グロッター」を購入していると思われます。 だとしたらこれは「客を奪っている」という状態ではないわけです。 だいたい、本というのは卵や牛乳の類ではあるまいし、値段が半額だからこっちの著者の本を買う、というような代物ではないと思うのですが…。

 <おまけのひとこと>
 卵や牛乳も、倍も値段が安かったら逆に不安になりますが。 それに最近、100円ショップで小説やマンガ本も売るようになったようですね。これはまた上の話とは別ですが。

 昨夜、このページのアクセスカウンタが20,000を超えました。ご訪問下さった皆様に本当に感謝しています。




11月14日(木) 立方体と正八面体の展開図

 このところ立方体の展開図の話をしていますが、今日は立方体と同じ対称性を持つ正八面体の展開図について考えたいと思います。 今日も「切り開くときに切断していいのは稜だけ」という狭い意味での展開図についての話です。

 立方体の11種類の展開図の違いというのを、切断される稜の構造(つながり具合)に注目して考えてみます。たとえば下の図1では、左上の立方体の黒い太線の稜を切断すると、その下の鉤型の展開図になります。ここで、対応する正八面体(図1右)を考えて、立方体の切断されなかった稜に対応する稜を切断します(右上の黒い太線)。すると右下の展開図になります。

 詳細な説明は省きますが、このようにして立方体とその双対多面体である正八面体とでは展開図が1対1に対応します。そのため、正八面体の展開図も立方体同様11種類存在することになります。

立方体と正八面体の展開図の関係 正八面体の全展開図
図 1 図 2

 上の図2は、11種類全ての展開図を描いてみたものです。(おそらく正しいと思います。) この中で、立方体の十字架型の展開図と同じ構造の展開図はどれだと思いますか?

 さて例によってこの11種類がそれぞれタイリング可能な図形になっているのかを調べてみました。今度はタイリング不可能なものはあるでしょうか? (裏返しは許すことにします。)

 <おまけのひとこと>
 同じように、正十二面体と正二十面体も展開図の数は同じになるはずです。正十二面体は五角形ですから、いかなる展開図もタイリングは不可能ですが、正二十面体はタイリング可能なものが存在します。ということで、一般に任意の多面体について考えた場合は、タイリング可能かどうかということと展開図として成立するかということは無関係ですし、双対多面体の対応する(構造が同じ)展開図の片方がタイリングできたからと言って、もう片方がタイリングできるかどうかは関係がないと思います。




11月15日(金) 正八面体の展開図によるタイリング
正八面体の展開図のタイリング

 昨日、立方体の展開図と正八面体の展開図は1対1に対応するという話をして、「立方体の十字架型の展開図に対応する正八面体の展開図はどれでしょう?」という問題を出しました。

 正解は右の図の形です。これはこの図のようにタイリングできます。正八面体の11種類の展開図も、やはり全て平面を埋め尽くす、タイリング可能な形になっていました。

 ところで、任意の三角形・四角形は平面をタイリング可能です。でも、辺の数が増えてゆくとタイリングができるものとできないものが出てきます。凸多角形に限って言うと、五角形・六角形まではタイリング可能なものがありますが、七角形以上になると、凸のものはどんな形状であれタイリングは不可能になります。(図のものは、凸ではない角=内角が180度を超える角を複数持つ10角形です。)

 そんなわけで、そもそも展開図として成立する/しないにかかわらず、正方形6枚で作れる図形(ヘキソミノ)や正三角形8枚による図形というのはタイリングできないほうが普通なのだ、という先入観がありました。そのため、「どれがタイリング可能なんだろう?」という観点で眺めてきました。 ところがやってみると全部が全部タイリング可能だということがわかりました。

 とすると逆に、ヘキソミノや正三角形8枚による図形(オクタなんとか?)の中で、タイリングできない図形というのはあるのだろうか、という疑問が生じてきます。こんなことはすでに知られていることのような気がするのですが、今まで聞いた覚えがありません。

 ちなみに、ポリオミノで有限な長方形を形作るものは? という研究は聞いたことがあります。これは単にタイリング可能であるというよりも強い条件です。

 <おまけのひとこと>
 「ある図形がタイリング可能かどうかを判定するアルゴリズムはあるのでしょうか? とりあえずポリオミノに限定しても、そんなに易しくなさそうですが」という内容のメールをいただきました。 非常に面白い問題だなと思って、まずはポリオミノについてちょっと考えてみています。



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